第129話 海底ダンジョンの外へ
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
魔石によって新たな道を見つけたララ、リズ、メリー。
悠真たちとの合流を目指し、三人は隠された通路の奥へ進んでいきます。
しかし、海底ダンジョンはまだまだ素直に進ませてくれないようで……。
今回もよろしくお願いします!
魔石をはめたことで現れた隠し通路は、思っていたよりも長く続いていた。
ララが杖の先に灯した光が、濡れた岩肌を淡く照らしている。その少し後ろをリズとメリーが歩き、三人の足音が狭い通路に反響していた。
「こっちで合ってるのかな」
リズが前を覗き込みながら言う。
「合ってるかどうかなんて分からないわよ。とにかく進める道がここしかないんだから」
ララはそう返しつつ、時折足を止めて周囲を確かめていた。
悠真たちとはまだ離れたままだ。
共有カードで連絡は取れるものの、今のところ互いの位置を正確に把握できているわけではない。レオンたちは地下へ続く階段を進み、悠真とクランも別の通路へ向かっている。
少しでも合流できそうな場所へ出たい。
三人とも、その思いは同じだった。
やがて通路の壁に変化が現れた。
「……水?」
メリーが壁へ手を伸ばす。
岩の隙間から、細い水の筋が流れ落ちていた。
さらに進むと、足元にも薄く水が広がり始める。
「さっきより海が近いのかしら」
ララが耳を澄ませる。
壁の奥から、低い水音が響いていた。
リズはそんな二人の少し先を歩いていたが、不意に立ち止まった。
「ねえ、これ何?」
「触らないで!」
ララが声を上げる。
だが遅かった。
リズの指先は、壁から僅かに突き出した石へ触れていた。
カチッ。
三人の間に嫌な沈黙が落ちる。
リズがゆっくり振り返った。
「……押しちゃった」
「なんで押すのよ!」
「だって、いかにも押せそうだったから!」
「だから押しちゃ駄目なの!」
ゴゴゴゴゴ……。
足元が震え始める。
ララが杖を構え、メリーも周囲を見回す。
次の瞬間、背後の壁が勢いよく開いた。
「え?」
轟音とともに海水が流れ込んでくる。
「水!」
「リズ!」
「私のせい!?」
「今それ聞く!?」
ゴオオオオッ!
逃げる間もなかった。
三人の身体が一気に水へ飲み込まれる。
ララはとっさに杖を抱え込み、身体を丸めた。視界が激しく揺れ、岩壁が何度も目の前を流れていく。
水中呼吸。
水中移動。
水圧耐性。
事前に購入したスキルカードのおかげで息苦しさはない。
だが、それと激流に逆らえるかどうかは別問題だった。
「ララ!」
水の中でも、リズの声がかすかに届く。
「流されるしかないわ! 岩にぶつからないようにして!」
三人は水流に乗せられたまま、長い水路を滑るように進んでいった。
やがて前方が急に明るくなる。
次の瞬間。
三人の身体が水路の出口から外へ吐き出された。
勢いのまま数メートル流され、ようやく水の動きが穏やかになる。
「……止まった?」
リズが剣を握ったまま周囲を見回す。
ララも姿勢を整え、杖の光を少し強めた。
そこで三人とも気づいた。
壁がない。
天井もない。
代わりに、上の方から淡い光が差し込んでいる。
海藻が揺れ、小さな魚が三人の横を泳いでいく。足元には砂と岩が広がり、その先まで暗い海が続いていた。
ララの表情が変わる。
「これ……外よ」
「外?」
「ダンジョンの外。海に出されたんだと思う」
リズが目を丸くする。
「じゃあ、ダンジョン終わり?」
「終わってないわよ!」
「だよね」
メリーはすぐに後方へ振り返った。
「ドゴルドさんたちは……まだ中ですよね」
「悠真たちもよ」
ララは、先ほど三人が吐き出された岩壁を見る。
そこには大きな裂け目があったものの、水流が止まった今では奥まで見通せない。
「戻らないと」
ララがそう言った直後だった。
リズが突然剣を構える。
「何かいる!」
暗い海の向こうで、大きな影が動いた。
最初に伸びてきたのは触手だった。
「避けて!」
ララの声と同時に、太い触手が三人の間を薙ぐ。
ブンッ!
水が大きくかき回され、リズの身体が横へ流される。
「なにこれ!」
暗がりから現れたのは、巨大なイカだった。
胴体だけでも人間数人分はあり、何本もの触手がゆらゆらと広がっている。大きな目が三人を捉え、不気味に動いた。
「完全にこっち狙ってるわね」
「だったら倒すしかない!」
リズが前へ出る。
しかし、地上と同じ感覚では動けない。
水中移動のスキルがあっても、巨大イカの方が明らかに速い。
触手が左右から迫る。
「リズさん!」
メリーが杖を向けた。
「身体強化!」
淡い光がリズの全身を包む。
次の瞬間、リズの動きが一段速くなった。
「これなら!」
身体を捻りながら触手をかわし、そのまま剣を振り抜く。
ズバッ!
