第65話「消えた一歩」
第65話です。
王都外縁の調査依頼。
ただの異変のはずが、想像を超える展開へ。
見えない違和感。
聞こえるはずのない声。
そして、一歩。
物語が大きく動き出します。
王都グランセルの外縁へ向かう道は、想像以上に静かだった。
商人街の喧騒を抜け、農地を越え、さらに進む。
人の気配が、少しずつ薄れていく。
風の音だけが、やけに耳につく。
「……この辺りだな」
レオンが足を止めた。
ギルドで渡された地図を確認しながら、周囲を見渡す。
だが。
「……何もないな」
悠真が言う通りだった。
草原が広がっているだけ。
隠れる場所もなければ、異変を感じさせるものもない。
それなのに。
妙な圧がある。
空気が、どこか重い。
ララがゆっくりと前に出る。
足を止め、目を細めた。
「……ここ」
「どうした?」
「何か……ある」
言葉は曖昧だが、確信はあった。
リズも周囲を見回す。
「でも……何も見えないよ?」
それが逆に、不気味だった。
見えないのに、ある。
感じるのに、掴めない。
レオンが剣に手をかける。
無言で警戒を強める。
悠真は一歩踏み出した。
その瞬間。
音がした。
低く、重い響き。
地面の奥から鳴っているような、不自然な音。
「……今、聞こえたか?」
「ああ……」
リズも小さく頷く。
風じゃない。
明らかに“何か”の音だ。
ララがその場にしゃがみ、地面に手を当てる。
すぐに顔を上げた。
「……ここ、結界がある」
「結界?」
悠真が周囲を見る。
だがやはり何もない。
空間は、ただの草原にしか見えない。
「触ってみて」
ララが言う。
悠真はゆっくりと手を伸ばす。
何もない場所へ。
そのまま、触れる。
瞬間。
違和感が走った。
「……なんだこれ」
確かに触れている。
だが、触れていないような感覚。
押しているのに、沈む。
存在しているのに、曖昧。
「気持ち悪いな……」
思わず手を引く。
レオンが低く言う。
「結界だな」
「だが……歪んでる」
悠真はもう一度、その空間を見る。
やはり何もない。
だが。
確実に、そこに“何か”がある。
その時。
音が強くなった。
さっきよりも、はっきりと。
言葉のような響き。
意味は分からない。
だが、頭に直接入り込んでくる。
「……なんだ、この音」
リズが不安そうに言う。
ララは顔をしかめる。
「……嫌な感じ」
悠真は一歩、前に出た。
「少しだけ、中見れないか?」
「待て」
レオンが止めようとする。
だが、その一瞬が遅れた。
悠真は手を伸ばす。
今度は強く。
押し込むように。
空間が、歪む。
揺れる。
見えない何かが、開く。
「――Ouvre la voie sacrée」
はっきりと聞こえた。
知らない言葉。
だが意味は理解できる。
“開け”。
その瞬間。
足元が消えた。
「――え?」
踏んでいたはずの地面が、なくなる。
体が沈む。
引く間もない。
下ではない。
前でもない。
どこかへ、引き込まれる。
「悠真!!」
ララの叫び。
手が伸びる。
だが。
届かない。
指先が、かすめる。
それだけだった。
「――っ!!」
悠真の体が、完全に沈む。
視界が歪む。
音が消える。
そして。
何もなくなった。
静寂。
風の音だけが戻る。
そこには。
もう誰もいなかった。
「……え」
リズの声が震える。
ララが、その場に立ち尽くす。
信じられないという顔で、何もない空間を見つめている。
「……うそ……」
足が一歩前に出る。
手を伸ばす。
だが。
何も掴めない。
「悠真……!」
声が震える。
もう一度、踏み出そうとする。
その肩を、強く掴まれた。
「行くな」
レオンだった。
「離して!」
ララが叫ぶ。
「今なら――」
「無理だ」
即答だった。
「今入れば、お前も消える」
その言葉に、ララの動きが止まる。
だが目は揺れている。
リズが震えながら言う。
「……どうするの……?」
誰も答えない。
分かっている。
今のままじゃ、どうにもならない。
情報が足りない。
何が起きたのかも分からない。
助け方なんて、あるはずがない。
ララが唇を噛む。
拳を握る。
震えている。
それでも。
前を見る。
「……助ける」
小さく言う。
だがはっきりと。
「絶対に」
レオンが静かに頷く。
「一度戻る」
「情報を集める」
リズも頷く。
「……うん」
ララはもう一度、その空間を見る。
何もない場所。
だが確実に、そこにいる。
そんな気がした。
「……待ってて」
小さく呟く。
返事はない。
それでも。
三人はその場を離れた。
風が吹く。
何もない空間から、再びあの音が響いた。
見えない扉は、確かに開いていた。
第65話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きな転換点となる回です。
・見えない結界
・正体不明の音
・そして“消失”
これまで積み上げてきた違和感が、一気に現実となりました。
悠真は、何も分からないまま消えました。
生きているのかも分からない状況です。
そして残された三人。
ララの感情、レオンの判断、リズの不安。
ここからは“助けに行く物語”が始まります。
また、今回の現象は偶然ではなく、
確実に“誰かの意思”が関わっています。
その核心にも、これから迫っていきます。
次回はそれぞれの動きに注目。
引き続きよろしくお願いします。




