第134話 消えた港エーデル
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
海底ダンジョンの奥で完成した、謎の港町と白い灯台が描かれた一枚の絵。
しかし、その場所がどこなのかはゼラモードにも分かりませんでした。
まずは海賊のアジトを調べ、それからウィストンへ。
果たして絵の場所を知る人物はいるのでしょうか。
今回もよろしくお願いします!
完成した一枚の絵と、三本の古びた鍵。
海賊たちが暮らしていたと思われる部屋の中央で、悠真はそれらをしばらく眺めていた。
絵に描かれているのは、高台に立つ白い灯台と、その眼下に広がる港町。
裏側に浮かび上がった言葉によれば、海賊の富はこの景色のどこかに眠っているらしい。
問題は、肝心の場所が分からないことだった。
「とりあえずウィストンに戻って、この場所を知ってる人を探すしかないか」
悠真が言うと、レオンも頷いた。
「そうだな。港町なら船乗りに聞くのが一番早いだろう」
「じゃあ帰る?」
リズが尋ねる。
悠真は一度頷きかけたが、周囲を見回して思い直した。
長いテーブル、棚、寝床、調理場。壁には古びた海図や武器まで残されている。
「いや、その前にここを調べよう」
「調べる?」
「ここ、海賊のアジトなんだろ? まだ何か残ってるかもしれない」
その一言に、リズの目が輝いた。
「お宝!」
「その言葉には反応が早いな」
「だって海賊のアジトだよ? 何もない方がおかしいでしょ!」
「それなら俺も探すぞ!」
今度はラパンまで張り切り始める。
「三十億マニーが棚の奥から出てくるかもしれない!」
「そんな雑に置いてあるわけないでしょ」
ララが呆れながらも、杖の明かりを強くした。
八人は手分けして、海賊のアジトを調べることにした。
悠真とクランは奥に残された棚を確認する。
クランが腐食した引き出しを慎重に開けると、中から古い銀貨が何枚か出てきた。
「これはまだ使えるんですか?」
「どうだろう。今のお金とは違うみたいだな」
少なくとも価値がありそうなので回収しておく。
レオンとドゴルドは武器が置かれている一角を調べていたが、長い年月を経た剣や斧はほとんどが錆びていた。
一方、リズとラパンは競うように棚や箱を開けている。
「こっちに箱がある!」
「待てリズ! それは俺が先に見つけた!」
「開けた方が見つけた人でしょ!」
「そんな決まり聞いたことねえぞ!」
「二人とも壊さないでよ!」
ララの声が飛ぶ。
結局、箱から出てきたのは古い酒瓶だった。
「……お酒」
「宝じゃねえじゃん!」
ラパンが肩を落とす。
「海賊にとっては宝だったんじゃない?」
メリーが笑う。
その後も調べ続けると、装飾品や古い金貨、銀製の食器などがいくつか見つかった。
価値がありそうなものはララの空間魔法へ収納していく。
だが、沈没船で見つけた大量の宝石と比べれば大した量ではない。
アジトの中を一通り調べ終えたところで、悠真は再び灯台の絵を手に取った。
「やっぱり本命はこっちだな」
海賊たちも、最も大切な財宝を生活場所に置いてはいなかったのだろう。
悠真は《双界カード》を取り出した。
連絡した相手はボッツだ。
「ボッツさん、聞こえます?」
『悠真か? どうした』
「ダンジョンの探索が終わりました。みんな無事です。」
『そうか!』
ボッツの声が明るくなる。
『なら戻ってこい。俺はウィストンにいる』
「分かりました。今からそちらに行きます」
悠真は仲間たちを見る。
「よし帰ろう」
「やっとか!」
誰よりも喜んだのはラパンだった。
「もう階段も罠も魔物も当分見たくねえ!」
「ラパン、ほとんど階段しか歩いてないじゃない」
「その階段が一番怖かったんだよ!」
八人は双界カードの転移を利用して、ボッツのもとへ移動した。
視界が切り替わる。
湿った石の匂いが消え、代わりに潮風が頬を撫でた。
聞こえてきたのは波の音と、港で働く人々の声。
ウィストンの港だった。
「帰ってきた……!」
リズが大きく伸びをする。
ラパンはその場にしゃがみ込み、地面を何度も叩いた。
「普通の地面だ!」
「階段じゃないな」
ドゴルドが笑った。
「それが最高なんだよ!」
そんなラパンを横目に、悠真は出迎えてくれたボッツへここまでの事情を説明した。
海賊のアジト。
三枚に分かれていた絵。
そして、その絵に描かれていた港と灯台。
「この場所、見たことないですか?」
絵を見せる。
ボッツは眉間に皺を寄せた。
「……古い絵だな」
「分かります?」
「いや。ただ、この辺りの港じゃねえかって気はする」
しばらく眺めたあと、ボッツは首を横に振った。
「俺には分からんな。だが、こういうことなら俺より詳しい爺さんがいる」
「詳しい人?」
「昔の海を知ってる男だ。行ってみるか?」
悠真たちはそのままボッツについていった。
港から少し離れた場所に、小さな家が建っていた。
