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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第146話 白く凍りついた街

スノードラゴンがもたらした猛烈な吹雪。


ようやく風が弱まり、悠真たちはウィストンの外へ出る。


そこで目にしたのは、一時間前とはまるで違う街の姿だった。

ノルディアの街を、猛烈な吹雪が覆い尽くしていた。


 ゴオオオオオオオッ!!


 唸るような風が建物の間を駆け抜け、雪を巻き上げていく。


 ほんの少し先さえ白く霞み、街の姿はほとんど見えない。


 そんなノルディアの外れに、巨大な飛行船が降りていた。


 《ディアボロティクス》。


 普段であれば、その巨体が現れただけで街中が騒ぎになっていただろう。


 だが、今は違う。


 通りには人影一つない。


 住民たちは建物の中へ避難し、固く扉を閉ざしている。


 吹雪の中を降下してきた巨大な影を窓から目撃した者がわずかにいた程度で、街のほとんどの人間は飛行船が着陸したことさえ知らなかった。


 その《ディアボロティクス》も無傷ではない。


 船体の右側には分厚い氷がこびりつき、白く覆われている。


 スノードラゴンのブレスを受けた痕だった。


 船内では、ディアボロスが窓の向こうを見つめていた。


「まだ止みそうにないな」


 視界を埋め尽くす雪を眺め、眉を寄せる。


 スノードラゴンから逃げ切るため、《ディアボロティクス》は最高速度で飛び続けた。


 その結果、動力となる魔法石を大量に消費している。


 このままでは拠点まで帰れない。


「魔法石を補充してこい。それと右側の凍結も確認してこい」


「分かりました」


 数人の部下が防寒具を身につけ、船外へ向かった。


 扉が開く。


 その瞬間だった。


 ゴオオオオオッ!!


「うわっ!」


 猛烈な風とともに、大量の雪が船内へ飛び込んできた。


 部下たちは身体を低くしながら外へ出る。


 しかし、わずか数歩進んだところで足が止まった。


「なんだ、この風……!」


「前が見えねえ!」


 顔を上げることすら難しい。


 目を開けば細かな雪が容赦なく飛び込み、頬に当たる雪が針のように痛い。


 足元にも次々と雪が積もっていく。


 街へ向かおうにも、建物がどこにあるのかさえ分からない。


 それでも一人が船体右側へ回ろうとしたが、強烈な横風に身体を持っていかれそうになり、慌てて船体へしがみついた。


「無理だ! 戻るぞ!」


 数分もしないうちに全員が引き返した。


 扉が閉じられる。


「ディアボロス様」


 雪まみれになった部下が息を整える。


「この吹雪では街まで行けません。右側も確認しようとしましたが、まともに作業できる状態ではありません」


「そうか」


 ディアボロスは窓の外へ目を向けた。


 今すぐ飛び立つだけの魔法石は残っている。


 だが、拠点まで帰るには足りない。


 船体右側の凍結も、そのままにはしておけない。


 だからといって、この吹雪の中で無理に作業させる意味もなかった。


「仕方ない。今日はここで待つぞ」


「よろしいのですか?」


「外に出られないんじゃ、どうしようもないだろ。吹雪が弱まってから魔法石を買いに行け」


「分かりました」


 部下が頭を下げる。


 船内の別室では、カインとダイマの治療が続いていた。


 二人とも命は取り留めている。


 だが、スノードラゴンのブレスによって長時間凍結していた身体へのダメージは大きい。


 すぐに動ける状態ではなかった。


 ディアボロスは腰に下げた聖剣マクベスへ一度だけ視線を落とした。


 そして何も言わず、再び窓の外を見る。


 ゴオオオオオオオッ!!


