第5話 往復という武器
第5話です。
今回は、主人公が“異世界と現代を行き来できる”ことに気づき、
この物語の大きな軸が動き出す回になります。
ただの異世界転移ではなく、
現代を利用して稼ぐという方向性が見えてきます。
ここから一気に加速していきます。
夜の街を歩きながら、神代悠真はふと立ち止まった。
頭に浮かんだのは、最初に落ちてきたあの場所。
廃墟の天井に空いていた穴。
「……あれ」
思わず呟く。
「どうしたの」
リズが横で聞く。
悠真は少し考えてから言った。
「あの穴、さ」
リズが視線を向ける。
「……あそこから、元の世界に戻れないか?」
少しだけ沈黙があった。
リズはすぐには否定しない。
「……可能性はある」
短く答える。
悠真は続けた。
「飛ぶスキルってあるか?」
「ある」
「使い切りでもいい」
リズは頷く。
「それならいけるかも」
確実ではない。
でも、やる価値はある。
「……行ってみるか」
二人で廃墟へ向かう。
中に入り、あの穴の下に立つ。
見上げると、やっぱり高い。
「これ、普通に無理だろ……」
「だからスキル使うんでしょ」
リズが言う。
そして、カードを取り出した。
「飛行」
短く言う。
「私も行く」
「いいのか?」
「興味ある」
あっさりしている。
「……落とすなよ」
「大丈夫」
次の瞬間、体が浮いた。
リズに抱えられたまま、一気に上昇する。
風が強い。
思ったより怖い。
「うわ、ちょっ――」
そのまま穴に飛び込む。
視界が暗くなる。
そして。
「……っ」
木の感触。
埃の匂い。
「……ここ」
天井裏。
間違いない。
悠真は這い出して、点検口を開ける。
自分の部屋。
「……戻った」
はっきりと分かる。
時計を見る。
深夜二時。
異世界での体感は、少なくとも丸一日。
「……全然時間経ってないな」
リズが周りを見ている。
「変な世界」
「……だな」
悠真は小さく息を吐く。
「向こうで一日、こっちは一時間くらいか」
その事実に、少しだけぞくっとする。
でも。
「……これ、使えるな」
リズが笑う。
「悪い顔してる」
「うるさい」
悠真は軽く流した。
リズが部屋を見回す。
「外行きたい」
「無理」
即答だった。
「その格好で出たら終わる」
「……まあ、そうか」
少し不満そうだが、納得する。
「ここで待ってて」
「早く戻ってきてよ」
「すぐ行く」
悠真は財布を確認する。
現金。
「……これ全部使うのか」
一瞬迷う。
でも。
「……やるしかないか」
部屋を出る。
夜の街。
タクシーを捕まえる。
「コンビニ寄ってください」
店に入る。
ATM。
残高、約十五万。
少しだけ手が止まる。
「……全部か」
数秒迷って、操作する。
全額引き出す。
紙幣の束が手に残る。
「……減るの早そうだな」
小さく呟く。
タクシーに戻る。
「次、ホームセンターで」
店に入る。
明るい光。
並ぶ商品。
全部が“使える”気がする。
カートを取る。
そして。
「……これもいるな」
大型の運搬カート。
「絶対持てないだろ……」
苦笑しながら購入。
商品を入れていく。
調味料、麺、粉、具材。
鉄板、ヘラ、包丁。
どんどん増える。
「……買いすぎじゃないか?」
一瞬不安になる。
でも。
「……足りないよりはいいか」
会計。
金が一気に減る。
「……うわ」
思わず声が出る。
でも止まらない。
全部タクシーに積む。
家に戻る。
荷物を降ろす。
天井裏へ。
リズが待っていた。
「遅い」
「悪い」
荷物を見る。
「……多くない?」
「……俺も思ってる」
正直に言う。
リズは笑った。
「でもこれ、運ぶの大変でしょ」
「……だな」
一人じゃ無理だった。
「助かる」
「でしょ」
二人で荷物をまとめる。
穴の前に立つ。
「行くぞ」
飛び降りる。
暗転。
そして。
異世界。
同じ場所。
「……戻ったな」
そのまま街へ向かう。
ギルドへ入る。
ミレイナの前に立つ。
「露店、出したい」
ミレイナが視線を上げる。
「何を販売されますか?」
「食べ物です」
「内容は?」
「麺料理と、焼き物」
ミレイナは少し考え、頷いた。
「許可します。料金を支払ってください」
手続きを済ませる。
外へ出る。
場所を確保する。
カートから荷物を降ろす。
鉄板を置く。
火をつける。
悠真は小さく息を吐いた。
「……やるか」
リズが横で笑う。
「いよいよだね」
悠真は鉄板に手を伸ばした。
「……開店だ」
第5話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、
・現代との往復の確立
・資金の投入
・露店スタート
までを描いています。
この「往復できる」という点が、
この作品の一番の強みになっていきます。
次回は、実際にどれだけ稼げるのか、
そして周囲の反応も含めて大きく動いていきます。
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