第3話 はじめての金の重さ
第3話です。
今回は、主人公が初めて“稼いだ金”を手にし、
この世界で生きていくための現実を体験する回になります。
拾ったものが金に変わる。
金があれば食べられる。
そして、金が減っていく――
シンプルですが、この物語の核になる部分です。
街の門をくぐった瞬間、空気が変わった。
人の声、金属の音、焼ける匂い。
神代悠真は思わず足を止める。
「……すげえ」
想像していたよりも、ずっと活気がある。
行き交う人のほとんどが武器を持っている。
笑っているやつもいれば、睨み合っているやつもいる。
金と危険が混ざった空気。
そんな感じだった。
「止まってると邪魔」
リズの声で現実に戻る。
「あ、悪い」
慌てて後を追う。
しばらく歩き、大きな建物の前で止まった。
「ここ」
ギルドだった。
中に入ると、一気に騒がしさが増す。
酒の匂いと汗の匂いが混ざっている。
だが、その奥にあるカウンターだけは別だった。
整然としている。
「並んで」
リズが言う。
列に並びながら、悠真は腰の袋を軽く触る。
中には、今日集めた魔光草。
あのあと、かなり集めた。
場所の傾向が分かってからは早かった。
最初の一本。
次の二本。
そこからは連続だった。
気づけば、袋はそれなりに膨らんでいた。
さらに途中で、小さな魔物の死骸も見つけた。
リズにやり方を聞きながら、初めて自分で素材を取った。
上手くはいかなかったが、それでもいくつかは回収できた。
「……いけるか」
小さく呟く。
やがて順番が来た。
カウンターの向こうには、一人の女性。
明るい栗色の髪。
落ち着いた表情。
「いらっしゃいませ」
丁寧な声。
リズが先に袋を出す。
「換金」
「かしこまりました」
女性――ミレイナは中身を確認する。
手際がいい。
一つ一つを見て、迷いなく分けていく。
「こちらで……百二十マニーになります」
カチャ、と硬貨が置かれる。
リズはそれを受け取る。
「まあまあかな」
軽く言う。
その横で、悠真は息を飲んでいた。
百二十。
それがどれくらいかは分からない。
だが、さっきの自分の数倍はある。
「次の方」
ミレイナの声。
悠真は前に出る。
「これ、お願いできるか」
袋を置く。
ミレイナは中を確認する。
一瞬、目が止まる。
「……量、ありますね」
「集めた」
短く答える。
ミレイナは一つずつ丁寧に見ていく。
魔光草。
状態を確認。
次に、粗い切り方の魔物素材。
少しだけ眉が動く。
「初めてですか」
「……分かるのか」
「ええ」
それ以上は言わない。
だが、動きが少しだけ丁寧になった。
すべて確認し終え、顔を上げる。
「合計で……二百三十マニーになります」
「……二百三十」
思わず声が漏れる。
さっきより明らかに多い。
ただ拾って、少しやっただけで。
「問題なければ、こちらで」
「……頼む」
カチャ、と音が鳴る。
目の前に並ぶ硬貨。
さっきとは違う。
明らかに量がある。
悠真はそれを手に取る。
重い。
さっきより、はっきりと。
金の重さ。
「……これで」
自然と呟く。
食える。
そんな感覚があった。
「初めてにしては良い方ですよ」
ミレイナが言う。
「そうなのか」
「ええ。大抵はもっと少ないです」
少しだけ微笑む。
「ただ」
一拍置く。
「無理はしないでください。慣れないうちは事故も多いので」
事務的だが、完全に冷たくはない。
「……分かった」
短く答える。
金をしまい、カウンターを離れる。
リズが待っていた。
「いくら?」
「二百三十」
リズが一瞬だけ目を細める。
「……やるじゃん」
軽く笑う。
「で?」
「……腹減った」
正直な感想だった。
リズは吹き出す。
「それな」
顎で通りを示す。
「飯、行く?」
「行く」
即答だった。
店に入る。
木のテーブルと椅子。
そこそこ人がいる。
適当に座ると、すぐに料理が運ばれてきた。
肉と、スープのようなもの。
匂いは悪くない。
「いただきます」
一口食べる。
その瞬間。
「……」
固まる。
味が、薄い。
いや、薄いというより。
雑だ。
肉は硬い。
スープは塩気がバラバラ。
「……なんだこれ」
思わず呟く。
リズが普通に食べている。
「何って飯」
「いや、これ……」
言葉が出ない。
まずい。
はっきりと。
リズは肩をすくめる。
「こんなもんだよ」
「マジか」
信じられない。
「うまいの食いたいなら、それなりに払うしかない」
現実的な答え。
悠真はもう一口食べる。
やっぱりまずい。
だが、腹は減っている。
無言で食べる。
食べ終える頃には、慣れていた。
「……いくらだこれ」
「だいたい二十くらい」
思ったより高い。
だが、払えない額じゃない。
店を出る。
空が少し暗くなってきていた。
「宿は?」
リズが聞く。
「……いる」
当然だ。
外で寝るのは無理だと分かっている。
「じゃあ安いとこ案内する」
少し歩き、古めの建物に入る。
「一泊、六十」
受付の男が言う。
悠真は少しだけ考える。
二百三十。
そこから引く。
残りを頭の中で計算する。
「……頼む」
金を出す。
鍵を受け取る。
部屋に入る。
狭い。
ベッドと机だけ。
だが。
「……はあ」
ベッドに倒れ込む。
柔らかい。
それだけで、十分だった。
ポケットから金を取り出す。
残りの硬貨。
確実に減っている。
だが。
ゼロじゃない。
「……いけるな」
小さく呟く。
この世界で。
金を稼げば、生きていける。
そして。
稼げば、もっと先に行ける。
神代悠真は、静かに目を閉じた。
第3話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、
・初めてのまとまった収入
・食事と宿での出費
を通して、「金の重さ」を描いています。
この世界では、
持っているかどうかで出来ることが大きく変わります。
次回は、いよいよ
“金を使って強くなる”段階に入っていきます。
スキルや装備といった、この世界ならではの強さが登場します。
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