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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第159話 解析不能の水晶

ウィストンとノルディアを襲った強力な魔物たち。


その脅威に対抗するため、悠真たちはアストリアで進められていた巨大水晶の研究結果を聞くことに。


果たして、水晶の力を強化する方法は見つかったのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

 アストリア王宮の一角にある研究室を訪れた悠真たちを、アークとセレフィナが迎えた。


 研究室の中央には、エーデルの街を守っていた巨大な水晶が置かれている。畳六枚分ほどの大きさを持つその水晶は、以前から二人が調査を続けているものだったが、今も変わらず淡い輝きを放っていた。


「それで、水晶の研究はどうなったの?」


 悠真が尋ねると、アークは研究台に積み重ねられた資料へ目を向けた。


「それなんだが、思っていた以上に難しい。いくつか分かったことはあるものの、肝心な部分はまだ解明できていないんだ」


「そんなに難しいの?」


「難しいどころの話ではないよ。これほど複雑な魔法を見たのは、私も初めてだ」


 隣にいたセレフィナも頷いた。


「私も長年、魔法の研究に携わってきたけれど、これほど高度な技術は見たことがないわ。特に驚いたのは、水晶の内部に施された魔法の構造なの」


 セレフィナは研究台から一枚の資料を取り出し、悠真たちの前に広げた。そこには複雑な線が幾重にも重なった魔法陣が描かれている。


「これが水晶の内部を解析して分かった魔法の一部よ。一つの魔法陣に見えるかもしれないけれど、実際には複数の魔法が重なり合っているの」


「これが全部つながってるの?」


「ええ。それぞれが互いの魔力を補い合うように組み込まれているみたいなの。しかも、どこか一つを変えるだけで、全体に影響が出る可能性があるわ」


 レオンが資料を覗き込んだ。


「つまり、簡単には手を加えられないということか」


「そういうことね。今の私たちでは、どの部分をどう変えれば安全に性能を上げられるのか、判断することさえ難しいのよ」


 悠真は資料に描かれた魔法陣と、目の前の巨大水晶を交互に見つめた。


「でも、昔の人が作ったものなんだよね? 今の魔法技術の方が進んでるんじゃないの?」


「普通はそう考えるだろうな」


 アークが頷いた。


「実際、今の魔法道具は昔よりずっと便利になっている。ただし、すべての技術が進歩したわけではない。使われなくなったことで、失われた技術もあるんだ」


「失われた技術……?」


「水晶を利用した魔法も、その一つだ」


 そこでセレフィナが口を開いた。


「昔は王宮でも水晶を使った魔法道具が多く利用されていたのよ。魔力を蓄えたり、魔法の効果を安定させたりするためにね」


「王宮でも使っていたんですか?」


「ええ。でも、魔法石を利用した技術が発達してからは、次第に使われなくなっていったの。小さくても高い性能を持つ魔法道具が作れるようになったから、大きな水晶を使う必要がなくなったのよ」


