第88話「選ばれしもの」
第88話です。
王との対面の先で、
思いもよらないものが現れます。
これまで積み重ねてきた違和感が、
少しずつ形になり始める回でもあります。
そして、新たな存在との邂逅。
ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
王の剣が振り下ろされる、その直前だった。
レオンが踏み込む。
床を蹴る音が遅れて響くほどの速さで間合いを詰め、そのまま王の懐へと滑り込んだ。
振るったのは刃ではない。
柄の方だ。
顎を正確に打ち上げる。
鈍い音が響き、王の身体が大きく揺れた。
そのまま崩れ落ちる。
静寂。
「……終わったか?」
悠真が息を吐く。
だが、レオンは首を横に振った。
「いや」
視線は王に向けたまま。
「意識は落ちている。だが――」
その時。
王の指先が、ぴくりと動いた。
ほんのわずか。
だが、それで十分だった。
「……おい」
悠真が眉をひそめる。
「気絶してるんだよな?」
「している」
レオンは短く答える。
「だが、普通じゃないな」
ローディアスがゆっくりと膝をつく。
「……陛下」
呼びかける。
返事はない。
呼吸だけが、かろうじてある。
ローディアスは静かに立ち上がった。
何も言わない。
だが、その沈黙が重かった。
悠真は視線を外す。
その時だった。
「……ん?」
玉座の側面に違和感があった。
小さな突起がある。
装飾にしては妙に浮いている。
近づいてみる。
「なんだこれ」
押してみる。
カチ、と小さな音。
次の瞬間。
玉座が音もなく横へと動き始めた。
「え?」
リズが声を上げる。
「ちょっと、何したのよ」
「いや、押しただけなんだけど……」
ずれていく玉座。
その下から現れたのは、暗い穴。
地下へと続く階段だった。
冷たい空気が流れ出る。
悠真が覗き込む。
何も見えないな。
「……真っ暗だ」
一拍。
「灯りが欲しいな」
「それなら任せて」
ララが前に出る。
手をかざす。
「――ルクス」
淡い光が生まれた。
ふわりと浮かび、周囲を照らす。
階段の輪郭が浮かび上がる。
「……助かる」
悠真はそのまま足を踏み入れた。
⸻
階段を降りる。
一段ごとに、空気が重くなる。
冷たい。
音が吸い込まれていくような静けさ。
やがて、通路が開けた。
広い空間。
壁際には財宝が並んでいる。
だが、どれも目を引かない。
ただそこにあるだけの“物”。
「……なんなんだここ」
リズが呟く。
「宝物庫、っぽいけど……なんか違うわね」
「そうかな」
悠真は短く答える。
視線は、その奥に向いていた。
三つ綺麗に並んでる。
鎧。
盾。
剣。
それだけが、そこにある。
だが、不思議な空気をまとっている。
近づくだけで張り詰める。
ローディアスが手を伸ばす。
触れてみる。
弾かれる。
「……っ!」
一歩引く。
「なんだ、今の……」
もう一度。
だが同じ。
触れられない。
レオンも試す。
同じ結果。
沈黙。
悠真が息を吐く。
「……触れないのか」
一歩前へ。
「どんな感じ」
「無駄だ」
ローディアスが言う。
だが悠真は肩をすくめる。
「ダメ元で」
手を伸ばす。
触れる。
何も起きない。
「……あれ?」
弾かれない。
そのまま掴めた。
「なんで……」
リズの声が変わる。
悠真は剣を軽く持ち上げる。
「普通に持てるぞ?」
少し考える。
「じゃあ……これも着れるのか?」
半分冗談。
鎧を当てる。
自然に馴染む。
盾を持つ。
腕に収まる。
剣を握る。
違和感がない。
むしろ――しっくりくる。
「……なんだこれ」
思わず笑う。
「これ、俺専用なんじゃないの?」
その瞬間だった。
「――おかしいな」
低い声。
一瞬遅れて、全員が振り向く。
そこに、知らない男が立っていた。
気配はなかった。
まったく感じなかった。
ただ、そこにいる。
リズが息を呑む。
「……いつの間に」
男の視線は、悠真に向いていた。
その装備に。
「……それは“三種の神器”だ」
静かに言う。
「王家の血を継ぐ者しか、触れることすらできないはずだが」
一歩、踏み出す。
視線が突き刺さる。
「……お前は何者だ」
一拍。
悠真は肩をすくめた。
「……お前の方こそ、誰だ」
空気が揺れる。
男の口元がわずかに歪む。
「名乗るほどでもないが」
一拍。
「ヴァルク・レイドル。これから王になる男だ」
その名前が落ちる。
空気が張り詰める。
レオンが構えを低くする。
リズの指に力が入る。
ローディアスは睨みつける。
ヴァルクの視線が、神器へ向く。
「どうせお前らは、ここで終わりだ」
その一言。
背後の騎士たちが、一斉に動いた。
第88話を読んでいただきありがとうございます。
今回は地下での出来事、
そして三種の神器とヴァルクの登場までを描きました。
ここから一気に物語の核心へと近づいていきます。
悠真に起きていることは何なのか。
王宮の異変とどう繋がるのか。
まだ明かされていない部分も多いですが、
少しずつ見えてくるはずです。
次回もよろしくお願いします。




