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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第158話 異変の連鎖

ノルディアを襲ったスノーゴーレムとの戦いが終わり、悠真たちは次の行動へと移ります。


相次ぐ魔物の異変。その原因は、アルファ山脈の西側にあるのでしょうか。


第158話「異変の連鎖」、お楽しみください。

 ノルディアの町に、ようやく静けさが戻り始めていた。


 つい先ほどまで町を揺るがしていたスノーゴーレムの咆哮は消え、通りには崩れた建物の破片や、戦闘によって砕かれた石畳が散乱している。遠くから聞こえてくるのは、負傷者を運ぶ人々の声と、瓦礫を片づける作業の音だった。


 悠真は大きく息を吐き、町の中央に横たわるスノーゴーレムの残骸を見上げた。五メートルもの巨体は、核を破壊されたことで完全に動きを止めている。巨大な氷の塊となったその姿は、今にも再び起き上がりそうな迫力を残していた。


「これだけ大きいと、片づけるのも一苦労だな」


 隣に立つラパンが、首を鳴らしながら苦笑した。


「倒すのも大変だったけど、後始末まで大仕事とはね。まったく、迷惑な魔物だ」


「放っておくわけにもいかないからな。町の人たちを手伝おう」


 悠真がそう言うと、ドゴルドが力強く頷いた。


「任せておけ。こういう力仕事なら得意だ」


 ドゴルドは早速、崩れた石材の山へ向かって歩き出した。その背中を見送りながら、悠真は近くにいた町の男たちへ声をかけ、通りを塞いでいる瓦礫を取り除く作業に加わった。


 ノルディアは雪深い土地に築かれた町だ。建物の多くは厚い石壁と頑丈な木材で造られていたが、それでも巨大なスノーゴーレムの攻撃には耐えきれなかったらしい。壁の一部が崩れた家屋や、屋根を失った倉庫がいくつも見える。


 幸い、町の中心にある巨大な水晶は無事だった。


 六畳ほどの広さを持つその水晶は、先ほどまでの騒ぎが嘘のように淡い光を放っている。


 この水晶は、かつてエーデルで発見された魔物除けの水晶を、レオンの《コピー》のスキルカードによって複製したものだった。本物の性能には及ばないものの、魔物の出現が増え始めていたノルディアを守るため、ララ、ラパン、メリー、リズの四人が町長の了承を得て設置したのだ。


 それ以来、町の人々にとって水晶は心強い存在となっていた。しかし、今回のスノーゴーレムの襲撃によって、強力な魔物に対しては十分な効果を発揮できない可能性が改めて浮き彫りになった。


「悠真さん、こちらの負傷者は治療を終えました」


 声をかけてきたのはメリーだった。額には薄く汗が浮かんでいたが、その表情には安堵が見える。


「ありがとう、メリー。無理はしてないか?」


「大丈夫です。ただ、まだ怪我をしている方がいるようなので、もう少し見て回ります」


「分かった。でも、疲れたら必ず休んでくれよ」


 メリーは小さく微笑み、再び町の人々のもとへ向かった。


 一方、ララとレオンには先に《アストラスカル号》へ戻ってもらっていた。


 ララは未完成の重力魔法《重力崩壊》を使用したことで魔力をほとんど使い果たし、レオンも最後の一撃で身体に大きな負担をかけている。メリーの回復魔法で傷は癒えていたものの、蓄積した疲労までは消えていなかった。


