第83話「届かない距離」
第83話です。
前話で新たに得た「飛行」というスキル。
一見すると大きな前進に思えますが――
今回はその“現実”に直面する回になります。
使えるようになった力。
しかし、それだけでは足りない。
環境、距離、リスク。
すべてが噛み合わなければ前には進めない。
「できる」と「辿り着ける」は違う。
その差に気づくことが、
今回のテーマになっています。
少し地味に見えるかもしれませんが、
この積み重ねが次に繋がります。
ぜひ、そのもどかしさも含めて読んでいただければと思います。
風が吹き荒れていた。
崖の縁。
悠真は一歩踏み出す。
「……よし」
小さく呟く。
意識を集中する。
体の内側。
新しく得た力。
「――飛行」
次の瞬間。
ふわりと体が浮いた。
「おお……!」
思わず声が漏れる。
地面が離れる。
浮いている。
本当に。
「すげえ……!」
ゆっくりと上昇する。
足場がなくなる感覚。
だが、不思議と恐怖は少ない。
むしろ――高揚感。
「どうだ」
下からレオンの声。
「いける!」
悠真は笑う。
「上には問題なく――」
その瞬間。
体が流れた。
「うおっ!?」
横へ。
一気に。
風に持っていかれる。
「ちょっ、待て!」
バランスを崩す。
姿勢が乱れる。
そのまま回転しそうになる。
「――っ!」
慌てて下降。
地面へ戻る。
着地。
よろめく。
「はあ……はあ……」
息が荒い。
レオンが腕を組む。
「……横は無理か」
「いや、無理じゃないけど……」
悠真は顔をしかめる。
「制御できない」
ダービラが空を見上げる。
「この風だからな」
一拍。
「環境があまりにも悪すぎる」
確かにそうだった。
下から吹き上げる風。
不規則な流れ。
一定じゃない。
読めない。
「……もう一回行ってみる」
悠真は再び構える。
飛ぶ。
浮く。
今度は意識して横へ動く。
「……こうかな」
少しずつ。
だが――
次の瞬間。
風が変わる。
「うわっ!?」
一気に流される。
体が持っていかれる。
止まらない。
「くそっ!」
無理やり下降。
なんとか戻る。
着地。
膝をつく。
「……こりゃあダメだな」
吐き出すように言う。
レオンが頷く。
「見てりゃ分かる」
一拍。
「この場所じゃ、自由には動けない」
ローディアスが空を見上げる。
「だが上には行ける」
その言葉に、悠真も頷く。
「上にしか行けないな」
それは確かだ。
上昇は問題ない。
むしろ楽だ。
「問題は――横だな」
ダービラが言う。
「目的地に辿り着けなければ意味がない」
悠真は空を見上げる。
雲の上。
あの時、見えたもの。
「……あれ」
小さく呟く。
「見えても、距離が分かんない」
レオンが言う。
「どれくらい飛べる?」
「分からん」
悠真は首を振る。
「時間も、限界も」
一拍。
「途中で落ちたら終わりだな」
静かに言う。
その言葉は重かった。
ローディアスが腕を組む。
「単独で行くのは危険だな」
「だろうな」
レオンが即答する。
「戻れなくなったら詰みだ」
一瞬の沈黙。
風の音だけが響く。
「……でも」
悠真が言う。
「上に何かあるのは確かだ」
レオンも同じ考えだった。
「ああ」
「それは間違いない」
ダービラが目を細める。
「問題は、どうやって辿り着くかだ」
悠真は拳を握る。
できること。
できないこと。
頭の中で整理する。
「……もう一回試す」
再び飛ぶ。
今度は少し高く。
風の影響を見ながら。
だが。
やはり横へは流される。
「……くそ」
戻る。
着地。
息を吐く。
「無理だな」
はっきり言った。
レオンが言う。
「環境が悪い」
「この崖が原因だ」
ダービラも続ける。
「風が乱れている」
「安定した空域に出れば変わるかもしれん」
悠真は顔を上げる。
「……やっぱり上に行くしかない」
「そうだな」
一拍。
「だが」
ダービラが続ける。
「距離が分からない以上、賭けになる」
その通りだった。
届く保証はない。
途中で力尽きれば終わり。
「……一発勝負は無しだ」
レオンが言う。
強い口調。
「無茶はするな」
悠真は苦笑する。
「分かってるよ」
だが。
視線は空に向いていた。
あの場所。
確実に何かある。
「……じゃあどうする」
ローディアスが聞く。
全員が考える。
そして。
悠真が言った。
「……もう少しレベルを上げるのはどうかな?」
一拍。
「そうだな、できること増やすしかないな」
ダービラが頷く。
「合理的だな」
レオンも異論はなかった。
「今のままじゃ同じことの繰り返しになる」
風が吹く。
空は変わらない。
だが。
その向こうに何かがある。
それだけは、確信していた。
「……よしレベル上げだ」
悠真は再び崖の縁に立つ。
下を見下ろす。
魔物が飛んでいる。
「まだ終わってなんかいられない」
小さく笑う。
そして。
剣を振り下ろし 斬撃を放つ。
第83話を読んでいただきありがとうございます。
今回は派手な展開ではなく、
“できることと限界の整理”に重点を置いた回でした。
飛行スキルという新たな力を得た悠真ですが、
実際に使ってみると問題だらけ。
横移動ができない。
風に流される。
距離が分からない。
こういった細かい制約をあえて描くことで、
世界の厳しさとリアリティを出しています。
また、
「一人で行くのは危険」という判断も重要なポイントです。
この作品では、
無理をすれば突破できるというより、
無理をすれば“詰む”世界として描いています。
そして最後の選択。
「もう少しレベルを上げる」
遠回りに見えますが、
この判断が後々大きな意味を持ってきます。
次回は、この積み重ねがどう変化するのか。
引き続きよろしくお願いします。




