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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第9話 料理人、異世界へ

朝だった。


母が仕事に出るのを見送ってから、神代悠真はすぐに自分の部屋へ戻った。


「行ける」


そう声をかけると、ベッドの端に座っていたリズが立ち上がる。


その横で、田中誠はまだ少しだけ落ち着かない様子で天井を見ていた。


「……本当にここから行くのか」


「うん」


悠真は短く答える。


昨夜のうちに説明はした。けれど、実際に自分の目で見るのと、話だけで聞くのとでは全然違う。


三人で押し入れの前に立ち、脚立を使って天井裏へ上がる。


薄暗い空間を奥へ進むと、例の板が割れてできた穴が見えてきた。


誠はその前で足を止めた。


「……これ、落ちるのか」


「そう」


悠真は頷く。


「俺も最初は普通に落ちた」


「それで異世界って、おかしいだろ」


「俺もそう思ったよ」


リズが横で少し笑う。


「下は異世界だから平気」


「その説明が一番怖いんだが」


誠はそう言いながら、穴の縁から下を覗き込んだ。


底は見えない。


普通なら、飛び込もうなんて考えない深さだ。


だが、ここまで来た以上、引き返すつもりもないのだろう。


「……分かった」


誠は一度だけ深く息を吐くと、覚悟を決めた顔になった。


「先に行く」


「え、おじさんから?」


「こういうのは勢いだ」


そう言って、一歩踏み出した。


次の瞬間、その姿が穴の中へ吸い込まれる。


「うおっ――!」


情けないような、でも仕方のない叫びが下へ消えていく。


悠真は思わず顔をしかめた。


「……毎回思うけど、やっぱ怖いなこれ」


「早くしなよ」


リズに急かされ、悠真も穴へ飛び込む。


一気に落ちる感覚。


耳元を風が抜ける。


視界は暗いのに、体だけが確かに下へ引っ張られていく。


次の瞬間、衝撃が来た。


石の床。


冷たい空気。


薄暗い廃墟の中。


異世界だった。


「……痛って」


起き上がると、少し離れたところで誠も体を起こしていた。


「大丈夫?」


「大丈夫なわけないが……」


そう言いかけて、誠は周囲を見回す。


崩れた壁。見たことのない材質。どこか日本家屋に似ているのに、決定的に違う空気。


「……本当に来たんだな」


昨夜までの半信半疑は、その一言で消えたようだった。


悠真は先に外へ出る。


誠もそのあとに続く。


廃墟の外に出た瞬間、誠の足が止まった。


空の色が違う。


遠くに見える街並みも、地平線の形も、何もかもが日本ではありえない。


風の匂いすら、別物だった。


「……すごいな」


小さく漏れたその言葉には、驚きと実感が混じっていた。


しばらく黙って景色を見ていた誠は、やがてぽつりと言った。


「空気が違う」


「うん」


「匂いも違う」


その感想が、いかにも料理人らしいと悠真は思う。


誠はさらに周囲に意識を向けてから、眉をひそめた。


「……それに、料理の匂いがしないな」


「え?」


「街が近いのに、食い物の匂いが全然しない」


リズが少し驚いたように笑う。


「そこ気づくんだ」


「職業病だ」


短く返した、そのときだった。


草むらが大きく揺れた。


「来る!」


リズの声が鋭くなる。


次の瞬間、四足の魔物が飛び出してきた。


犬に似ているが、体は二回りほど大きく、目が赤い。牙も明らかに普通じゃない。


一体目はリズが迷いなく前に出て、剣で斬り伏せた。


ほとんど一瞬だった。


だが、その直後。


「後ろ!」


悠真が叫ぶ。


廃墟の陰から、もう一体が誠の方へ飛びかかっていた。


誠も気づいたが、武器がない。


間に合わない。


悠真の体が一瞬だけ固まる。


心臓が跳ねる。


頭の中が真っ白になる。


でも、次の瞬間にはポケットに手が伸びていた。


「……守らないと」


取り出したのは、一回使い切りのバリアカード。


