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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第10話 順調の裏側

第10話です。


今回は、悠真が一人で露店に立ち、

現実の厳しさと向き合う回になります。


順調に見えた流れの中で、

少しずつ“ズレ”や“違和感”が見え始めます。

露店を始めて二日目の朝だった。


仕込みはすでに終わっている。


隣で包丁を置いた田中誠が、軽く肩を回した。


「今日は休む」


「え?」


悠真が顔を上げる。


「本来は休みの日だからな」


誠はあっさり言った。


「向こうに戻るのは十日後でいい。こっちでの十日が、あっちじゃ数時間だ」


「……まあ、そうだけど」


「だから今日はお前一人でやってみろ」


その言葉に、一瞬だけ言葉が詰まる。


「……いきなり?」


「いきなりじゃない。昨日全部見ただろ」


「見たけど……」


誠は手を拭きながら言う。


「見て覚えたつもりのやつが、どこまでできるか確認だ」


逃げ道はなかった。


「……分かった」


そう言うしかない。


誠はそれだけ言うと、さっさと宿の方へ戻っていった。


リズが横でにやっと笑う。


「試されてるね」


「分かってる」


悠真はため息をついた。


だが、やるしかない。


露店を開く。


昨日のことを覚えている客が、すぐに集まり始めた。


「今日もやってるな」


「昨日うまかったからまた来たぞ」


そんな声が聞こえる。


ありがたい。


でも、それが逆にプレッシャーになる。


最初の客に焼き魚を出す。


一口食べる。


「……あれ?」


その一言で、心臓が跳ねた。


「うまいけど……昨日と違うな」


別の客も続く。


「昨日の方が良かった」


「なんか足りない」


悠真は一瞬、手が止まりそうになる。


分かっていた。


同じようにやっているつもりでも、何かが違う。


火加減か。


塩のタイミングか。


焼く時間か。


全部かもしれない。


「……すみません」


思わずそう言ってしまう。


客は怒っているわけではない。


ただ、正直な感想を言っているだけだ。


新しく来た客は普通に買っていく。


「普通にうまいぞ」


そう言ってくれる人もいる。


でも、昨日を知っている人ほど、反応は厳しい。


「やっぱあの人すげぇな」


誰かの言葉が、妙に胸に刺さる。


悠真は歯を食いしばる。


それでも手は止めない。


焼く。


揚げる。


出す。


時間は流れる。


売上自体は悪くない。


だが、昨日の勢いはない。


「……くそ」


小さく呟いた、そのときだった。


「おい」


低い声。


顔を上げる。


昨日、遠くから睨んでいた屋台の男が立っていた。


腕を組み、明らかに機嫌が悪い。


「最近、調子乗ってるみたいだな」


「……何ですか」


悠真はできるだけ平静を保って返す。


男は鼻で笑う。


「変なもん売りやがって」


「普通の料理です」


「見りゃ分かる。そんなもん、この辺じゃ見ねぇ」


男は周囲を見渡す。


「客、持ってかれてんだよ」


空気が少し重くなる。


周りの客も様子を見ている。


「だから何ですか」


悠真は言う。


「やめろってことだ」


即答だった。


「ここは俺らの縄張りだ」


「……そんなの、聞いてないです」


「知らねぇよ」


男が一歩近づく。


「ルールは後から覚えるもんだ」


胸の奥がざわつく。


怖い。


普通に怖い。


でも。


ここで引いたら終わる。


「……やめません」


はっきり言った。


男の目が細くなる。


「強気だな」


「許可は取ってます」


「ギルドか?」


男は鼻で笑う。


「表の話だろ、それ」


その一言で、この世界の“裏”を感じる。


悠真は何も言えない。


男はしばらく見ていたが、やがて笑った。


「……まあいい」


露店を軽く蹴る。


ガン、と音が鳴る。


「そのうち分かる」


それだけ言って去っていった。


空気が重い。


手が少し震えているのに気づく。


「大丈夫?」


リズが小さく言う。


「……大丈夫じゃないけど」


正直に答える。


「でも、やる」


逃げる気はなかった。


そのまま営業を続ける。


昼過ぎ。


「……どうだ」


聞き慣れた声。


振り向くと、誠が立っていた。


「おじさん」


悠真は少しだけ安心する。


誠は店を見て、客の反応を見て、悠真を見る。


「顔に出てるぞ」


「……そんなに?」


「分かりやすい」


そのまま自然に隣に立つ。


「代われ」


悠真は無言で場所を空けた。


誠が焼く。


揚げる。


同じ材料。


同じ道具。


なのに。


匂いが違う。


音が違う。


空気が変わる。


「……うまそう」


客の声が変わる。


一口。


「これだよ!」


一気に流れが戻る。


列ができる。


さっきまでの違和感が嘘のように消える。


悠真はその様子を見ながら、静かに息を吐いた。


「……すげぇな」


素直にそう思った。


営業が落ち着いた頃、悠真は誠にさっきの出来事を話した。


屋台の男。


縄張り。


やめろと言われたこと。


誠は黙って聞いていた。


話が終わると、一言。


「普通だな」


「え?」


「人が集まるところは、必ず競争がある」


当たり前のように言う。


「売れてる店が目をつけられるのも当然だ」


悠真は黙る。


「で、どうする」


その問いはシンプルだった。


少し考える。


怖くないわけじゃない。


でも。


「……続ける」


そう答えた。


誠は小さく頷く。


「なら、強くなれ」


「……技術?」


「全部だ」


短いが、重い言葉だった。


それからの日々。


誠は基本は休みながら、時々様子を見に来た。


悠真は一人で回す時間が増える。


最初は差が大きかった。


だが、少しずつ埋まっていく。


火加減。


タイミング。


流れ。


少しずつ、形になっていった。


そして――


十日後。


「……十万マニーか」


悠真が呟く。


最初に比べれば大きい。


でも。


「まだ足りないな」


自然とそう思う。


誠が言う。


「当たり前だ」


「え?」


「ここからだろ」


悠真は少し笑う。


その通りだ。


遠くで、あの屋台の男がまたこちらを見ていた。


今度は、ただの苛立ちじゃない。


警戒。


そして意識。


悠真は目を逸らさなかった。


「……まだ、いける」


小さく呟く。


この世界で、勝つために。

第10話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、

・悠真単独での営業

・技術の差の明確化

・同業者からの圧力

を描いています。


うまくいっているように見えても、

その裏では確実に“壁”が存在しています。


そして、

「続けるのか、引くのか」

という選択に対して、悠真は前を選びました。


ここからは、単なる成功ではなく、

競争や衝突も含めた“本当の意味での成長”が始まります。


よろしければブックマークや評価をいただけると励みになります。


引き続きよろしくお願いします。


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