第143話 三十億マニー、用意しました
【前書き】
海賊船の宝と人魚の首飾りが、ついに大金へ。
目標だった三十億マニーを用意した悠真たち。
いよいよ聖剣マクベスを手に入れるため、ウィストンへ向かいます。
三十億マニー。
その金額を聞いた瞬間、共有カードの向こうが静かになった。
『……本当に?』
「本当だ」
レオンが短く答える。
「兄貴が海賊船の宝と人魚の首飾りをまとめて三十六億で売った」
『三十六億!?』
今度はリズの驚いた声が響いた。
『ちょっと待って。じゃあ六億多いじゃない』
「兄貴が俺の取り分だって」
『六億も!?』
共有カードの向こうが急に騒がしくなる。
それを聞いていたガイオが、レオンの横から声を上げた。
「聞こえてるぞ! 誰のおかげで三十六億になったと思ってんだ!」
『ガイオ?』
「そうだ!」
『でも六億は取りすぎじゃない?』
「俺がいなかったら三十六億にはなってねえよ!」
リズの声に、悠真が吹き出した。
「まあ、それはそうだけど」
「だろ?」
「でも六億なんだよなあ」
「まだ言うか!」
ガイオの声が部屋に響き、悠真たちは笑った。
六億という金額だけ聞けば、とんでもない取り分だ。
それでもガイオがいなければ、海賊船の宝や人魚の首飾りをここまで高く売ることはできなかっただろう。
「それより、そっちはどうだった?」
悠真が共有カードへ向かって尋ねる。
『こっちも終わったわ。水晶は母とアークに預けてきたわ』
「それでどうなの? 強くできそう?」
『まだ分からないって。少し時間をかけて調べてみるみたいよ』
「そっか」
『何か分かったら連絡してくれるって』
「じゃあ、とりあえず一段落だな」
『そうね』
悠真はレオンを見る。
レオンも小さく頷いた。
「だったら、こっち来れば? 三十億も見せたいし」
『三十億を見せたいって何よ』
「いや、実はまだ俺たちも見てないけどみんなが来てからにする」
『分かったわ。じゃあ、すぐ行く』
「会社の地下な」
『分かってるわよ』
そこで共有カードの通信が切れた。
しばらくして。
ガイオの会社の地下にある魔法陣が淡い光を放った。
光が収まると、ララ、リズ、ラパン、メリーの四人が立っている。
「着いたわよ」
ラパンとメリーは、初めて見る地下室を珍しそうに見回した。
しばらくして四人がガイオの部屋へ入ってくると、悠真たちは椅子に座って待っていた。
「ところで三十億は?」
リズが入ってくるなり尋ねる。
「いきなりそれ?」
「だって見たいじゃない」
「俺より先に金かよ」
「悠真はいつでも見られるでしょ」
「そういう問題?」
ガイオが笑いながら収納鞄へ手を入れた。
「まあ、見せてやるよ」
取り出したのは、一枚の大きな金貨だった。
悠真たちが普段使っている金貨とは明らかに違う。
中金貨よりも大きく、厚みもある。表面には細かな模様が刻まれ、中央には王冠を思わせる紋章が彫られていた。
リズが顔を近づける。
「何、この金貨?」
「王金貨だ」
「王金貨?」
悠真も初めて聞く名前だった。
「一枚一千万マニー」
「一千万!?」
悠真の声が思わず大きくなる。
ラパンもガイオの手元を覗き込んだ。
「一枚で一千万なのか?」
「そうだ」
「こんなの初めて見たぞ」
「普通は見る機会なんかねえよ」
ガイオにとっては珍しくもないらしく、王金貨を指先でつまんでいる。
「普段使うのは金貨だろ。多少大きな金が動いても中金貨までだ。大金貨や王金貨なんて、大商人や貴族がでかい取引をするときくらいしか出てこねえ」
「大金貨もあるの?」
「あるぞ。大金貨が百万マニー。王金貨が一千万マニーだ」
「知らなかった……」
悠真が王金貨を見つめる。
これまで悠真が目にしたことがあるのは、せいぜい中金貨までだった。
考えてみれば、一枚一千万マニーもの金貨を一般人が普通に目にする機会などあるはずもない。
「じゃあ三十億って……」