 今は二人とも休息が必要だった。


 悠真は石材を運びながら、先ほどの戦いを思い返していた。


 ウィストンではスノーキメラが三体。そしてノルディアでは、これほど巨大なスノーゴーレムが二体も現れた。


 それ以前にも、アルファ山脈ではスノードラゴンの移動が確認されている。


 偶然にしては、あまりにも出来すぎていた。


「悠真、そっちは終わりそうか?」


 リズが声をかけてきた。彼女はクランとともに、崩れた木材を通りの端へ運んでいたらしい。


「もう少しかな。そっちは?」


「大きなものは片づけた。あとは町の人たちだけでも何とかなると思う」


「そうか。じゃあ、こっちが終わったら一度戻ろう」


 悠真が答えると、リズは頷いて作業に戻った。


 日が傾く頃には、主要な通りを塞いでいた瓦礫の大半が取り除かれていた。


 町長は何度も頭を下げ、悠真たちへ礼を述べた。町の被害は決して小さくなかったものの、水晶が守られたことで、住民たちにも復旧への希望が見えてきたようだった。


 悠真たちは残りの作業を町の人々に任せ、《アストラスカル号》へ戻ることにした。


 飛行船の内部は、外の凍えるような空気とは対照的に暖かかった。


 二階の居住区へ上がると、食事の支度をしていたメリーが顔を上げた。厨房からは煮込んだ肉と野菜の香りが漂い、戦闘と復旧作業で疲れた身体に食欲を思い出させる。


「お帰りなさい。もう少しで夕食ができますよ」


「助かるよ。腹が減って仕方ない」


 ラパンが真っ先に椅子へ腰を下ろすと、リズが呆れたように笑った。


「少しは手伝ったらどうだ?」


「今日は十分働いただろう? それに、俺が料理を手伝ったら余計な仕事が増えるかもしれないぞ」


「それは否定できないな」


 ドゴルドの一言に、居住区の空気が少し和らいだ。


 ソファにはララが座っており、隣ではレオンが温かい飲み物を口にしていた。二人とも顔色は随分よくなっている。


「ララ、具合はどうだ?」


 悠真が尋ねると、ララは手にしていたカップを膝の上へ下ろした。


「だいぶ楽になったわ。でも、魔力が完全に戻るにはもう少しかかりそう」


「無理はするなよ。あの魔法は相当なものだったからな」


「自分でも少し驚いてる。まだ完成していない魔法だから、あそこまで魔力を消費するとは思わなかったの」


 ララは苦笑しながら、自分の手のひらを見つめた。


 レオンもゆっくり肩を回す。


「俺も明日には問題ないだろう。身体強化を重ねた状態で全力を出すと、さすがに負担が大きいな」


「レオンの一撃がなかったら、あのゴーレムは倒せなかったよ」


 悠真がそう言うと、レオンは照れくさそうに笑った。


 やがて食事が並べられ、全員がテーブルを囲んだ。


 温かいスープが喉を通ると、冷えきっていた身体の奥まで熱が染み込んでいく。しばらくは料理の感想や町での出来事が話題になっていたが、食事が進むにつれて、自然とアルファ山脈の異変へ話が移っていった。


