第38話 黄金殿の石版と、ララの違和感
第38話です。
ついに黄金殿の石版を手にする時が来ました。
富士山、東京タワーに続く三枚目。
しかし、ただ受け取って終わる話ではありません。
以前は誰も触れられなかった石版が、
なぜか今回は触れられるようになっていました。
ララが感じた違和感の正体が、ここで動き出します。
闘技場の熱狂がようやく落ち着きを見せ始めた頃。
悠真たちは大会主催者の案内で、黄金殿へ向かっていた。
街の中心部。
昼の光を受けて輝く巨大な建物。
金で覆われた外壁は、まるで陽そのものを切り取ったようだった。
悠真たちは、この場所へ来るのは初めてではない。
以前、この街へ来た直後にも一度訪れている。
その時、石版は黄金殿の中央広間――大勢の人間から見える場所にある台座へ置かれていた。
誰でも見える。
だが、誰も触れられない。
強力な結界に守られていたからだ。
悠真はその時を思い出しながら言った。
「……また来ることになるとはな」
リズも頷く。
「あの時は近づいただけで弾かれたよね」
レオンは鼻で笑う。
「今回は取れるんだろ」
ララは無言のまま黄金殿を見つめていた。
その顔が、ふっと険しくなる。
「……おかしい」
悠真が振り向く。
「何が?」
ララは短く答えた。
「嫌な予感がする」
⸻
黄金殿の中央広間。
高い天井。
金色の柱。
磨き上げられた床。
その中心。
以前と変わらず、石版は中央の台座に置かれていた。
古びた灰色の石。
そこに刻まれた絵。
金閣寺。
豪華な空間の中で、その石版だけが静かに時代から取り残されているようだった。
悠真の胸が高鳴る。
「……あれだ」
富士山、東京タワーに続く三枚目。
リズも小さく息を呑む。
「やっぱり本物なんだね」
だが次の瞬間。
ララが強く言った。
「待って」
全員が足を止める。
ララは台座の周囲を見つめていた。
そしてゆっくり、石版へ近づく。
誰も止めるものがいない。
ララはそのまま台座の前まで行き、石版へ手を伸ばした。
指先が――触れた。
何も起きない。
悠真の背筋がぞくりとした。
「……触れた?」
リズも目を見開く。
「前は絶対無理だったのに……」
ララは石版から手を離し、険しい顔で振り向いた。
「結界が消えてる」
場の空気が変わる。
以前ここにあった強力な防御魔法。
近づくだけで拒絶されるほどの術式。
それが跡形もなく消えていた。
悠真が呟く。
「自然に消えるもんなのか?」
ララは即座に首を横に振る。
「ありえない」
「こんな規模の結界が、何の痕跡もなく消えるなんて」
「誰かが解除したのよ」
沈黙。
レオンが腕を組む。
「つまり、取れるようにしたってことか」
「……そういうことになる」
ララの表情は晴れない。
「でも、それが一番おかしい」
悠真が聞く。
「なんでだ?」
ララは石版を見つめたまま言った。
「私の国アストリアにも石版が二枚ある」
「どちらも国家管理」
「厳重な結界で守られてる」
「誰も軽々しく触れられない」
そして視線を上げる。
「なのに、ここだけ都合よく解除されてる」
「まるで――」
リズがごくりと息を呑む。
「まるで?」
ララは低く言った。
「誰かが、持ち出されるのを待っていたみたいに」
悠真の背中に冷たい汗が流れた。
⸻
その時、主催者席から豪華な衣装の男が現れた。
この街の実質的支配者であり、大会主催者だった。
「約束通り」
「優勝者レオン・グラディウス殿に褒美を授けよう」
男は笑みを浮かべる。
「しかし本当にこれでよいのか?」
「金貨でも屋敷でも、もっと価値ある物があるぞ」
レオンは即答した。
「それでいい」
男は肩をすくめる。
「変わった男だ」
ララが鋭く尋ねる。
「この結界、誰が解いたの?」
男の表情が一瞬だけ止まる。
だがすぐに笑った。
「古い魔法だ」
「消えても不思議ではあるまい」
ララの目が細くなる。
信じていない顔だった。
⸻
護衛が石版を台座から下ろす。
レオンが受け取る。
ずしりと重い。
「……ただの石じゃねえな」
ララが頷く。
「強い魔力が染み込んでる」
悠真は石版を見つめた。
手に入った。
だが同時に、得体の知れない何かへ近づいた気もした。
⸻
黄金殿を出た後。
街を見下ろせる高台で、五人は足を止めた。
夕陽が街を赤く染める。
悠真が言う。
「これで三枚」
富士山。
東京タワー。
金閣寺。
少しずつ集まっていく。
だが、謎は増えるばかりだった。
リズがララを見る。
「これからどうするの?」
ララは迷わず答えた。
「アストリアへ来て」
「私の国なら石版についてもっと分かる」
悠真は空を見上げる。
「魔法の国……か」
レオンはあくびをした。
「決まりだな」
「飯がうまけりゃいい」
ララが呆れて笑う。
「本当にそればっかりね」
次の目的地。
魔法国家アストリア。
石版の真実へ、また一歩近づく。
その頃、黄金殿の中央広間。
誰もいなくなった台座の前に、黒い影が立っていた。
「……三枚目」
低い声。
そして影は、音もなく消えた。
第38話を読んでいただきありがとうございます。
今回は黄金殿の石版回収回……ですが、
本当のテーマは“違和感”でした。
以前この場所を訪れた時、石版は中央の台座にありながら、
・強力な結界で守られていた
・近づくことすら難しかった
・誰も触れられなかった
そんな存在でした。
それが今回は、何事もなく触れられる。
ここにララはすぐ気づきました。
つまり石版は、
偶然取れるようになったのではなく、
誰かが取れる状態にした可能性が高いということです。
この変化によって、石版は
“宝探しの報酬”
ではなく、
“誰かの意図が絡む危険な鍵”
として見え始めました。
悠真たちは三枚目を手に入れましたが、
同時に謎へ一歩踏み込んだとも言えます。
そして次の目的地は、魔法国家アストリア。
石版研究が進む国であり、ララの故郷でもあります。
ここから物語は、
街での成功編
↓
世界の真実へ迫る旅編
へ本格的に進んでいきます。
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