第138話 これで終わりだ
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
悠真へ迫る、フロストオーガの強烈な一撃。
《絶風壁》を使う暇もなく、レオンたちも間に合わない。
絶体絶命の悠真を救うため、動いたのはリズでした。
長く続いたフロストオーガとの戦いも、ついに決着へ。
今回もよろしくお願いします!
「悠真、危ない!」
レオンの叫びが雪原に響いた。
フロストオーガが振り抜いた巨大な棍棒。その軌道から放たれた斬撃のような衝撃波が、雪を巻き上げながら悠真へ迫ってくる。
避けなければ。
頭では分かっている。しかし《烈風斬》を放った直後で、振り抜いた身体がまだ戻っていない。
《絶風壁》を使えば防げるかもしれない。
だが、それすら間に合わなかった。
「くっ……!」
レオンとドゴルドも動こうとしていた。しかし二人ともフロストオーガの左右へ回り込んでいたため、悠真との距離が離れすぎている。
衝撃波が目前まで迫る。
その瞬間。
「間に合って!」
リズが懐から一枚のカードを取り出した。
すでにメリーの身体強化魔法を受けている身体へ、さらにカードの力が重なる。
「《超加速》!」
カードが眩い光を放った。
次の瞬間、リズの姿が消えた。
「えっ?」
悠真が声を漏らした時には、横から強い衝撃を受けていた。
誰かの腕が身体に回る。
視界が流れた。
何が起こったのか理解するより早く、身体が横へ運ばれていく。
直後。
ズガァァァン!!
衝撃波が悠真のいた場所を直撃した。
雪原が大きく抉れ、砕けた石と雪が爆発したように空へ舞い上がる。
「悠真!」
レオンが叫んだ。
ドゴルドも思わず足を止める。
吹き上がった雪煙が周囲を覆い、何も見えない。
「嘘だろ……」
ラパンの顔から血の気が引いた。
悠真の姿がない。
それだけではなかった。
「リズ……?」
メリーが周囲を見回す。
リズまで消えている。
あまりに一瞬の出来事だった。
《超加速》を使ったリズの動きを、誰も目で追うことができなかったのだ。
「まさか、二人とも……」
ラパンが言葉を失う。
雪煙だけが風に流されていく。
その時だった。
「おおーい!」
「……は?」
ラパンが間の抜けた声を出した。
「こっちだ!」
全員が一斉に声の方向を見る。
フロストオーガから大きく離れた廃墟の脇で、悠真が手を振っていた。
その隣にはリズもいる。
「生きてる……」
メリーが胸を押さえた。
「『おおーい』じゃねえよ!」
ラパンの怒鳴り声が飛んできた。
「二人まとめて跡形もなくなったかと思っただろ!」
「俺だって何が起きたか分からなかったんだよ!」
悠真はそう返してから、隣のリズを見る。
「リズが助けてくれたんだよな?」
「うん……なんとかね」
リズは笑ったものの、その直後、膝から力が抜けた。
「わっ!」
悠真が慌てて身体を支える。
「どうした!?」
「ちょっと……脚が動かない」
「え?」
「《超加速》の反動。短い距離しか使えないんだけど、それでも身体にかかる負担がすごいの」
リズは自分の脚を動かそうとしたが、細かく震えるだけだった。
「ごめん。しばらく歩けないかも」
「謝るのは俺の方だろ」
悠真はリズの肩を支えながら笑った。
「助かった。ありがとなリズ」
その言葉に、リズは少しだけ目を丸くする。
やがて頬を緩めた。
「へへ……今度は私が悠真を助けたね」
「まあな。今回は完全に助けられた」
「二人とも、そのままでいてください!」