「王金貨三百枚だな」
「三百枚」
悠真は少し考えてから頷いた。
「それなら持っていけるな」
「当たり前だ」
「金貨三十億枚だったらどうしようかと思ってた」
「どうやって運ぶつもりだったんだよ!」
「収納鞄?」
「入れる前に数えるだけで一生終わるわ!」
ガイオの突っ込みに笑いが起こった。
悠真も笑いながら、もう一度王金貨を見る。
三十億マニー。
数字だけを聞いていた時は、どこか現実味がなかった。
だが、こうして実際に金を目の前にすると、ようやく実感が湧いてくる。
本当に用意できた。
あの聖剣マクベスを買えるだけの金を。
「明日、ウィストンに行こう」
悠真が言った。
「マクベスを買いにね」
「そうね」
ララも頷く。
海底ダンジョンへ潜り、沈没した海賊船を見つけた。
さらにエーデルまで足を延ばし、フロストオーガとも戦った。
そうして手に入れた宝が、ようやく聖剣マクベスへと変わる。
「よし!」
突然、ガイオが立ち上がった。
「今日はお祝いだ!」
「お祝い?」
「苦労して三十億用意したんだぞ。祝わないでどうする!」
「マクベスを買ってからでもよくない?」
「細かいこと言うな!」
ガイオはすでにその気になっていた。
「もう遅いし、今日はうちに泊まってけ。シェフも呼んである」
「今から?」
「今からだ」
悠真は窓の外を見る。
すでに日も暮れている。
「今から呼んで来るの?」
「来るぞ」
「そんな簡単に?」
「金を払えばな」
「……金持ち怖ええ」
「便利と言え!」
ガイオの笑い声が部屋に響いた。
その夜。
ガイオの屋敷の食堂には、豪華な料理が並んでいた。
香ばしく焼かれた大きな肉料理。
新鮮な魚を使った料理に、色鮮やかな野菜の前菜。
湯気の立つスープと焼きたてのパンまで用意されている。
「本当にシェフ来たんだ……」
悠真は料理よりも、厨房から出てくる料理人たちを見ていた。
「そりゃあ呼んだんだから来るだろ」
ガイオには当たり前らしい。
「俺とは住んでる世界が違うなぁ」
「悠真は、地球と行き来してるだろ」
レオンが横から言う。
「そういう意味じゃないよ」
悠真が笑う。
料理が揃うと、今度は酒が運ばれてきた。
ガイオをはじめ、大人たちのグラスへ次々と酒が注がれていく。
悠真の前にも酒瓶が近づいてきた。
「俺はジュースでいいよ」
悠真はすぐに断った。
「飲まないのか?」
「前に飲まされて懲りたんだよ。もういい」
あの時のことを思い出せば、もう一度飲んでみようという気にはならなかった。
クランの前にもジュースが置かれる。
「もちろんクランもこっちだな」
「はい」
「俺たちは平和にいこう」
「ジュースを飲むだけですよね?」
「そりゃそうだけど」
クランが小さく笑った。
「よし!」
ガイオがグラスを持って立ち上がる。
「三十億達成と、明日の聖剣マクベス購入を祝って!」
全員がグラスを手にした。
「乾杯!」
いくつものグラスが掲げられる。
悠真もクランとジュースのグラスを軽く合わせた。
「乾杯」
「乾杯です」
食事が始まると、食堂はすぐに賑やかになった。
ガイオは酒が入るにつれて声が大きくなり、ラパンも負けじと飲んでいる。
「ちょっと、飲みすぎないでよ」
メリーがラパンのグラスを見る。
「これくらい平気だって」
「明日起きられなくなっても知らないからね」
「大丈夫だって!」
「その言葉が一番信用できないのよ」
リズはリズで、料理を次々と皿へ取っている。
「リズ、結構食べるな」
「いいじゃない。お祝いなんだから」
「さっきからずっと食べてない?」
「悠真も食べれば?」
「食べてるよ」
「なら問題ないわね」
「何が?」
あちこちから笑い声が上がる。
ここしばらくは、海底ダンジョンやエーデルへの移動、フロストオーガとの戦いと慌ただしい日が続いていた。
こうして全員でゆっくり食事をするのは久しぶりだった。
