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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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130/162

第130話 終わらない階段

いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!


今回はレオン、ドゴルド、ラパンの三人。


宝箱の先に現れた階段を下り、さらにダンジョンの奥を目指します。


ただ階段を下りるだけ。


……のはずだったのですが。


今回もよろしくお願いします!

魔石を使って開いた隠し階段は、どこまで続いているのか分からないほど深かった。


 レオンを先頭に、ドゴルド、ラパンの順で石段を下りていく。壁には一定の間隔で淡い光を放つ魔石が埋め込まれており、足元を見るには困らない。ただ、右を見ても左を見ても灰色の石壁ばかりで、景色にはほとんど変化がなかった。


「なあ、まだ下りるのか?」


 後ろからラパンの声が飛んでくる。


「見れば分かるだろ」


 ドゴルドが振り返りもせず答えた。


「見れば分かるから聞いてんだよ。俺たち海底にいるんだろ? ここからさらに下りて大丈夫なのか?」


「何が心配なんだ?」


「地面の底を突き抜けたりしないのか?」


「そんなわけあるか」


「いや、分かんねえだろ。このダンジョン、床は割れるわ、変な仕掛けはあるわ、何でもありじゃねえか」


 先頭を歩くレオンは黙ったまま階段を下りていた。


 宝箱の下から続いていた階段は、想像以上に長い。魔物の気配もなく、罠らしいものも見当たらない。それがかえって不気味だった。


「それにさ、宝を隠すならもうちょっと取りに行きやすい場所にしないか? 海賊だって毎回こんな階段を下りてたら嫌になるだろ」


「ラパン」


「なんだ?」


「少し静かにしてくれ。周囲の音が聞こえない」


「俺は喋りながらでも聞こえるぞ」


「俺が聞こえないんだ」


「……分かったよ」


 ようやく静かになり、三人の足音だけが響き始める。


 コツ、コツ、コツ。


 静寂の中では、その音が妙に大きく感じられた。


 しばらくして、ラパンがまた口を開いた。


「なあ」


 レオンの眉がわずかに動く。


「……なんだ」


「やっぱり長くないか?」


「少し静かにしてくれと言っただろ」


「少しは静かにしただろ」


 ドゴルドが呆れたように息を吐いた。


「お前の『少し』は本当に少しだな」


 三人はさらに進んだ。


 どれほど歩いただろう。


 階段はまだ続いている。


 やがてラパンの軽口も少なくなってきた頃、レオンが不意に足を止めた。


「……上っているな」


「え?」


 ラパンが足元を見る。


 確かに石段は上へ続いていた。


 ドゴルドも後ろを振り返る。


「いつからだ?」


 三人とも答えられなかった。


 最初は間違いなく下っていた。それなのに、いつの間にか階段は上りへ変わっている。


「途中で平らなところでもあったか?」


「覚えてねえよ。ずっと同じ景色だったし」


 ラパンが周囲を見回す。


「まあ、ダンジョンなんだから上ったり下ったりすることくらいあるだろ」


 レオンはわずかな違和感を覚えたものの、そのまま先へ進むことにした。


 やがて、一体の白骨死体を見つけた。


 階段脇の壁にもたれるように座り、傍らには錆びた剣と古びた鞄が残されている。


 レオンがしゃがみ込んだ。


「冒険者か」


「ここまで来た奴がいたんだな」


 ドゴルドが鞄を調べる。中から出てきたのは空になった水筒と、腐って原形を失った食料らしきものだった。


「魔物にやられた感じじゃねえな」


 骨にも装備にも、大きな損傷はない。


「先へ行こう」


 三人は白骨を残して歩き出した。


 ところが、その先でも白骨を見つけた。


 さらにもう一体。


 壁にもたれたもの、階段に横たわったもの、身体を丸めるように倒れているもの。


 どれも魔物に襲われた形跡がなかった。


「……なんか嫌だな」


 ラパンが小さく呟いた。


 今度は誰も静かにしろとは言わなかった。


 しばらく歩き、三人は休憩を取った。食料を口にし、水を飲んでから再び進む。


 それでも景色は変わらない。


 そして、レオンが再び足を止めた。


「待て」


「今度はなんだ?」


 壁際に白骨がある。


 頭蓋骨の横には、赤い石のついた首飾りが落ちていた。


 レオンはしゃがみ込み、それをじっと見る。


「こいつ、前にも見たな」


「白骨なんて何体もいただろ」


「この首飾りだ」


 ドゴルドの顔からも表情が消える。


「同じ場所に戻ってきたのか?」


 レオンは剣を抜くと、白骨の横の壁へ一本の傷を刻んだ。


「確かめる」


 三人は再び歩き始めた。


 階段を進み続ける。


 上っていたはずなのに、いつの間にか下りになり、しばらくするとまた上りへ変わった。


「……気持ち悪いな」


 ラパンが足元を何度も確認する。


 そして。


「嘘だろ……」


 赤い首飾りをつけた白骨が現れた。


 その横の壁には、レオンが刻んだ傷が残っている。


「戻ってきてる……」


 ドゴルドが傷へ指を這わせた。


 レオンは共有カードを取り出す。


「悠真、聞こえるか?」


 返事はない。


「メリー」


 やはり何も聞こえなかった。


「カードまで使えねえのかよ」


 ラパンの声から、いつもの軽さが消えていた。


 それから三人は出口を探した。


 壁を調べ、石段を調べ、歩きながら僅かな違いを探した。しかし、何をしても最後には同じ場所へ戻ってくる。


「ふざけんなよ!」


 何度目かの赤い首飾りを目にした瞬間、ラパンが叫んだ。


「どれだけ歩かせるんだよ、この階段!」


「騒いでも出口は出てこねえぞ」


