第2話 はじめての金
第2話です。
ここから、この物語の核である
「どうやって金を稼ぐか」に踏み込んでいきます。
戦って強くなるのではなく、
稼ぐことで生き残る――
そんな世界で、主人公が最初に見つけた答えを描いています。
リズとの関係も、少しずつ動き始めます。
草を踏む音だけが、やけに大きく響いていた。
神代悠真は、数歩先を歩くリズの背中を見失わないように必死でついていく。
さっきの魔物の死体は、もう視界にない。
だが、あの瞬間の光景はまだ頭に残っていた。
一瞬だった。
剣が振られて、次の瞬間には終わっていた。
「……あれ、普通なのか」
思わず口に出る。
リズは振り返らないまま答えた。
「弱いやつだったからね」
軽い調子だった。
「さっきのでも普通に人は死ぬけど」
付け足すように言う。
軽くない。
悠真は黙るしかなかった。
少し歩いたところで、リズが足を止める。
しゃがみ込み、地面を指で払う。
「ほら」
そこには、さっきの魔物の死体があった。
回り込んでいたらしい。
リズは迷いなく短剣を取り出し、魔物の皮を裂く。
血の匂いが広がる。
悠真は顔をしかめた。
「……何してるんだ」
「何って」
当たり前のように言う。
「金になるもの回収してるだけ」
手際がいい。
皮を剥ぎ、牙を抜き、小さな袋に入れていく。
「全部売れる?」
「状態次第」
淡々と答えながら、作業を続ける。
「肉は安いけど、牙と皮はそれなり」
「……それで金になるのか」
「なる」
短く言い切る。
リズは作業を終えると、袋を軽く振った。
カチャ、と乾いた音。
「これで数十マニーくらい」
悠真はその袋を見る。
それが“金”に変わるらしい。
「……思ったより少ないな」
正直な感想だった。
リズは鼻で笑う。
「一匹でそれなら十分」
立ち上がり、袋を腰に下げる。
「それに」
ちらっと悠真を見る。
「これ、あんた一人じゃ無理でしょ」
ぐうの音も出ない。
確かに、あの魔物を前にしたら何もできなかった。
「……じゃあ俺、どうすればいい」
初めて、はっきりと聞いた。
リズは少し考えてから、顎で地面を示した。
「探してみな」
「何を」
「金になるもの」
そう言って歩き出す。
「全部教えても意味ないから」
突き放すような言い方。
だが、放置するわけでもない。
「見つけたら教えてあげる」
悠真は、その場に残された。
周囲を見る。
草、石、倒木。
どれもただの風景にしか見えない。
「……分かるかよ」
小さく呟く。
だが、やるしかない。
しゃがみ込み、地面をよく見る。
石の隙間、草の根元。
よく分からないが、とにかく目についたものを拾っていく。
数分。
何も分からないまま、時間だけが過ぎる。
「……はあ」
ため息が出る。
そのとき。
少し離れた場所に、違和感があった。
石の陰。
そこだけ、妙に色が違う。
近づく。
細い草のようなものが生えている。
だが、先端がわずかに青く光っている。
「……なんだこれ」
指で触れる。
冷たい。
ただの草じゃない。
一本、引き抜く。
根元が少し太い。
「おい」
声をかける。
リズが振り返る。
「これ」
草を見せる。
リズは近づいてきて、それを見た。
一瞬だけ、目が変わる。
「……へえ」
少し驚いたような声。
「それ、拾ったの?」
「そこにあった」
指差す。
リズは草を受け取り、軽く観察する。
「魔光草だね」
「……魔光草?」
「まあまあ使うやつ」
そう言って、悠真に返す。
「乾かせば薬の材料になる」
悠真はそれを見る。
さっきまでただの草にしか見えなかったもの。
「……金になる?」
聞くと、リズは少し考えた。
「数本で、さっきの牙一個くらいかな」
悠真の中で、何かが繋がる。
魔物を倒して得たものと、同じくらいの価値。
それが、地面に普通に生えている。
「……これ、いっぱい取れば」
「それなりになる」
リズが答える。
「ただし、見つけられればね」
試すような目。
悠真は、周囲を見た。
さっきまでただの風景だったものが、少しだけ違って見える。
色の違い。
光り方。
配置。
「……分かるかもしれない」
小さく呟く。
しゃがみ込み、もう一度探す。
さっき見つけた場所と似た条件を探す。
石の陰。
日が当たりにくい場所。
しばらくして。
「あった」
また見つける。
同じような草。
引き抜く。
さらにもう一本。
その隣にも。
「……いける」
気づいた。
完全じゃないが、法則がある。
適当に探すんじゃない。
“当たり”を探す。
悠真は夢中で集め始めた。
時間が過ぎる。
気づけば、手の中には数本の魔光草。
「……こんなもんか」
立ち上がる。
リズのところへ戻る。
「これ」
差し出す。
リズはそれを見て、軽く笑った。
「初めてにしては上出来」
そう言って、一本を指でつまむ。
「これ全部で……」
少し考える。
「まあ、さっきのやつと同じくらいにはなるかな」
つまり。
あの魔物一匹と同じくらい。
悠真は手の中の草を見る。
戦ってない。
危険もほぼなかった。
それでも、同じ価値。
「……なるほどな」
自然と口に出る。
リズがちらっと見る。
「何が?」
悠真は少しだけ笑った。
「やり方次第ってことだろ」
力がなくても。
やり方で、金は作れる。
リズは一瞬だけ黙って、それから肩をすくめた。
「まあね」
短く答える。
「でも、それで生きていけるかは別」
現実的な言葉。
だが、それでも。
悠真の中には、はっきりとした感覚があった。
いける。
この世界でも。
「……まずは」
手の中の魔光草を握る。
「これ、売るか」
そう言うと、リズはニヤッと笑った。
「やっとそれっぽくなってきたね」
そして、歩き出す。
「じゃあ行くよ」
「どこに」
振り返らずに答える。
「換金できる場所」
その背中を追いながら。
神代悠真は、初めてはっきりと理解した。
この世界は。
稼げるやつが、生き残る。
そして、自分は。
そのやり方を、見つけ始めている。
第2話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、戦わずに“価値を見つけて稼ぐ”という
主人公の強みが少し見えた回になります。
次回はいよいよ、
手に入れた素材を実際に売りに行く展開です。
この世界での「金の重さ」や、
持っているかどうかで何が変わるのかを描いていきます。
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引き続きよろしくお願いします。