古びてはいるが手入れされており、軒先には漁具や縄が整然と置かれている。
ボッツが扉を叩いた。
「ネイロ! いるか!」
「うるせえな。聞こえとるわ」
中から現れたのは、白髪を後ろへ撫でつけた老人だった。
年齢はかなり上に見えるが、背筋は驚くほど伸びている。日に焼けた顔には深い皺が刻まれ、腕にもまだ船乗りだった頃の名残を感じさせる太さがあった。
「この爺さんはネイロ。昔は相当名の知れた船乗りだったんだ」
「昔は、は余計だ」
ネイロがボッツを睨む。
「海賊相手に何度もやり合ったって話もある」
「昔話をしに来たなら帰れ」
「今日は違う。見てもらいたいものがあるんだ」
悠真が絵を差し出した。
「この場所を探してるんです」
ネイロは何気なく絵を受け取った。
しかし、灯台へ目を向けた瞬間、その表情が変わった。
「……これは」
指先で白い灯台をなぞる。
そのまま港町へ視線を落とし、長い間、何も言わなかった。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も……俺がガキの頃に暮らしてた場所だ」
悠真たちの視線が集まる。
ネイロが静かに告げた。
「エーデルだ」
「エーデル?」
「ウィストンよりさらに北にあった港町だ。昔はこの辺りじゃ、ウィストンよりエーデルの方が大きな港だった」
悠真は絵を見直した。
「じゃあ、この灯台も?」
「あったぞ。港へ帰ってくる船なら、誰もがあの灯りを目印にしたもんだ」
「だったら、そこへ行けば!」
「もうないぞ」
リズの声が止まった。
「え?」
「あの灯台は、もうない」
ネイロは絵を見つめたまま続ける。
「エーデルが使われなくなってからも、しばらくは残っていた。だが老朽化が進んでな。危険だから取り壊された」
「ちょっと待って」
リズが悠真を見る。
「灯台がないなら……影は?」
絵の裏に現れた言葉。
陽の沈む刻、影は眠れる場所を指し示す。
その影を作るはずの灯台が、すでに存在しない。
「困ったな……」
悠真が呟く。
だが、問題はそれだけではなかった。
「お前たち、エーデルへ行くつもりなのか?」
ネイロの声が低くなった。
「そのつもりです」
「なら覚悟しておけ。あそこは今、人が住めるような場所じゃない」
「どういうこと?」
ララが尋ねる。
「エーデルは五十年ほど前に壊滅した」
部屋の空気が変わった。
「もともとエーデルは魔物の生息地に近かった。昔から襲われることはあったが、それでも港を守りながら暮らしていた」
ネイロの目が遠くなる。
「だが五十年ほど前、大量の魔物が押し寄せた。あの時はどうにもならなかった。港も町も壊され、大勢が死んだ」
悠真は何も言えなかった。
「生き残った連中はエーデルを捨てた。その後、比較的安全だったウィストンが整備されて、こっちが主要な港になったんだ」
「じゃあ今のエーデルは……」
「廃墟だ。しかも魔物の生息地に近いことは今も変わらん」
ネイロは絵を悠真へ返した。
「宝だか何だか知らんが、遊びで行く場所じゃねえぞ」
悠真は受け取った絵を見る。
白い灯台。
青い海。
多くの船が行き交う港。
この絵からは、とても壊滅した町には見えない。
だが、それは五十年以上前の景色なのだ。
「それでも行くよ」
悠真は顔を上げた。
「灯台はなくても、建ってた場所まではなくならないはずだから」
レオンも頷く。
「現地を調べれば何か分かるかもしれない」
「三本の鍵もありますしね」
メリーがテーブルの上の絵を見る。
ネイロはしばらく悠真たちを見ていたが、それ以上止めることはしなかった。
家を出ると、話を聞いていたボッツが悠真の肩を叩いた。
「エーデルへ行くなら俺が送ってやる」
「ボッツさんが?」
「スノーフローターを持ってる。今じゃエーデル行きの定期便なんてないからな」
「すっごく助かります」
「ただし、近くまでだ。あの辺りは道もまともに残ってねえ。どこまで入れるかは行ってみないと分からん」
「それでも十分です」
悠真は港の向こうへ目を向けた。
さらに北。
五十年前、魔物によって壊滅した港町エーデル。
灯台はすでになく、町は廃墟となり、今も周囲には魔物が生息している。
それでも絵が示す場所を確かめるには、そこへ行くしかない。
海底ダンジョンの先で見つけた一枚の絵は、悠真たちを今度は地図から役目を失った古い港へ導こうとしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
絵に描かれていた場所は、約五十年前に魔物の襲撃によって壊滅した港町「エーデル」でした。
しかも宝の場所を探す重要な手がかりとなるはずの灯台は、すでに取り壊されて存在しません。
場所は分かったのに、今度は肝心の「影」をどう探すのかという新たな問題が発生。
それでも悠真たちは、ボッツのスノーフローターでエーデルを目指します。
五十年間放棄された港町には、何が残されているのか。
次回もよろしくお願いします!