一本の触手が切断された。
巨大イカが身体を大きく揺らす。
だが、すぐに別の触手が三人へ伸びた。
ララが杖を向ける。
「凍りなさい!」
触手の表面を白い霜が走る。
パキパキッ!
水ごと凍らせるほどではない。だが、狙った部分だけが急激に冷え、触手の動きが鈍った。
「今よ!」
「分かってる!」
リズが距離を詰め、もう一本を切り落とす。
その時。
巨大イカの身体が膨らんだ。
「何か来る!」
ブワッ!
黒い墨が一気に広がる。
三人の視界が完全に奪われた。
「何も見えない!」
「リズ、動き回らないで!」
「でも来てるって!」
暗闇の中で、水の動きが変わる。
ララは杖を握り直した。
見えないなら、近づいてきた瞬間を狙うしかない。
水を押し退ける重い感触。
「そこ!」
ララが杖を振る。
氷が一気に広がり、黒い水の中で何かが固まった。
「右よ!」
メリーの強化を受けたリズが加速する。
墨の外へ抜けた瞬間、巨大イカの胴体が目の前に現れた。
「見つけた!」
リズが剣を両手で握る。
そのまま勢いを乗せて斬り上げた。
ズバァッ!
巨大イカの身体が大きく裂ける。
触手が激しく暴れた後、やがて力を失って沈んでいった。
「はあ……やっと倒れた」
リズが剣を下ろす。
ララも周囲を確認しながら息を整えた。
「水中で戦う魔物って、やっぱり面倒ね」
「私、結構頑張ったと思う」
「最初に罠を押した分を引いたら普通よ」
「まだ言うの?」
メリーが小さく笑った。
戦闘を終えた三人は、改めて周囲を見回す。
その時、リズが海底の先を指差した。
「ねえ。あれ、船じゃない?」
砂に半分埋もれるように、大きな船が沈んでいた。
船体は朽ち、帆柱も折れている。
だが、その形はまだはっきり残っていた。
「海賊船かもしれないわね」
「行ってみようよ」
三人は船へ近づいた。
船内へ入ると、腐食した木材や壊れた樽が転がっている。何室か調べた末、メリーが奥に残された大きな箱を見つけた。
「これ、開きます」
蓋を持ち上げる。
その瞬間、三人の顔が光に照らされた。
「……すご」
リズが声を漏らす。
箱の中には、赤や青、緑、透明な宝石が山のように詰まっていた。
「これ、三十億あるんじゃない!?」
「そんな簡単に分かるわけないでしょ」
ララは一つを手に取る。
大きさも形もばらばらで、価値を判断できるような知識はない。
「でも、かなりの量ですよね」
「持って帰って見てもらいましょう。悠真なら詳しい人を知ってるかもしれないし」
ララは箱へ手をかざす。
空間が僅かに歪み、箱ごと宝石が消えていった。
「便利だよね、それ」
「こういう時のための空間魔法よ」
宝石を収納したララは、腰に下げた袋へ目をやった。
そこには先ほど宝箱から手に入れた鍵と、謎の絵が描かれた紙が入っている。
これで帰るわけにはいかない。
鍵の使い道も分かっていない。
絵も三枚揃わなければ意味が分からない。
何より、悠真たちがまだダンジョンの中にいる。
「宝石は見つかったけど、まずは戻らないと」
ララが船内を見渡す。
「でも、どうやって?」
リズが首を傾げる。
メリーも先ほど出てきた方向を見るが、ここからではダンジョンへ戻る道は分からない。
ララは沈んだ海賊船の内部へ視線を向けた。
「ここが本当に海賊たちの船なら、アジトと行き来する方法があったはずよ」
「海から入れる別の入口?」
「可能性はあるわ」
リズの表情が明るくなる。
「じゃあ、この船をもっと調べよう!」
「今度は勝手に何か押さないでよ」
「分かってるって」
ララとメリーは同時にリズを見た。
「……何、その顔」
二人は何も答えなかった。
海底に沈んだ古い海賊船。
その中で思わぬ財宝を手に入れた三人は、悠真たちと合流するため、ダンジョンへ戻る道を探し始めた。
第129話を読んでいただき、ありがとうございました!
リズが見つけた仕掛けによって、まさかのダンジョンの外へ。
巨大イカとの水中戦では、ララの氷魔法、メリーの身体強化、そしてリズの剣と、三人の連携でどうにか切り抜けることができました。
さらに、沈んだ海賊船から大量の宝石を発見!
果たしてどれほどの価値があるのか……これは持ち帰ってからのお楽しみです。
しかし、悠真たちはまだダンジョンの中。三本の鍵と三枚の絵の謎も残されたままです。
ララたちはダンジョンへ戻る道を見つけられるのか。
次回もよろしくお願いします!




