第84話「雲上の境界」
第84話です。
ここまでの流れが、少しずつ形になってくる回になります。
うまくいかないことも多かったですが、
その中で見えてくるものもあります。
そして今回、
“ある条件”に気づいたことで、状況が動き始めます。
ただ――
辿り着いた先は、
簡単に踏み込んでいい場所ではなさそうです。
その空気感も含めて、楽しんでいただければと思います。
風が唸っていた。
崖の下から吹き上げる乱気流の中、悠真は何度も斬撃を放ち続けていた。
「……っ!」
空を裂く。
鳥型の魔物が軌道を変える。
だが、もう見えている。
「そこだ!」
斬撃が直撃する。
魔物が砕け、落ちていく。
間を置かず、次。
さらに次。
繰り返す。
ただひたすらに。
「……なかなか上がらない」
息を吐く。
ダービラが腕を組んだまま言う。
「当然だ」
一拍。
「レベルが上がるほど必要な経験値は増える」
「しかも敵はこいつしかいないしな……」
悠真は崖を見下ろす。
飛んでいるのは、鳥型の魔物のみ。
経験値を得られる対象は限られている。
効率は悪い。
だが――
「やるしかねえだろ」
レオンの声。
短い。
それだけで十分だった。
悠真は頷く。
再び斬撃を放つ。
当てる。
落とす。
時間が過ぎる。
太陽が傾き、また昇る。
それでも、止まらない。
体が覚える。
動きが研ぎ澄まされる。
そして。
「……っ!」
体の奥で何かが弾けた。
流れ込む感覚。
広がる視界。
「……やっと来た」
レベルが上がる。
8から――9へ。
全身が軽くなる。
明らかに違う。
「どうだ」
レオンが問う。
悠真は目を閉じる。
新しい力を探る。
「……あるよ」
一拍。
「風圧バリアだって」
ローディアスが眉を上げる。
「守備系か」
「っぽいな」
悠真は肩をすくめる。
「正直、地味だな」
「早速使ってみようか」
レオンが言う。
「そうだな」
悠真は頷いた。
「――発動」
風が巻き起こる。
体の周囲に、見えない層が生まれる。
空気が震える。
圧がある。
「……おお」
拳を握る。
守られている感覚。
ローディアスが石を投げる。
当たる。
弾かれる。
完全ではないが、衝撃は確実に削がれている。
「悪くないな」
その時だった。
ローディアスが一歩踏み込む。
バリアの中へ。
次の瞬間。
「……あ?」
体が浮いた。
「は?」
悠真が固まる。
もう一度。
意識して風を強める。
ローディアスの体が持ち上がる。
「おいおい……」
悠真が笑う。
「人が持ち上がった」
ダービラが頷く。
「出力は十分」
「だが制御は甘い」
確かに不安定だ。
揺れる。
だが――
「……使えるな」
悠真の目が変わる。
繋がった。
「やり方変てみよう」
⸻
一度、崖の縁へ戻る。
悠真はレオンを見る。
「まず確認してみる」
「ひょっとしたら上空でスキルカードが使えるかもしれない」
レオンは頷いた。
「連れてってくれ」
「やってみる」
風圧バリア発動。
二人が浮く。
不安定。
風に煽られる。
「……揺れるな」
「静かに集中するから」
そのまま上昇。
雲へ突入。
白に包まれる。
そして――抜ける。
静寂。
風が止む。
レオンはその場に留まる。
視線を前へ向ける。
雲の向こう。
白の奥に、影がある。
「……あれか」
小さく呟く。
巨大な構造物。
形は曖昧だが、明らかに人工物。
一拍。
スキルカードを取り出す。
軽く発動してみる。
――成功。
問題なく発動した。
「……使えるな」
それだけ言う。
十分だった。
すぐに下降する。
⸻
「構造物は確認した」
レオンが言う。
「距離も、おそらく届く範囲だ」
一拍。
「上空ならスキルカードは使える」
ダービラが頷く。
「高度制限の結界だな」
「なら――」
悠真が笑う。
「行けるな」
⸻
「次はダービラも連れていく」
悠真が言う。
ダービラは一瞬だけ目を細めたが、すぐに頷いた。
「確認は必要だな」
再び上昇。
風圧バリアで二人を持ち上げる。
同じように不安定。
だが高度へ。
雲を抜ける。
静寂。
その瞬間。
レオンが飛行カードを発動。
ダービラを掴む。
「行くぞ」
そのまま飛ぶ。
安定した軌道。
風はない。
一直線に進む。
やがて。
構造物の前へ到達する。
ダービラが周囲を見る。
「……妙な圧だな」
低く呟く。
⸻
一方。
悠真は一度地上へ戻る。
「……次だ」
ローディアスを見る。
「行くぞ」
「頼む」
風圧バリア発動。
ローディアスを持ち上げる。
上昇。
不安定。
だが、耐える。
雲を抜ける。
その瞬間。
ローディアスが飛行カードを発動。
軌道が安定する。
「……いける」
「頼むぞ!」
「任せろ」
ローディアスが前へ進む。
悠真を引っ張る形で飛ぶ。
確実に進む。
その先に。
構造物。
レオンとダービラがいる。
やがて到達。
足を下ろす。
止まる。
「……は?」
雲の上に立っていた。
柔らかい。
だが沈まない。
「なんだこれ……」
悠真が言う。
「層だな」
「層?」
「この高さだけ性質が違う」
悠真は前を見る。
巨大な構造物。
雲でできているようだけど。
だが崩れない。
そして。
その正面。
開かれた入口。
暗い。
奥が見えない。
「……あれが」
悠真が呟く。
「入口か」
レオンが低く言う。
「不用意に入るな」
ダービラが続ける。
「ここから先は――」
一拍。
「神の領域だ」
空気が重くなる。
静寂。
音が消える。
ただ異様な圧だけがある。
悠真は息を吐く。
「……来ちまったな」
誰も動かない。
ただ、目の前の入口を見ていた。
その先にあるものを。
まだ知らないまま。
第84話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、これまでの積み重ねが
少し報われるような展開になりました。
ただし、すべてが解決したわけではありません。
むしろここから先は、
より慎重な判断が求められる場面に入っていきます。
“進めること”と
“進んでいいこと”は別。
そのあたりも含めて、
次の展開を見ていただければと思います。
引き続きよろしくお願いします。




