第157話 限界を超えた一撃
水晶が破壊されようとした、その瞬間。
絶体絶命のノルディアに、新たな希望が訪れる。
しかし、圧倒的な防御力を誇るスノーゴーレムとの戦いは、まだ終わっていない。
果たして悠真たちは、町を守り抜くことができるのでしょうか?
第157話、よろしくお願いします!
巨大な拳が、水晶へ向かって振り下ろされた。
五メートルもの巨体を持つスノーゴーレム。その拳は人間の身体ほどもあり、まともに受ければ、どれほど頑丈な水晶であっても無事では済まないだろう。
「ダメぇぇぇっ!」
リズの悲鳴が広場に響いた。
ドゴルドもクランも、すでに間に合わない位置にいる。魔力を使い果たしたララは、リズに支えられながら、迫りくる拳を見つめることしかできなかった。
誰もが水晶の破壊を覚悟した、その瞬間だった。
「《スリープ》!」
聞き覚えのある声が響いた。
スノーゴーレムの動きが、ぴたりと止まる。
振り下ろされかけていた巨大な腕が宙で静止し、青く輝いていた両目の光がゆっくりと弱まっていく。
そして、巨体が大きく傾いた。
ズズズズズ……!
「まずい! 倒れるぞ!」
声を上げたのはレオンだった。
眠りに落ちたスノーゴーレムは、身体を支える力を失い、水晶に向かって倒れ始めていた。
このままでは拳を防いだ意味がない。
レオンは地面を強く蹴った。
ドンッ!
一瞬でゴーレムの側面へ回り込むと、その巨大な胴体へ肩から体当たりした。
「うおおおおっ!」
ズガァァンッ!!
凄まじい衝撃が広場に響き渡る。
レオンの身体が弾き返されるほどの重量だったが、巨体の傾きがわずかに変わった。
次の瞬間。
ドゴオオオオンッ!!
スノーゴーレムが地面に倒れ込んだ。
石畳が砕け、白い粉塵が一気に舞い上がる。周囲の建物が揺れ、地面には大きな亀裂が走った。
しかし、水晶は無事だった。
倒れた巨体は水晶のすぐ横で止まり、巨大な腕がその表面をかすめることさえなかった。
「……助かった?」
リズが呆然と呟いた。
粉塵の向こうから、聞き慣れた声が返ってくる。
「何とか間に合ったみたいだね」
「……悠真?」
リズが顔を上げる。
そこには悠真が立っていた。
その隣には、先ほど体当たりしたレオン。そしてラパンとメリーの姿もある。
「悠真ぁ!」
リズは驚きと安堵の入り交じった声を上げた。
「どうしてここにいるの!? ウィストンに行ったんじゃなかったの?」
「行ってたよ。向こうの魔物は全部倒したんだ」
悠真はそう答えると、倒れているスノーゴーレムへ目を向けた。
「でも、こっちも相当大変だったみたいだね」
「大変なんてもんじゃないわよ!」
リズは興奮した様子で話し始めた。
「みんなで頑張ったんだけど、全然攻撃が効かなくて! それでララがすごい魔法を使って一体倒してくれたんだけど……」
そこまで話して、リズは腕の中のララを見下ろした。
「ララが倒れちゃったの」
「ララ!」
悠真が駆け寄ると、ララはかすかに顔を上げた。
「……大丈夫よ。ちょっと、魔力を使いすぎただけだから」
そう言いながらも、その声には普段の力強さがない。額には汗が浮かび、身体を起こすことさえ難しそうだった。
メリーがすぐに膝をつき、ララの状態を確かめる。
「魔力をほとんど使い切っていますね。残念ですが、私の回復魔法では魔力までは戻せません」
「分かってるわ……少し休めば、何とかなるから」
「無理をしないでください。身体に傷がないかも確認しますね」
メリーはララに優しく声をかけると、周囲の冒険者たちにも目を向けた。
広場には傷ついた者が大勢いた。腕を押さえて座り込む者、仲間に肩を貸されて歩く者、建物の壁にもたれかかっている者もいる。
「悠真さん、私は皆さんの治療に回ります」
「うん。お願い、メリー」
メリーは頷き、負傷者たちのもとへ駆けていった。
その様子を見送った悠真に、クランが近づいてきた。
「悠真さん、先ほどはありがとうございました。連絡したときには、まさかここまで危険な状況になるとは思っていませんでした」
「いや、クランが連絡に出てくれて助かったよ」
悠真は苦笑した。
「ウィストンでスノーキメラを倒したあと、町の後片付けを少し手伝ってたんだ。それで、こっちの様子が気になってね」
最初に双界カードで連絡した相手はララだった。
しかし、何度呼びかけても応答がない。
不安になった悠真は、出発前に双界カードを渡しておいたクランへ連絡した。