「なるほど。便利なものができたから、昔の技術が残らなかったんですね」


「そういうことね。今では水晶を使った魔法を研究している人も少ないわ」


 セレフィナの説明を聞いていたララが、巨大水晶へ視線を向けた。


「私も、王宮で水晶が使われていたなんて知らなかった」


「あなたが生まれた頃には、ほとんど残っていなかったもの。知らなくても不思議ではないわ」


「……そう」


 ララは短く答えると、それ以上は何も言わなかった。


 セレフィナも無理に会話を続けようとはせず、再び資料へ視線を戻した。以前ほど険悪な雰囲気ではないものの、二人の間にはまだどこか遠慮が残っている。


「それで、もう一つ分かったことがある」


 アークは巨大水晶のそばへ歩み寄った。


「この水晶が、どうやって魔物を遠ざけているのかについてだ」


「そこも分かったの?」


「そうだ。まだ詳しい仕組みまでは解明できていないが、水晶が周囲に特殊な魔力を放っていることは確認できた」


 アークは水晶の表面に手をかざし、慎重に魔力を流した。


 すると、水晶の内部に淡い光が広がり、複雑な模様が浮かび上がった。


「この魔力には、ある特徴がある。どうやら、強力な魔物が放つ魔力に似せてあるらしい」


「強い魔物の魔力?」


「そうだ。魔物は相手の魔力を感じ取ることがある。自分よりはるかに強い存在がいると判断すれば、近づくことを避けるものもいる」


 レオンが納得したように頷いた。


「だから、弱い魔物は街に近づかないのか」


「その可能性が高い。ただし、すべての魔物が逃げるわけではない。強い魔物の中には、その魔力を敵の存在として受け取るものもいるだろう」


「それって、ノルディアに現れたスノーゴーレムみたいな魔物のこと?」


 悠真が尋ねると、アークは頷いた。


「話を聞く限り、その可能性は十分にある。強い魔物にとっては、むしろ排除すべき相手に感じられるのかもしれんな」


「じゃあ、水晶を強くすればいいってわけでもないんだね」


「そういうことだ。弱い魔物を遠ざける効果が高まっても、強い魔物を刺激する危険性がある」


 セレフィナも水晶へ視線を向けた。


「それに、この魔力がどうやって作られているのかも、まだ分かっていないの。普通の魔法なら、魔力の流れを追えばある程度は仕組みを調べられるけれど、この水晶は複雑すぎるわ」


「どれくらい調べれば分かりそうなんですか?」


「そうね……。何年もかかるかもしれないわ。それでも、解明できる保証はないと思う」


「何年も……」


 悠真は思わず水晶を見上げた。


 これほど大きなものを作るだけでも大変そうなのに、内部には今の研究者たちでも理解できない魔法が組み込まれている。いったいどんな人物が作ったのか、想像もつかなかった。


「つまり、今すぐ水晶を強化するのは無理ってことだよね?」


「残念ながらな」


 アークが答えた。


「下手に手を加えて、今ある魔法まで壊してしまっては元も子もない。現状では、このままにしておくのが一番だろう」


 研究室にしばらく沈黙が流れた。


 ウィストンとノルディアでは、すでに強力な魔物による襲撃が起きている。今は撃退できたものの、再び同じような魔物が現れないという保証はない。


「一つだけ、いい方法はあるわ」


 セレフィナが静かに口を開いた。


「この水晶を、ウィストンかノルディアへ移すのよ」


「本物を?」


「ええ。複製した水晶より、元の水晶の方が性能は高いのでしょう?」


 レオンが頷いた。


「コピーした水晶は、元の八割程度の性能だ。本物を置けば、魔物除けの効果は上がるだろうな」


「でも、どっちの街に置くの?」


 メリーの問いに、誰もすぐには答えられなかった。


 ウィストンにはスノーキメラが現れ、ノルディアにはスノーゴーレムが襲来した。どちらも危険な状況にあることは変わらない。


「片方だけ守るってわけにもいかないよね」


 悠真が呟くと、ドゴルドも難しい顔で頷いた。


「それに、本物を置いたところで強い魔物が来なくなるとは限らない。むしろ、狙われる可能性もあるんだろう?」


「ええ。その危険は否定できないわ」


 セレフィナの答えに、悠真はしばらく考え込んだ。


 水晶を移動させても、すべての問題が解決するわけではない。そもそも、これまでアルファ山脈西部にいた魔物たちが、なぜ人の住む地域へ現れるようになったのか。その原因さえ分かっていないのだ。


「……だったら、やっぱり西側で何が起きてるのか調べた方がいいと思う」


 悠真の言葉に、レオンが顔を上げた。


「アルファ山脈西部へ、もう一度行くのか?」


「うん。魔物が移動してきた原因が分かれば、何か対策ができるかもしれないし。原因を取り除けば、元の場所へ戻ってくれる可能性だってあると思うんだ」


「確かに、根本的な原因を調べる必要はあるな」


「もちろん、絶対に戻るとは限らないけどね。でも、何もしないで待っているよりはいいと思う」


 リズも頷いた。


「私も賛成。どうしてあんな魔物たちが移動してきたのか、気になるもの」


「問題は、前回のように途中で引き返すことにならないか、だな」


 ドゴルドの言葉に、悠真も表情を引き締めた。


 前回の調査では、アルファ山脈西部に近づいたところで猛烈な寒さに襲われ、鳥型魔物の群れまで現れた。ララの結界魔法で攻撃を防ぐことはできても、極端な寒さの中を飛び続けることはできなかった。


