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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第139話 海を制した者の富

三本の鍵に導かれ、ついに地下へと足を踏み入れた悠真たち。


その先に待っていたのは、想像していた海賊の宝とは少し違うものでした。


海を制した者が、本当に大切にしていたものとは。


そして、約五十年前に滅びたエーデルの過去にも迫ります。

石造りの階段は、地上から想像していたよりも深く続いていた。


 ララが手のひらの上に浮かべた光が、古びた壁を淡く照らしている。


 悠真たちは一列になり、足元を確かめながらゆっくりと下りていった。


「まだ続くのかよ……」


 後ろからラパンの声が聞こえる。


「さっきまで魔物と戦って、今度は地下か。今日はずっと働いてる気がするぞ、俺」


「ラパン、ずっと喋ってるけど元気そうじゃん」


「リズ、それとこれとは別だ。怖いから喋ってるんだよ」


「自分で言うんだ……」


 そんな二人のやり取りを聞きながら、悠真は苦笑した。


 フロストオーガとの戦いを終えたばかりだ。


 リズはメリーの治療のおかげで歩けるようになったものの、《超加速》を使った反動は完全には消えていない。メリー自身にも疲労が見える。


 できれば、この先に戦闘が待っていないことを願いたい。


 やがて階段が終わった。


 その先には、まっすぐ伸びる石造りの通路があった。


 空気は冷たい。しかし、不思議なほど乾いている。


「かなり古そうですね」


 クランが壁へ目を向ける。


「五十年どころじゃなさそうだな」


 ドゴルドが答えた。


「元々、海賊が使っていた場所なら、それよりずっと昔からあったのかもしれん」


 悠真たちは通路を進んだ。


 そして数分後。


 先頭を歩いていた悠真が足を止めた。


「……なんだ、これ」


 目の前に巨大な扉があった。


 それだけなら驚くほどではない。


 問題は、その色だった。


「金……?」


 リズが目を丸くする。


 地下の薄暗い通路には似つかわしくないほど、扉は金色に輝いていた。


 表面には波や船、人魚らしき姿まで細かく彫られている。


 ラパンが素早く前へ出た。


「金か? 本物の金なのか?」


「削ろうとするなよ」


「まだ触ってねえ!」


 レオンに止められ、ラパンが手を引っ込める。


 悠真は扉の中央を調べた。


 そこには見覚えのある形の穴がある。


「鍵穴だ」


 地上の入口を開けるために一本使った。


 残っている鍵は二本。


 悠真は収納袋から取り出すと、一つ目を差し込んだ。


 入らない。


 続いて、もう一本。


 今度は奥まで入った。


「これか」


 ゆっくり回す。


 ガチャリ。


 長い年月、閉ざされていたとは思えないほど澄んだ音が響いた。


 全員で扉を押す。


 重い扉が、低い音を立てながら開いていく。


 その先へララの光が入り込んだ。


「……綺麗」


 最初に声を漏らしたのはリズだった。


 部屋の壁を埋め尽くすように、何枚もの絵が飾られていた。


 描かれているのは、ほとんどが一人の女性だった。


 青く澄んだ海を泳ぐ姿。


 岩場に腰掛けて水平線を眺める姿。


 長い髪を海風になびかせ、楽しそうに笑う姿。


 腰から下には、美しい尾びれが描かれている。


「人魚……」


 メリーが呟いた。


 どの絵にも、同じ人魚が描かれている。


 そして部屋の一番奥には、ひときわ大きな絵があった。


 そこには人魚だけではなく、一人の男も描かれていた。


 海賊らしい服装をした大柄な男。


 男の隣で、人魚が幸せそうに微笑んでいる。


 二人の距離は近い。


「夫婦……なのかな?」


 リズが首を傾げる。


「少なくとも、ただの知り合いには見えないわね」


 ララが絵を見上げる。


 そのとき、クランが部屋の隅に置かれた古い机を見つけた。


「悠真さん、こちらに本があります」


 革張りの分厚い本だった。


 表紙は傷んでいたが、中の文字はまだ読める。


 航海日誌。


 悠真がページをめくると、途中から航海の記録とは違う内容が増えていた。


『今日、エリスと出会った』


 悠真が読み上げる。


「エリス……あの人魚の名前か?」


 レオンが絵を見る。


 さらにページを進める。


 日誌を書いた男の名は、ダリオン。


 海賊たちを率いて海を渡り、数え切れないほどの財宝を手にした船長だった。


 しかし、ある時を境に日誌にはエリスのことばかりが記されるようになっていた。


 海で出会い、何度も会ううちに惹かれ合ったこと。


 やがてエリスがダリオンと共に過ごすため、陸上で暮らす時間が増えていったこと。


 壁の絵も、その頃に描かれたものらしい。


「海賊の日誌というより、恋愛日記じゃねえか」


 ラパンが言った。


「いいじゃん。幸せそうだし」


 リズは気に入ったらしく、次々と絵を眺めている。


 しかし、日誌の後半になると内容が変わった。


『エリスの病は、今日もよくならない』


 悠真の声が自然と低くなる。


『金ならいくらでもある。世界中の薬を集めてもいい。それなのに、どうして誰にも治せない』


 次のページ。


 さらに次のページ。


 ダリオンは医者を呼び、薬を集め、遠い土地にまで治療法を求めた。


 それでもエリスの病は治らなかった。


 最後まで、ダリオンには原因が分からなかったらしい。


「……たぶん、太陽ね」


 ララが静かに言った。


「太陽?」


「昔読んだ記録にあったの。人魚は長期間、強い日差しを浴び続ける生活には向いていないって。すぐにどうこうなるわけじゃないけど、何年も陸で暮らしていると身体を壊すことがあるらしいわ」


