第89話「支配の破綻」
第89話です。
ついに対峙するヴァルク。
そして明らかになる、その力の一端。
戦いは決着しますが、
ここから物語はさらに核心へと進んでいきます。
ぜひ最後までお楽しみください。
騎士たちが、一斉に動いた。
足音は揃っている。
だがそこに、人の意思はない。
ただ命令に従うだけの動き。
「来るぞ!」
ローディアスが踏み込む。
正面から迎え撃つ。
一体の剣を弾き、そのまま叩き伏せる。
鈍い音。
倒れる。
だが。
ゆっくりと、起き上がる。
「……ちっ」
ローディアスが舌打ちする。
リズが横から斬り込む。
一閃。
肩口から深く斬り裂く。
それでも止まらない。
「なにこれ……気持ち悪いんだけど!」
悠真も斬る。
確かに斬れている。
だが、手応えが薄い。
「やっぱり普通じゃないな」
「おそらく何かに制御されている」
レオンが短く言う。
次の瞬間。
姿が消えた。
いや、視界から消えただけ。
すでに背後。
一閃。
騎士の首が飛ぶ。
今度は動かない。
「首だ」
悠真が呟く。
「それで止まるみたいだな」
ローディアスが頷く。
「なら簡単だ」
そこからは早かった。
リズが斬り、ローディアスが叩き、レオンが一瞬で仕留める。
数はかなり多い。
だが連携はない。
ただの操り人形。
数分もかからず、全てが沈黙した。
⸻
ヴァルクは、それを見ていた。
わずかに目を細める。
「……なるほど」
静かに言う。
「その力、悪くない」
一歩、前に出る。
「私が王となった暁には」
一拍。
「幹部に据えてやるぞ」
悠真は笑った。
「そんなの乗るわけないだろ」
即答だった。
迷いはない。
ヴァルクの口元が歪む。
「そうか」
短く言う。
そして。
「なら――こうする」
何やらカードを取り出す。
黒い光が滲む。
見ただけで嫌な感覚が走る。
ヴァルクがそれを掲げた。
空気が歪む。
見えない力が広がる。
そして。
「――我が配下となれ」
低い声が、空間に響く。
一瞬の静寂。
リズの動きが止まる。
ローディアスも、わずかに硬直する。
空気が張り詰める。
だが。
「……は?」
悠真が顔をしかめた。
「なんだよそれ」
何も変わらない。
誰も従わない。
ヴァルクの表情が固まる。
「……なぜだ」
カードを見る。
そしてもう一度、掲げる。
「我が配下となれ!」
再発動。
空気がさらに歪む。
圧が強くなる。
だが。
何も起きない。
完全な静寂。
「……ありえない」
声が揺れる。
「なぜ支配できない……!」
手が震える。
「これは神から与えられた――支配下カードだぞ……!」
リズが眉をひそめる。
「支配……?」
レオンが一歩前に出る。
静かに。
「どうした」
「何も起こらんぞ」
その一言で。
ヴァルクの顔が歪む。
悠真は肩をすくめた。
「さあな」
内心では分かっていた。
おそらく三種の神器。
これが原因だろう。
だが、口には出さないでいた。
次の瞬間。
レオンが動いた。
一瞬で距離を詰める。
気づいた時には。
剣がヴァルクの喉元にあった。
「っ……!」
完全に反応できていない。
レオンは静かに言う。
「これが切り札か」
冷たい声。
「王もこれに屈したのか」
一歩踏み込む。
刃がわずかに食い込む。
「王を戻せるのか?」
短い問い。
逃げ場はない。
ヴァルクは沈黙する。
額に汗が滲む。
「……」
その沈黙に耐えきれず。
肩が落ちた。
「……戻せる」
小さく言う。
観念した声だった。
レオンがわずかに刃を引く。
「やれ」
命じる。
ヴァルクは支配下カードを取り出し、支配解除する。
今度は柔らかな光。
それを王へ向ける。
発動。
空気が変わる。
重かったものがほどけていく。
王の身体が震える。
「……う……」
声が漏れる。
指が動く。
呼吸が変わる。
ゆっくりと目が開く。
焦点が合う。
意識が戻る。
「……ここは……」
その声は、人のものだった。
ローディアスが前に出る。
「陛下!」
王はまだ混乱している。
だが、確かに戻っていた。
悠真は小さく息を吐く。
「……戻ったようだな」
一拍。
視線をヴァルクへ向ける。
逃げ場はない。
レオンの剣が、それを許さない。
悠真が言う。
「さて」
一歩近づく。
「話を聞かせてもらおうかな」
静かに。
だが逃げ場はない。
戦いは終わった。
だが。
本当の意味での勝負は、ここからだった。
第89話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘から決着、そして王の解放までを描きました。
ヴァルクの持つ“支配の力”と、
それが通用しなかった理由。
悠真に起きている変化も含めて、
少しずつ物語の輪郭が見えてきたと思います。
次回は情報戦になります。
ここから一気に核心へと迫っていきますので、引き続きよろしくお願いします。




