第30話 広がる店と、次の舞台
第30話です。
今回は、店舗拡張が進む中で見えてきた“現実的な課題”と、
それを乗り越えながら実際に店が広がっていく様子を描いています。
そして後半では、新たな展開へと繋がる動きも――。
朝。
悠真はリンクバッグの中身を確認しながら、小さく息を吐いた。
「……やっぱりこのままだと、きついな」
リズが横から覗き込む。
「何が?」
「仕入れ」
悠真は短く答える。
「今まではよかったけど」
「でもこれからは違う」
今回の契約で、関わる店は一気に増えた。
自分たちの店を含めて、合計十一店舗。
そのすべてに材料を供給するとなると、話は別だ。
「金はある」
悠真は続ける。
「でも問題はそこじゃない」
レオンが腕を組む。
「ユウイチか」
「そう」
悠真は頷く。
地球側で動けるのはユウイチ一人。
今までは問題なかった。
だが、大量の食材を仕入れて運ぶとなると話は違う。
「一人でやる量じゃない」
リズも少し考える。
「確かに……」
「しかも毎回換金して、買いに行って、仕分けしてってなると……」
「時間もかかるね」
悠真はリンクバッグを軽く叩く。
「だから、減らせるところは減したい」
「異世界で手に入るものは、こっちで揃えるようにする」
レオンが頷く。
「卵と小麦粉はあるし」
「肉も、ある程度はなんとかなる」
「全部地球に頼る必要はないってことか」
「そういうこと」
悠真は少しだけ前を見る。
「そのうち、畑とか加工する工場なんかも必要になるな」
「自分たちで作る方が早い」
リズが少し驚く。
「もうそこまで考えてるの?」
悠真は軽く笑う。
「今じゃないけどな」
「でも、絶対必要になる」
短い沈黙。
でも、誰も否定はしない。
現実的だった。
「とりあえず今は」
悠真が言う。
「できることやる」
リンクバッグに金を入れる。
メモも一緒に。
必要な食材を書いた紙。
「ユウイチ、頼む」
共有カードで短く伝える。
数分後。
袋が、静かに膨らむ。
「……来た」
リズが目を見開く。
中から取り出す。
肉。
パン。
調味料
などなど。
「すご……」
レオンが笑う。
「完全に物流完成だな」
悠真は小さく頷く。
「これで回せる」
⸻
マラーの店。
すでに準備は整っていた。
店内は少し狭いが、動きやすい配置に変えてある。
中央には鉄板。
地球から持ってきた簡易的なものだが、十分使える。
「これでいけるな」
マラーが腕を組む。
悠真は頷く。
「いけます」
「今日はシンプルに」
「ハンバーガーとポテト、あと飲み物」
「飲み物?」
「コーラです」
「……それもうまいのか?」
「飲めば分かります」
マラーが少しだけ笑う。
「楽しみだね」
⸻
開店。
扉を開けた瞬間。
すでに人が並んでいた。
「マジかよ……」
マラーが小さく呟く。
「噂、広がってるね」
リズが言う。
悠真は冷静に見る。
「想定内です」
そう言いながらも、少しだけ緊張していた。
「いくぞ」
「おう」
⸻
客が一気に入る。
注文が飛ぶ。
「ハンバーガー三つ!」
「こっちも!」
「飲み物も!」
マラーが動く。
最初は少しぎこちない。
だが。
「……こうか」
徐々に慣れていく。
悠真が横で指示を出す。
「火はもう少し弱く」
「パンは軽く焼く」
「肉は潰しすぎない」
細かく、丁寧に。
⸻
一人目の客が食べる。
止まる。
「……うまっ」
その一言で、店の空気が変わる。
「よし、いい感じ」
悠真が小さく呟く。
そこからは早かった。
注文が止まらない。
回転が上がる。
マラーの動きも完全に安定してくる。
「……いけるかも」
マラーが言う。
その顔は、自信に変わっていた。
⸻
夕方。
ようやく落ち着く。
「……終わった」
マラーが息を吐く。
疲れている。
でも、顔は明るい。
「すごかったね」
リズが笑う。
「最初から満席だ」
レオンも言う。
悠真は静かに頷く。
「成功です」
マラーが悠真を見る。
「……ありがとう」
素直な言葉だった。
悠真は少しだけ照れる。
「いえ」
「これからが本番です」
マラーは笑う。
「分かってるよ」
⸻
店を出る。
外の空気が少し涼しい。
悠真は振り返る。
明かりのついた店。
人の声。
活気。
「……増えてきたな」
リズが言う。
「うん」
悠真も頷く。
「いい感じ」
⸻
その後も、同じことを繰り返した。
一店舗ずつ。
順番に。
教えて、見せて、任せる。
⸻
気づけば。
一週間が経っていた。
⸻
「……全部終わったな」
レオンが言う。
「十店舗」
リズが少し伸びをする。
「さすがに疲れた……」
悠真も同じだった。
だが。
達成感がある。
⸻
そのとき。
レオンが軽く笑う。
「さて」
「次は俺の番だな」
悠真が顔を上げる。
「何が?」
⸻
「闘技場」
レオンが言う。
「本戦の日だ」
⸻
一瞬、空気が変わる。
⸻
街の喧騒とは違う、別の緊張。
⸻
悠真は少しだけ笑う。
「……いよいよか」
⸻
舞台は変わる。
⸻
戦いが、始まる。
第30話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、ビジネスが拡大することで見えてくる問題を描きました。
特に大きいのは「仕入れの限界」です。
これまでは成立していた方法も、
店舗が増えたことで一気に負担が増え、
ユウイチ一人では対応が難しくなってきました。
そこで
・異世界で調達できるものは現地で揃える
・リンクバッグを使った効率化
といった形で、現実的な解決に繋げています。
また、マラーの店の成功によって、
このビジネスモデルが“再現性のあるもの”であることも示されました。
ここで一気に
「一店舗の成功」から「複数店舗の展開」へと進んでいます。
そしてラスト。
ついにレオンの闘技場、本戦へ。
これまでの商売パートとは違う、
“戦い”のフェーズが再び動き出します。
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