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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第137話 三つの鍵

いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!


クランの計算によって、ようやく絞り込まれた灯台の影の先。


しかし、そこには地下への入口らしきものは見当たりません。


絵に残された暗号には、まだ何か意味が隠されているのでしょうか。


そして魔物を引き受けたレオンたちの戦いも、まだ終わってはいません。


今回もよろしくお願いします!

冷たい風が吹き抜けるたび、悠真が支えている長いマストがわずかに軋んだ。


 船から運んできたそれを《風圧バリア》で支えながら、《飛行》で灯台があったと思われる高さまで持ち上げている。最初はどうということもなかったが、同じ姿勢を保ち続けていると、さすがに腕や肩が重くなってくる。


「……クラン、まだ?」


「もう少しです」


 下から返ってきた声は落ち着いていた。


 クランは雪の上にしゃがみ込み、短剣の先で数字と線を書き続けている。その隣ではララが完成した絵を手に、描かれている灯台と周囲の地形を何度も見比べていた。


 先ほど雲の切れ間から一瞬だけ見えた夕日は、すでに厚い雲の向こうへ隠れている。それでも沈んでいく方向は確認できた。


 灯台の高さは十五から二十メートルほど。


 だが、それも絵から推測した数字でしかない。


 さらに暗号に書かれた「陽の沈む刻」が、日没の少し前なのか、本当に太陽が沈む直前なのかでも影の長さは変わる。


 クランは考えられる誤差を一つずつ拾いながら、影の先端が届く可能性のある場所を絞っていた。


「……できました」


 やがて短剣を動かしていた手が止まった。


「分かったの?」


 ララがすぐにクランの隣へしゃがみ込む。


「正確な一点まで絞るのは無理です。ただ、灯台の高さと太陽の位置に多少の誤差があったとしても、影の先端が届くのはこの範囲だと思います」


 クランが雪の上に二本の線を引いた。


 悠真には途中に並んでいる数字の意味はほとんど分からなかったが、最初に想定していた範囲より、かなり狭くなっていることだけは分かった。


「じゃあ、もう下ろしていい?」


「はい」


「よし!」


 待ってましたとばかりに悠真は高度を下げた。《風圧バリア》で重さを軽減しながら、マストをゆっくり雪の上へ寝かせる。


 ズシン、と鈍い音が響いた。


「重かった……」


 地面へ降りた悠真は両肩を大きく回した。


「お疲れさま」


「ララ、途中から俺がマスト持ってるの忘れてただろ」


「忘れてないわよ。ちゃんと見てたもの」


「何回?」


「……それは覚えてないけど」


「やっぱり忘れてたじゃん」


「計算の邪魔しちゃ悪いと思っただけよ」


 ララがしれっと答える。


 その横ではクランが雪の上に残した計算をもう一度確認していた。


「とにかく行ってみましょう。ここからそれほど離れていませんから」


 三人は灯台跡から少し離れた場所へ移動した。


 そこには白い雪が積もっているだけだった。


 五十年前には何かがあったのかもしれない。しかし今では建物はおろか、道の痕跡さえ残っていない。


「まず雪をどかしてみるわね。二人とも少し離れて」


 ララが杖を構える。


 先端へ集まった風が渦を巻き、次の瞬間、地面へ向けて一気に解き放たれた。


 ブワッ!


