第27話 増える戦力と、新しいやり方
第27話です。
今回は、人手不足という問題に対しての解決編です。
リズとレオンが動き、
コピーカードという手段で戦力を増やす展開になります。
そして後半では、店を続けるための“新しいやり方”にも踏み込んでいきます。
転移カードで廃墟に着く。
「こっちの一時間が、向こうじゃ一日だ」
「ちょっとでも早い方がいい」
その言葉に、リズも真剣な顔で頷いた。
昨日の店の忙しさを思い出せば、のんびりしている場合ではない。
あれを三人で回し続けるのは無理がある。
今日は休みにしたとはいえ、明日以降も同じ状態が続けば、せっかく掴んだ流れを手放すことになってしまう。
「間に合うかな」
「間に合わせるしかない」
レオンはそう言って、穴の真下で飛行カードを取り出した。
淡い光が足元に広がる。
「先に行く」
「うん」
二人は順に上昇し、穴の奥へと消えていった。
天井裏に出ると、薄暗い空間の奥から物音がした。
「……誰!?」
ユウイチだった。
さすがに予想外だったのだろう。驚いた顔でこちらを見ている。
「俺だよ、俺」
レオンが小さく手を上げる。
「びっくりするだろ、普通……」
ユウイチが眉を寄せる。
「急すぎない?」
「ごめん」
リズがすぐに謝った。
「でも時間ないの」
「説明してよ」
ユウイチはそう言いながら、すでに立ち上がっている。
三人はそのまま天井裏から降り、足早に家の外へ向かった。
歩きながら、リズが事情を説明する。
「昨日、お店すごかったんだ」
「……そうなんだ」
ユウイチ。
共有カードは使っていない。だから細かい様子までは知らないが、悠真の様子や、向こうで起きていることが大変なのは何となく想像できた。
「忙しすぎて、三人じゃ回らなかった」
「それで、おじさんをコピーするってことか」
「そう」
リズが答えると、ユウイチは少しだけ考えてから息を吐いた。
「確かに、それが一番早いか」
「でしょ?」
「まあ、理屈は分かる」
レオンが横から言う。
「あとはおじさんを説得できるかだね」
その言葉に、三人とも少しだけ苦笑した。
店に着くと、ちょうどおじさんが仕込みをしているところだった。
包丁の音が止まり、こちらを見る。
「……なんだ、お前ら」
少し驚いたような顔。
「こんな時間に揃って」
ユウイチが一歩前に出る。
「ちょっと、お願いがあって」
おじさんは表情を変えずに、黙って続きを待った。
レオンが口を開く。
「コピーカードで、あんたをもう一人作りたい」
数秒、沈黙が落ちた。
「……は?」
おじさんの返事は、まあ当然だった。
「いや、ちょっと待て」
「どういうことだそれ」
ユウイチが昨日の店の状況を説明する。
客の数。
料理の評判。
回しきれなかったこと。
このままだとせっかくの流れを逃すことになること。
おじさんは腕を組み、何も言わずに聞いていた。
話が終わったあと、しばらく考える。
「……気分のいい話じゃねえな」
ぽつりと漏れた本音。
ユウイチもそれは分かる。
自分をコピーするなんて、普通なら嫌に決まっている。
「でも」
ユウイチは少しだけ頭を下げる。
「今の俺たちじゃ、あの店を回しきれない」
「力、貸してほしい」
おじさんは目を細めた。
その顔は厳しいが、怒っているわけではない。
「お前、そういう言い方するようになったな」
「……そう?」
「前よりちゃんとしてる」
少しだけ空気が緩む。
それから、おじさんは長く息を吐いた。
「まあ、俺もそんな何度も向こうに行けるわけじゃねえしな」
「役に立つなら、いいか」
「ありがとうございます」
ユウイチがすぐに頭を下げる。
「やるなら早くしろ」
「はい」
コピーカードを取り出す。
ソウルコアを置く。
淡い光が集まり、形を作っていく。
リズもレオンも、さすがに少し緊張した顔で見ていた。
そして。
もう一人のおじさんが、そこに立っていた。
「……おお」
レオンが小さく声を漏らす。
リズも目を丸くした。
「ほんとに……」
コピーの方は周囲を見回し、自分の手を見て、軽く握った。
「……なるほどな」
声も同じ。
立ち方も同じ。
表情も同じだった。
「記憶もある」
「こりゃすげえな」
完全にそのままだった。
ユウイチは少しだけ安心したように息を吐いた。
「じゃあ、行くか」
レオンが言う。
おじさん本人は軽く手を振る。
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
ユウイチはもう一度頭を下げた。
それから4人は店を出て、急いで天井裏へ戻った。
ユウイチはそこに残る。
地球ではユウイチが必要だ。
向こうに行くのは、リズ、レオン、そしておじさんのコピー。
「行ってくる」
レオンが言う。
「お願い」
ユウイチが返す。
短いやり取りのあと、三人は穴から異世界へ。
転移カードでグラード・マーケットへ。
店の前。
悠真は、落ち着かない様子で外に立っていた。
何度も通りの先を見ては、小さく息を吐いている。
「……来た」
レオンたちの姿が見えた瞬間、顔が少し明るくなる。
「遅くなった」
レオンが言う。
「おじさん、連れてきた」
悠真の視線がその先に向く。
そして、固まる。
「……うわ」