 ノルディアを覆う吹雪は、まだ止む気配を見せていなかった。


 それから、およそ一時間。


 ウィストンでは、ようやく風が弱まり始めていた。


「……少し静かになったな」


 武器屋の窓から外を見ていた悠真が呟いた。


 つい先ほどまで、窓の向こうは真っ白だった。


 今も雪は降っている。


 それでも、ようやく向かい側の建物が見える程度には視界が戻っている。


 レオンが扉へ近づいた。


「どうやら出られそうだな」


「行ってみよう」


 悠真たちは武器屋の外へ出た。


 冷たい空気が、一気に肌へ突き刺さる。


「寒っ……」


 リズが思わず肩を縮める。


 だが、その直後。


 誰も言葉を発せなくなった。


「……なんだよ、これ」


 悠真の声が漏れる。


 目の前に広がっていたのは、つい一時間ほど前まで歩いていた街とは思えない光景だった。


 ウィストンの街が、白く凍りついている。


 建物の壁には雪と氷が張りつき、屋根からは太い氷柱が伸びていた。


 店先に出されていた看板は吹き飛ばされ、道の端に転がっている。


 どこかの家から飛ばされた木材。


 割れた樽。


 砕けたガラス。


 荷物や布。


 ありとあらゆる物が道に散乱していた。


 外壁の一部が崩れている建物もある。


 屋根が剥がれ落ちた家では、住民たちが呆然と空を見上げていた。


 港の方からも騒ぎ声が聞こえてくる。


 係留されていた船の一部が強風に煽られ、岸壁へ激しく打ちつけられたらしい。


「これはひどい……」


 ララが小さく呟いた。


 メリーも言葉を失っている。


 人々が少しずつ建物から出てきていた。


 家族の無事を確認する者。


 倒れた木材を運ぶ者。


 壊れた家を見上げる者。


 泣いている子供を抱きしめる母親。


 そして。


 悠真の足が止まった。


 少し離れた場所に、人が集まっている。


 その中心に白い布が掛けられていた。


「……まさか」


 悠真が近づこうとすると、ドゴルドが静かに言った。


「行かなくていい」


 その声だけで分かった。


 助からなかった人がいる。


 吹雪が来たとき、すぐに建物へ逃げ込めなかった者。


 猛烈な冷気に晒され、身体が耐えられなかった者。


 それだけではない。


 別の場所では壊れた木材のそばで、人々が沈痛な表情を浮かべていた。


 強風で飛ばされた物が直撃したらしい。


「……たった一時間だぞ」


 悠真が呟く。


 誰も答えられない。


 たった一時間。


 それだけで街の姿が変わった。


 亡くなった人までいる。


 悠真は拳を握った。


「やっぱり……行こう」


 レオンが悠真を見る。


「どこへだ」


「スノードラゴンのところだよ」


「何をするつもりだ?」


「それは……」


 悠真は言葉に詰まった。


 それでも目を逸らさない。


「このまま放っておけないし。またこんなことになったらどうするんだよ」


「だからって、お前が行って何ができる」


 レオンの声が少し強くなる。


「マクベスもないんだぞ」


 悠真が黙る。


 聖剣マクベス。


 スノードラゴンに対抗するためにウィストンまで探しに来た。


 だが、そのマクベスは数日前に何者かへ売られてしまった。


「マクベスがあったとしても、どうなるか分からない相手だ」


 レオンは続ける。


「それを何もなしで見に行くなんて、あまりにも無謀だ」


「でも……」


「近づくだけでも危険かもしれない」


 悠真は反論できなかった。


 実際、あの巨大なスノードラゴンを初めて見たとき、自分たちは遠くから眺めただけだった。


 戦ってすらいない。


 その相手が本当にこの吹雪を引き起こしたのだとしたら。


 自分たちが想像していた以上の存在なのかもしれない。


「……くそ」


 悠真が小さく吐き出した。


 そのとき。


「俺は、それとは別に気になってることがある」


 ドゴルドだった。


「何?」


 悠真が振り返る。


 ドゴルドは少し考えてから口を開いた。


「スノードラゴンがいた場所だ」


「場所?」


「俺も本物のドラゴンを見たのは、この前が初めてだ。そもそもアルファ山脈の奥なんて、人間が暮らせる場所じゃねえ。魔物の住処だ」


 ドゴルドは遠くに霞む山々へ目を向ける。


「ただ、昔から言われてることがある」


 悠真たちは黙って聞く。


「ドラゴンが本当にいるなら、アルファ山脈のもっと西の奥地だってな」


 ララが眉を寄せた。


「西側……」


「そうだ」


 ドゴルドが頷く。


「だから俺も最初に見たときから不思議だった。なんであいつがノルディアの近くにいるんだって」