 積もっていた雪が一斉に舞い上がった。


 白い雪煙が視界いっぱいに広がり、悠真は腕で顔を覆いながら後ろへ下がる。


 やがて風が収まると、雪の下から凍りついた地面が姿を現した。


 三人はしばらく黙って地面を見つめた。


「……何もないな」


 悠真が最初に口を開いた。


 地下への入口らしき扉もない。


 石板もなければ、鍵穴らしきものさえ見当たらない。


「計算では、この辺りのはずなのですが……」


 クランが歩きながら地面を調べる。


「でも、地下っていうのは合ってると思うのよね」


 ララは絵を裏返した。


 そこには三枚を合わせた時に浮かび上がった文章が残っている。


『海を制した者の富は、光の届かぬ場所に眠る』


「光の届かない場所なら、やっぱり地下じゃないか?」


「私もそう思う」


「だったら掘ってみるか」


 悠真はクランが示した範囲の中央付近を選び、凍った地面を掘り始めた。


 固い土を崩し、石を取り除いていく。


 だが、しばらく掘っても何も出てこない。


「ここじゃないか」


 少し場所を変えて、もう一度。


 やはり土と石ばかりだった。


 三か所目を掘ったところで、悠真は穴から顔を上げた。


「これ全部やるの?」


 クランが示した範囲へ目を向ける。


 かなり絞られたとはいえ、片っ端から掘り返せるほど狭くはない。


「……現実的ではありませんね」


「だよなあ」


 悠真が穴から上がる。


 その間、ララは絵をじっと見つめていた。


「この絵には魔法がかかってたのよね」


「三枚を合わせた時のことか?」


「そう。だったら、ここでも何か仕掛けがあるのかもしれない」


 ララは絵を持って歩き始めた。


 計算で絞った範囲の中で地面へ近づけてみる。


 何も起こらない。


 地面へ直接置いてみる。


 変化はない。


 表を下にしてみたり、灯台跡へ向けたり、夕日の沈んだ方向へ向けたりもした。


 クランも加わって試したが、三枚の絵を合わせた時のような青白い光は現れなかった。


「魔力に反応する可能性はありませんか?」


「やってみる」


 ララが杖を持ち、慎重に魔力を絵へ流してみる。


 しかし、それでも何も起こらない。


「違うみたいね……」


 ララが眉を寄せた。


「場所が間違ってるのかな」


 悠真が言うと、クランは少し考えてから首を横に振った。


「多少の誤差はあります。でも、この周辺から大きく外れるとは思えません」


「じゃあ、何か足りないってことか」


 その言葉に、ララがもう一度絵を裏返した。


 浮かんでいる文章を最初から読み直していく。


『海を見守る白き塔。』


『陽の沈む刻、影は眠れる場所を指し示す。』


 そして三行目。


『三つの鍵を持つ者よ、その影の先を探せ。』


 ララの視線が止まった。


「……三つの鍵」


「ん?」


「ここ」


 ララが文章を指差す。


「三つの鍵を持つ者よ、って書いてある」


 悠真も覗き込んだ。


「鍵なら持ってるだろ?」


「二本だけよ」


「あっ……」


 悠真はようやく気づいた。


 自分が一本。


 ララが一本。


 そして最後の一本は。


「レオンだ」


「そう。レオンが持ってる」


 クランも文章を覗き込む。


「もしかすると、三本すべて揃っていることが何らかの条件になっているのかもしれませんね」


「鍵穴を開けるためだけの鍵じゃないってことか?」


「分からない。でも、わざわざ『三つの鍵を持つ者』って書いてあるのが気になるのよ」


 ララの言うことには一理あった。


 少なくとも、今まで試した方法では何も起きていない。


「だったら試してみよう」


 悠真は空を見上げた。


 エーデルへ来た時とは違い、吹雪はかなり弱まっている。細かな雪はまだ風に乗っているものの、視界を奪われるほどではない。


「俺、レオンのところへ行ってくる」


「一人で大丈夫?」


「今なら《飛行》が使いやすい。それに《エリア感知》があるから、魔物が多いところは避けられる」


「分かりました。私たちはここで待っています」


「気をつけてね」


「おう」


 悠真は地面を蹴り、《飛行》を発動した。


 身体がふわりと浮かび、そのまま高度を上げる。


 上空から見下ろすエーデルは、地上にいた時以上に荒れ果てて見えた。崩れた家々、雪に埋もれた倉庫、折れた桟橋。その間を魔物たちが動き回っている。


 悠真は《エリア感知》を広げた。


「多いな……」


 町のあちこちから反応が返ってくる。


 全部を相手にしていたらきりがない。


 反応の薄い場所を選び、廃墟の上を飛んでいく。


 地上のスノーウルフなら問題ない。


 だが、崩れた倉庫の屋根を越えたところで、青白い影が一斉に飛び上がった。


 アイスバットだ。


「そういえば空にもいるんだったな!」


 十匹近い群れが悠真へ向かってくる。


 悠真は剣を抜いた。


「《烈風斬》!」


 ヒュゴッ!


 横薙ぎに振り抜いた剣から扇状の斬撃が広がり、正面のアイスバットをまとめて呑み込んだ。


 何匹もの魔物が雪の中へ落ちていく。


 悠真は速度を落とさず、その間を抜けた。


 さらに進むと、前方から地面を揺らすような音が響いた。


 ズドォンッ!