そこで、スノーゴーレムが町の中心部まで侵入していると知らされたのだ。
「それで急いでみんなを集めて、クランのところへ転移してきたんだ」
「本当に、あと少し遅かったら……」
クランは水晶へ視線を向けた。
悠真もその巨大な水晶を見上げる。
六畳ほどの部屋をいっぱいに占めるほどの大きさがあり、透き通った内部には淡い光がゆっくりと揺らめいていた。
「それにしても、あのスキルが効いてよかったよ」
悠真は倒れたゴーレムを見つめた。
ウィストンでレベル21になった際に習得したばかりの《スリープ》。
まだラパンに試したことしかなく、これほど強力な魔物に通用するかどうかは分からなかった。
それでも、あの瞬間にほかの手段を考えている余裕はなかった。
一か八かだった。
「おい、悠真。こいつ、いつまで眠ってるんだ?」
レオンが剣を手に近づいてきた。
「分からない。まだ覚えたばかりのスキルだからね」
「だったら、のんびりしてる場合じゃないな」
その言葉に、悠真は頷いた。
しかし、その前に確認しておきたいことがあった。
「《エリア感知》」
悠真は意識を集中させ、周囲へ感覚を広げていく。
町の建物、通りを行き交う人々、広場に集まる冒険者たち。そのさらに外側へと感知範囲を広げた瞬間、悠真の表情が変わった。
「……嘘だろ」
「どうした?」
レオンが尋ねる。
「町の周りに、ものすごい数の魔物がいる」
「魔物?」
「うん。森にも、山の麓にもいる。かなり広い範囲に反応があるんだ」
悠真は水晶を見上げた。
弱い魔物を遠ざける力を持つ水晶。
その力によって、町の周囲にいる魔物たちは侵入できずにいるのだろう。
「もし、さっき水晶が壊されていたら……」
悠真の言葉に、レオンも表情を引き締めた。
「町が魔物に襲われていたかもしれないってことか」
「そういうことだと思う」
悠真は眠っているスノーゴーレムへ視線を戻した。
「まずは水晶を安全な場所へ動かそう。こいつが目を覚ましたら、また狙われるかもしれない」
「動かすって……あれをか?」
ドゴルドが巨大な水晶を見上げた。
「ララの空間魔法が使えれば簡単なんだけどね」
悠真が振り返ると、ララは申し訳なさそうに首を振った。
「ごめんなさい……今は無理だわ」
「謝らなくていいよ。ララのおかげで一体倒せたんだから」
悠真は笑いかけた。
「今回は俺たちで何とかするよ」
レオンとドゴルドが水晶の側面へ回り込み、リズとクランも手を添えた。
「せーの!」
全員で力を込める。
しかし、巨大な水晶は簡単には動かなかった。
「ぐぬぬぬ……!」
リズが顔を真っ赤にして押す。
「こいつは……なかなか重いな!」
ドゴルドも歯を食いしばった。
レオンが身体強化のスキルカードを使い、さらに力を込める。
ゴゴゴ……。
ようやく水晶がわずかに傾いた。
「動いた! もう少し!」
悠真の声に合わせて全員が押し続ける。
ゴロンッ!
巨大な水晶がゆっくりと転がった。
「おっと! 行きすぎるなよ!」
ドゴルドが慌てて反対側へ回り込み、転がる方向を調整する。
何度か押すうちに要領をつかみ、一行は水晶を広場の反対側へ移動させることに成功した。
そこは周囲に建物が少なく、眠っているゴーレムからも十分に距離がある。
「ふう……こんなに大変だとは思わなかった」
悠真が額の汗を拭う。
「ララの空間魔法って、本当に便利なんだね!」
リズが感心したように言うと、ララは疲れた顔のまま小さく笑った。
「今さら気づいたの?」
そのやり取りに、周囲からも少しだけ笑い声が漏れた。
だが、戦いはまだ終わっていない。
眠っているスノーゴーレムは、いつ目を覚ますか分からないのだ。
「さて、こいつをどうするかだな」
レオンが倒れた巨体を見下ろした。
分厚い氷の装甲に覆われた身体には、これまでの攻撃による傷がほとんど残っていない。
「普通に斬っても無理だぞ。俺たちも散々試した」
ドゴルドが腕を組む。
悠真はしばらくゴーレムを観察していたが、ふと膝の部分に目を留めた。
「……待って」
「どうした?」
「こいつ、こんなに硬い身体なのに、普通に歩いてたよね」
「そりゃそうだろ」
「だったら、関節はどうなってるんだろう?」
レオンが目を細めた。
ゴーレムの脚は太く、氷の装甲に覆われている。しかし、膝の裏側には装甲の継ぎ目があり、曲げ伸ばしするための隙間が存在していた。
「なるほどな」
レオンは剣を構え、眠っているゴーレムの膝裏へ刃を当てた。
「ここなら、どうだ!」
ガキィンッ!