メリーが駆け寄ってきた。
リズの脚へ両手を向けると、柔らかな光が包み込んでいく。
「かなり負担がかかっています。すぐには動かないでください」
「はーい……」
素直に返事をしたリズだったが、すぐに顔を上げた。
「でも、あいつまだいるよ」
雪煙の向こうから、巨大な影が現れる。
「グオオオオオッ!」
フロストオーガだった。
全身に無数の傷を負い、胸には悠真の《烈風斬》による大きな傷まで刻まれている。
それでも倒れない。
「本当にしぶといやつだな……」
悠真が剣を握り直した。
「悠真さん」
リズの治療を続けながら、メリーが呼びかける。
「もう一度、《烈風斬》を撃てますか?」
「撃てる。でも、さっきので倒せなかったぞ」
「だからです」
「え?」
「悠真さんの《烈風斬》が、一番深く入っていました。あと少し足りないなら、その少しを私が補います」
リズの脚を包んでいた光が消える。
「リズさん、まだ立たないでください」
「分かった」
メリーは立ち上がると、今度は悠真へ杖を向けた。
「いきます!」
杖の先から光が溢れ、悠真の身体を包み込む。
その瞬間、全身に力が満ちてきた。
「おお……」
剣が軽い。
腕だけではない。脚も、背中も、身体そのものが一回り軽くなったように感じる。
「これが身体強化か」
「長くは続きません! 次で決めてください!」
「わかった!」
フロストオーガも悠真を睨んでいた。
自分へ最も深い傷を与えた相手を覚えているのだろう。
「グオオオオオオッ!」
咆哮とともに棍棒を大きく引く。
「あの構え……」
悠真には分かった。
さっきと同じだ。
「悠真! また来るぞ!」
レオンの声が飛ぶ。
フロストオーガが棍棒を横薙ぎに振り抜いた。
ブォンッ!
再び巨大な斬撃が生まれる。
雪原を削りながら、一直線に悠真へ迫ってきた。
だが、今度は違う。
身体も動く。
何より、一度見ている。
「今度は見えてる!」
悠真は斬撃をぎりぎりまで引きつけた。
そして地面を蹴る。
ドンッ!
身体強化された脚力で雪が大きく弾ける。
同時に《飛行》を発動した。
悠真の身体が一気に上空へ跳ね上がる。
斬撃が足元すれすれを通過した。
そのまま後方へ走り、廃墟の壁を切り裂く。
「速っ!」
座り込んだまま見上げていたリズが目を丸くした。
上空へ逃れた悠真は、すぐにフロストオーガへ視線を戻した。
巨大な棍棒を全力で振り抜いた直後。
腕は大きく外へ流れ、胸から腹まで完全にガラ空きになっている。
これ以上ないほどの隙だった。
「悠真さん、今です!」
メリーの声が聞こえた。
「分かってる!」
悠真は空中で剣を両手に握った。
腕に力を込める。
身体強化によって引き上げられた力が、剣へ集まっていく。
フロストオーガが悠真を見上げた。
だが、もう遅い。
悠真は全身を使って剣を振り抜いた。
「これで終わりだあああっ!」
風が爆発した。
「《烈風斬》!!」
ゴオオオオオッ!!
巨大な風の刃が、上空から斜めに走った。
先ほどまでの《烈風斬》とは勢いが違う。
フロストオーガが棍棒を戻そうとする。
間に合わない。
風の刃が無防備な胸へ食い込んだ。
ズバァァァンッ!!
「グオッ……!」
咆哮が途中で途切れた。
青白い巨体に、胸から腹へ一本の斬線が走る。
フロストオーガは数秒、そのまま立っていた。
やがて棍棒が手から滑り落ちる。
ドスン。
巨体がゆっくりとずれた。
「……やった?」
リズが呟く。
次の瞬間。
フロストオーガの身体が二つに分かれた。
ズズンッ!!
