第128話 三つの宝箱
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
悠真とクランの前に現れた、いかにも怪しい宝箱。
しかし、どうやら同じものを見つけたのは二人だけではないようです。
三つに分かれた悠真たちは、それぞれの場所でダンジョンの仕掛けに挑みます。
今回もよろしくお願いします!
部屋の中央に置かれた宝箱を前に、悠真とクランはしばらく動かなかった。
ここまでの道中で、落とし穴に鉄杭、痺れガスと散々な目に遭っている。
そんな場所に、いかにも開けてほしそうな宝箱が一つ。
「……やっぱり怪しいよね」
「怪しくない要素を探す方が難しいです」
クランは近づこうともせず、宝箱をじっと観察している。
悠真もエリア感知を使ってみたが、反応はない。少なくとも宝箱の中に魔物が潜んでいる、ということはなさそうだった。
とはいえ、エリア感知では機械的な罠までは分からない。
「でも、ここ行き止まりなんだよな」
ランプを掲げて周囲を確認する。
正面も左右も岩壁。来た道以外に通路らしきものは見当たらない。
「開けないと進めないとか?」
「その可能性はありますけど……」
クランは宝箱を見つめたまま、眉を寄せた。
「試す前に、他の皆さんに聞いてみませんか?」
「それがいいか」
悠真は共有カードを取り出した。
「レオン、聞こえる?」
少し間を置いて、カードからレオンの声が返ってくる。
『聞こえている。そっちは無事か?』
「大丈夫。クランと一緒に進んでたんだけど、ちょっと困っててさ」
『何かあったのか?』
「道が行き止まりなんだ。それで、部屋の真ん中にものすごく怪しい宝箱がある」
数秒、返事がなかった。
「レオン?」
『……宝箱か?』
「うん」
『俺たちのところにもある』
「え?」
悠真とクランが顔を見合わせる。
『こちらも行き止まりだ。その中央に宝箱が一つ置かれている』
レオンたちまで同じ状況。
偶然とは考えにくい。
「ちょっと待って。メリーたちにも聞いてみよう」
レオンとの通信を繋いだまま、今度はドゴルドからメリーへ連絡してもらう。
やがてカード越しにドゴルドの声が聞こえた。
『メリーたちも同じらしいぞ。行き止まりで、宝箱が一つだ』
「やっぱりか」
これで三組すべて。
罠によって三つに分断され、それぞれ別の道を進んだはずなのに、最後に待っていたものは同じだった。
すると共有カードの向こうから、元気な声が飛び込んでくる。
『じゃあ、開ければいいんじゃない?』
リズだった。
間髪入れずにララの声が重なる。
『リズ、だから罠かもしれないって話してるんでしょ!』
『でも開けないと進めないんでしょ?』
『だからって何も考えずに開けないの!』
離れていても、いつもの二人だった。
悠真は思わず笑いそうになりながら宝箱を見る。
「でも、リズの言うことも分かるんだよね」
「悠真さんまで何を言ってるんですか」
「いや、開けないと何も始まらないし」
クランは小さく息を吐いた。
「せめて調べてからにしてください」
「それはもちろん」
三組で宝箱の状態を確認する。
大きさも形もほぼ同じ。古びた木製で、金属の補強が施されている。
クランが床へ膝をつき、宝箱の周囲を念入りに調べた。
底。
蝶番。
金具。
さらに床との接地部分まで確認していく。
「見える範囲では、仕掛けはなさそうです」
「開けても大丈夫?」
「大丈夫とは言ってません」
「厳しいな」
「慎重なんです」
レオンたち、ララたちもそれぞれ確認を終えたらしい。
絶対に安全とは言い切れない。
それでも進むには、開けるしかなかった。
「じゃあ、三組一緒に開けようか」
『同時にか?』
「何か起きても、すぐ連絡できるように」
『分かった』
悠真は宝箱の前に立つ。
クランは少し離れ、いつでもバリアを使えるように身構えていた。
「いくよ。三、二、一……」
悠真が蓋へ手をかける。
「開ける!」
ガコンッ。
重い蓋が持ち上がった。
悠真はすぐに後ろへ飛び退く。
クランも身構える。
しかし、矢も飛んでこなければ、ガスも出ない。
「……何も起きないね」
「みたいですね」
二人は慎重に宝箱へ近づいた。
中には三つの物が入っていた。
一つは、古びた金属製の鍵。
もう一つは、手のひらに収まる大きさの魔石。
そして最後は、一枚の紙だった。
「紙?」
悠真が取り出して広げる。
文字は書かれていない。
代わりに何かの絵が描かれていた。
だが、途中で不自然に途切れている。
「なんだこれ」
「絵……ですよね?」
「たぶん。でも、何を描いてるのか全然分からない」
悠真が首を傾げていると、カードからレオンの声が聞こえた。
『こちらにも鍵と魔石が入っていた。それと、妙な絵が描かれた紙が一枚ある』
「レオンのところにも?」
『何を描いたものなのかは分からない。途中で切れているように見える』
