第26話 はじめての客
第26話です。
いよいよ「Lumiere Kitchen」開店。
初めてのお客さん、初めての反応――
ここから物語が大きく動き始めます。
朝。
店の中は静かだった。
まだ客はいない。
火もついていない。
けれど。
空気だけは、少し張り詰めている。
「……いよいよだな」
悠真が小さく呟く。
リズが頷く。
「うん」
レオンは腕を組んだまま、店内を見渡している。
「まあ、なるようになるだろ」
その軽さが、少しだけ救いになる。
⸻
厨房に立つ。
包丁を手に取る。
昨日、おじさんが仕込んでくれた食材。
それが並んでいる。
「……すげえよな」
改めて思う。
ここまで準備されてる状態からスタートできるのは、かなり恵まれている。
⸻
「とりあえず」
悠真が言う。
「今日は和食中心でいく」
リズが頷く。
「焼き魚、味噌汁、玉子焼き……」
「そのへんだな」
「洋食は?」
レオンが聞く。
「様子見ながら出す」
「いきなり全部やると回らない」
「いい判断」
⸻
準備が進む。
火を入れる。
香りが立ち始める。
焼き魚の匂い。
味噌の香り。
出汁の匂い。
それがゆっくりと店の外に流れていく。
⸻
「……なんか、いい匂いしてきたな」
レオンが言う。
「外までいってると思う」
リズも頷く。
⸻
店の外。
通り。
少しずつ人が立ち止まり始めていた。
「……なんだこの匂い」
「知らねえな」
「でもうまそうだ」
ざわつき。
興味。
⸻
「……来そうだな」
悠真が言う。
少しだけ緊張する。
⸻
そして。
「……いいか?」
最初の客が入ってくる。
中年の男。
「どうぞ!」
悠真が少し慌てながらも声を出す。
⸻
料理を出す。
焼き魚。
味噌汁。
玉子焼き。
シンプル。
でも。
丁寧に作る。
⸻
男が一口食べる。
止まる。
「……なんだこれ」
悠真の心臓が少し跳ねる。
次の瞬間。
「うまっ……」
その一言。
⸻
空気が変わる。
「兄ちゃん、これすげえな」
「こんな味、初めてだ」
悠真は少しだけ力が抜ける。
「……ありがとうございます」
⸻
それを見ていた外の人間が入ってくる。
「俺も頼む」
「こっちも」
一気に増える。
⸻
「リズ、手伝って!」
「うん!」
「レオン、運ぶの頼む!」
「了解」
⸻
店が一気に動き出す。
焼く。
盛る。
出す。
洗う。
繰り返し。
⸻
「次まだか!?」
「ちょっと待ってください!」
悠真が叫ぶ。
完全に余裕はない。
⸻
「これもう一つ!」
「はい!」
リズが運ぶ。
レオンが皿を片付ける。
三人で回す。
ギリギリ。
⸻
「……すげえな」
レオンが呟く。
「完全に当たってる」
「だな……!」
悠真も答える余裕すらない。
⸻
時間が流れる。
昼を過ぎる。
それでも客は途切れない。
むしろ増えている。
「さっきの店、やばいぞ」
「マジでうまい」
口コミが広がる。
どんどん。
⸻
「……待たせすぎだな」
悠真が小さく言う。
「しょうがないよ」
リズが言う。
「人が多すぎる」
⸻
それでも。
手は止めない。
止められない。
⸻
夕方。
ようやく人が落ち着いた。
⸻
「……終わった……」
悠真がその場に座り込む。
全身が重い。
腕も足も、もう動きたくない。
⸻
「……何食出したんだ?」
レオンが言う。
悠真はぼんやり答える。
「……200は超えてると思う」
「やばいな」
リズも座り込む。
「こんなの毎日無理だよ……」
⸻
少しの沈黙。
静かな店内。
⸻
悠真がぽつりと言う。
「……でもさ」
二人を見る。
「いけるよな」
レオンが笑う。
「完全にいける」
リズも頷く。
「うん、絶対続く」
⸻
悠真は少しだけ笑う。
「……だよな」
⸻
そして。
少し考える。
今日の流れ。
問題点。
一番の問題。
⸻
「……人手だな」
「だね」
「回ってない」
レオンも頷く。
「確実に足りない」
⸻
悠真は視線を落とす。
そして。
ふと思い出す。
「……コピー」
小さく呟く。
⸻
「ん?」
リズが聞く。
悠真は顔を上げる。
「コピーカードあるよな」
「ああ」
「……おじさん、コピーできないかな」
一瞬、静かになる。
⸻
レオンが少し笑う。
「発想は面白いな」
リズも考える。
「できたら、めちゃくちゃ楽になるね」
⸻
悠真は言う。
「材料もある」
「カードもある」
「……試す価値あると思う」
⸻
少しの間。
そして。
レオンが言う。
「やるか」
リズも頷く。
「うん」
⸻
悠真は二人を見る。
「頼んでいい?」
少しだけ申し訳なさそうに。
「俺、仕込みやらないといけないから」
⸻
レオンが軽く手を振る。
「任せろ」
リズも笑う。
「いってくる」
⸻
悠真は一人、店に残る。
静かな厨房。
さっきまでの喧騒が嘘みたいだ。
⸻
「……忙しくなるな」
小さく呟く。
でも。
その顔は、少しだけ楽しそうだった。
第26話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、ついに食堂の初営業回でした。
・初めてのお客さん
・初めての「うまい」という評価
・そして一気に広がる口コミ
この世界では当たり前ではない“美味しさ”が、
どれだけ強い価値を持つのかを描いています。
一方で、問題もはっきりしました。
それが「人手不足」。
売れることは分かった。
でも、このままでは回らない。
そこで出てきたのが、コピーカードという発想です。
ここから
・効率化
・戦力拡張
・新しい戦い方
に繋がっていきます。
今回の話は、いわば“成功と課題の回”。
次回はその課題をどう解決するのか――
物語がさらに一歩進みます。
よろしければブックマークや評価をいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




