第29話 ユウジ誕生と、繋がる仕入れ
第29話です。
今回は、物語の流れが一気に“拡張フェーズ”へ入る回です。
新たに悠真のコピー「ユウジ」が誕生し、
店の運営体制が安定していきます。
さらに、これからの展開に大きく関わる
新しい魔道具も登場します。
朝。
まだ店を開ける前の時間。
厨房には、いつもより多い人影があった。
悠真は静かにカードを手に取る。
「……よしやるか」
小さく呟く。
リズが少し緊張した顔で見る。
「いよいよだね」
レオンは腕を組んだまま軽く笑う。
「これでだいぶ楽になるだろう」
悠真は頷く。
コピーカードを発動する。
ソウルコアが淡く光る。
その光が、ゆっくりと形を作っていく。
輪郭ができ、肉体が構成される。
そして。
もう一人の“悠真”がそこに立っていた。
リズが小さく息を呑む。
「……これが」
コピーの悠真は周囲を見渡す。
「……なるほど」
声も、表情も、仕草も同じだった。
悠真が確認する。
「記憶は?」
「全部ある」
コピーが即答する。
「今の状況も、店の流れも」
問題はなさそうだ。
悠真は少し安心する。
「じゃあ名前は……ユウジでいいか」
コピーが軽く頷く。
「了解」
自然な受け答えだった。
違和感がない。
悠真はすぐに指示を出す。
「ユウジと師匠で、店は任せる」
「仕込みから営業まで頼む」
ユウジは即答する。
「問題ない」
師匠も短く言う。
「回すだけなら任せろ」
リズがほっとしたように息を吐く。
「これで外に動けるね」
悠真は頷く。
「次は契約した店だ」
今回協力することになったのは十店舗。
順番はくじ引きで決めた。
公平に。
「最初はマラーの店だな」
リズが紙を見ながら言う。
「あの人か」
レオンが思い出す。
昨日、真っ先に手を挙げた女性だ。
三人はその店へ向かう。
通りを抜け、少し奥へ。
そこに小さな店舗があった。
マラーが腕を組んで待っている。
「来たね」
「で、何からやる?」
やる気は十分だ。
悠真は答える。
「ハンバーガーでいきます」
「一番分かりやすいし、売れる」
マラーはすぐに頷く。
「いいね」
準備に入る。
だがすぐに問題が出る。
「……材料、足りないな」
悠真が言う。
ある程度はある。
だが足りない。
レオンが言う。
「その都度取りに行くか?」
悠真は少し考える。
そして首を振る。
「……それは無理だな」
行き来が多すぎる。
時間もかかる。
今はまだいい。
だが店が増えれば破綻する。
「効率が悪い」
ぽつりと呟く。
レオンが少しだけ笑う。
「ちょうどいいのがある」
「え?」
「魔道具だ」
次の日。
三人は魔道具屋に来ていた。
店内には様々な道具が並んでいる。
見たことのないものばかりだ。
レオンが一つを指さす。
「これだ」
そこにあったのは、二つの収納鞄。
見た目は普通。
だが違う。
店主が説明する。
「この二つは中で繋がってる」
リズが聞く。
「繋がってる?」
「異空間でな」
「片方に入れたものは、もう片方から取り出せる」
一瞬、言葉を失う。
リズが呟く。
「……それ、すごくない?」
悠真も同じことを思っていた。
完全に使える。
レオンが聞く。
「名前は?」
店主が答える。
「《リンクバッグ》だ」
「分かりやすいな」
レオンが笑う。
「値段は?」
「十万マニー」
少し高い。
だが悠真は迷わなかった。
「買います」
リズが少し驚く。
「いいの?」
「先行投資だ」
悠真が答える。
「これがあればかなりの効率アップだ」
二つの鞄を受け取る。
レオンが言う。
「俺が行く」
「ユウイチに渡してくる」
「頼む」
レオンは転移で消えた。
しばらくして戻ってくる。
「渡してきた」
悠真は頷く。
共有カードを取り出す。
意識を繋ぐ。
「ユウイチ、聞こえるか?」
『ああ』
短い応答。
「今から試すから」
「そっちの鞄を開けてくれ」
悠真は自分の鞄に物を入れる。
買ってあった金塊。
鞄に入れる。
少し待つ。
そして。
『……出てきた』
ユウイチの声。
成功だった。
リズが思わず言う。
「すご……」
レオンが笑う。
「これで一気に楽になるな」
悠真は小さく息を吐く。
「これでいける」
もう無駄な移動は必要ない。
仕入れが繋がった。
悠真は鞄を見つめる。
「……一気に変わるな」
その目は、次を見ていた。
流れは、もう止まらない。
第29話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きく二つの進展があります。
一つ目は「ユウジの誕生」です。
悠真自身のコピーを作ることで、
店の運営を任せることが可能になりました。
これにより、
悠真は外へ動く役、
ユウジは店を回す役、
という明確な役割分担が成立します。
二つ目は「仕入れの仕組み化」です。
これまで課題だった“移動の手間”を解決するために、
異空間で繋がった収納鞄を導入しました。
これにより、
地球と異世界を行き来せずに仕入れができるようになり、
効率が大きく向上します。
いわば「物流の完成」です。
今回の話で、
・人手
・運営
・仕入れ
この三つの基盤が整いました。
ここからは
街全体への影響や、他店舗との関係、
そして新たな問題も出てくるはずです。
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