「そうなんだよね。だから、アークにお願いがあるんだけど」


「私に?」


「うん。飛行船の防寒魔法を、もっと強くできないかな?」


 その言葉を聞いたアークが、不思議そうに首を傾げた。


「飛行船? そんなものを持っているのか?」


「うん。《アストラスカル号》っていう飛行船なんだけど、結構大きいんだ」


「ほう……。それは興味深いな。どんな仕組みで飛んでいるんだ?」


「それは実物を見てもらった方が早いと思う。今は防寒魔法を強くしたくて」


 悠真は前回の調査で起きたことを説明した。


 飛行船にはすでに防寒魔法が付与されているものの、アルファ山脈西部ではその性能を超えるほどの寒さに見舞われたこと。そして、もう一度調査へ向かうためには、さらに強力な防寒対策が必要だと考えていることを伝えた。


「今はマイナス五十度まで耐えられるようになってるんだけど、それでも足りなかったんだ」


「マイナス五十度でも足りないのか……。それほどの寒さとなると、相当な対策が必要になるぞ」


「だから、マイナス百度まで耐えられるようにしたいんだ。できそう?」


「マイナス百度か。ずいぶん思い切った目標だな」


 アークは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「実物を見てみなければ何とも言えんが、今の防寒魔法を単純に強くするだけでは難しいだろうな。魔力の消費が大きくなりすぎる可能性がある」


「やっぱり簡単じゃないんだね」


「それに、船内の温度を保つだけではダメだ。船体そのものや、飛行に必要な装置も冷気から守る必要があるだろう」


 そこで、それまで黙っていたララが口を開いた。


「今の防寒魔法は、私が付与したものなの」


 アークが驚いたように顔を上げた。


「ララが?」


「うん。マイナス五十度まで耐えられるようにしたんだけど、あそこまで寒い場所は想定してなかった」


「なるほど。ならば、今の魔法の構造はお前が一番よく理解しているわけだな」


「そう。でも、マイナス百度となると、今の方法だけじゃ難しいと思う」


 ララは少し考えてから、アークへ視線を向けた。


「アーク、改良するのを手伝ってくれる?」


「もちろんだ。まずは飛行船を見せてもらおう。実際にどんな魔法が施されているのか確認してから、方法を考えたい」


「分かった。一緒に考えよう」


 アークは嬉しそうに頷いた。


「それにしても、飛行船に防寒魔法を付与したとはな。どれほど大きな船なのか、ますます興味が湧いてきたぞ」


「かなり大きいよ。三階建てなんだ」


「三階建てだと?」


 アークが目を丸くした。


「そんな巨大なものが空を飛ぶのか?」


「うん。中も結構広いんだから」


「それはぜひ見てみたい。研究室にこもっている場合ではないな」


 アークは研究台に置かれていた資料をまとめると、早くも飛行船を見に行く気になっていた。


 その様子に、ラパンが笑った。


「アークさん、すっかり興味津々だな」


「当然だろう。三階建ての飛行船など、話を聞いただけでも面白い。実物を見れば、新しい発見があるかもしれん」


 悠真たちはアークを案内し、飛行船の内部やララが付与した防寒魔法について説明した。


 アークは船体の大きさに驚きながらも、すぐに研究者らしい表情へと変わり、各所に施された魔法を慎重に確認していった。ララも隣で説明を続け、ときには二人で魔力の流れを確かめながら、改良できそうな部分を探していた。


