第44話「アルヴェルト・ノアの記録」
第44話です。
フェルシア家の書庫で見つかった、アルヴェルト・ノアの記録。
石版の仕組みと、その先にある可能性が明らかになります。
そして、一つの方法が示されます。
ページをめくる音だけが、静かな書庫に響いていた。
ララの指先はわずかに震えている。
それでも、その目は一文字も逃さない。
「……読むわ」
低く呟き、記録を追う。
『石版は門である』
最初の一文。
神殿で語られていた仮説と一致していた。
だが、その先に続く内容は、明らかに一歩踏み込んでいた。
『既存の転移魔法とは構造が異なる』
『通常の転移は同一空間内の移動』
『しかし石版は、空間そのものを越える』
リズが小さく息を呑む。
「世界を……越えるってこと?」
「そうなるな」
レオンが短く答える。
ララはページをめくる。
『魔法陣は表面には存在しない』
『正確には視認できない位相に存在する』
セレフィナの表情がわずかに変わる。
『暗所にて光を当てることで可視化される』
悠真は神殿での出来事を思い出す。
確かに、あの時石版は光を帯びていた。
『裏面に魔法陣を確認』
「裏……」
ララが小さく呟く。
誰もそこまで調べていなかった。
『この魔法陣は既存体系に属さない』
『解析不能』
重い空気が流れる。
そして、次のページ。
『発動条件』
ララの声が少しだけ強くなる。
『一、暗闇』
『二、光』
『三、特殊魔力』
リズが不安そうに呟く。
「特殊魔力って……?」
ララはそのまま読み進める。
『通常の魔法石では反応せず』
『単一属性では不安定』
セレフィナが静かに言う。
「だから再現できなかったのね」
ララは頷き、さらにページをめくる。
『転移先は固定』
『石版ごとに接続先が異なる』
悠真が小さく呟く。
「やっぱり……」
あの石版は、あの場所に繋がっている。
ララは次の記述へ。
『接続先の環境については推測段階』
『石版に描かれた構造物と一致する可能性が高い』
ララが静かに息を吐く。
「……やっぱり、この絵の場所に繋がっている」
誰も否定しなかった。
石版の絵は、ただの装飾ではない。
意味を持っている。
ララは最後のページへ進む。
そこだけ、文字がわずかに乱れていた。
『仮説は確信に近づいた』
『石版は門であり、接続装置である』
『この先に、別の世界が存在する可能性は高い』
空気が張り詰める。
そして――
『私は、この現象を実証する』
『戻れない可能性を理解した上で』
ララの指が止まる。
静かな呼吸。
『それでも、行く』
沈黙。
完全な静寂が落ちる。
悠真がゆっくりと息を吐く。
「……覚悟してたんだな」
レオンが短く言う。
「事故じゃない」
ララはノートを閉じなかった。
そのまま、もう一枚挟まれている紙に気づく。
「……これは」
紙質が違う。
筆跡も別だ。
セレフィナが言う。
「後の研究者の記録ね」
ララがそれを手に取り、読み上げる。
『発動条件に関する補足』
『単一属性の魔力では反応が不安定』
『複数属性の均衡が必要』
ページをめくる。
『仮説:全属性の魔法石を同一比率で融合した場合、安定した起動が可能』
空気が一変する。
「全属性……?」
リズが呟く。
ララが静かに答える。
「この世界の魔法属性は全部で十二」
「つまり、十二色すべて」
悠真が言う。
「同じ分量で混ぜるってことか」
ララは頷く。
さらに読み進める。
『試作に成功』
『短時間だが魔法陣の安定化を確認』
その先は途切れていた。
それ以上、何も書かれていない。
「……ここで終わってる」
ララの声が静かに落ちる。
セレフィナが言う。
「その研究者も、消えたわ」
重い沈黙。
偶然ではない。
明らかに繋がっている。
ララの手が、わずかに震える。
「ここまで来てる……」
視線が強くなる。
「先生も、この人も」
「同じところに辿り着いてる」
そして、小さく言う。
「あと一歩で……開く」
セレフィナが鋭く言う。
「ララ、やめなさい」
だがララは首を振る。
「無理よ」
「ここまで分かって、止まれない」
ノートを閉じる。
その音が、やけに大きく響いた。
「行く」
はっきりと言い切る。
セレフィナが立ち上がる。
「待ちなさい!」
だがララは振り返らない。
そのまま書庫を飛び出した。
足音が廊下に響く。
「おい、ララ!」
悠真がすぐに追う。
リズも慌てて後を追った。
レオンは一瞬だけセレフィナを見る。
何も言わない。
そして静かに歩き出す。
廊下に出ると、ララの姿はすでに先へ進んでいた。
迷いのない足取り。
「神殿か!」
悠真が叫ぶ。
「ええ!」
ララは止まらない。
「条件は分かった」
「でも足りないものがある」
その声に、焦りが混じる。
「特殊な魔法石……」
小さく呟く。
「十二色、全部」
それでも足は止まらない。
「探すわ」
その一言に、覚悟が宿っていた。
悠真は小さく笑う。
「……なら、行くしかないな」
リズも頷く。
「うん」
レオンは何も言わない。
だが、その歩みは止まらなかった。
もう誰も止められない。
石版は門。
そして、その先には――
未知が待っている。
第44話を読んでいただきありがとうございます。
石版の仕組み、発動条件、そして危険性が明らかになりました。
そしてララは止まらず、行動へ。
次回は“特殊な魔法石”を巡る展開へ進みます。




