第43話「フェルシア家の食卓と、繋がる世界」
第43話です。
神殿での出来事のあと、一行はララの実家・フェルシア家を訪れます。
名門としての立場、母との対立、そして石版に関わる過去。
ララが背負っているものが、少しずつ明らかになります。
さらに、悠真の秘密と石版の繋がりも共有され、
物語は核心へと踏み込み始めます。
白い門をくぐった瞬間、外の街の喧騒が嘘のように遠のいた。
整えられた庭園。風に揺れる木々でさえ、どこか品がある。石畳の一つ一つまで手入れが行き届いていて、悠真は思わず足元を見た。
「……ここがララの家か」
隣でリズが小さく息を漏らす。
「すごい……」
ララは少しだけ間を置いてから口を開いた。
「フェルシア家は、王宮魔導師も輩出している家系よ」
淡々とした言い方だったが、どこか自嘲のような響きが混じっている。
「……まあ、名門ってやつね」
そう言って歩き出す背中は、神殿で見せていた姿より少しだけ硬かった。
屋敷の中は静かだった。
使用人たちが頭を下げる中を通り、案内された食堂に入ると、すでに一人の女性が席についていた。
セレフィナ・フェルシア。
ララの母だ。
「遅かったわね」
落ち着いた声。だが視線は鋭い。
「お待たせしました、母様」
ララはまっすぐに答え、席につく。
悠真たちも続いて座った。
料理が並べられているが、誰もすぐには手をつけない。
「遠慮はいらないわ。食べながらでいい」
そう言われて、ようやく少しだけ空気が動いた。
だが緊張は消えない。
「石版のことね」
セレフィナが切り出した。
ララが頷く。
「はい」
「どこまで分かっているの?」
「断片的です。複数存在していること。それぞれ違う場所が描かれていること」
「そして?」
「この世界のものではない可能性が高い」
セレフィナの視線が一瞬だけ鋭くなる。
「……そこまでは辿り着いたのね」
悠真は少しだけ迷ったが、口を開いた。
「そのことなんですけど」
全員の視線が集まる。
「俺、あの石版に描かれている場所、知ってます」
ララの目が大きく開く。
「……え?」
セレフィナも黙って見ている。
「清水寺っていう場所です」
「この世界じゃなくて、俺がいた世界にある建物です」
一瞬、空気が止まった。
リズが不安そうに悠真を見る。
ララは言葉を失っていた。
「……あなたの、いた世界?」
セレフィナが静かに問う。
悠真は頷く。
「俺は、この世界の人間じゃありません」
言葉にした瞬間、場の空気が変わる。
「別の世界から来ました」
沈黙。
重い沈黙だった。
「……続けなさい」
セレフィナの声だけが冷静だった。
「はい」
悠真はゆっくりと話す。
「これまでに、いくつか石版を見ています」
「場所は全部違うけど、共通してることがある」
「全部、俺の世界に実在する場所なんです」
ララが息を呑む。
「そんな……」
「だから、ただの遺物じゃない」
悠真は石版の方を思い出すように視線を落とす。
「石版は……別の世界と繋がってる」
その言葉に、誰もすぐには反応できなかった。
やがて、セレフィナが静かに息を吐く。
「……やはり、そこに辿り着くのね」
ララが顔を上げる。
「母様……知っていたの?」
「可能性としてはね」
そして視線がララに向く。
「だから止めているのよ」
その言葉は、厳しさよりも恐れに近かった。
「石版に関わった研究者は、例外なく消えている」
悠真の背筋が冷える。
「その中に、あなたの師も含まれる」
ララの手が止まる。
「……アルヴェルト先生」
名前が静かに落ちる。
「アルヴェルト・ノアは、石版の研究で“ある仮説”に辿り着いた」
セレフィナは続ける。
「石版は門である、という仮説よ」
悠真が顔を上げる。
「門……」
「別の世界と繋がる通路」
その言葉が、先ほどの話と重なる。
「そして彼は、その証明を試みた」
ララの声が震える。
「結果は……」
セレフィナは短く答えた。
「消えた」
それだけだった。
理由も、手がかりもない。
ただ、消えた。
ララは黙り込む。
視線は下を向いたまま。
その横顔を、レオンがちらりと見る。
だが何も言わない。
悠真が口を開く。
「……それで終わりなんですか」
セレフィナが視線を向ける。
「何が言いたいの?」
「原因があるはずです」
はっきりと言った。
「ただ消えるなんておかしい」
レオンが小さく頷く。
「同意だな」
「何か条件があるはずだ」
ララも顔を上げる。
「先生は、何か見つけていたはずです」
セレフィナはしばらく沈黙した。
やがて、静かに立ち上がる。
「……ついてきなさい」
「母様?」
「見せるつもりはなかった」
背を向けたまま言う。
「でも、あなたたちはもう関わっている」
その言葉に、誰も否定しなかった。
屋敷の奥へ進む。
長い廊下の先。
一つの重い扉の前で止まる。
セレフィナが手をかざすと、淡い光が広がり、鍵が外れる音がした。
中は書庫だった。
積み上げられた書物と記録。
そして中央の机に、一冊の古いノート。
ララの呼吸がわずかに乱れる。
「これは……」
セレフィナがそのノートを手に取る。
「アルヴェルト・ノアの最後の記録よ」
悠真の鼓動が早くなる。
ララは迷わず言った。
「見せてください」
セレフィナは一瞬だけララを見る。
そして、静かに頷いた。
ノートが開かれる。
ページをめくる音だけが響く。
最初の一文が目に入る。
「石版は“門”である」
その言葉が、静かに空間へ落ちた。
もう、後戻りはできない。
第43話を読んでいただきありがとうございます。
今回はララの背景と、石版の核心に踏み込む回でした。
悠真の正体と石版の繋がりが明確になり、物語は大きく動き始めています。
次回はアルヴェルトの記録、または石版の核心へ進んでいきます。
引き続きよろしくお願いします。




