第76話「順番」
第76話です。
今回は“突入したのに何も起きない”という、少し変わった流れの回になります。
ロペの館は危険な場所。
ですが、常に戦いになるわけではない。
そのルールの一端が見えてくる回です。
そして悠真。
これまで戦うことに対して受け身だった彼が、
自分の意志で“準備する”選択をします。
レベルアップカードという新しい要素も含めて、
今後に繋がる重要な一歩になります。
ロペの館の前。
空気が重い。風はない。それでも、何かに押されているような圧がある。
レオンは迷わず前に出た。手を伸ばす。扉に触れる。
その瞬間、空気が変わった。
音が消える。周囲の気配が一段深く沈む。
「……行くぞ」
短く言って、扉を押す。
中へ入る。
視界がわずかに歪む。だが、それだけだった。
「……あれ?」
悠真が思わず声を出す。
転移も、攻撃もない。ただ静かな空間が広がっている。
広いわけでも狭いわけでもない。距離感が曖昧だ。壁があるようで、ない。
レオンはすぐに周囲を見渡す。
「……おかしいな」
低く呟く。
ローディアスの姿はない。
「……でもいるな」
ぽつりと漏らす。
「え?」
「気配がある」
悠真は目を細める。分からない。だが、言われてみれば何かに見られているような感覚がある。
「でも……何もしてこない」
その時。
「しばし待たれよ」
声が響いた。空間全体から。軽い声だった。
「うわ、出た」
悠真が小さく身構える。
レオンは動じない。
「……誰だ」
「我が館の管理者とでも思ってもらえばいい」
一拍。
「試練には順番がある」
空気がわずかに張り詰める。
「現在、先に入った者が試練を受けている」
ローディアス。
「干渉はできぬ」
レオンの眉がわずかに動く。
「……今は、入れないということか」
「そうだ」
あっさりとした答え。
「待つか、去るか。好きにするといい」
声は消えた。
静寂が戻る。
悠真が息を吐く。
「……順番待ちってことかよ」
レオンはしばらく動かない。空間を見ている。
そして短く言った。
「……今入っても無意味だ」
悠真が頷く。
「だな」
二人はそのまま外へ出る。
外に出た瞬間、空気が軽くなる。
「……さっきの中、ずっと見られてた感じだな」
悠真が肩を回す。
ダービラが言う。
「間違いなく観察されている」
「選別の一部だろうな」
「やっぱやばい場所じゃんか」
悠真は苦笑する。
その時、森の奥から低い唸り声が聞こえた。
「……なにか来たぞ」
レオンが構える。
現れたのは四足の魔物。三体。大きくはないが、油断できる相手でもない。
「この辺、魔物多くないか?」
悠真が言う。
「この館の影響だろうな」
ダービラが答える。
「空間の歪みが周囲に波及している」
「なるほどな……」
悠真はポケットに手を入れる。カードを取り出す。
「……ちょうどいいか」
レオンが視線を向ける。
「それは」
「ダービラが作ったスキルカード」
一瞬の間。
「経験値で強くなるんだって」
レオンの眉がわずかに動く。
「経験値?」
ダービラが口を挟む。
「戦闘や行動で蓄積される成長値だ。一定量でレベルが上がる」
悠真が肩をすくめる。
「ゲームみたいなもん」
レオンは少しだけ考える。
「……戦えば強くなると」
「そういうこと」
悠真が頷く。
「ただしまだ安定してない」
ダービラが続ける。
「制御が甘い。使いすぎればどうなるか分からん」
レオンが魔物を見る。
「……中で使うのは危険だな」
「だから今、試したい」
悠真がカードを握る。
魔物が動く。一体が突っ込んでくる。
「俺がやる」
悠真が前に出る。
カードを発動する。
体が軽くなる。視界が広がる。
「……おお」
思わず声が出る。
「これ、すげえ」
だが同時に違和感。力が出すぎる。
一体目に踏み込む。速い。自分でも驚くほど。
一撃。魔物が吹き飛ぶ。
「……マジかよ」
だが勢いが余る。体勢が崩れる。
「甘い」
横から来た魔物をレオンが斬る。
悠真は距離を取る。
「……これ、怖えな」
正直な感想だった。
二体目。今度は深く息を吸う。踏み込みを抑える。距離を見る。
一閃。今度は安定している。魔物が倒れる。
最後の一体。
悠真は少しだけ笑う。
「……慣れてきた」
踏み込む。無駄を減らす。最短で距離を詰める。
一撃。魔物が崩れる。
静寂。
悠真は息を吐く。
「……終わったか」
その瞬間、視界の奥に何かが浮かぶ。
「……?」
文字だった。
Lv.1 → Lv.2
身体能力:+微増
反応速度:+微増
新規スキル:なし
「……なんだこれ」
思わず呟く。
ダービラが反応する。
「見えているのか。それがレベル表示だ」
「マジでゲームじゃねえか……」
悠真が苦笑する。
だが、体の変化ははっきり分かる。
「……軽い」
拳を握る。動きが明らかに違う。
レオンが言う。
「変化はあるか」
「ある」
即答だった。
「さっきより動きやすい」
ダービラが頷く。
「成功だな。ただし初期段階だ」
悠真はカードを見る。
「……これ、育てたらやばそうだな」
レオンが館を見る。
「使えるならそれでいい」
短く言う。
悠真も視線を向ける。
ロペの館。さっきと同じはずなのに、見え方が違う。
怖さは消えない。だが、それ以上に――進める感覚がある。
「……行くか」
小さく呟く。
レオンが頷く。
ダービラも前を見る。
準備は終わった。
あとは踏み込むだけだ。
その先で、ローディアスは戦っている。
まだ知らない。
さらに強い敵が待っていることを。
だが――
もう止まらない。
第76話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きく二つのポイントがあります。
まずロペの館。
・試練には順番がある
・同時に複数人は進めない
・中に入ればすぐ戦闘とは限らない
このあたりが見えてきました。
そして悠真のレベルアップカード。
初めての実戦投入でしたが、
強さと同時に“扱いの難しさ”も描いています。
力はある。
しかし制御できていない。
この状態が、今の悠真の立ち位置です。
また、レベル表示によって
“強くなった実感”が明確になりました。
ここからどう成長していくのか。
そしてローディアス。
今もなお、あの異空間で戦っています。
次回は――
再びその戦いへ。
さらに強い敵。
そして、試練の本質が少しずつ明らかになっていきます。
引き続きよろしくお願いします。