 悠真は壁に描かれたエリスを見る。


 ダリオンと一緒にいたかった。


 ただ、それだけだったのだろう。


 日誌の最後の方には、エリスを失ったダリオンの言葉が残されていた。


 それからも彼は長く生きたらしい。


 そして寿命を迎え、静かにその生涯を終えた。


 部屋の一番奥。


 二人が並んだ大きな絵の下に、石造りの棺が置かれている。


「じゃあ、あれが……」


「ダリオンでしょうね」


 ララが答える。


 誰も棺へ触れようとはしなかった。


 その代わり、悠真は少し離れた場所に置かれた巨大な箱へ目を向けた。


「こっちは……宝箱か?」


 人一人なら余裕で入れそうな大きさだった。


「棺じゃないよね?」


 リズが恐る恐る尋ねる。


「鍵穴があるぞ」


 レオンが指差す。


 悠真は手元を見る。


 最後の一本。


「三本目はこれか」


 鍵を差し込む。


 今度は迷うことなく回った。


 カチッ。


 ドゴルドとレオンにも手伝ってもらい、重い蓋を持ち上げる。


「うわ……」


 中を覗いたリズが息を呑んだ。


 金貨でも宝石でもなかった。


 箱の中いっぱいに、美しい鱗が敷き詰められていた。


 淡い青や銀、角度によって虹色にも見える。


「これ、人魚の鱗よ」


 ララが一枚を慎重に確認する。


「価値あるのか?」


 悠真が尋ねると、ララは呆れたように顔を上げた。


「あるなんてものじゃないわ。高位の治療薬に使われる希少素材よ。不治の病に使う薬の材料になるともいわれてる」


「これ全部?」


 リズが箱を見る。


「全部ね」


 ラパンの顔が引きつった。


「……おい。この箱、首飾りがなくても宝じゃねえか」


「首飾り?」


 悠真が鱗の中央を見る。


 そこには、一つの首飾りが置かれていた。


 いくつもの宝石が使われた、美しい首飾り。


「あっ!」


 リズが突然、壁を指差した。


「これ、エリスがつけてる!」


 大きな絵。


 ダリオンの隣で微笑むエリスの胸元に、同じ首飾りが輝いている。


 日誌には、ダリオンが長年集めた財宝の中から最高の宝石だけを選び、職人に作らせたと記されていた。


 エリスへの贈り物だった。


 悠真は改めて宝箱を見る。


 海を制した者の富。


 それは単なる金銀財宝ではなかったのかもしれない。


 ダリオンが最後まで大切にした、エリスとの人生そのものだった。


「……持っていくの、ちょっと悪い気がしてきたな」


 悠真が呟く。


「分かる」


 リズも珍しく真面目な顔で頷いた。


 そのときだった。


「悠真さん」


 部屋の奥を調べていたクランが呼んだ。


「こちらにも何かあります」


 布を取り払うと、巨大な水晶が姿を現した。


 人の背丈ほどもある。


「これも宝か?」


 ラパンが近づこうとしたが、ララが先に水晶へ手をかざした。


 その表情が変わる。


「……魔力が残ってる」


 水晶のそばには、日誌とは別の古い記録が置かれていた。


 ダリオンの死後、彼を慕っていた者が残したものだった。


『船長が眠りについて三年。ようやく、あの人にふさわしいものを見つけた』


『エーデルの港に飾られていた大水晶だ。町の連中が大切にしているらしい』


『偽物とすり替えておいた。すぐには気づかれないだろう』


『これほど見事なものなら、船長への手向けにふさわしい』


 読み終えた悠真の横で、ラパンが眉をひそめる。


「……いや、普通に盗んでるじゃねえか」


 誰も否定できなかった。


 だが、ララだけは笑わなかった。


 水晶へ触れ、目を閉じている。


「ララ?」


「待って」


 しばらくして、ララがゆっくり目を開けた。


「これ……ただの水晶じゃない」


 その声から、先ほどまでの柔らかな空気が消えていた。


「内部に特殊な魔力が残ってる。かなり広い範囲へ作用するように作られてるわ」


「何のために?」


 悠真が尋ねる。


 ララは一度、水晶を見上げた。


「魔物除けよ」


 部屋が静まり返った。


 悠真の頭に、ネイロから聞いた話が蘇る。


 かつて栄えた港町エーデル。


 そして約五十年前。


 大量の魔物に襲われ、人々が逃げ出し、ついには捨てられた町。


「……待てよ」


 悠真は水晶を見る。


 リズも気づいたらしい。


 さっきまでの明るい表情が消えていた。


「この水晶が……なくなったから?」


 ララはすぐには答えなかった。


 ダリオンへの手向けとして盗まれた水晶。


 盗んだ本人は、その本当の役割を知らなかった。


 ただ、亡き船長に最高のものを贈りたかっただけなのだろう。


 しかし、その善意で持ち去られたものが、エーデルを魔物から守っていたのだとしたら。


 悠真はもう一度、巨大な水晶を見上げた。


 五十年前に滅びた港町。


 その理由が今、静かな地下室で一つにつながろうとしていた。

第139話をお読みいただき、ありがとうございます!


海賊船長ダリオンと、人魚エリス。


地下に残されていたのは、二人が共に生きた証ともいえる宝でした。


人魚の鱗に、エリスへ贈られた首飾り。悠真たちにとっては思わぬ大発見となりましたが、最後に見つかった巨大な水晶によって空気は一変。


約五十年前、なぜエーデルは大量の魔物に襲われたのか。


偶然見つけた海賊の宝が、思わぬところで町の過去へとつながってきました。


次回、この水晶をどうするのか。そして手に入れた宝がどれほどの価値を持つのかにも注目です。


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