このために買ったわけじゃない。だが、今使わなければ意味がない。


「バリア!」


カードが砕けるように光った。


誠の前に半透明の壁が現れる。


魔物がそこへぶつかり、鈍い音を立てて弾かれた。


「うおっ……!」


誠が目を見開く。


その隙に、リズが振り向きざまに二体目も斬り倒した。


静けさが戻る。


悠真はその場で一気に息を吐いた。


「……危なかった」


膝が少し笑っている。


誠は倒れた魔物と、さっきまで自分の前にあったバリアの残光を見てから、悠真を見た。


「今の、お前か」


「……たぶん、ぎりぎり」


「たぶんじゃないだろ」


そう言いながらも、その声には驚きと、少しの感心が混ざっていた。


リズが剣についた血を払う。


「こういうのが普通に出るから、気を抜かないで」


誠は魔物を見下ろし、短く頷いた。


「よく分かった」


それ以上は言わなかったが、この世界の危険さは十分伝わったようだった。


三人はそのまま街へ向かう。


門をくぐり、中へ入ると、誠は周囲をじっくり見ていた。


露店の並び。香ばしい何かの匂いはするが、雑で、どれも似たような感じだ。食材の扱い方も、調理場の清潔さも、日本とはかなり違う。


しばらく見たあと、誠はぼそっと言った。


「……雑だな」


「料理が?」


悠真が聞く。


「全部だ」


誠は店先を見ながら続ける。


「焼き方も、切り方も、味の重ね方も、何もかも浅い」


リズが横で笑う。


「だから売れるって言ったでしょ」


誠は答えず、ただ小さく鼻を鳴らした。


ギルドへ入ると、ミレイナがすぐに気づいた。


「あら、また来られたんですね」


「露店の申請、またお願いします」


悠真が言うと、ミレイナは微笑んだ。


「今回は何を販売される予定ですか?」


悠真は誠の方を見る。


誠は少し考えてから、簡潔に答えた。


「天ぷらと焼き魚」


「てん……ぷら?」


聞き慣れない単語だったらしい。


ミレイナは首を傾げたが、すぐに書類へ視線を落とした。


「飲食露店であれば問題ありません。前回と同じ場所をご希望ですか?」


「はい」


「承知しました。明日から使用可能です」


手続きを済ませ、必要な料金を払う。


そのまま宿へ戻り、調理場を借りた。


「まず魚」


誠は持ち込んだ材料を広げると、すぐに包丁を手に取った。


動きが速い。


無駄がない。


魚の下処理一つとっても、悠真とは比べものにならなかった。


「見てろ」


「うん」


「そのまま焼くな。余分な水分を飛ばしてからだ」


「はい」


思わず素直に返事が出る。


包丁の入れ方、塩を振るタイミング、火にかける前の準備。


どれも細かい。


けれど、その細かさが味を変えるのだと見ていて分かった。


次は天ぷらだった。


衣を作る手つきも、油の温度を見る目も、全部が職人のそれだった。


「混ぜすぎるな」


「え?」


「練るなってことだ。重くなる」


「……なるほど」


悠真も手伝う。


だが、ちょっと気を抜くたびに声が飛ぶ。


「遅い」


「厚い」


「切り方が雑だ」


容赦がない。


それでも、嫌じゃなかった。


むしろ、ちゃんと教わっている感じがして少し嬉しい。


「できれば、覚えたい」


ぽつりと口にすると、誠は作業を止めずに言った。


「だったら手を動かせ」


「……はい」


リズは少し離れたところで腕を組みながら、その様子を見ていた。


「なんか悠真、いつもより年下っぽいね」


「うるさい」


「でも、いい感じ」


そんなことを言われ、悠真は少しだけ照れくさくなる。


その日は仕込みで終わった。


翌朝。


露店を開くと、すでに前回の客が何人か来ていた。


「あれ、今日は丸いやつじゃないのか」


「たこ焼き楽しみにしてたのに」


そんな声も聞こえる。


悠真は少し焦ったが、誠はまったく動じなかった。


「まあ見てろ」


短く言って、魚を焼き始める。


じゅう、と音が鳴る。


香ばしい匂いが一気に広がった。


その隣では、天ぷらが揚がる音が続く。


衣の弾ける軽い音だけで、周囲の空気が少し変わったのが分かった。