「しかし、どう考えても最近は魔物が多すぎるな」


 ラパンがスプーンを置き、腕を組んだ。


「スノードラゴンが移動したと思ったら、今度はスノーキメラにスノーゴーレムだ。これだけ続くと、さすがに偶然とは思えない」


「俺もそう思う」


 悠真は頷いた。


「しかも、どの魔物もアルファ山脈の西側から移動してきた可能性がある。何か共通する原因があるんじゃないか?」


「西側といえば、あの寒さだろうな」


 ドゴルドが低い声で言った。


 その言葉に、ララが顔を上げる。


「私も気になっていたの。あのときの気温は、普通の寒さじゃなかったわ」


 悠真たちは飛行船で西側へ向かったときのことを思い出した。


 窓の向こうに広がる白い山々。吹き荒れる風。そして、防寒魔法で守られているはずの船内にまで忍び込んできた、肌を刺すような冷気。


 あのときは鳥型の魔物の襲撃も重なり、それ以上進むことを断念している。


「飛行船の防寒魔法は、どのくらいの寒さまで耐えられるんだ?」


 悠真の問いに、ララは少し考えてから答えた。


「現在の設定では、マイナス五十度程度を想定しているわ。それ以上になると、船内の温度を維持するのが難しくなる可能性があるの」


「マイナス五十度か……」


「普通なら、それだけあれば十分なのよ。そもそも、そんな極端な低温になる場所へ飛行船で向かうこと自体、ほとんど想定されていないもの」


 ララは言葉を続けた。


「でも、あの西側は違う。もしかすると、私たちが想像している以上に気温が下がっているのかもしれない」


「魔物だって、あまりに寒ければ生きていけないよな」


 悠真が呟くと、レオンが頷いた。


「種類によって耐えられる寒さは違うだろうが、いくら雪山に棲む魔物でも限界はあるはずだ」


「仮にマイナス五十度を下回るような環境になっているなら、そこから逃げ出す魔物がいても不思議じゃないわね」


 リズの言葉に、全員がしばらく黙り込んだ。


 魔物が突然凶暴になったのではなく、住んでいた場所を追われているのだとしたら。


 ウィストンやノルディアで起きた襲撃も、まったく違った意味を持ってくる。


「ただ、それだけじゃスノードラゴンが移動した理由までは分からないな」


 悠真が言うと、ラパンが頷いた。


「そうだな。そもそも何が原因で西側が寒くなったのかも分からない。調べることが山ほどあるってわけだ」


「だったら、もう一度西側へ行くしかない」


 悠真はテーブルに置かれたカップへ視線を落とした。


 前回は準備不足だった。飛行船の防寒魔法も、魔物への対策も、あの環境に対応できるものではなかった。


 同じ状態で向かっても、再び引き返すことになるだろう。


「ララ。飛行船の防寒魔法を、もっと強化できないか?」


「できると思う。ただ、今の術式を少し調整するだけでは難しいわね」


「例えば、マイナス百度にも耐えられるようにするとか」


「マイナス百度?」


 ララは驚いたように目を見開いた。


「そこまで必要かどうかは分からない。でも、今の限界がマイナス五十度なら、次はそれを大きく上回る性能が欲しい。何度も引き返していたら、いつまでたっても調査が進まないからな」


