第60話「それぞれの場所へ」
第60話です。
地球での一連の出来事に一区切りをつけ、
それぞれの役割がはっきりと分かれていきます。
そして舞台は再び異世界へ。
次なる石版を求めて動き出します。
地下空間の静けさは、外の世界とはまるで別物だった。
机の上に並べられた石版を前に、悠真はゆっくりと口を開く。
「……これ、預かってもらえますか」
視線の先にはアルヴェルト。
富士山、東京タワー、金閣寺。ここまで集めた三枚の石版が机の上に並べられている。
静かに近づき、一枚を手に取る。
そして頷いた。
「いいだろう。預かろう」
石版を慎重に机の奥へと移す。
その動作には、明らかに研究者としての意識があった。
「参考になるどころじゃない。かなり核心に近づける」
悠真は軽く頷く。
「また見つけたら、持ってきます」
「……期待している」
アルヴェルトは短く答えた。
悠真はさらにポケットからカードを取り出す。
「これ、共有カードです」
「困ったことがあれば、これで連絡できます」
差し出されたカードを受け取り、アルヴェルトは興味深そうに見る。
「……この世界の知識と繋がるのか」
「ユウイチってやつが出ます。だいたいのことは教えてくれると思うんで」
悠真は続けて紙を一枚渡した。
「あと、これ住所です」
「東京なんで遠いですけど、もし行くことがあれば」
アルヴェルトはそれを受け取り、軽く目を通す。
「異世界と地球、両方に拠点か……悪くないな」
わずかに口元が緩む。
そこで悠真がふと気づいたように言う。
「……あの、その格好」
アルヴェルトの服装を見る。
異世界のローブは、この場所では明らかに浮いていた。
ララも同様だ。
「ちょっと目立ちすぎますね」
リズが苦笑する。
「……そうだな」
アルヴェルトも認める。
「じゃあ、服買いに行きましょう」
悠真が言う。
全員で地上へ出た。
人混みの中に入ると、ララは周囲を見回しながら小さく声を漏らす。
「……すごい」
店に入った瞬間、目が輝いた。
色とりどりの服が並び、見たことのないデザインばかりが並んでいる。
「こんなに……あるのね」
ひとつ手に取り、また別のものを見る。
明らかに楽しそうだった。
アルヴェルトも無言で服を見ているが、どこか新しい環境に順応している様子がある。
レオンは腕を組んだまま、静かに周囲を観察していた。
ララが振り返る。
手にした服を胸元に当てる。
「……これ、どう?」
少しだけ不安そうに。
レオンは一瞬だけ視線を向ける。
そして短く言った。
「……似合ってる」
それだけだった。
だがララの頬が、ほんの少し赤くなる。
「……そう」
視線を逸らす。
だがその表情は、確かに嬉しそうだった。
アルヴェルトも簡素な服に着替え、二人ともようやくこの世界に馴染む姿になる。
「これで問題ないな」
アークが確認する。
周囲に違和感はない。
完全に“普通の人間”として溶け込める。
再び地下へ戻る。
「それじゃあ、行きますね」
悠真が言う。
アルヴェルトは頷く。
「気をつけろ」
「時間は、味方じゃない」
短い言葉だったが、重みがあった。
ララは少しだけその場に残る。
「……先生」
「また来ます」
アルヴェルトは軽く頷いた。
「待っている」
それだけで十分だった。
ララはゆっくりと振り返り、レオンの方へ歩く。
そして一瞬だけ、その横顔を見る。
何も言わない。
だがその視線には、はっきりとした感情があった。
全員で地下空間を後にする。
新幹線で東京へ戻り、悠真の家で短い休息を取る。
すぐに準備を整え、異世界へと戻った。
空気が変わる。
肌に感じる魔力の流れ。
戻ってきたと実感する。
「……一週間ってところか」
悠真が周囲を見ながら言う。
リズが頷く。
「やっぱりズレてるね」
アストリアは少しだけ様子が変わっていた。
復旧が進んでいる。
「まずは王宮だな」
レオンの一言で、全員が動く。
王宮はまだ修復中だった。
崩れた壁、修理されている柱、慌ただしく動く魔道士たち。
戦いの跡はまだ残っている。
アークが前に出る。
「任せろ」
そのまま内部へと入っていく。
王宮の人間である彼にとって、ここは問題にならない。
しばらくして戻ってきた。
手には一枚の石版。
ララが一歩前に出る。
アークは手にしていた石版を、そのままララへと差し出した。
「……あった」
奈良の大仏が刻まれた石版。
「今は結界が解かれていた」
「誰も真の価値には気づいていない」
ララは一瞬だけ迷い、そして両手で受け取る。
重みがある。
確かな手応え。
「……ありがとう」
小さく、だがはっきりとした声だった。
少しの沈黙。
アークが静かに口を開く。
「……俺はここまでだ」
ララが顔を上げる。
「王宮の人間だからな」
「ここを離れるわけにはいかない」
淡々としているが、決意は固い。
ララはゆっくりと頷く。
「ありがとう」
その声は小さかったが、はっきりしていた。
アークは軽く頷く。
「また会おう」
それだけ言い、背を向ける。
王宮の奥へと歩いていく。
その姿が見えなくなるまで、誰も動かなかった。
悠真がゆっくりと息を吐く。
「……行くか」
レオンが頷く。
「次はグランセルだな」
王都の名が、静かに響く。
ララは手の中の石版を握りしめる。
その視線は、まっすぐ前を向いていた。
「……全部、集める」
迷いはなかった。
次の場所へ向かうため、全員が歩き出した。
第60話を読んでいただきありがとうございます。
今回は“繋ぎ”でありながら、とても重要な回です。
・石版をアルヴェルトに託し、研究が進む
・地球側での拠点が確立
・ララとレオンの関係性の変化
・アークとの別れ
それぞれのキャラクターの立ち位置が整理されました。
また、アルヴェルトも地球に馴染み、
現代の服を身にまとうことで完全に“溶け込む側”へと移行しています。
そして異世界へ戻ると、すでに時間は進んでいる。
このズレが、これからの行動に影響していきます。
王宮では新たな石版――奈良の大仏を回収。
そしてアークは王宮へ残る選択をしました。
ここから再び石版集めの本格スタートです。
次回は王都グランセル編へ。
引き続きよろしくお願いします。




