第40話 旅立ちの準備と、新たな力への備え
第40話です。
アストリアへ向かう前に、悠真たちは旅の準備を進めます。
街の発展計画。
人材育成。
装備とカードの強化。
そして、いつでも戻れる拠点作り。
次の舞台は魔法国家。
その前に、できることをすべて整える回です。
朝のグラード・マーケットは、いつにも増して活気に満ちていた。
露店から上がる湯気。
威勢のいい呼び声。
行き交う荷車。
この街は今日も動いている。
その中心で、悠真たちも次の一歩へ向けて動き始めていた。
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商業ギルドの会議室。
机の上には街周辺の地図、農地予定地、工場区画の資料が広げられている。
ガレス・ヴァンロードが腕を組みながら図面を見ていた。
「まず畑を優先する」
「食材が安定しなければ、何も始まりません」
悠真は頷く。
「同感です」
「店も増えてるし、仕入れだけじゃ限界が来る」
その横でユウジが資料を覗き込みながら言った。
「玉ねぎ、じゃがいも、小麦。この辺は最優先だな」
師匠も腕を組む。
「保存も利くし、応用も利く」
「最初に育てるにはいい」
ガレスが感心したように見る。
「頼もしい仲間ですね」
リズが笑う。
「この二人、働かせるとすごいよ」
ユウジと師匠は、悠真が頼れる存在として生み出した分身と協力者。
店の現場も知っている。
実務面では悠真以上に詳しい部分も多かった。
悠真は共有カードを取り出す。
淡く光る板状の魔道具。
これを通じて、離れた場所でも意思疎通ができる。
「俺が旅に出ても、これで状況確認できる」
「困った時はすぐ相談してくれ」
ガレスは力強く頷いた。
「現場判断はこちらで進めます」
「ですが、大きな決定はあなたにも確認します」
「共同経営ですから」
悠真は少し照れくさそうに笑う。
「共同経営って響き、まだ慣れないな」
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地球側との連携も続けていた。
足りない材料、調味料、工具、種や苗。
それらはリンクバッグを通じてユウイチが送ってくれる。
二つの収納鞄が内部空間で繋がる便利な魔道具だった。
ただし問題もある。
資金だ。
地球側で大量仕入れを続けるには、現金が必要になる。
今のところ、それは金の換金で賄っていた。
悠真は腕を組む。
「ここはまだ課題だな」
「ずっと金ってわけにもいかない」
師匠が言う。
「そのうち別の稼ぎ口を作るしかねえ」
ユウジも頷く。
「でも今は、回ってるうちに広げる時期だ」
ガレスが口を開く。
「利益はすでに出ています」
「ここからは人材育成です」
「使える人間を増やせば、街そのものが強くなる」
悠真もそこは同じ考えだった。
「利益の九割は事業に回す」
「雇用、畑、設備、拡大」
「俺は一割だけもらう」
リズが目を丸くする。
「少なくない?」
悠真は笑った。
「十分だよ」
「その一割で装備やカードを揃える」
「俺も強くならないと、旅についていけない」
レオンが壁にもたれながら笑う。
「やっとその気になったか」
⸻
午後。
悠真たちは市場の武具区画へ来ていた。
次の目的地は魔法国家アストリア。
戦い方も環境も変わる。
今の装備では心許ない。
革鎧の強化版。
耐魔加工された外套。
小型ナイフ。
携帯用の保存食。
そしてスキルカード。
身体強化。
短時間加速。
簡易バリア。
索敵。
悠真は一枚ずつ真剣に見ていく。
「高いな……」
ララが横から言う。
「良い物ほど命を守るわ」
「ここはケチらない方がいい」
悠真は苦笑した。
「もう金銭感覚が追いつかん」
レオンは大剣の手入れ用品だけ買っていた。
「武器はこれで足りる」
リズは軽装を新調しながら言う。
「私は動きやすさ重視かな」
ララは魔法触媒用の小袋を選んでいた。
その姿は、いかにも魔法使いらしかった。
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その帰り道。
ララがふと思い出したように言う。
「アストリアでは魔法石が通貨代わりに近い場面もあるわ」
「魔法カードを使うにも必要になる」
悠真が聞き返す。
「魔法カード?」
「ええ」
ララは頷く。
「魔力を持たない人でも、魔法石を消費して魔法を使える道具」
悠真の目が変わる。
「……それ、俺でも使えるのか?」
「理論上はね」
ララは少し笑った。
「ただし高価よ」
悠真は拳を握る。
魔法が使えない。
そう思っていた自分にも可能性がある。
それだけで少し胸が熱くなった。
レオンが笑う。
「浮かれるのは早えぞ」
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夕方。
街外れの広場。
ここには、転移カード用の魔法陣が描ける十分な空間があった。
悠真たちは地面を整え、正式な転移地点としてグラード・マーケットを登録する作業をしていた。
ララが術式を確認し、悠真がカードを起動する。
光の線が地面に走る。
円陣が完成した。
「これでよし」
ララが息を吐く。
「一度アストリアへ行けば、ここへ戻れる」
悠真は安心したように頷く。
「拠点は残しておきたいからな」
ガレスも見守っていた。
「戻る場所がある者は強い」
その言葉は重みがあった。
⸻
夜。
店の屋上。
明日の出発を前に、四人は街を見下ろしていた。
下では灯りが揺れ、人々の声が聞こえる。
ここに来た時は何もなかった。
だが今は違う。
店がある。
仲間がいる。
任せられる人たちもいる。
悠真は深く息を吸った。
「……行けるな」
リズが笑う。
「うん」
レオンは短く言う。
「次は魔法の国だ」
ララは少しだけ真剣な顔になる。
「アストリアは綺麗な国よ」
「でも、優しい国とは限らない」
風が吹いた。
新しい旅の匂いがした。
悠真は空を見上げる。
次の舞台は、魔法国家アストリア。
そこで待つものが、希望か脅威か。
まだ誰にも分からなかった。
第40話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘回ではなく、
“次の章へ進むための準備回”でした。
ですが、この手の回は物語全体ではかなり重要です。
まず悠真が、旅に出ても街が回り続ける仕組みを作り始めました。
・畑の開発
・工場区画の整備
・雇用の拡大
・現場責任者ガレスへの委任
これは単なる商売ではなく、
国作りの第一歩でもあります。
悠真は自分で全部やるタイプではなく、
人を見て任せる
仕組みを作る
先を読む
そういう主人公です。
ここが戦闘特化型主人公と違う魅力になります。
また、利益の九割を再投資し、
一割だけ自分の強化へ回すという判断も悠真らしい部分です。
欲に流されず、未来へ使う。
かなり経営者向きです。
そして後半では、アストリア編の新要素も出しました。
・魔法石
・魔法カード
・魔力がなくても使える可能性
つまり悠真にも、これから魔法戦の選択肢が生まれます。
ここは今後かなり面白くなる部分です。
さらにグラード・マーケットを正式な転移拠点として登録したことで、
旅へ出ても帰れる場所がある
という安心感も生まれました。
これは物語的にも大きいです。
次回はいよいよ出発。
魔法国家アストリア編、本格始動となります。
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