「ついに明日か」
悠真が料理を食べながら呟く。
「何が?」
リズが尋ねる。
「いや、武器屋のおじさん、どんな顔するのかなと思ってさ」
「三十億を持っていったら?」
「うん」
悠真は楽しそうに笑った。
「あのおじさん、絶対俺たちが本当に用意できると思ってなかっただろうし」
「普通は無理だと思うわよ」
ララも笑う。
「『本当に持ってきましたよ』って言ってやろう」
「それを楽しみにしてるの?」
「ちょっとな」
「子供みたい」
「いいだろ、別に」
また笑いが起こった。
悠真はジュースを一口飲みながら、明日のことを考えワクワクしている。
聖剣マクベス。
ようやく手に入る。
そう思うだけで、自然と顔が緩んだ。
翌朝。
悠真たちは朝食を済ませると、すぐに出発の準備を整えた。
目的地はウィストン。
悠真は双界カードを取り出す。
「ボッツ、聞こえる?」
少しして返事があった。
『悠真か』
「今、大丈夫?」
『大丈夫だ。どうした?』
「そっちに行きたいんだけど」
『構わないぞ』
「じゃあ今から行く」
互いに承認する。
双界カードが淡い光を放った。
悠真たち全員の姿が光に包まれる。
次の瞬間、景色が変わった。
「お、来たな」
すぐ近くから声がする。
悠真が顔を上げると、そこにはボッツが立っていた。
「ありがとう、ボッツ」
「構わん。それより、例の剣を買いに行くんだろ?」
「うん。三十億もちゃんと持ってきた」
悠真は収納鞄を軽く叩く。
「じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
ボッツに見送られ、悠真たちは武器屋へ向かった。
「さあ行こうか」
目指す場所は一つだった。
古い石造りの武器屋。
雪と潮風にさらされ、文字の薄くなった剣の看板。
以前と何も変わっていない。
悠真は少しだけ笑った。
「おじさん、驚くだろうな」
「まだ言ってる」
リズが呆れたように笑う。
悠真は扉を開けた。
金属と油の匂いが鼻をくすぐる。
「いらっしゃ……」
作業台にいた店主が顔を上げた。
悠真たちを見ると、目を少し大きくする。
「お前たちか」
「おじさん」
悠真は笑顔で店主の前まで歩いていった。
「持ってきましたよ」
「何を?」
「三十億マニー」
「……は?」
店主の動きが止まった。
「言ったでしょ」
悠真は収納鞄を軽く叩く。
「本当に三十億持ってきたら、その時は考えてやるって」
「……」
「本当に持ってきました」
悠真は店主の反応を待った。
驚くだろう。
もしかすると、冗談だと思って笑うかもしれない。
ところが。
店主は笑わなかった。
「……そうか」
どこか歯切れが悪い。
悠真は首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「いや……」
店主が言いにくそうに視線を逸らす。
その様子に、悠真は妙なものを感じた。
ふと店の奥を見る。
以前来た時。
他の武器とは離れた場所に、一振りの剣が飾られていた。
聖剣マクベス。
だが。
「……あれ?」
悠真の笑顔が消えた。
ない。
マクベスが飾られていた場所には、何もなかった。
「おじさん」
悠真がゆっくりと店主を見る。
「マクベスは?」
店主は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「悪いな」
一瞬、言葉を切る。
「数日前に売れたんだよ」
「ええっー!?」
ついに三十億マニーを用意!
これで聖剣マクベスを手に入れられると、完全にその気になっていた悠真たちでしたが……。
まさかの数日前に売却済み。
いったい誰が、三十億マニーもの大金を出してマクベスを買ったのか。
次回、その裏側が明らかになります。
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