第39話 五百万マニーの託し先と、次の国への準備
第39話です。
次の目的地、魔法国家アストリアへ向かう前に、
悠真にはどうしてもやっておきたいことがありました。
それは、この街で築いたものを一時的な成功で終わらせず、
未来へ繋がる形にすること。
そしてレオンから、思いがけない“託し物”が渡されます。
黄金殿から戻った夜。
街の喧騒も少し落ち着き、悠真たちは店の二階に集まっていた。
机の上には、三枚目となる石版。
富士山。
東京タワー。
そして金閣寺。
ようやく手に入れたはずなのに、悠真の胸には引っかかるものが残っていた。
以前は誰も触れられなかった石版。
それが今回は、結界ごと消えていた。
誰かが意図的にそうしたのか。
偶然なのか。
答えはまだ出ない。
悠真は腕を組んだまま天井を見る。
「……考えること増えたな」
リズが椅子にもたれながら言う。
「石版のこともだけど、結局この後どうするの?」
ララは静かに頷いた。
「アストリア」
「私の国なら、石版の文献がある」
レオンは焼いた肉を食べながら言う。
「なら明日にでも行くか」
悠真は首を横に振った。
「いや、ちょっと待て」
全員の視線が集まる。
悠真はゆっくり言った。
「アストリアに行くのは決まりだ」
「でも、その前にやり残したことがある」
⸻
その時だった。
レオンが足元に置いていた大袋を、どさっと机に置いた。
重い音。
袋の口が開く。
中には札束のように積まれた高額紙幣と金貨がぎっしり入っていた。
悠真が目を見開く。
「……なんだこれ」
レオンは当然のように答える。
「優勝賞金」
「五百万マニー」
リズが吹き出した。
「そういえばあったね!」
ララも少し驚いていた。
「普通もっと喜ぶものよ、それ」
悠真が呟く。
「日本円で……五千万相当か」
レオンは袋を悠真の前へ押した。
「お前に託す」
悠真が顔を上げる。
「……え?」
「お前のほうが使い道考えてるだろ」
「俺が持ってても飯代になるだけだ」
リズが笑う。
「それはそう」
ララも小さく笑った。
悠真は袋を見つめる。
重い。
金額以上に、その言葉が重かった。
“あげる”ではない。
“託す”
信じて任せるという意味だった。
悠真はゆっくり頷く。
「……分かった」
「預かる」
⸻
翌日。
悠真たちは商業ギルドを訪れていた。
広い建物の中では、朝から多くの商人たちが行き交っている。
受付を通され、応接室へ案内された。
そこへ現れたのは、ギルド幹部の男だった。
三十代後半ほど。
体格がよく、背筋が伸びている。
剣だこもある。
ただの商人ではないと一目で分かる。
「お待たせしました」
低く落ち着いた声。
「商業ギルド統括補佐、ガレス・ヴァンロードです」
悠真は軽く会釈した。
「悠真です」
ガレスは席につき、まっすぐ悠真を見る。
「優勝者の仲間と聞いております」
「本日は、大きな相談だとか」
悠真は袋を机の上へ置いた。
中身を見たガレスの眉が、わずかに動く。
「……五百万マニー」
「本気ですね」
悠真は頷く。
「この街で、自給自足の基盤を作りたい」
「畑と工場」
「遠い土地から仕入れてる物が多すぎる」
「ずっとそれじゃ限界が来る」
ガレスは黙って聞いていた。
悠真は続ける。
「作物を育てる」
「加工場を作る」
「この街だけじゃなく、周辺にも流せる形にしたい」
「俺たちは旅に出る」
「その間も回る仕組みが必要なんだ」
静かな沈黙。
やがてガレスが口を開いた。
「面白い」
「非常に面白い」
リズが小声で言う。
「乗ってきたね」
ララも頷いた。
ガレスは続ける。
「畑は郊外南部に空き地があります」
「水路も近い」
「工場区画は東側再開発地が使える」
「人手も、こちらで集めましょう」
悠真が聞く。
「……できるのか?」
ガレスは笑った。
「商売人を甘く見ないでいただきたい」
「金と目的があれば、人は集まります」
⸻
その場で話は進んだ。
まずは畑。
じゃがいも、玉ねぎ、小麦、豆類。
種や苗も揃える。
店はユウジと師匠が中心に回す。
ただし負担は大きい。
そのため追加で数人雇うことも決まった。
悠真は少し安心した。
ずっと任せきりなのが気になっていたのだ。
ガレスが机に地図を広げる。
「私が現場を見ます」
「進行管理、人員配置、資材調達」
「すべて任せてください」
レオンが腕を組む。
「強そうだな、おっさん」
ガレスは笑う。
「一応、元傭兵です」
「腕力と人望だけでここまで来ました」
リズが感心する。
「ぴったりじゃん」
ララも頷いた。
「信頼できそう」
悠真は手を差し出した。
「頼みます」
ガレスはその手を強く握った。
「必ず形にしましょう」
⸻
夕方。
店へ戻る道。
街の空気はいつも通り賑やかだった。
だが悠真の心は少し違っていた。
石版集め。
魔法国家アストリアへの旅。
その先に待つ謎。
けれど同時に、自分たちの土台も作り始めた。
旅をしながら、街も育つ。
その形が見えた気がした。
リズが笑う。
「なんか、経営者っぽくなってきたね」
悠真は苦笑する。
「まだ未成年なんだけどな」
レオンが言う。
「もうそこらへんの未成年じゃないな」
ララも小さく笑った。
「それはそうね」
⸻
店の前に着く。
中から賑やかな声が聞こえる。
ユウジと師匠が、今日も店を回しているのだろう。
悠真は空を見上げた。
次は魔法国家アストリア。
だがその前に、この街に根を張る。
ただ旅するだけでは終わらない。
自分たちの居場所を育てながら、前へ進む。
そう決めた。
第39話を読んでいただきありがとうございます。
今回は派手な戦いや石版回収ではなく、
悠真という主人公の“本質”が出る回でした。
次の目的地は魔法国家アストリア。
普通ならすぐ旅立つ流れです。
ですが悠真は、その前に立ち止まりました。
この街で得た成功。
店の繁盛。
人との繋がり。
それらを置き去りにせず、
次へ進んでも回り続ける仕組みを作ろうとしたのです。
ここが悠真らしさです。
強さで押し切るタイプではない。
けれど、
・先を読む
・土台を作る
・人に任せる
・全体を見る
こういう力を持っています。
そしてレオンが賞金五百万マニーを“託した”ことも大きな意味があります。
渡したのではなく、託した。
それは、
「お前なら価値ある使い方をする」
という信頼そのものです。
仲間としての関係が、かなり深まった証でもあります。
さらに新キャラ、ガレス・ヴァンロードも登場しました。
現場を任せられる大人の存在は、今後重要になっていきます。
この回で、
旅する仲間たち
+
残って街を育てる仲間たち
という二軸ができました。
物語の厚みがかなり増しています。
次回はいよいよアストリアへの出発。
魔法国家、石版研究、そして新たな脅威。
世界がまた広がります。
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