思わずそれしか出なかった。
「マジで……」
目の前にいるのは、どう見てもおじさんだった。
「よろしくな」
コピーの方が言う。
いつもの声。
いつもの話し方。
悠真は驚きと安心が混ざったような顔で笑った。
「……なんか、すごいな」
リズが聞く。
「なんて呼んだらいい?」
悠真は少し考えたあと、すぐに答えた。
「……師匠でいいかな」
「分かりやすいし」
「いいんじゃねえか」
レオンが笑う。
「そのまんまだな」
「まあ、でもそれが一番しっくりくる」
悠真はそう言って頷いた。
次の日。
店の前には、開店前から人が並んでいた。
昨日は休みだった。
いや、正確には休みにするしかなかった。
だからこそ、余計に客が待っていたのかもしれない。
「……一昨日の影響、すごいな」
レオンが店の外を見ながら言う。
「完全に広がってる」
「やばいね」
リズも少し驚いている。
悠真は小さく息を吐く。
緊張している。
でも、今日は一昨日とは違う。
「いける」
小さく自分に言い聞かせる。
開店と同時に、客が一気に入ってくる。
だが、昨日とは明らかに違った。
「次いくぞ」
「はい」
「火、少し弱い」
「分かりました」
師匠が動くたび、店全体が整っていく。
悠真はその動きを見ながら、自分も動く。
リズは配膳。
レオンは注文と会計、足りないところの補助。
一昨日のような混乱がない。
忙しい。
けれど、回っている。
「……全然違う」
悠真が思わず呟く。
「だろ」
レオンが笑う。
「プロ一人増えるとこうなる」
「ほんとだな……」
そのときだった。
「……おい」
低い声。
店の外から。
振り向くと、近くの店の人間たちが立っていた。
表情は明らかに不機嫌だ。
「やりすぎだろ」
「こっちの客まで全部持ってく気か?」
空気が少し張る。
だが悠真は、昨日のうちに考えていた。
想定していたとも言える。
一瞬だけ黙ってから、落ち着いて言う。
「……皆さんに提案があります」
相手は怪訝な顔をする。
「今は営業中なので」
「店が終わったあと、ちゃんと話します」
「一度引いてもらえませんか」
ざわつきが広がる。
そのまま納得するような空気ではない。
そこで、レオンが一歩前に出た。
何も言わない。
ただ、静かに立つ。
それだけで空気が少し変わる。
「あいつ……」
「強いな」
周りの店の連中も、さすがに無視はできないらしい。
「……チッ」
誰かが舌打ちする。
「あとで来るからな」
そんな捨て台詞を残して、ひとまず引いていった。
営業はそのまま続いた。
そして夜。
閉店後。
店の中に、周りの店の人間たちが集まっていた。
昼よりは静かだが、視線は鋭い。
「で?」
「話ってなんだ」
悠真は少しだけ緊張しながらも、まっすぐ前を見る。
「俺、この店は和食でいきます」
「和食?」
聞き慣れない言葉に、当然ざわつく。
「今日出してた料理です」
「で、提案なんですけど」
一呼吸置く。
「洋食のレシピを、皆さんに渡します」
今度は明確にざわめきが起きた。
「……は?」
「何言ってんだ」
「そんなことしてお前に得あるのか?」
悠真は頷く。
「あります」
「材料は、こっちで用意します」
「ただし、お金はもらいます」
「それと、売り上げの五パーセントももらう形で契約したいです」
静かになる。
全員が話の続きを待っている。
「もちろん、口約束じゃなくて」
「商業ギルドに入ってもらいます」
「契約として残して、破ったら罰則がある形で」
現実的な条件だった。
だからこそ、逆にすぐには答えが出ない。
一人が腕を組む。
「……面白いこと考えるじゃねえか」
別の一人が言う。
「つまり、お前は和食だけやる」
「俺たちは別の料理で客を取る」
「そうです」
悠真は頷く。
「この街、人は多いです」
「全部一つの店で取るより、分けた方が回ると思う」
しばらくの沈黙。
そのあと、誰かが小さく笑った。
「……なるほどな」
「ただのガキじゃねえってことか」
悠真は少しだけ息を吐いた。
戦い方は、一つじゃない。
力で押すだけが、勝ち方じゃない。
そのことを、この街でも少しずつ証明できる気がしていた。
第27話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きく二つのポイントがあります。
一つ目は「コピーによる戦力増加」です。
おじさんをコピーし、“師匠”という存在が加わることで、
店の安定感が一気に上がりました。
ただし、これは単なるチートではなく、
制限やリスクもある前提で今後使っていく予定です。
二つ目は「商売のやり方の変化」です。
独占して稼ぐのではなく、
他の店にも広げて全体で利益を伸ばす。
その代わりに、
材料費+売り上げの5%を受け取るという仕組み。
いわば“自分が元締めになる”形です。
この選択によって、
単なる一店舗の成功から、街全体への影響へとスケールが広がっていきます。
今回の話は、戦闘ではなく“頭を使った勝ち方”の回でもあります。
ここから
・契約の行方
・街の変化
・新たなトラブル
などが展開していきます。
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