第85話「交差する選択」
第85話です。
前話で辿り着いた場所は、
簡単に踏み込んでいいものではありませんでした。
今回は一度立ち止まり、
状況を整理しながら次の一手を探る回になります。
それぞれの情報が少しずつ繋がりそうで、
まだはっきりとは見えてこない。
そんな中で、
一つの選択肢が浮かび上がってきます。
どう動くのか。
その判断を見ていただければと思います。
雲の上は、異様な静けさに包まれていた。
風はない。
音もない。
ただ、そこに“ある”という圧だけが存在している。
目の前には巨大な構造物。
雲でできているようで、確かな形を持っている。
そして、その正面に開いた入口。
奥は見えない。
光すら吸い込まれるような、深い闇。
悠真はゆっくりと息を吐いた。
「……どうする」
誰に向けたわけでもない問い。
だが、誰も軽く答えられる状況ではなかった。
「……俺はここから先には入れない」
ダービラが静かに言った。
視線が集まる。
「神に感知される可能性が高い」
一拍。
「悪魔は、格好の標的だ」
ローディアスが眉をひそめる。
「見つかれば?」
「終わりだな」
迷いのない声。
「この場で排除される可能性が高い」
悠真は入口を見つめる。
近い。
だが、重い。
踏み込めば戻れない――そんな感覚があった。
「……やめとくか」
ぽつりと呟く。
レオンが視線を向ける。
「どうして」
「情報がなさすぎる」
即答だった。
「このまま入っても、何も分からず終わる気がする」
ダービラが小さく頷く。
「賢明だ」
「ここは入口に過ぎん」
一拍。
「内部は別の領域だろう」
悠真は苦笑する。
「だよな……」
その時、足元に視線を落とした。
「……待って」
「ここ、スキルカード使えるよな」
「使える」
レオンが答える。
「なら――戻れるな」
短く言う。
悠真はニヤリと笑った。
「転移、いけるか」
レオンは転移カードを取り出す。
慣れた手つきで発動する。
足元に転移魔法陣が展開された。
「……問題ない」
軽く確認する。
ダービラも周囲を見る。
「この層は安定している」
「座標としても問題ないだろう」
「よし」
悠真は一歩下がる。
「一回戻る」
誰も異論はなかった。
そのまま転移。
視界が歪む。
瞬間。
景色が切り替わる。
⸻
ガイオの会社、地下。
見慣れた無機質な空間。
だが、その“普通”が妙に落ち着く。
「……よし、戻ってこれた」
ローディアスが呟く。
悠真は軽く息を吐いた。
「なんか安心するな」
そしてガイオの屋敷へ向かう。
「……戻ってこれたのね」
声がした。
振り向く。
リズが腕を組んで立っていた。
明らかに怒っている。
「遅い。ロペの屋敷に行ったまま帰ってこないとか、どういうこと?」
一歩詰め寄る。
「ガイオも“戻れなくなる可能性がある”って言ってたのよ?」
「普通に心配するでしょ!」
悠真は手を上げる。
「悪い、ちょっと想定外なことがあって」
その後ろからララが現れる。
「……でも」
小さく言う。
「無事でよかった」
その一言で、空気が少しだけ和らぐ。
リズも息を吐いた。
「で?」
腕を組み直す。
「何があったの?」
⸻
全員が集まる。
簡単な会議の形になる。
レオンが口を開いた。
「神々の国への入口を確認した」
「は!?」
リズが声を上げる。
「マジで!?」
「入口までだ」
悠真が補足する。
「中までは分からない」
ララが真剣な表情になる。
「……本当に存在していたのね」
ダービラが続ける。
「だが、軽く踏み込める場所ではない」
「内部の情報は皆無に近い」
悠真が頷く。
「だから戻るしかなかった」
「判断は正しいと思う」
ララが言う。
「こっちも……あまりいい話じゃない」
視線が集まる。
「王宮の話」
一拍。
「王宮は変わってしまったらしいの」
リズも続く。
「無視されたり、命令が変だったり」
「普通じゃないみたいよ。誰かが仕組んでるとしか思えない」
悠真が腕を組む。
「ロペとヴァルク」
「繋がってそうで、まだ決定打がない」
ダービラが言う。
「今の王宮は危険だ」
「正面からは入れないし」
レオンも頷く。
「同意だ」
リズが聞く。
「じゃあ神の国は?」
「もっと危険だな」
悠真が答える。
「情報がなさすぎる」
沈黙。
どちらも無理。
どちらも危険。
詰んでいる。
「……一体どうするの」
ララが静かに聞く。
その問いに。
悠真は少しだけ考えた。
そして。
「……一つある」
全員が見る。
「バドラスだ」
ローディアスが言う。
「悪魔王か」
悠真は頷く。
「前に会った時、王家の使いが来てるって言ってたよな」
レオンが静かに答える。
「ああ」
「影の騎士団と呼ばれている連中だ」
リズが眉をひそめる。
「見たの?」
「いや、直接は見てねえ」
一拍。
「でも――」
悠真は続ける。
「王家の使いって時点で、ただの連中じゃない」
ダービラが低く言う。
「間違いなく情報は持っている」
ララが小さく頷く。
「……つまり?」
悠真は言った。
「そいつらを狙う」
リズが驚く。
「狙うって……」
「バドラスのところに来るなら」
一拍。
「動くタイミングがあるはずだ」
レオンが言う。
「張るということか」
「そうだね」
悠真は頷く。
「影の騎士団が動いた時を狙う」
「そこで奴らに接触する」
ダービラが目を細める。
「裏から情報を引き出す、か」
ローディアスが笑う。
「悪くないな。てかそれしかないな」
ララも頷く。
「現実的ね」
リズがニヤリと笑う。
「やっと面白くなってきたじゃん」
悠真は小さく息を吐いた。
「正面が無理なら――」
一拍。
「裏から行く」
空気が変わる。
止まっていた流れが、動き出す。
まだ何も分からない。
だが。
進む道は決まった。
悠真は静かに呟く。
「……ここからだな」
第85話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘ではなく、
「どう動くか」を決めるための回でした。
進めない状況の中で、
無理に進むのではなく、別の角度から考える。
少し遠回りに見えるかもしれませんが、
ここでの判断がこれからの展開に大きく影響してきます。
次回は、今回決めた方針が
実際にどう動いていくのかという流れになります。
引き続きよろしくお願いします。




