第74話「選別の館」
第74話です。
今回は、ついに“踏み込んでしまう回”になります。
ロペの館――
戻れないと分かっている場所に、それでも足を踏み入れる理由とは何か。
ローディアスの覚悟。
そして、それを追うレオンたち。
同じ方向に進みながらも、
それぞれの考えや立場の違いが見える回になっています。
特に悠真は、まだ全てを理解しているわけではありません。
だからこそ出る言葉や判断に注目していただけると嬉しいです。
王都グランセルの外れ。
人の気配が消えていく石畳の先に、その館はあった。
ロペの館。
一見すればただの貴族の屋敷。だが、どこか歪んでいる。影が揺れている。風もないのに、静かに揺れている。
「……ここか」
ローディアスは立ち止まった。門の奥は暗い。ただ暗いだけではない。“底がない”ような感覚がある。
ガイオの言葉がよぎる。戻れなくなる。
ローディアスは小さく息を吐いた。
「……上等だ」
短く言って踏み出す。門をくぐる。
「ようこそ」
声が響いた。空間そのものから。方向がない。
ローディアスは足を止め、振り返る。
外はもうなかった。門も空も石畳も消えている。
閉ざされた空間。部屋のようで部屋ではない。壁の境界が曖昧だ。
「我が館へようこそ。歓迎しよう」
愉しげな声。
「これより諸君には試練を受けてもらう」
空気がわずかに変わる。
「異空間へ転移し――三人の猛者と戦ってもらう」
一拍。
「勝てば我がロペ本家へ招待しよう」
ローディアスの目が細くなる。
「……負ければ?」
短く問う。
「そのまま出られなくなる」
あっさりと言う。重みもなく。
沈黙。
「今なら引き返せる」
その言葉と同時に、背後に扉が現れた。唯一の出口。
ローディアスは振り返る。一瞬だけ見る。
そして、すぐに前を向いた。
「……時間がない」
小さく呟く。
「娘が待っている」
迷いはなかった。一歩踏み出す。
その瞬間、背後の扉が消えた。
「よろしい。では試練を開始する」
空間が歪む。床が消える。
ローディアスの体が引き込まれる。
最後に残ったのは――見られている感覚だった。
そして、その姿は消えた。
一方、ガイオの屋敷では。
「……行ってしまったか」
ガイオが低く言う。
ララもリズも何も言えない。
ローディアスの背中が、まだ残っている。
その時、扉が開いた。
「おお、戻ったか」
レオンたちだった。悠真とダービラ。ダービラは悠真の姿。
レオンがすぐに違和感に気づく。
「……何かあったのか」
ララが答える。
「ローディアスが……先に行ってしまった」
一瞬の間。
「どこに」
「ロペの館」
それだけで、レオンの顔が変わる。
「……っ」
小さく息を吐く。
「今から間に合うか……」
悠真が口を挟む。
「ちょっと待て」
少し強めの声だった。
「ロペの館って、なんだよ」
ララが説明する。
「中に入ると戻れなくなる場所」
「異空間に転移させられる可能性が高い」
悠真の顔が固まる。
「……は?」
思わず笑う。
だが、すぐに真顔に戻る。
「いやいやいや……」
「それ、普通にやばいやつだろ」
誰も否定しない。
沈黙。
レオンが言う。
「だから止めに行く」
即答だった。
迷いはない。
悠真は一瞬黙る。
そして息を吐く。
「……だよな」
小さく呟く。
「絶対そう言うと思った」
一瞬の間。
顔を上げる。
「でもさ」
「もし間に合わなかったらどうする?」
空気が少しだけ変わる。
現実の話だ。
レオンは止まらない。
「その時は、その時だ」
短い答え。
迷いはない。
悠真は苦笑する。
「……だめだな、この人」
頭を掻く。
だが。
そのまま言う。
「一人で行かせたら、絶対突っ込むだろ」
レオンを見る。
「だから俺も行く」
静かに言った。
覚悟というより、判断だった。
「ブレーキ役いないと、やばいし」
少しだけ笑う。
高校生らしい軽さ。
だが、ちゃんと現実を見ている。
レオンが一瞬だけ悠真を見る。
そして。
「……好きにしろ」
短く言う。
ダービラが口を開く。
「俺も行くぜ」
即答だった。
「理由は一つだ」
一瞬の間。
「興味がある」
ララが眉をひそめる。
「興味?」
「異空間」
「試練」
「そして――」
悠真の方を見る。
「そのカードだ」
悠真が少しだけ顔をしかめる。
「……まだ使う気ないけどな」
正直な反応だった。
「でも」
一瞬の間。
「使うことになるかもな」
小さく呟く。
ダービラの目がわずかに細くなる。
完全に研究者の顔だった。
ガイオが低く言う。
「……やめておけ」
全員の視線が向く。
「そこは戻れなくなる場所だ」
静かに、だが重く。
レオンが答える。
「関係ない」
短い。
悠真も続く。
「戻れなくなる前に引っ張り戻せばいいだけだろ」
少しだけ笑う。
強がり。
だが、完全に否定はできない言葉。
ガイオはしばらく黙る。
そして。
「……あの目だ」
ぽつりと呟く。
「どうせ止めても行くんだろ」
一瞬の間。
「なら、中途半端な場所に行かせる方が危険だ」
ララが顔を上げる。
ガイオは視線を逸らす。
「……帰ってくるなら」
小さく言う。
「面白い」
それが本音だった。
「……なら急げ」
それだけ言う。
レオンが振り返る。
「今なら間に合う」
その一言で、空気が変わる。
悠真は小さく息を吐く。
「……ほんとに行くんだな」
誰に言うでもなく呟く。
だが、足は止まらない。
すでに――
踏み込んでいる。
第74話を読んでいただきありがとうございます。
今回は前半と後半で、はっきりと空気が分かれています。
ローディアスは迷いなく“中へ”。
一方で、レオンたちは状況を受けて動く側。
この差が、それぞれの覚悟の形です。
レオンは止めに行く。
悠真は止めるためについていく。
ダービラは興味と目的で動く。
同じ行動でも、理由が違う。
ここが今回のポイントです。
また、ロペの館についても少しずつ正体が見えてきました。
・選択がある
・だが実質一方通行
・試されている
単なる危険な場所ではなく、“選別の場”である可能性が高いです。
そしてガイオ。
彼は止めながらも、最終的には送り出しました。
その理由は明確には語っていませんが、
“覚悟を見た”ことが一つの答えになっています。
次回は――
いよいよ試練の中へ。
ローディアスは何と戦うのか。
そしてレオンたちは間に合うのか。
ここから一気に物語が動きます。
引き続きよろしくお願いします。