最初に買ったのは、前回来ていた男だった。


「今日は別もんか」


半信半疑で焼き魚を口に運ぶ。


次の瞬間、目の色が変わる。


「……うまっ」


その一言で、流れが変わった。


今度は天ぷらを買った女が、驚いたように目を見開く。


「なにこれ……軽い」


「前のもすごかったけど、今日のやばいぞ」


そんな声が広がる。


値段は前回より高くした。


それでも客足は止まらなかった。


むしろ増えていく。


「こっち二つ!」


「焼き魚まだあるか!」


「天ぷら追加で!」


列ができる。


途切れない。


悠真は必死で動く。


盛り付けて、渡して、金を受け取る。


誠は無駄なく焼き、揚げ、仕上げていく。


リズは列の整理をしていた。


気づけば、仕込んだ分は昼過ぎにはほとんどなくなっていた。


「……完売か」


悠真が呆然と呟く。


誠は火を止め、空になった皿や盆を見ながら、静かに言った。


「悪くないな」


その顔は、少しだけ満足そうだった。


悠真は思わず笑う。


「“悪くない”で済むレベルじゃないだろ」


リズも笑う。


「完全に当たりだね」


客が引き始めた頃、少し離れた場所から視線を感じた。


見ると、別の屋台の男が腕を組んでこちらを睨んでいた。


あからさまに面白くなさそうな顔。


悠真はそれに気づいたが、何も言わなかった。


ただ、なんとなく思う。


――次は、何かありそうだな。


でも、それでもいい。


この世界で、自分たちのやり方が通じると、はっきり分かったからだ。


空になった容器を見下ろしながら、悠真は小さく息を吐く。


「……まだ、いけるな」


誠が横で言う。


「当たり前だ。ここからだろ」


その言葉に、悠真はしっかりと頷いた。

朝だった。


母が仕事に出るのを見送ってから、神代悠真はすぐに自分の部屋へ戻った。


「行ける」


そう声をかけると、ベッドの端に座っていたリズが立ち上がる。


その横で、田中誠はまだ少しだけ落ち着かない様子で天井を見ていた。


「……本当にここから行くのか」


「うん」


悠真は短く答える。


昨夜のうちに説明はした。けれど、実際に自分の目で見るのと、話だけで聞くのとでは全然違う。


三人で押し入れの前に立ち、脚立を使って天井裏へ上がる。


薄暗い空間を奥へ進むと、例の板が割れてできた穴が見えてきた。


誠はその前で足を止めた。


「……これ、落ちるのか」


「そう」


悠真は頷く。


「俺も最初は普通に落ちた」


「それで異世界って、おかしいだろ」


「俺もそう思ったよ」


リズが横で少し笑う。


「下は異世界だから平気」


「その説明が一番怖いんだが」


誠はそう言いながら、穴の縁から下を覗き込んだ。


底は見えない。


普通なら、飛び込もうなんて考えない深さだ。


だが、ここまで来た以上、引き返すつもりもないのだろう。


「……分かった」


誠は一度だけ深く息を吐くと、覚悟を決めた顔になった。


「先に行く」


「え、おじさんから?」


「こういうのは勢いだ」


そう言って、一歩踏み出した。


次の瞬間、その姿が穴の中へ吸い込まれる。


「うおっ――!」


情けないような、でも仕方のない叫びが下へ消えていく。


悠真は思わず顔をしかめた。


「……毎回思うけど、やっぱ怖いなこれ」


「早くしなよ」


リズに急かされ、悠真も穴へ飛び込む。


一気に落ちる感覚。


耳元を風が抜ける。


視界は暗いのに、体だけが確かに下へ引っ張られていく。


次の瞬間、衝撃が来た。


石の床。


冷たい空気。


薄暗い廃墟の中。


異世界だった。


「……痛って」


起き上がると、少し離れたところで誠も体を起こしていた。


「大丈夫?」


「大丈夫なわけないが……」


そう言いかけて、誠は周囲を見回す。


崩れた壁。見たことのない材質。どこか日本家屋に似ているのに、決定的に違う空気。


「……本当に来たんだな」


昨夜までの半信半疑は、その一言で消えたようだった。


悠真は先に外へ出る。


誠もそのあとに続く。