最初の一撃は硬い氷に阻まれた。
だが、刃の角度を変えて継ぎ目の奥を狙うと、先ほどとは違う手応えが伝わってきた。
ザシュッ!
「入った!」
レオンが声を上げる。
刃が関節の内部へ食い込んでいた。
「よし、俺も手伝う!」
ドゴルドが反対側へ回り込み、斧を構える。
二人は互いの動きを確認しながら、関節の継ぎ目へ攻撃を集中させた。
ガンッ! ガキンッ!
バキバキッ!
硬い氷の破片が飛び散る。
やがて、膝を支えていた内部の構造が砕け始めた。
「もう少しだ!」
レオンが剣を深く差し込み、力いっぱい振り抜く。
バキィィンッ!!
巨大な脚が膝の部分から切り離された。
「やった!」
リズが声を上げる。
しかし、喜んでいる暇はなかった。
「もう片方も急ごう!」
悠真の声に、レオンとドゴルドがすぐに動いた。
残る脚の関節へ攻撃を集中させる。
ガキンッ! バキッ!
何度も刃を打ち込み、装甲の継ぎ目を広げていく。
そして、最後の一撃が入った。
バキィィィンッ!!
二本目の脚が切断された。
その直後だった。
スノーゴーレムの青い目が、再び強く輝き始めた。
「まずい! 起きるぞ!」
ドゴルドが叫ぶ。
ゴゴゴゴゴ……!
巨体が震え、巨大な腕が地面を叩いた。
ドンッ!
スノーゴーレムは上半身を起こそうとしたが、両脚を失っているため、身体を支えることができない。
それでも腕を伸ばし、地面を引きずるようにして前へ進もうとする。
その向かう先には、移動させた水晶があった。
「まだ水晶を狙ってるのか!」
レオンが驚いたように声を上げた。
悠真はその様子を見つめながら、疑問を深めていた。
これほどまでに水晶へ執着する理由は何なのか。
スノーゴーレムは人間を積極的に襲おうとはせず、攻撃されたときだけ反撃していたという。
まるで水晶そのものを敵だと思っているようだった。
「なあ、悠真」
ラパンが近づいてきた。
「あの水晶って、魔物を寄せつけないんだよな?」
「そうだけど」
「だったら、こいつには逆効果なんじゃねえか?」
「逆効果?」
「弱い魔物なら怖がって逃げる。でも、強い魔物だったらどうだ? 自分より強そうな奴がいると思って、喧嘩を売りに行くことだってあるだろ」
悠真は水晶へ目を向けた。
確かに、その可能性はある。
水晶から放たれる特殊な気配を、弱い魔物は恐怖として感じる。しかし、強い魔物は強敵の存在と勘違いし、排除しようとするのかもしれない。
「……なるほどね」
悠真は小さく頷いた。
「でも、今はこいつを何とかしないと」
スノーゴーレムは両腕を使い、少しずつ身体を引きずっていた。
脚を失ってもなお、水晶へ向かおうとしている。
悠真は再び《エリア感知》を発動した。
今度は町全体ではなく、目の前のゴーレムへ意識を集中させる。
硬い氷の装甲。その内側に存在する魔力の流れ。
感覚をさらに深く探っていくと、胴体の中心付近に、周囲とは明らかに異なる強い反応があった。
「……あった」
「何がだ?」
レオンが振り返る。
「こいつの身体の中心に、魔力が集中している場所があるんだ。たぶん、魔物の核だと思う」
「核か……」
レオンはゴーレムの胴体を見つめた。
分厚い氷の装甲に覆われた中心部。普通の剣では到底届きそうにない。
「そこを壊せば、倒せるかもしれないってことだな」
「うん。でも、かなり深いところにある」
悠真は少し考えたあと、レオンへ顔を向けた。
