第61話「はじめての魔法」
第61話です。
王都グランセルへ向かう前の準備回。
そして悠真、ついに“魔法”に挑戦します。
憧れていた力を、自分の手で扱う瞬間です。
王都グランセルへ向かう前、悠真はどうしてもやっておきたいことがあった。
魔法だ。
この世界に来てから何度も目にしてきた力。だが自分ではまだ一度も使えていない。
スキルカードでの強化とは違う。
自分の手で放つ、純粋な魔法。
一度でいいから、それを体験してみたかった。
魔法カードと魔法石は、アストリアでしかお店がない。
あの魔法国家だけが扱える特殊な品。
他の街ではそもそも流通していない。
悠真はそこで、迷いなく買い込んだ。
火、水、風、土。
基礎となる属性を中心に、合計十枚ほどの魔法カード。
そして魔法石も、持てるだけ。
赤、青、緑、黄。
指に装着することを考え、バランスよく揃えた。
その結果。
財布の中身は、ほぼ空になった。
「……やりすぎたな」
小さく呟く。
リズが隣で苦笑する。
「うん、完全にやりすぎ」
「でも気持ちは分かるけどね」
レオンは腕を組んだまま言う。
「非効率だな」
「スキルカードの方が確実だ」
正論だった。
悠真は苦笑しながら肩をすくめる。
「分かってるよ」
「でも一回くらいはさ」
その一言に、リズが小さく笑う。
ララも何も言わず、少しだけ優しく見ていた。
その視線は一瞬レオンへ向かう。だがすぐに逸らした。
気づかれない程度に。
何もなかったかのように。
転移カードを使い、グラード・マーケットへ戻る。
王都グランセルへ向かう前に、一度拠点へ戻るためだ。
Lumiere Kitchen。
扉を開けた瞬間、懐かしい匂いが広がった。
「お、戻ったか」
ユウジが顔を上げる。
「おかえり!」
店内はいつも通り賑わっていた。
料理の音、客の声、活気。
戦いとは無縁の空気が、自然と肩の力を抜かせる。
「ちょっとだけ寄りました」
悠真が言う。
「すぐまた出ますけど」
「そうか。まあ飯でも食ってけ」
奥から師匠も顔を出す。
「無理はするなよ」
その一言が、やけに染みた。
食事を済ませた後、四人は二階へ上がる。
静かな空間。
ここで次の行動を整理する。
レオンが窓際に立ちながら口を開く。
「王都グランセル……久しぶりだな」
悠真が振り返る。
「レオンって元騎士団だったんだよな」
「ああ」
短く答える。
少しだけ視線を遠くへ向ける。
「悪くはなかった」
「だが……とても退屈だった」
静かな声だった。
だが嘘はなかった。
「守るだけの毎日だ」
「決められた範囲で、決められたことをやる」
一度言葉を切る。
「それが悪いとは言わねえが……つまらなかった」
悠真は何も言わずに聞く。
レオンは続けた。
「そんな時に、石版を見つけたんだ」
「最初はただの遺物だと思ってた」
「だが見たことない絵に惹かれてな」
「この絵の景色を見に行こうと思った」
「それで騎士団を辞めて、冒険者になった」
悠真は小さく笑う。
「思い切ったな」
「似たようなもんだろ」
レオンが返す。
その言葉に、悠真も苦笑するしかなかった。
その後、悠真は商業ギルドへ向かった。
ガレスと合流し、現状を確認する。
「非常に順調だ」
ガレスは言う。
「売上も安定している」
渡された袋の中には、20万マニー。
今の悠真にとっては、かなり大きい。
「助かります」
「工場の方も進んでる。完成までもう少しだ」
すべてが怖いくらい順調だった。
店の近くの広場。
そして、いよいよ魔法の実験だ。
「ララ、教えてくれる?」
悠真が言う。
ララは少し驚いたように瞬きをしたが、すぐに頷いた。
「いいよ」
指に装着する器具を取り出す。
指輪のような形状で、そこに魔法石をはめ込む。
五本の指に、それぞれ別の属性を装着する。
「これで、魔力の代わりになる」
ララが説明する。
「カードを使うと、この石から魔法が出る」
悠真はカードを一枚取り出す。
火属性。
「……いくぞ」
短く詠唱する。
それだけで反応が起きた。
赤い魔法石が熱を帯びる。
じわりと温度が上がる。
そして。
指先から炎が弾けた。
「……出た……」
悠真が呆然と呟く。
確かに今、自分の手から魔法が出た。
リズが目を輝かせる。
「すごいじゃん!」
「ちゃんと魔法!」
悠真はしばらく手を見つめる。
そして、ゆっくり笑った。
「……これが魔法か」
その瞬間。
パキン、と音がした。
赤い魔法石にヒビが入る。
「え?」
次の瞬間、砕けた。
「……消耗する」
ララが言う。
「魔法の強さと量で、すぐだめになる」
悠真は苦笑する。
「なるほどな……」
レオンが横で言う。
「だから非効率だと言った」
リズも頷く。
「楽しいけど、お金飛ぶねこれ」
悠真はそれでも満足そうだった。
「……いいんだよ」
「一回やりたかっただけだから」
そう言いながら、残りの魔法石を見る。
もう無駄遣いはできない。
「よし」
悠真が顔を上げる。
「次はグランセルだ」
石版。
資金。
そして次の手がかり。
やるべきことは、すべて揃っていた。
四人は静かに頷いた。
第61話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘ではなく、“成長と準備”の回です。
・アストリアでの魔法カードと魔法石の購入
・Lumiere Kitchenへの帰還と日常の描写
・レオンの過去と考え方
・そして悠真の初めての魔法
魔法は使えるが、コストが重い。
このバランスが今後の戦い方に影響していきます。
また、魔法石が砕ける描写によって、
「お金=力」という世界観も改めて強調しています。
そしていよいよ次は王都グランセル。
石版集めはここからさらに本格化します。
引き続きよろしくお願いします。




