第46話「大会初日」
第46話です。
グラード・マーケットで開催される大会が開幕。
銀の魔法石の手がかりを求め、ララたちは連勝へ挑みます。
闘技場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
観客席を埋め尽くす人、人、人。
ざわめきが波のように押し寄せ、中央の円形フィールドへと視線が集まる。
ここは戦う場所だ。
勝つ者と、負ける者がはっきりと分かれる場所。
「……思ってたより、やばいな」
神代悠真は小さく呟いた。
喉が乾く。手のひらにじわりと汗が滲む。
隣でリズ・アルフェンがくすりと笑った。
「今さら?」
「いや、こう……雰囲気がさ」
言いながらも、目はフィールドから離せない。
ララは静かに前を見据えていた。
「ここからが本番よ」
短い言葉。だが、迷いは一切なかった。
受付を終え、出場登録は完了している。
ルールは単純。
五連勝すれば、次の舞台――チャンピオン大会へ進める。
「とりあえず一回だな」
悠真が言う。
リズが呆れたように笑う。
「その軽さ、すごいよね」
「現実的だろ?」
そう返したが、内心はまったく違う。
(……一回でも勝てるのか?)
不安は消えない。
レオンが壁にもたれながら言った。
「舐めるな」
「ここは遊びじゃない」
その一言で、空気が引き締まる。
⸻
「リズ・アルフェン!」
名前が呼ばれた。
「行ってくるね」
軽く手を振り、リズはフィールドへ降りていく。
初戦の相手は若い男。構えが甘い。
開始の合図。
リズは距離を取り、スキルカードを発動。
風の補助で加速。
相手の攻撃をいなしながら、的確に打ち込む。
無理をしない。
焦らない。
結果は危なげなく勝利。
「よしっ」
小さく拳を握る。
そのまま二戦目、三戦目も連勝。
「安定してるな」
悠真が言う。
「いい動きだ」
レオンも短く評価する。
だが――四戦目。
空気が変わった。
相手は中年の男。無駄のない構え。
「……来るぞ」
レオンの声が低くなる。
試合開始。
リズはこれまで通りに動く。
だが通じない。
攻撃が読まれる。
逆に、確実に返される。
「っ……!」
一撃が重い。
体勢を崩される。
それでも立て直す。
踏みとどまる。
最後まで食らいつく。
だが――
判定負け。
「……負けちゃった」
戻ってきたリズは、悔しそうに笑った。
「いい戦いだった」
ララが言う。
「上出来だ」
レオンも頷く。
⸻
「神代悠真!」
名前が響く。
「……はいはい」
軽く返事をし、フィールドへ降りる。
心臓がうるさい。
(やばいな……)
足が少しだけ重い。
視線が刺さる。
観客の圧が、想像以上に強い。
対戦相手を見る。
小柄な老人。
背も少し曲がっている。
動きも遅そうだ。
(……え?)
一瞬、拍子抜けする。
(いや、でも……)
ここはさっきまでの場所じゃない。
リズでさえ負けた。
(油断したら終わる)
そう思う。
思うのに――
目の前の老人を見ると、どうしても思ってしまう。
(……いけるだろ)
「見た目に騙されるな」
レオンの声が飛ぶ。
「ルシード・フェインだ。かなりのやり手だ」
「分かってるって」
軽く返す。
だが内心は。
(マジかよ……)
完全には信じていない。
試合開始。
悠真は一気に踏み込んだ。
怖いからこそ、先に仕掛ける。
「いくぞ!」
身体強化、最大五倍。
一撃で決める。
そのつもりだった。
だが――
当たらない。
「……は?」
拳が空を切る。
確実に捉えたはずなのに、触れすらしない。
老人は動いていない。
その場に立っているだけ。
なのに――当たらない。
(なんでだ……)
もう一度。
振るう。
外れる。
何度やっても同じ。
距離が合わない。
ズレる。
(やばい……)
焦りが一気に広がる。
その瞬間。
視界が揺れた。
「……っ?」
次の瞬間。
地面に倒れていた。
意識が途切れる。
⸻
「悠真!」
リズの声で目が覚めた。
「大丈夫!?」
「ああ……」
体を起こす。
何が起きたのか分からない。
だが――負けたことだけは分かる。
「今の……何だよ」
レオンが静かに言う。
「技術だ」
「無駄のない、完成された動き」
少し間を置く。
「ルシード・フェイン」
名前が落ちる。
「格が違う」
悠真は苦笑した。
「……聞いとけばよかったな」
リズがため息をつく。
「ほんとにね」
それでも。
悠真はフィールドを見る。
「……すげえな」
本音だった。
⸻
「次」
係員の声が響く。
「ララ・フェルシア」
空気が変わる。
ララがゆっくりと立ち上がる。
視線の先には――
ルシード・フェイン。
静かに立っている。
悠真を一瞬で倒した相手。
「……あの人か」
リズが小さく言う。
「ここが山だな」
レオンが低く言う。
ララは一歩踏み出した。
迷いはない。
「勝つ」
ただ、それだけ。
ルシードがわずかに目を細める。
「……いい目だ」
静かな声。
だが、圧が違う。
開始の合図が鳴る。
空気が張り詰める。
五連勝への壁。
最大の試練。
ララは越えられるのか。
第46話を読んでいただきありがとうございます。
大会初日、それぞれの戦いが描かれました。
悠真の完敗、そしてララの試練。
次回、ララ vs ルシード・フェイン。