「レオン、身体強化を限界まで使ったら、貫けないかな?」
「限界まで?」
「身体強化50倍のスキルカードがあるよね。それにメリーの身体強化魔法を重ねたら……」
レオンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに口元を緩めた。
「なるほど。面白いこと考えるな」
「でも、相当な負担がかかると思う」
「分かってるさ」
レオンは剣を握り直した。
「それでも、こいつを放っておくわけにはいかないだろ」
悠真はメリーを呼んだ。
負傷者の治療を続けていたメリーが駆け寄ってくる。
「どうしました?」
「レオンに身体強化魔法をかけてほしいんだ。できるだけ強く」
「レオンさんに?」
事情を聞いたメリーは、少し不安そうな表情を浮かべた。
「身体強化を重ねるんですね。でも、それだけの力を一度に使ったら、身体への反動が……」
「分かってる」
レオンが頷いた。
「終わったら治療を頼む」
「もう……本当に無茶ばかりするんですから」
メリーはため息をついたが、すぐに表情を引き締めた。
「分かりました。でも、絶対に無理をしすぎないでくださいね」
レオンは身体強化50倍のスキルカードを発動した。
全身に力が満ち、筋肉が内側から熱を帯びる。
そこへメリーが両手をかざした。
淡い光がレオンの身体を包み込む。
身体強化の魔法が重なった瞬間、レオンの足元で石畳が小さく軋んだ。
ミシッ……。
「……すごいな、これは」
レオンは自分の拳を握り、ゆっくりと開いた。
これまでに感じたことのない力が、全身を駆け巡っている。
単純な力の大きさなら、通常の百倍を超えているかもしれない。
だが、その力を身体が完全に受け止められる保証はなかった。
「悠真、核の位置を教えてくれ」
「胴体の中心。胸より少し下のあたりだよ」
「分かった」
レオンはスノーゴーレムへ近づいた。
ゴーレムは腕を振り回そうとしたが、両脚を失った身体では素早く向きを変えることができない。
レオンはその動きを見極め、一気に巨体の上へ跳び上がった。
ドンッ!
氷の装甲の上に着地する。
レオンは剣を逆手に持ち、切っ先を真下へ向けた。
狙うのは、ただ一点。
悠真が見つけた魔物の核。
「レオン! そこから少し右!」
「ここか!」
「そう! その真下!」
レオンは大きく息を吸った。
全身に満ちた力を、両腕から剣先へ集中させる。
分厚い氷の装甲を斬り裂くのではない。
一点を貫く。
そのための一撃だった。
「うおおおおおっ!!」
レオンが剣を振り下ろした。
ガギィィィィンッ!!
凄まじい金属音が広場に響き渡る。
剣先が硬い氷の装甲に食い込み、激しい抵抗がレオンの両腕へ伝わった。
「ぐっ……!」
肩から背中へ、強烈な衝撃が走る。
しかし、レオンは止まらなかった。
「まだだぁぁぁっ!」
さらに力を込める。
ミシミシミシッ!
剣先を中心に細かな亀裂が広がっていく。
バキバキバキッ!!
分厚い装甲が耐えきれず、内側へ向かって砕け始めた。
そして。
ズガァァァンッ!!
剣が氷の装甲を貫いた。
そのまま内部へ深く突き進み、胴体の中心にある核へ到達する。
パキィィィンッ!!
甲高い音が響いた。
次の瞬間、スノーゴーレムの全身が大きく震えた。
青く輝いていた両目の光が激しく明滅し、やがて完全に消える。
巨大な腕が地面へ落ちた。
ドスンッ!