「分かってるよ! 分かってるから腹立つんだよ!」


 ドゴルドは荷物を下ろし、残った食料を確認した。


 その手が止まる。


 まだある。


 だが、いつまでも保つ量ではない。


 三人の視線が、自然と周囲の白骨へ向かった。


 空の水筒。


 使い切られた食料。


 傷のない武器。


 レオンの表情が険しくなる。


「……飢えたんだ」


 ラパンが口を閉じた。


「こいつらも出られなかった。出口を探し続けて、食料と水が尽きた」


「やめろよ……」


 ラパンは白骨から目を逸らした。


 それでも歩くしかなかった。


 休み、眠り、目を覚ませばまた出口を探す。


 景色の変わらない階段を何度も歩いているうちに、昼も夜も分からなくなった。


「なあ、何日目だ?」


「知らん」


「二日は経ったよな?」


「たぶんな」


「たぶんって……」


 ラパンが乾いた髪を掻きむしる。


「悠真たちは何してんだよ。さすがに俺たちがいないって気づいてるだろ」


 レオンは返事をせず、壁を調べていた。


「なあ、レオン」


「…………」


「何か分かった?」


「…………」


「無視するなよ。こういう時に黙られると余計怖いんだよ」


 レオンが振り返る。


「だから考えてる。少し静かにしてくれ」


「静かにしたら、この階段めちゃくちゃ怖いだろ!」


 ドゴルドが額を押さえた。


「お前は怖くなると余計に喋るのか」


「悪いかのよ!」


 ラパンは苛立ったように歩き出したものの、数歩進んだところで突然立ち止まった。


「もう無理!」


 そのまま階段脇にあった僅かに平らな場所へ倒れ込む。


「おい」


「休む! 俺はもう一歩も歩かねえ!」


「こんなところで寝るな」


「歩いたって同じところに戻るんだろ! だったら寝てた方がマシだ!」


 ラパンは腕を広げ、石床へべったりとうつ伏せになった。


 ひんやりとした石の冷たさが頬に伝わる。


「冷てえ……でも気持ちいいな」


「そのまま寝るなよ」


「ちょっとくらいいいだろ。俺はもう階段を一生分……」


 そこでラパンの声が止まった。


「……ん?」


 頬を床につけたまま、壁際を見つめる。


 床すれすれの高さから見ると、石壁の一番下に細い黒い線が走っていた。


 ラパンが身体を起こしかけ、もう一度寝そべる。


 見える。


 起き上がる。


 見えなくなる。


「何してるんだ?」


「いや……ちょっと待て」


 再び床へ這いつくばり、顔を横へ向ける。


「ここ、隙間があるぞ」


 レオンとドゴルドが近づいた。


「隙間?」


「寝てみろよ」


「嫌だ」


「いいから! 立ってたら見えねえんだよ!」


 レオンがしゃがんで覗き込むが、それでもよく分からない。仕方なく床へ手をつき、顔を石床ぎりぎりまで近づける。


 確かに壁と床の間に、僅かな隙間がある。


「……これは」


 ドゴルドも横から確認し、指を差し込んだ。


「手が入るな」


 三人で調べると、それまで壁の一部だと思っていた巨大な石板が、僅かに浮いていることが分かった。


「持ち上げてみるぞ」


 ドゴルドが隙間へ両手を差し込む。


 レオンも隣へ並んだ。


「ラパン、お前もやれよ」


「俺、今休憩中なんだけど」


「見つけたのはお前なんだから」


「見つけた奴が一番働く決まりでもあるのかよ!」


 文句を言いながらも、ラパンも隙間へ指を入れる。


「せーの!」


 三人が力を込めた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 重い石が床を擦る音が響く。


「重っ……!」


「もう少しだ!」


 石板がゆっくりと持ち上がっていく。


 その下から、冷たい空気が流れ出した。


 三人が手を離し、開いた場所を覗き込む。


 そこには暗闇へ続く、細い階段があった。


「……嘘だろ」


 ラパンが口を開ける。


「こんなの分かるかよ!」


 レオンは隠し階段と、そのすぐ近くに横たわっている白骨を見比べた。


 この場所を通った者たちも、出口を探して何度も歩いたのだろう。


 中には、このすぐそばで力尽きた者さえいる。


 あと少し。


 ほんの少し違う角度から床を見ていれば、彼らも気づけたのかもしれない。


 レオンは慎重に階段へ足を踏み入れた。


 ドゴルドが続き、最後にラパンが白骨を一度だけ振り返る。


「……悪いな。俺たちは出るぞ」


 三人は暗い階段を下りていった。


 そして最後の一段を踏んだ瞬間、耳の奥でキンッと小さな音がした。


 空気が変わる。


『……レオン?』


 突然、共有カードから悠真の声が聞こえた。


 レオンが慌ててカードを取り出す。


「悠真?」


『やっと返事した。どうしたんだ?』


 レオンはドゴルドと顔を見合わせた。


「どれくらい経った?」


『どれくらいって……別れてから、まだそんなに経ってないけど』


 三人が固まる。


 ラパンの頬が引きつった。


「……まだ?」


『どうした?』


「まだって何だよ!」


 ラパンが共有カードへ顔を近づける。


「こっちは何日も階段歩いてたんだぞ!」


 その声が、ようやく戻ってきた普通のダンジョンの石壁いっぱいに響き渡った。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


終わらない階段に閉じ込められたレオンたち。


いくら考えても出口が見つからない中、まさか突破口を見つけたのが、疲れ果てて寝転がったラパンになるとは……。


本人はこれから「俺が寝なかったら全滅してた」と言い続けそうです(笑)


そして、何日も階段をさまよったはずの三人に対して、悠真の反応は「まだそんなに経ってない」。


あの階段はいったい何だったのか。


次回もよろしくお願いします!

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