第64話「アストラ」
第64話です。
王都グランセルにて、ついに冒険者としての第一歩を踏み出します。
パーティ「アストラ」結成。
そして、ただの依頼では終わらない気配。
ここから物語が一気に動き出します。
王都グランセルの冒険者ギルドの前で、悠真は一度足を止めた。
目の前にある建物は、これまで見てきたどの施設とも違う空気をまとっている。
重厚な扉の向こうからは、すでに喧騒が漏れ出していた。
笑い声、怒号、武器のぶつかる音。
ここがただの受付ではなく、“戦いを仕事にする場所”だということが、外に立っているだけで分かる。
「……ここでいいんだよな」
悠真が言う。
レオンが短く頷いた。
「ああ」
「中央区画に入るには、実績がいる」
視線は扉に向けられたまま。
「その中で一番早いのが、冒険者だ」
悠真は静かに聞く。
「それに」
レオンは続けた。
「ここは情報が集まる」
「金も、人も、噂もな」
ララが小さく頷く。
「石版の手がかりも……あるかもしれない」
悠真は一度だけ息を吐く。
ここから先は、ただの移動ではない。
ちゃんとした“動き”になる。
「……よし、行くか」
扉を押し開ける。
瞬間、音と匂いが押し寄せた。
酒の匂い。
汗の匂い。
そして、熱気。
視界いっぱいに人がいる。
武器を背負った者、傷だらけの者、大声で笑う者。
この場所の空気は、荒く、生々しかった。
「……すげえな」
悠真が呟く。
レオンは気にせず歩き出す。
その背中に、いくつかの視線が向いた。
「……あれ、レオンじゃねえか?」
「戻ってきたのか……」
小さなざわめき。
だが、無視できるほど小さくはない。
悠真が横を見る。
「ほんとに有名人なんだな」
「どうでもいい」
レオンは短く返した。
受付へ向かう。
女性職員が顔を上げた。
「冒険者登録ですね」
事務的な声。
だが一瞬だけレオンを見て、目の奥がわずかに揺れた。
「はい。パーティで登録します」
「パーティ名をお願いします」
その言葉に、悠真は少しだけ考える。
この世界に来てから見た空。
広くて、どこまでも続いていて。
まだ知らない場所がある。
その先へ行くための名前。
「……アストラで」
一度だけ、三人を見る。
「これでいいか?」
ララがすぐに頷いた。
「いいじゃない」
柔らかい声。
リズも笑う。
「かっこいいし、いいと思う」
レオンは短く言う。
「問題ない」
悠真は小さく頷いた。
「じゃあ、アストラで」
「アストラですね。確認しました」
職員が手際よく記録する。
カードが四枚、机に並べられた。
それぞれの名前が刻まれた冒険者証。
悠真はそれを手に取る。
ひんやりとした感触が、妙に現実味を帯びていた。
「ランクはEからのスタートです」
「依頼は掲示板から選んでください」
振り返る。
壁一面に貼られた依頼書。
その数に、少しだけ圧倒される。
「……とりあえずやるか」
最初の依頼は簡単なものを選んだ。
低級魔物の討伐。
森に入る。
静かだ。
だが、その静けさが逆に気配を際立たせる。
「来るぞ」
レオンの声。
次の瞬間、草をかき分けて魔物が飛び出した。
灰色の狼型。
速い。
一直線に悠真へ向かう。
「っ!」
悠真は反射的にカードを引き抜く。
火属性。
短く詠唱。
赤い魔法石が熱を帯びる。
炎が弾ける。
だが。
魔物は地面を蹴り、横へ跳んだ。
外れる。
「くそっ……!」
距離が一気に詰まる。
牙が迫る。
その瞬間。
風が走った。
ララの魔法。
魔物の動きが一瞬だけ鈍る。
「今!」
声が飛ぶ。
悠真は踏み込む。
距離は近い。
逃げ場はない。
「――燃えろ!」
短く、強く。
炎を叩きつける。
直撃。
爆ぜる音。
魔物が弾き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「……やった」
息を吐く。
だがすぐに。
パキン、と音がした。
魔法石にヒビ。
そして砕ける。
「……やっぱりな」
苦笑が漏れる。
「出力が強すぎる」
ララが言う。
「流れを意識して」
「流れ……」
まだ掴めない。
だが、前よりは確実に良くなっている。
その時。
別の気配。
二体。
同時に飛び出す。
「っ……!」
悠真が構えるより早く。
レオンが動いた。
一歩。
それだけで間合いに入る。
剣が閃く。
速い。
見えない。
気づいたときには、二体とも地面に倒れていた。
音が遅れて届く。
「……は?」
悠真が呆然とする。
「今の見えたか?」
「いや、全然」
リズも苦笑する。
ララは何も言わずに見ている。
理解している目。
依頼はその後も順調だった。
数をこなす。
戦う。
慣れる。
悠真の魔法も、少しずつ安定していく。
無駄は多い。
だが確実に前に進んでいる。
そして。
「Dランクに昇格です」
ギルドで告げられる。
想定以上の速さ。
「順調だな」
レオンが言う。
その時。
「……少し、よろしいですか」
声がかかる。
振り返ると、年配の職員が立っていた。
落ち着いた目。
「こちらへ」
案内されるまま、奥の部屋へ入る。
扉が閉まる。
外の音が消える。
「本来、この話はあなた方にするものではありません」
静かな声。
「ですが……例外です」
視線がレオンへ。
「内容は」
短く問う。
職員は一枚の書類を置いた。
「調査依頼です」
「王都近郊で、冒険者の消息が途絶えています」
悠真の眉が動く。
「……途絶えた?」
「戻ってきていません」
淡々とした言葉。
だが重い。
「複数名です」
「痕跡はほとんどない」
リズが息を呑む。
「……それって」
「危険です」
はっきりと言う。
「本来ならC、あるいはBランク相当」
「ですが、誰も受けない」
沈黙。
「なぜですか」
ララが聞く。
職員は少しだけ目を伏せた。
「理由が分からないからです」
それが一番の恐怖だった。
レオンが書類を見る。
目が細くなる。
「……場所は」
「この辺りです」
示された位置。
悠真の頭に、あの階段が浮かぶ。
近い。
確かに近い。
「……どうする」
悠真が聞く。
レオンは迷わない。
「受ける」
即答だった。
ララがその横顔を見る。
不安はある。
だが、それ以上に信頼がある。
リズも頷く。
悠真は息を吐く。
「……だよな」
覚悟は決まった。
部屋を出る。
喧騒が戻る。
だが、さっきとは違う。
空気が重い。
「……なんか」
悠真が呟く。
レオンが先に言った。
「嫌な予感がするな」
その言葉に、誰も何も言わなかった。
第64話を読んでいただきありがとうございます。
今回は新章スタートとして、重要な要素を詰め込んでいます。
・冒険者ギルドでの正式登録
・パーティ「アストラ」の結成
・悠真の魔法と戦闘の成長
・レオンの圧倒的な実力の再確認
そして後半。
“戻ってこない依頼”。
原因不明、痕跡なし。
ただ消えるという不気味な現象。
本来なら受けるべきではない依頼ですが、
レオンの存在によって“例外”として話が持ち込まれました。
さらに、その場所は王都の奥――
あの謎の階段に近いエリア。
物語はここから、
より危険で、より核心へと近づいていきます。
次回は調査依頼編スタート。
引き続きよろしくお願いします。