そして、二度と動くことはなかった。
「……やった」
悠真が呟いた。
その声を合図にしたかのように、広場のあちこちから歓声が上がる。
「倒したぞ!」
「スノーゴーレムを倒した!」
「助かったんだ!」
長時間戦い続けていた冒険者たちが、次々と声を上げた。
しかし、その直後だった。
「ぐっ……!」
レオンが剣から手を離し、膝をついた。
「レオン!」
悠真が駆け寄る。
レオンの右腕は小刻みに震え、肩から背中にかけて激しい痛みが走っていた。
限界を超えた力を一度に使った反動だった。
「はは……さすがに、やりすぎたな」
レオンは苦笑した。
「笑ってる場合じゃないよ!」
悠真が支えようとすると、メリーが慌てて駆け寄ってきた。
「レオンさん! だから無理をしないでって言ったじゃないですか!」
「いや、無理しないと倒せなかったからな」
「そういう問題じゃありません!」
メリーは少し怒ったように言いながらも、すぐに回復魔法を発動した。
柔らかな光がレオンの右腕から肩へと広がっていく。
傷ついた筋肉や関節が少しずつ修復され、激しい痛みが和らいでいった。
「……助かったよ、メリー」
「しばらくは安静にしてくださいね。傷が治っても、疲労まで全部なくなるわけじゃありませんから」
「ああ、分かった」
レオンは素直に頷いた。
その様子を見て、悠真もようやく胸をなで下ろした。
二体のスノーゴーレムは討伐された。
水晶も無事だった。
ノルディアの町を襲った危機は、ひとまず去ったのだ。
しばらくすると、町の中心部から一人の男性が駆けつけてきた。
ノルディアの町長だった。
町長は広場に残された二体のスノーゴーレムの残骸を見渡し、それから悠真たちの前で深々と頭を下げた。
「皆さん、本当にありがとうございました。何度もこの町を助けていただき、感謝してもしきれません」
その声には、心からの安堵が滲んでいた。
周囲にいた冒険者や町の人々も、次々と頭を下げる。
「いえ、無事に守れてよかったです」
悠真はそう答えたが、すぐに表情を引き締めた。
「でも、町長さん。まだ安心はできません」
「……と、おっしゃいますと?」
悠真は巨大な水晶へ目を向けた。
「この水晶のおかげで、弱い魔物は町に近づけません。でも、今回のスノーゴーレムは、明らかに水晶を狙っていました」
「確かに……人々を追いかけるよりも、水晶へ向かっていたと聞いております」
「もしかすると、強い魔物には逆効果なのかもしれません」
悠真はラパンが口にした考えを説明した。
弱い魔物は水晶の放つ気配を恐れて近づかない。しかし、強い魔物はその気配を強敵の存在だと勘違いし、排除しようとする可能性がある。
「もちろん、まだ推測です。でも、今回のようなことがまた起きないとは限りません」
町長の顔から笑みが消えた。
「それでは、この町は……」
「だから、水晶を改良する必要があると思うんです」
悠真は力強く答えた。
「実は今、アストリアで水晶の研究をお願いしているんです。今回分かったことも伝えて、もっと安全な水晶にできないか相談してみます」
「そこまで考えてくださっているのですか……」
「せっかく守った町ですからね。これからも安心して暮らせるようにしたいんです」
町長はしばらく悠真を見つめていたが、やがてもう一度、深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます」
悠真は小さく頷き、広場を見渡した。
壊れた建物、砕けた石畳、傷ついた冒険者たち。
今回の戦いで、町は大きな被害を受けた。
それでも、住民たちの命と町を守る水晶は残っている。
遠くでは、メリーが引き続き負傷者の治療を行っていた。リズとクランも手伝い、ドゴルドは冒険者たちと協力して瓦礫を片付けている。
ララはまだ魔力が戻らず、近くの椅子に座って休んでいた。
レオンも治療を終えたものの、今は無理をせず身体を休めている。
悠真は水晶へ視線を戻した。
この巨大な水晶には、まだ分からないことが多い。
魔物を遠ざける力は、確かに町を守ってくれている。
しかし、その力が強い魔物を呼び寄せる原因になっているのだとしたら、根本から仕組みを見直さなければならない。
アストリアでは、アークとセレフィナが本物の水晶を調べてくれている。
研究がどこまで進んでいるのかは分からないが、今回の出来事は二人にとっても重要な情報になるはずだった。
「……次はアストリアだな」
悠真が小さく呟くと、隣にいたレオンが顔を上げた。
「水晶の研究か?」
「うん。これ以上、同じようなことを繰り返さないためにもね」
レオンは静かに頷いた。
空を見上げると、いつの間にか雲の切れ間から柔らかな日差しが差し込んでいた。
その光を受けて、巨大な水晶が淡く輝いている。
悠真はその輝きを見つめながら、次に向かうべき場所を心に決めた。
ノルディアを守る戦いは終わった。
だが、魔物から人々の暮らしを守るための新たな課題が、今、目の前に現れていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
悠真が覚えたばかりの《スリープ》が、思わぬところで大活躍!
そして、レオンの限界を超えた一撃によって、ようやくスノーゴーレムとの戦いに決着がつきました。
しかし、今回の襲撃で明らかになった水晶の新たな問題。
次回からは、その解決に向けて物語が動き始めます。
続きが気になる方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
今後とも『異世界は金で強くなる』をよろしくお願いします!