「あっちか!」


 雪煙の向こうに、巨大な青白い身体が見えた。


 フロストオーガ。


 その周囲では、レオンたちがまだ戦っている。


「レオン!」


 悠真は一気に高度を下げ、雪の上へ着地した。


「悠真!?」


 レオンが驚いた顔を向ける。


 悠真はそこで初めて、戦場の惨状に気づいた。


 周囲にはスノーウルフやアイスバットの死骸が何体も転がり、白かった雪があちこちで踏み荒らされている。


 レオンの防具には傷が走り、ドゴルドも肩で大きく息をしていた。


 リズも身体強化を受けているようだったが、剣を握ったまま荒い呼吸を繰り返している。


 ラパンも杖を支えにして立っていた。


「大丈夫か?」


「なんとかな……」


 レオンが短く答える。


 少し離れたところでは、メリーがラパンへ手を向けていた。


 淡い光がラパンの身体を包んでいる。


「次、ドゴルドさん! 一度下がってください!」


「すまん!」


 メリー自身にも疲労の色が濃い。額には汗が滲み、呼吸も乱れている。それでも仲間が傷つくたび、回復魔法を使い続けているようだった。


「メリーがずっと回復してくれてる。だから何とか持ってる」


 レオンが言った。


 そして悠真を見る。


「それより、なんで戻ってきた?」


「レオンの鍵が必要かもしれないんだ」


「鍵?」


「海底ダンジョンで手に入れたやつなんだけど。三本全部揃ってないと、入口を見つけられないかもしれない」


「三本全部……」


 レオンが答えようとした瞬間だった。


「来るぞ!」


 ドゴルドの声が飛ぶ。


 フロストオーガが巨大な棍棒を振り上げていた。


「話は後だ!」


 レオンが剣を構える。


 棍棒が唸りを上げて振り下ろされる。


 その先にはレオンとリズがいた。


「危ない!」


 悠真は二人の前へ飛び込んだ。


「《絶風壁》!」


 正面の空気が一気に圧縮される。


 次の瞬間。


 ズドォォンッ!


 巨大な棍棒が風の壁へ激突した。


「ぐっ!」


 凄まじい衝撃が全身へ伝わった。


 悠真の靴が雪を削り、その身体が《絶風壁》ごと後ろへ押されていく。


「重っ……!」


 フロストオーガがさらに棍棒へ力を込める。


 圧縮された風の壁が低く唸った。


 それでも破れない。


 悠真は歯を食いしばり、両足へ力を込めた。


 押されていた身体が止まる。


 棍棒も、そこで完全に止まった。


「止めた……!」


 リズが目を見開く。


「おいおい、あれを真正面から止めるのかよ!」


 ラパンも疲れを忘れたように声を上げた。


「新しく覚えた《絶風壁》だ!」


「便利なもの覚えやがって!」


 悠真が《絶風壁》を解除すると、レオンとドゴルドが同時に動いた。


 左右へ分かれ、フロストオーガへ斬り込む。


「こいつ、とにかく硬いぞ!」


 レオンが叫ぶ。


 その身体には、メリーの身体強化がかかっている。


 さらにレオンは、すでにスキルカードによる五十倍強化まで使っていた。


「これでも!」


 レオンの剣がフロストオーガの右腕へ叩き込まれた。


 ザンッ!


 深く食い込む。


 青白い肉が裂けた。


 しかし。


「くそっ!」


 剣が途中で止まった。


「五十倍でも腕一本落とせないのか!?」


 悠真が驚く。


「そういうことだ!」


 レオンが飛び退く。


 入れ替わるようにドゴルドが踏み込んだ。


「なら、もう一発だ!」


 メリーの身体強化を受けたドゴルドが、レオンの作った傷へ強烈な一撃を叩き込む。


 ザシュッ!


 傷口がさらに広がる。


 それでも腕は落ちない。


「グオオオオッ!」


 フロストオーガが怒りに任せて腕を振るう。


「ドゴルド!」


 レオンが叫ぶ。


 ドゴルドは剣を構えて受けたが、巨腕の一撃を完全には殺せなかった。


「ぐおっ!」


 身体が雪の上を滑っていく。


「ドゴルドさん!」


 メリーが駆け寄ろうとする。


「まだだ!」


 ドゴルドは自力で立ち上がった。


「これくらいなら動ける!」


「今度は俺だ!」


 ラパンが杖を突き出す。


 魔力が集まり、フロストオーガの胸元で炸裂した。


 ドォンッ!