巨大な身体が雪原へ倒れ込み、積もっていた雪が一斉に舞い上がった。
しばらく誰も動かなかった。
悠真はゆっくり地面へ降りる。
「……倒した」
「やっとかよ……」
ラパンがその場に座り込んだ。
「長すぎるだろ、この戦い!」
ドゴルドも大きく息を吐く。
「こいつは本当に硬かったな」
「でも最後はすごかったよ!」
リズが座ったまま興奮した様子で言った。
「真っ二つだよ! 真っ二つ!」
「お前はまず脚を治してもらえ」
「治してもらってるもん」
メリーが苦笑する。
「もう少し休んでください」
悠真の身体を包んでいた光も消えていった。
同時に、自分の中で何かが一気に高まった感覚があった。
「……レベル20」
一気に二つ上がっている。
次のスキルを覚えるのはレベル21。
そこまでもう遠くはなさそうだった。
「悠真」
レオンが近づいてくる。
「鍵が必要なんだったな」
「ああ。三本揃わないと何も起きないみたいなんだ」
レオンは持っていた古い鍵を取り出し、悠真へ渡した。
「だったらみんなで行こう。もうここで別れてる必要もないだろ」
フロストオーガを失った町に残っているのは、スノーウルフやアイスバットなどの魔物ばかりだった。
リズが歩けるまで少し待ってから、六人は灯台跡へ向かった。
途中、何度か魔物が姿を見せたが、八人を分断するほどの相手ではない。
「また来たぞ!」
「今度は俺に任せろ!」
ラパンの風魔法がアイスバットをまとめて吹き飛ばし、地上から飛び出したスノーウルフはレオンとドゴルドが素早く仕留める。
「私もいけるよ!」
「リズはまだ無理するな!」
「もう歩けるってば!」
そんなやり取りをしながら進み、やがて灯台跡の高台が見えてきた。
「悠真!」
ララが手を振った。
その隣にはクランもいる。
「ずいぶん時間がかかりましたね」
「こっちは大変だったんだぞ」
ラパンが答えると、ララは悠真へ視線を向けた。
「それで、鍵は?」
「第一声がそれかよ」
「だって、そのために行ったんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
悠真は苦笑しながら三本の鍵を取り出した。
「ちゃんと揃った」
クランが立ち上がる。
「では、先ほど絞り込んだ範囲へ行ってみましょう」
八人で移動し、悠真が三本の鍵を手にしたまま、灯台の影が届くと推測された場所へ足を踏み入れた。
その瞬間だった。
「ん?」
三本の鍵が同時に震えた。
「悠真、鍵!」
ララが声を上げる。
古びていた鍵の表面から、淡い光が漏れ始める。
そして三本それぞれの先端から、細い光が地面へ伸びた。
光は土の上を走り、角を曲がり、別の光とつながっていく。
やがて悠真たちの目の前に、大きな長方形の枠が浮かび上がった。
「……ここが入口みたいね」
ララが呟いた。
「でも、扉なんて見えないぞ」
「五十年分の土が上に乗っているのかもしれません」
クランの言葉に、全員で土や石を取り除いていく。
やがて硬い石のような扉が現れた。
「あった!」
リズがしゃがみ込む。
扉の端には、小さな鍵穴があった。
「どの鍵だ?」
「試すしかないわね」
「じゃあ一本目」
悠真が鍵を差し込む。
「……違う」
「次ね」
二本目を差し込んだ。
今度は奥まで入った。
「お?」
悠真がゆっくり回す。
ガチャッ。
確かな手応えがあった。
「開いた!」
直後、足元から低い音が響き始めた。
ゴゴゴゴゴ……。
地面に埋まっていた扉が、土をこぼしながらゆっくりと上へ持ち上がっていく。
その下から現れたのは、暗闇へ続く石造りの階段だった。
冷たい空気が地下から流れてくる。
ララが杖を掲げると、その先に淡い光が灯った。
光に照らされ、長い階段が闇の奥へ伸びている。
ララはその先を見つめてから、悠真たちを振り返った。
「行ってみましょう」
悠真は三本の鍵を握り直す。
そして七人の仲間とともに、五十年間閉ざされていた地下へ足を踏み入れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
絶体絶命の悠真を救ったのは、リズの《超加速》でした。
二人とも跡形もなく消えたように見えたので、ラパンたちにとってはたまったものではありませんでしたが……。
そしてメリーの身体強化を受けた悠真が、再び放たれた攻撃を《飛行》でかわし、
「これで終わりだあああっ!」
からの《烈風斬》!
長く苦戦したフロストオーガを、ようやく倒すことができました。
さらに三本の鍵も揃い、ついに五十年間閉ざされていた地下への入口が開きました。
この階段の先に、本当に海賊たちの莫大な富が眠っているのでしょうか。
続きが気になった方は、ブックマークや★評価で応援していただけると嬉しいです!
執筆の励みになります。
次回もよろしくお願いします!




