第75話「選ばれる者」
第75話です。
今回はローディアスの戦闘回になります。
これまであまり描かれてこなかった“元騎士団の英雄”としての実力、
そしてこの世界の常識が通じない相手との戦い。
空を飛ぶ存在。
見たことのない敵。
その中で、どう戦うのか。
単なる力ではなく、経験と読みで勝つ戦いに注目していただければと思います。
また、相手である天使側にも事情があります。
“負けられない理由”がある戦いです。
そのぶつかり合いも含めて楽しんでいただければ嬉しいです。
白い空間だった。上下も左右も曖昧な、境界のない場所。だが足の裏の感触だけは確かにある。ローディアスはゆっくりと周囲を見渡した。
「……異空間か」
その瞬間、気配が現れた。
前方。音もなく現れたそれを見て、ローディアスはわずかに目を細める。
背に白い羽。
宙に浮いている。
「……なんだ、あれは」
見たことがない。だが、迷いはなかった。
強い。
次の瞬間、天使は消えた。
上。
斬撃が落ちる。
ローディアスは咄嗟に体を捻る。刃がかすめる。遅れて空気が裂ける音が響く。
「……空から来るか」
立ち上がる。視線を上げる。
天使は静かに浮いている。羽ばたきもない。ただ、そこにいる。
再び消える。
今度は横。
速い。
剣を合わせる。衝撃が腕に食い込む。押し返される。
「……っ」
体勢を崩しながらも踏みとどまる。
相手はすぐに距離を取る。そしてまた空へ。
間合いを支配されている。
降ってくる斬撃。
避ける。だが追撃が速い。二撃、三撃と連続で来る。浅く切られる。
血が滲む。
「……」
ローディアスは止まらない。避けながら見ている。
飛び方。止まり方。攻撃の前のわずかな“間”。
そして――降りる瞬間。
「我らは負けられない」
天使が初めて口を開いた。
低い声。
「契約だからな」
それだけだった。
だが、重い。
ローディアスは小さく笑う。
「……そうか」
「なら、遠慮はいらんな」
踏み込む。
速度を上げる。
だが届かない。相手の方が速い。視界から消える。斬撃が走る。
かすめる。血が増える。
「……速いな」
呟く。
だが視線は冷静だった。
もう見えている。
三度目の攻撃。
あえて受ける。剣で受け止める。
衝撃。
重い。
だが――そのまま見る。
相手が一瞬だけ“止まる”。
完全ではない。だが、確かに鈍る。
「……そこか」
距離を取る。呼吸を整える。
ポケットに手を入れる。一枚のカード。
「少し借りるぞ」
発動。
一瞬、世界が変わる。
動きが遅く見える。視界が広がる。
天使が動く。
上から来る。
ローディアスは動かない。引きつける。
そして――踏み込む。
地面を蹴る。同時に一瞬の加速。
空へ。
ほんのわずかだが、高さを得る。
天使の止まる瞬間へ。
「捉えた」
一閃。
刃が通る。
だが――
浅い。
天使は崩れない。
距離を取る。再び空へ。
「……しぶといな」
ローディアスが呟く。
呼吸が荒い。カードの効果も切れる。
天使は構える。
だが、さっきとは違う。
動きに“乱れ”がある。
傷が効いている。
それでも――来る。
「我らは……負けられない」
声がわずかに揺れる。
「そういう契約だ」
再び言う。
今度は重い。
覚悟ではない。
縛りだ。
天使が突っ込む。
速い。だが雑になっている。
ローディアスは動かない。
最後の瞬間。
半歩ずれる。
斬撃を外す。
そのまま踏み込む。
地上。
天使が着地する。
一瞬。
ほんの一瞬の隙。
だが、足りる。
「終わりだ」
踏み込み。
一閃。
深い。
天使の動きが止まる。
羽が震える。
それでも、まだ倒れない。
剣を握る。
踏み出す。
最後の一撃。
来る。
「……っ!」
ローディアスはわずかに目を細める。
そして。
迎え撃つ。
交差。
音が消える。
次の瞬間――
天使の剣が、止まっていた。
ローディアスの剣が、先に届いていた。
静止。
そして。
天使の体が、光に変わる。
崩れる。
消える。
完全に。
静寂が戻る。
ローディアスは剣を下ろさない。
息を整える。
「……初見殺しか」
小さく呟く。
飛べる敵。それだけで戦いは別物になる。
「ほう」
声が響く。
「やるな」
軽い声。
「まさか一人目を越えるとは」
ローディアスは視線を上げる。
「……見ているのか」
「当然だ」
愉しげな声。
「ローディアス」
一瞬、空気が変わる。
「騎士団の元英雄」
完全に知られている。
「……当たりだな」
笑う気配。
ローディアスは何も言わない。ただ構えを崩さない。
「壊すには惜しい」
その一言。
「だが、試練は終わらん」
空間が歪む。
「次だ」
ローディアスは剣を握り直す。
呼吸は荒い。
だが、目は死んでいない。
「……上等だ」
短く言う。
まだ終わらない。
むしろ――ここからだ。
第75話を読んでいただきありがとうございます。
今回は一戦目ということもあり、
ローディアスの“戦い方”を中心に描いています。
飛べる相手に対して、地上からどう対抗するか。
その中でスキルカードをどう使うのか。
このあたりがポイントになっています。
また、天使側もただの敵ではなく、
契約によって縛られている存在として描いています。
「負けられない」ではなく、
「負けてはいけない」戦い。
その違いが少しでも伝わっていれば嬉しいです。
そしてローディアス。
やはりこの男は強い。
ですが、余裕があるわけではありません。
むしろギリギリで勝っている。
だからこそ、次の戦いがどうなるのか。
さらに厳しくなるのは間違いありません。
次回は第二戦。
戦い方も、相手も変わります。
ここからさらに難易度が上がっていきます。
引き続きよろしくお願いします。