 ララはしばらく考え込んだあと、ゆっくり頷いた。


「確かにそうね。船内を暖めるだけじゃなくて、外からの冷気を遮断する方法も見直した方がよさそう。アストリアへ戻ったら、詳しく調べてみるわ」


「それなら、アークにも相談してみたらどうだ?」


 レオンが提案した。


「そうだな。ちょうど水晶の件で会いに行く予定だし、協力してもらえるかもしれない」


 悠真は顔を上げ、仲間たちを見回した。


「明日はアストリアへ向かおう。アークとセレフィナに水晶の強化を相談する。それから飛行船の防寒魔法を改良して、もう一度アルファ山脈の西側を調べる」


 異論を唱える者はいなかった。


 夜が更け、飛行船の居住区から人の気配が消えていった。


 窓の外には雪に覆われたノルディアの町が広がり、遠くの建物から漏れる灯りが白い地面をぼんやりと照らしている。


 クランは自室の扉を静かに開け、廊下へ顔を出した。


 周囲に人の気配がないことを確かめると、足音を立てないように階段を下りていく。


 飛行船の外へ出た瞬間、冷たい風が頬を撫でた。


 クランは外套の襟を寄せ、町の建物の陰へと歩いていった。飛行船から十分に距離を取ったところで立ち止まり、懐から小さな通信魔道具を取り出す。


 淡い光が浮かび上がり、やがて男の声が聞こえてきた。


『クランか。ずいぶん遅い時間だな』


「申し訳ございません、ディアボロス様。周囲に人がいないことを確認しておりました」


『構わん。それで、何か進展はあったか?』


「石版については、今のところ新しい情報はありません」


『そうか』


 ディアボロスの声に、わずかな落胆が混じった。


「現在、悠真たちはノルディアに滞在しています。アルファ山脈周辺で魔物の異常な増加が確認されており、その調査を進めているところです」


『魔物の異常な増加か。面白い話だな』


「はい。西側の異常な寒さが関係している可能性があると考えているようです。明日にはアストリアへ向かい、飛行船の改良などを行う予定です」


『飛行船……そういえば、あいつらはうちの会社で飛行船を買ってくれたそうだな』


「はい。《アストラスカル号》という名前をつけ、現在も移動に使用しています」


 通信魔道具の向こうから、愉快そうな笑い声が聞こえてきた。


『ハハハ、そうだったな。石版を探しているかと思えば、今度は飛行船まで買うとは。しかもうちの大事な顧客でもあるわけだ』


 クランは黙って次の言葉を待った。


『面白い奴らだ。ますます興味が湧いてきたぞ』


 ディアボロスはしばらく笑っていたが、やがて声の調子を変えた。


『だが、クラン。俺が一番知りたいのは石版のことだ。それだけは忘れるな』


「承知しております」


『奴らが今どこにいて、何をしているのか。それも引き続き報告してくれ。石版につながる情報がいつ出てくるか分からんからな』


「かしこまりました」


『それと、正体を悟られるなよ。せっかくあいつらの近くにいるんだ。余計な疑いを持たれるのは面倒だからな』


「はい。十分に注意いたします」


『では、また何か分かったら連絡してくれ』


 通信が途切れ、魔道具から光が消えた。


 クランはしばらくその場に立ち、雪の積もった通りへ目を向けた。


 昼間、町の人々を助けるために必死で戦っていた悠真たちの姿が脳裏に浮かぶ。


 彼らは自分が何者なのか知らない。


 そして、自分が今こうしてディアボロスへ情報を伝えていることも。


 クランは小さく息を吐き、通信魔道具を懐へしまった。


 振り返った先には、《アストラスカル号》の白い船体が見えていた。


 彼女はいつもと変わらない表情を取り戻すと、仲間たちの眠る飛行船へ静かに戻っていった。


 翌朝、ノルディアの空には薄い雲が広がっていた。


 夜の間に降った雪が町を白く覆い、昨日の戦闘でできた地面の傷跡も、ところどころ隠されている。


 悠真たちは朝食を済ませ、出発の準備を整えていた。


「ララ、魔力はどうだ?」


「もう大丈夫よ。飛行船を収納するくらいなら問題ないわ」


 ララはそう言って微笑んだ。昨日の疲れはまだ少し残っているようだったが、顔色はすっかり戻っていた。


 レオンも身体を軽く動かし、問題がないことを確かめている。


「俺も大丈夫だ。いつでも出発できる」


「よし。それじゃあ行こうか」


 全員が飛行船の外へ出たところで、ララが船体へ向かって手をかざした。


 淡い魔法の光が《アストラスカル号》を包み込む。


 巨大な飛行船は徐々にその輪郭を薄くしていき、やがて空間魔法によって完全に姿を消した。


 何度見ても不思議な光景だった。


「本当に便利な魔法だな」


 ラパンが感心したように呟くと、ララは少し得意そうに笑った。


「でも、大きなものを収納するにはそれなりに魔力が必要なのよ」


「そりゃそうだろうな。俺なんか、荷物を運ぶだけでも疲れるっていうのに」


 そんなやり取りを聞きながら、悠真は転移カードを取り出した。


 目的地はアストリア。


 そこには、魔物除けの水晶について研究を進めているアークとセレフィナがいる。


 今回の襲撃で、ノルディアの水晶がいかに重要な存在なのかを改めて思い知らされた。魔物を遠ざけるはずの水晶が、強力な魔物に狙われる可能性がある以上、今のままでは安心できない。


 そして、アルファ山脈西側の異常な寒さ。


 あの場所へ再び向かうためには、飛行船の防寒魔法を根本から見直す必要がある。


 悠真はカードを握り直した。


「それじゃあ、アストリアへ行くぞ」


 仲間たちが近くへ集まり、転移カードが光を放つ。


 次の瞬間、悠真たちの姿はノルディアの雪景色の中から消えた。


 アストリアに到着すると、町には穏やかな朝の空気が流れていた。


 ノルディアの厳しい寒さとは違い、通りには人々の行き交う姿があり、店先からは焼きたてのパンの香りが漂ってくる。


「やっぱり、こっちは暖かいな」


 ラパンが大きく伸びをした。


「昨日まで雪と氷ばかり見ていたから、別の世界に来たみたいだ」


「同じ世界なんだけどな」


 悠真が笑うと、ラパンも肩をすくめた。


 一行はそのままアークとセレフィナのもとへ向かった。


 研究を進めている二人なら、魔物除けの水晶について何か新しい方法を考えられるかもしれない。それに、ララの防寒魔法の改良についても、知恵を借りられる可能性がある。


 しばらく歩いたところで、悠真は足を止め、遠くに見える建物へ視線を向けた。


 魔物の異常な増加。スノードラゴンの移動。そして、アルファ山脈西側を覆う常識外れの寒さ。


 別々に起きているように見える出来事が、どこかでつながっている。


 そんな気がしてならなかった。


 だが、その答えが何なのか、今の悠真には想像もつかない。


「悠真、どうした?」


 レオンに声をかけられ、悠真は我に返った。


「いや、何でもない。行こう」


 悠真は再び歩き出した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


魔物の異常な増加、スノードラゴンの移動、そしてアルファ山脈西側の異常な寒さ。


少しずつ謎がつながり始めました。


一方、悠真たちの知らないところで動くクランとディアボロス。こちらの動向にも注目です。


次回はアストリアでの新たな展開を予定しています。


続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


今後とも『異世界は金で強くなる』をよろしくお願いいたします。

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