廃墟の外に出た瞬間、誠の足が止まった。


空の色が違う。


遠くに見える街並みも、地平線の形も、何もかもが日本ではありえない。


風の匂いすら、別物だった。


「……すごいな」


小さく漏れたその言葉には、驚きと実感が混じっていた。


しばらく黙って景色を見ていた誠は、やがてぽつりと言った。


「空気が違う」


「うん」


「匂いも違う」


その感想が、いかにも料理人らしいと悠真は思う。


誠はさらに周囲に意識を向けてから、眉をひそめた。


「……それに、料理の匂いがしないな」


「え?」


「街が近いのに、食い物の匂いが全然しない」


リズが少し驚いたように笑う。


「そこ気づくんだ」


「職業病だ」


短く返した、そのときだった。


草むらが大きく揺れた。


「来る!」


リズの声が鋭くなる。


次の瞬間、四足の魔物が飛び出してきた。


犬に似ているが、体は二回りほど大きく、目が赤い。牙も明らかに普通じゃない。


一体目はリズが迷いなく前に出て、剣で斬り伏せた。


ほとんど一瞬だった。


だが、その直後。


「後ろ!」


悠真が叫ぶ。


廃墟の陰から、もう一体が誠の方へ飛びかかっていた。


誠も気づいたが、武器がない。


間に合わない。


悠真の体が一瞬だけ固まる。


心臓が跳ねる。


頭の中が真っ白になる。


でも、次の瞬間にはポケットに手が伸びていた。


「……守らないと」


取り出したのは、一回使い切りのバリアカード。


このために買ったわけじゃない。だが、今使わなければ意味がない。


「バリア!」


カードが砕けるように光った。


誠の前に半透明の壁が現れる。


魔物がそこへぶつかり、鈍い音を立てて弾かれた。


「うおっ……!」


誠が目を見開く。


その隙に、リズが振り向きざまに二体目も斬り倒した。


静けさが戻る。


悠真はその場で一気に息を吐いた。


「……危なかった」


膝が少し笑っている。


誠は倒れた魔物と、さっきまで自分の前にあったバリアの残光を見てから、悠真を見た。


「今の、お前か」


「……たぶん、ぎりぎり」


「たぶんじゃないだろ」


そう言いながらも、その声には驚きと、少しの感心が混ざっていた。


リズが剣についた血を払う。


「こういうのが普通に出るから、気を抜かないで」


誠は魔物を見下ろし、短く頷いた。


「よく分かった」


それ以上は言わなかったが、この世界の危険さは十分伝わったようだった。


三人はそのまま街へ向かう。


門をくぐり、中へ入ると、誠は周囲をじっくり見ていた。


露店の並び。香ばしい何かの匂いはするが、雑で、どれも似たような感じだ。食材の扱い方も、調理場の清潔さも、日本とはかなり違う。


しばらく見たあと、誠はぼそっと言った。


「……雑だな」


「料理が?」


悠真が聞く。


「全部だ」


誠は店先を見ながら続ける。


「焼き方も、切り方も、味の重ね方も、何もかも浅い」


リズが横で笑う。


「だから売れるって言ったでしょ」


誠は答えず、ただ小さく鼻を鳴らした。


ギルドへ入ると、ミレイナがすぐに気づいた。


「あら、また来られたんですね」


「露店の申請、またお願いします」


悠真が言うと、ミレイナは微笑んだ。


「今回は何を販売される予定ですか?」


悠真は誠の方を見る。


誠は少し考えてから、簡潔に答えた。


「天ぷらと焼き魚」


「てん……ぷら?」


聞き慣れない単語だったらしい。


ミレイナは首を傾げたが、すぐに書類へ視線を落とした。


「飲食露店であれば問題ありません。前回と同じ場所をご希望ですか?」


「はい」


「承知しました。明日から使用可能です」


手続きを済ませ、必要な料金を払う。


そのまま宿へ戻り、調理場を借りた。


「まず魚」


誠は持ち込んだ材料を広げると、すぐに包丁を手に取った。


動きが速い。


無駄がない。


魚の下処理一つとっても、悠真とは比べものにならなかった。


「見てろ」


「うん」


「そのまま焼くな。余分な水分を飛ばしてからだ」


「はい」


思わず素直に返事が出る。