 爆風と雪煙が巨体を覆う。


「どうだ!」


 だが。


 雪煙の中から巨大な影がゆっくりと現れた。


「……嘘だろ」


 ラパンの顔が引きつる。


 フロストオーガの身体には無数の傷がある。


 確実に攻撃は効いている。


 それでも倒れない。


「こいつ、どんだけ頑丈なんだよ!」


 ラパンが叫ぶ。


 悠真は剣を握り直した。


「だったら俺もやってみる!」


 フロストオーガがこちらへ向き直る。


 悠真は雪を蹴った。


 懐へ飛び込み、剣を振り抜く。


「《斬撃》!」


 鋭い一撃がフロストオーガの胴を切り裂いた。


 巨体がわずかによろめく。


 だが、それだけだった。


「これでも駄目か」


「悠真、離れろ!」


 レオンの声に反応して飛び退く。


 直後、棍棒が地面へ叩きつけられた。


 ズドンッ!


 雪と石が爆発したように舞い上がる。


 悠真は着地すると、その巨体を見据えた。


 普通の《斬撃》でも深い傷は与えられる。


 だが、このまま何度も繰り返していたら、こちらが先に力尽きる。


「だったら……」


 悠真は剣を両手で握った。


「これならどうだ!」


 大きく横へ振り抜く。


「《烈風斬》!」


 ヒュゴォッ!


 広がった風の刃が、フロストオーガの巨大な胴体へまともに叩き込まれた。


 ザシュッ!


「グオオオオオッ!」


 これまでとは明らかに違った。


 胸から腹にかけて大きな傷が走り、フロストオーガの巨体が後ろへ揺れる。


 一歩。


 二歩。


 さらに三歩。


「すごい、効いてる!」


 リズが叫んだ。


「おい、今までで一番効いてるぞ!」


 ラパンも声を上げる。


 フロストオーガの膝が折れかけた。


 悠真も手応えを感じていた。


「いけるかも……!」


 だが。


 巨体は倒れなかった。


 棍棒を雪へ突き立て、辛うじて踏みとどまる。


「まだダメか……!」


 悠真が息を吐いた。


 その時だった。


 フロストオーガがゆっくりと顔を上げる。


 その目が、真っ直ぐ悠真を捉えた。


 今までとは違う。


 自分をここまで追い詰めた相手が誰なのか、完全に理解したようだった。


「グオオオオオオオッ!」


 怒りに満ちた咆哮が廃墟に響き渡る。


「悠真、気をつけろ!」


 レオンが叫ぶ。


 フロストオーガが巨大な棍棒を大きく引いた。


 悠真は剣を構え直そうとした。


 だが、《烈風斬》を放った直後だ。


 振り抜いた身体が、まだ完全には戻っていない。


 フロストオーガが棍棒を横薙ぎに振り抜いた。


 ブォンッ!


 距離はある。


 棍棒そのものが届くはずはない。


 そう思った瞬間。


「なっ……!」


 棍棒の軌道から、空気そのものを切り裂くような巨大な衝撃波が放たれた。


 斬撃。


 そうとしか見えない何かが、雪を一直線に巻き上げながら悠真へ迫ってくる。


 速い。


《絶風壁》なら。


 悠真の頭に浮かんだ。


 先ほど棍棒を止めた《絶風壁》なら、防げるかもしれない。


 だが、間に合わない。


 まだ身体が戻っていない。


 レオンとドゴルドもフロストオーガの左右へ回り込んだため、悠真から離れている。


 巨大な斬撃が目前まで迫る。


「悠真、危ない!」


 レオンの叫びが、雪原に響き渡った。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


影の場所を突き止めても、見つからない入口。


そこでララたちが注目したのは、


「三つの鍵を持つ者よ、その影の先を探せ」


という一文でした。


最後の一本を持つレオンのもとへ向かった悠真でしたが、そこで待っていたのは、想像以上に頑丈なフロストオーガ。


身体強化を受けた仲間たちの攻撃も、レオンの五十倍強化も決定打にはならず、悠真の《烈風斬》でさえ倒し切ることができませんでした。


そして怒りを爆発させたフロストオーガの一撃が、防御の間に合わない悠真へ迫ります。


果たして悠真は、この一撃を避けられるのでしょうか。


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次回もよろしくお願いします!

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