「なるほど……。これなら、やり方次第で性能を引き上げられるかもしれんな」


 ひととおり確認を終えたアークが、ようやく顔を上げた。


「本当?」


「本当だ。ただし、簡単ではないぞ。今の防寒魔法を生かしながら、さらに強力な冷気を遮断する仕組みを加える必要がある」


「それなら、外側と内側で魔法を分けるのはどう?」


 ララが提案した。


「外側で冷気を防いで、内側で温度を維持するの。それぞれの役割を分ければ、一つの魔法に負担を集中させずに済むと思う」


「なるほど。それは面白い考えだ」


 アークは船体を見上げながら頷いた。


「今の魔法をそのまま強化するより、魔力の消費を抑えられる可能性がある。試してみる価値は十分にあるな」


「じゃあ、それでやってみよう」


「うむ。ただし、相当な量の魔法石が必要になるだろう。費用もかなりかかるはずだぞ」


 悠真は少し考えたあと、笑顔で答えた。


「それなら大丈夫。今はお金ならあるんだ」


「ほう、そうなのか?」


「うん。必要な魔法石は全部用意するよ」


「そうか。それなら話は早い」


 アークは満足そうに頷いた。


「ララと相談しながら進めれば、三日ほどで改造できると思う。ただし、マイナス百度の環境で実際に試せるわけではないからな。目標の性能に届くように作るが、過信は禁物だぞ」


「分かった。ありがとう、アーク」


「礼なら、改造が終わってからにしてくれ」


 アークはそう言って笑うと、ララとともに必要な魔法石の種類や数量を確認し始めた。


 悠真たちはその様子を見守りながら、これからの三日間をどう過ごすか相談することにした。


「まずは魔法石を買いに行かないとね」


 悠真が言うと、レオンが頷いた。


「そうだな。必要なものを揃えれば、あとはアークとララに任せられる」


「だったら、買い物が終わったあと、少し街を見て回らないか?」


 ラパンが楽しそうに口を開いた。


「そういえば、悠真たちは王宮の近くしか行ったことがないんじゃないか?」


「言われてみればそうだね。アストリアには何度か来てるけど、街をゆっくり見たことはないかも」


「それじゃあ、もったいないな。アストリアには面白い場所がたくさんあるんだぜ」


「そういえば、ラパンはアストリア出身だったよね」


「ああ。久しぶりの故郷だし、案内くらいはさせてくれよ」


 メリーも穏やかに微笑んだ。


「私もアストリア出身ですし、久しぶりに行ってみたい場所があります。せっかくなので、家にも顔を出せたらと思っています」


「そっか。二人とも久しぶりに帰ってきたんだね」


「そういうこと。俺も家に寄りたいしな。よかったら悠真たちも一緒に来てくれよ」


「うん、行ってみたい!」


 リズが嬉しそうに答えた。


 ドゴルドも異論はないようで、静かに頷いている。クランも仲間たちの話を聞きながら、穏やかな表情を浮かべていた。


「じゃあ、まずは魔法石を買って、それから二人に案内してもらおう」


 悠真がそう言うと、ラパンは満足そうに笑った。


「任せてくれ。王宮とは違うアストリアを見せてやるよ」


 その後、アークから必要な魔法石をまとめた紙を受け取った悠真は、改めて仲間たちへ声をかけた。


「それじゃあ、買い物に行こうか」


 レオンたちが頷き、ラパンとメリーが先に立って歩き始める。


 アークとララは飛行船の改造に取りかかり、セレフィナは研究室で巨大水晶の解析を続けることになった。


 悠真たちもまた、必要な魔法石を揃えるため、アストリアの街へと向かった。

アークとセレフィナでも解明できない巨大水晶の謎。


悠真たちは魔物の移動の原因を突き止めるため、再びアルファ山脈西部を目指すことになりました。


飛行船の改造には三日間。その間、ラパンとメリーの案内でアストリアの街を巡ることに。


次回は、これまであまり描かれてこなかったアストリアの街へ!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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皆さまの応援が、執筆を続ける大きな励みになります。


次回もよろしくお願いします!

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