包丁の入れ方、塩を振るタイミング、火にかける前の準備。


どれも細かい。


けれど、その細かさが味を変えるのだと見ていて分かった。


次は天ぷらだった。


衣を作る手つきも、油の温度を見る目も、全部が職人のそれだった。


「混ぜすぎるな」


「え?」


「練るなってことだ。重くなる」


「……なるほど」


悠真も手伝う。


だが、ちょっと気を抜くたびに声が飛ぶ。


「遅い」


「厚い」


「切り方が雑だ」


容赦がない。


それでも、嫌じゃなかった。


むしろ、ちゃんと教わっている感じがして少し嬉しい。


「できれば、覚えたい」


ぽつりと口にすると、誠は作業を止めずに言った。


「だったら手を動かせ」


「……はい」


リズは少し離れたところで腕を組みながら、その様子を見ていた。


「なんか悠真、いつもより年下っぽいね」


「うるさい」


「でも、いい感じ」


そんなことを言われ、悠真は少しだけ照れくさくなる。


その日は仕込みで終わった。


翌朝。


露店を開くと、すでに前回の客が何人か来ていた。


「あれ、今日は丸いやつじゃないのか」


「たこ焼き楽しみにしてたのに」


そんな声も聞こえる。


悠真は少し焦ったが、誠はまったく動じなかった。


「まあ見てろ」


短く言って、魚を焼き始める。


じゅう、と音が鳴る。


香ばしい匂いが一気に広がった。


その隣では、天ぷらが揚がる音が続く。


衣の弾ける軽い音だけで、周囲の空気が少し変わったのが分かった。


最初に買ったのは、前回来ていた男だった。


「今日は別もんか」


半信半疑で焼き魚を口に運ぶ。


次の瞬間、目の色が変わる。


「……うまっ」


その一言で、流れが変わった。


今度は天ぷらを買った女が、驚いたように目を見開く。


「なにこれ……軽い」


「前のもすごかったけど、今日のやばいぞ」


そんな声が広がる。


値段は前回より高くした。


それでも客足は止まらなかった。


むしろ増えていく。


「こっち二つ!」


「焼き魚まだあるか!」


「天ぷら追加で!」


列ができる。


途切れない。


悠真は必死で動く。


盛り付けて、渡して、金を受け取る。


誠は無駄なく焼き、揚げ、仕上げていく。


リズは列の整理をしていた。


気づけば、仕込んだ分は昼過ぎにはほとんどなくなっていた。


「……完売か」


悠真が呆然と呟く。


誠は火を止め、空になった皿や盆を見ながら、静かに言った。


「悪くないな」


その顔は、少しだけ満足そうだった。


悠真は思わず笑う。


「“悪くない”で済むレベルじゃないだろ」


リズも笑う。


「完全に当たりだね」


客が引き始めた頃、少し離れた場所から視線を感じた。


見ると、別の屋台の男が腕を組んでこちらを睨んでいた。


あからさまに面白くなさそうな顔。


悠真はそれに気づいたが、何も言わなかった。


ただ、なんとなく思う。


――次は、何かありそうだな。


でも、それでもいい。


この世界で、自分たちのやり方が通じると、はっきり分かったからだ。


空になった容器を見下ろしながら、悠真は小さく息を吐く。


「……まだ、いけるな」


誠が横で言う。


「当たり前だ。ここからだろ」


その言葉に、悠真はしっかりと頷いた。

第9話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、

・おじさんの異世界初参戦

・初の戦闘での悠真の行動

・料理による圧倒的な差

を描いています。


特に、

「技術は世界を超えるのか?」

というテーマが少し見えてきた回でもあります。


そして最後には、不穏な視線も。


ここから、単純な“成功”だけでは進まなくなっていきます。


次回は、周囲との摩擦やトラブルの気配も含め、

物語が少しずつ動き出します。


よろしければブックマークや評価をいただけると励みになります。


引き続きよろしくお願いします。


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