続いてメリーたちからも同じ報告が入る。
三つの宝箱。
三本の鍵。
三個の魔石。
そして三枚の絵。
『ねえ、それって三枚で一つなんじゃない?』
意外にも最初に言い出したのはリズだった。
ララが少し間を置いて答える。
『……あり得るわね。こっちの絵も紙の端で不自然に途切れてるもの』
「俺のもそうだ」
悠真は紙をランプへ近づけた。
線の一部が紙の端まで伸び、その先が完全に切れている。
クランも覗き込む。
「三枚を並べたら、絵が繋がるのかもしれませんね」
「じゃあ合流したら試してみよう」
悠真は紙を丁寧に畳まず、そのまま傷まないよう収納鞄へしまった。
鍵も続けて収納する。
「問題は……」
残った魔石を手に取る。
「これだな」
青白い魔石は、弱い光を放っている。
悠真は周囲を見渡した。
「鍵穴はない。でも、魔石が入ってたってことは……」
「この部屋で使うのかもしれません」
クランはすぐに壁を調べ始めた。
悠真も反対側を探す。
岩壁を触り、床との境目まで確認していくが、それらしい場所はなかなか見つからない。
「ないなあ」
「悠真さん、こっち」
クランが壁際でしゃがんでいた。
近づいてみると、岩壁の低い位置に小さな窪みがある。
苔と汚れに覆われていて、注意して見なければ気づかない。
「これ、魔石と同じくらいじゃない?」
「入れてみます?」
「罠だったら?」
「さっき宝箱を開けた人が何を言ってるんですか」
「それもそうか」
悠真は魔石を窪みへ押し込んだ。
カチッ。
ぴたりとはまる。
次の瞬間、魔石から青白い光が広がった。
ゴゴゴゴゴ……。
「動いた!」
正面の岩壁がゆっくり横へずれていく。
砂埃が落ち、今まで壁だった場所から新たな通路が現れた。
「やっぱり、この魔石が仕掛けを動かすためのものだったんだ」
「他の皆さんにも伝えましょう」
悠真はすぐ共有カードを使う。
「レオン、魔石をはめる場所がある! 小さな窪みを探してみて!」
『窪みか。分かった』
しばらくして。
『見つけたぞ!』
ラパンの声が響いた。
『宝箱の下だ! この箱、動かせるぞ!』
何やら向こうでドゴルドたちが宝箱を動かしている音がする。
そして、
『おおっ!? 階段が出てきたぞ!』
レオンたちの部屋では、魔石をはめることで床の一部が開き、下へ続く階段が現れたらしい。
残るはララたち。
『窪みなんてないわよ?』
『もっと探そうよ』
『リズ、適当に触らないでよ。罠があったらどうするの』
『でも、こういうのって押したら出てきたり……あっ』
カコン。
共有カード越しにも聞こえた。
『リズ!?』
『なんか押しちゃった』
『もう!』
直後、メリーの声が飛んでくる。
『壁の一部が開きました! 中に窪みがあります!』
「本当に見つけた……」
悠真は思わず呟いた。
クランが肩を揺らす。
「こういう時は強いですね、リズさん」
「普段からあんな感じなんだけどね」
やがてララたちの方でも魔石をはめると、壁が横へ動き、新しい通路が現れた。
三組とも、再び先へ進める。
悠真は開いた暗い通路へランプを向けた。
どこまで続いているのかは分からない。
それぞれ違う方向へ進んでいる以上、この先で合流できる保証もなかった。
「レオン。鍵と絵は持っておこう」
『俺もそのつもりだ。特に鍵は、この先で必要になる可能性が高い』
『絵もなくさないでよ!』
ララの声が続く。
「分かってる。合流したら三枚並べてみよう」
今のところ分かったのは、魔石の役割だけ。
三本の鍵は、まだ使っていない。
三枚に分かれた謎の絵も、その全体像すら見えていない。
だが、それらが何の意味もなく宝箱へ入れられていたとは思えなかった。
悠真は収納鞄を軽く叩く。
「まだ先が長そうだな」
「三十億マニーですからね」
「そうだった。宝箱見つけたのに、お金になる物が一個も入ってなかったな」
クランが思わず吹き出した。
「今さら気づいたんですか?」
「ちょっと期待してたんだけどなあ」
「次の宝箱に期待しましょう」
「また罠っぽいやつだったら嫌だな」
二人はそんな話をしながら、新しく現れた通路へ足を踏み入れた。
その頃、レオンたちは地下へ続く階段を。
ララたちは壁の奥に隠されていた道を進み始めていた。
三組の手元に残された、三本の鍵。
そして、まだ一つになっていない三枚の絵。
それらが何を意味するのかは、まだ誰にも分からなかった。
第128話を読んでいただき、ありがとうございました!
三組の前に用意されていた三つの宝箱。
魔石を使って新たな道を見つけることはできましたが、残された三本の鍵の使い道はまだ分かりません。
そして、それぞれが手に入れた謎の絵。
三枚を合わせると、いったい何が描かれているのでしょうか。
三組は別々の道を進み、海底ダンジョンのさらに奥へ。
次回もよろしくお願いします!