 悠真も考える。


「移動してきたってこと?」


「たぶんな」


「でも、なんで?」


「それが分からねえ」


 ドゴルドは首を振った。


「伝説でしか知られてない魔物だ。俺に分かるのは、あそこにいること自体がおかしいってことくらいだ」


 悠真はアルファ山脈の方を見る。


 白く霞んだ山々。


 そのさらに奥。


 人間が踏み込むことのできない場所で、何かが起きているのかもしれない。


 ララが不意に顔を上げた。


「待って」


「どうした?」


「もし、この吹雪が本当にスノードラゴンの影響なら……」


 その表情が険しくなる。


「ノルディアは?」


 全員の顔色が変わった。


 スノードラゴンがいた場所は、ウィストンよりもノルディアに近い。


 ここですら、この惨状。


「……まずいな」


 レオンが呟く。


「ノルディアへ戻ろう」


 悠真が即座に言った。


「そうだね。ノルディアがどうなってるか確認しないと」


 今度はレオンも止めなかった。


 しかし。


「今日は無理です」


「えっ?」


 悠真が思わず聞き返した。


 移動手段を確認しに行った先で、係員は申し訳なさそうに首を振った。


「まだ安全確認ができていません。吹雪は弱まりましたが、途中でまた強くなる可能性もあります」


「ノルディアまで行けないんですか?」


「少なくとも今日の運行再開はありません」


 悠真は肩を落とした。


「マジか……」


「仕方ないよ」


 リズが言う。


「さっきまで、あんな吹雪だったんだから」


 ララも頷いた。


「今日はウィストンに泊まりましょう。明日の朝、もう一度確認すればいいわ」


「……そうするしかないか」


 幸い、前に泊まっていた宿屋は無事だった。


 宿は元々、多くの旅人を受け入れるために他の家屋より頑丈に造られている。


 窓や壁に雪と氷が張りつき、一部に小さな損傷はあったものの、宿泊には問題なかった。


 悠真たちは再びそこで一夜を過ごすことになった。


 夕方になる頃には、街のあちこちで雪かきや片づけが始まっていた。


 完全に元通りになるには時間がかかる。


 それでも人々は少しずつ動き始めていた。


 夜。


 悠真たちが宿の一階に集まっていると、扉が開いた。


「ここにいたか」


「ボッツさん?」


 入ってきたのはボッツだった。


 外から来たばかりなのか、肩にはまだ雪が残っている。


「ノルディアの情報が入った」


 全員が一斉に顔を上げた。


「どうなってるんですか?」


 悠真が立ち上がる。


「かなり酷いらしい。ウィストン以上の吹雪だったそうだ」


「やっぱり……」


 ララの表情が曇る。


 ボッツは続けた。


「町長同士が共有カードで状況を確認してる。まだ被害の全容までは分からないが、街の外に出られない時間がかなり続いたらしい」


「亡くなった人は?」


「そこまではまだ分からん」


 悠真は唇を噛んだ。


「それと、もう一つ妙な話がある」


「妙な話?」


「そうだ」


 ボッツが首を傾げる。


「吹雪の中、ノルディアにとんでもなく大きな飛行船が降りてきたらしい」


「飛行船?」


 悠真が聞き返す。


「そんな天気の中で?」


「ノルディアの住民もほとんど外に出てなかったから、詳しく見た人間は少ないそうだ。ただ、かなり巨大な飛行船らしい」


 レオンが眉を寄せる。


「どこから来たんだ?」


「分からん。それと、船体の右側がかなり凍りついているらしい」


「凍ってる……?」


 リズが不思議そうに呟いた。


「この吹雪の中を飛んできたからかな」


「可能性はあるな」


 レオンが答える。


 悠真たちは突然現れた巨大な飛行船について話し始める。


 だが。


 その少し後ろで。


 クランだけが黙っていた。


 巨大な飛行船。


 その言葉に、一つだけ心当たりがあった。


 ディアボロスが所有する巨大飛行船。


 《ディアボロティクス》。


 クランは一瞬だけ考える。


(……ディアボロス様?)


 だが、すぐに小さく首を振った。


(……まさかね)


 窓の外では、静かになったウィストンの街に、再び白い雪がゆっくりと降り始めていた。

ウィストンに大きな爪痕を残した吹雪。


しかし、本来もっと西にいるはずのスノードラゴンが、なぜノルディアの近くに現れたのか。


そしてノルディアには、吹雪の中で現れた謎の巨大飛行船。


クランの頭に、一人の人物が浮かびます。


次回、悠真たちはノルディアへ。

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