第127話 新スキル・烈風斬
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
罠によって仲間たちと分断され、クランと二人になった悠真。
落とし穴の底には、本来あるはずのない横道が続いていました。
果たして、この道はどこへ繋がっているのか。
今回もよろしくお願いします!
落とし穴の底には、まだ生々しい恐怖が残っていた。
無数の鉄杭。その間に転がる白骨や錆びた武器。悠真はクランを抱えたまま飛行スキルでゆっくり高度を上げ、安全そうな石床へ降りた。
「もう大丈夫です」
「あ、ごめん」
悠真が手を離すと、クランは少しだけ服を整えた。
「助かりました。あと少し遅かったら、串刺しでしたね」
「想像したくないな、それ」
悠真はランプを掲げ、改めて周囲を見渡す。
上部はすでに厚い石板で閉ざされている。飛行スキルがあっても、戻れそうな隙間は見当たらなかった。
問題はもう一つあった。
「……やっぱり変だな」
「何がですか?」
悠真がランプを向けた先。
鉄杭の並ぶ場所から少し離れた岩壁に、人が通れるほどの横穴が開いている。
「あの罠って、落ちた人間を殺すためのものだよね」
「でしょうね」
「だったら、なんで道があるんだろう」
クランも横穴へ目を向けた。
削られたようにも見えるが、海賊たちが使っていた上層の通路とは明らかに造りが違う。岩肌は不揃いで、ところどころ奇妙な曲線を描いていた。
「ダンジョンになってからできた道かもしれません」
「それか、ここで生き残った誰かが掘ったとか?」
「その可能性もありますね」
どちらなのかは分からない。
ただ、行き止まりであるはずの死の罠から、道が続いている。
悠真は横穴の奥を見た。
「この先に何かあるのは間違いなさそうだね」
「行きます?」
「他に道もないし」
クランが小さく笑った。
「悠真さん、意外と迷わないんですね」
「迷っても出口が増えるわけじゃないからね」
二人は横穴へ入った。
しばらく進むと、周囲の雰囲気が少しずつ変わっていった。
海賊のアジトに残っていた金具や木材はなくなり、むき出しの岩だけが続く。壁の一部には淡く光る苔のようなものまで生えていた。
悠真は歩きながらエリア感知を広げる。
その直後、眉をひそめた。
「いるな」
「魔物ですか?」
「前に三匹。少し先にも反応がある」
クランは腰の左右へ手を伸ばした。
抜かれたのは、細身の短剣だった。
二本。
「クラン、短剣使うんだ」
「近い方が得意なので」
ほどなくして岩陰から魔物が姿を現した。
四足歩行の灰色の魔物。大型犬ほどの身体に、異様に長い爪が伸びている。
「三匹ですね」
クランが足を踏み出した。
「俺がやろうか?」
「これくらいなら大丈夫です」
次の瞬間、クランの姿が消えたように見えた。
「速っ」
身体強化。
悠真にもそれは分かった。
クランは真正面から突っ込まず、一匹目の爪を紙一重でかわすと、その脇を滑り抜けた。
シュッ。
短剣が首元を走る。
魔物が振り返るより先に、クランは二匹目の横へ移動していた。
一撃。
さらに身体を低くして三匹目の突進をかわす。
だが、その一匹が強引に前脚を振り下ろした。
「クラン!」
「バリア!」
透明な膜がクランの前に展開する。
ドンッ!
巨大な爪が弾かれ、魔物の身体がよろめいた。
ただし、バリアを張っている間、クランは攻撃へ移れない。
魔物が再び爪を振り上げた瞬間、クランはバリアを解除した。
一歩踏み込み、短剣を喉元へ突き立てる。
三匹目が崩れ落ちた。
「結構強いんだね」
「結構って失礼じゃありません?」
「いや、戦ってるところちゃんと見たことなかったから」
クランは短剣についた汚れを振り払う。
「力比べは苦手です。だから、相手の攻撃に付き合わないようにしてるだけですよ」
「速さで翻弄する感じか」
「捕まらなければ、力が強くても関係ありませんから」
その言葉とは裏腹に、クランは少しだけ得意そうだった。
二人はさらに進む。
魔物はその後も何度か現れた。
二匹、四匹。
横穴を進めば進むほど、明らかに数が増えていく。
「これだけ魔物がいるなら、やっぱりダンジョンが作った道なのかな」
悠真が倒した魔物から剣を引き抜く。
「まだ決めるのは早いと思います」
「慎重だね」
「生き残るには必要です」
「説得力あるなあ」
さらに奥へ進んだところで、クランが急に悠真の腕を掴んだ。
「止まってください」
「え?」
クランはその場にしゃがみ込んだ。
床の一角をじっと見つめている。
「この石、少しだけ低いです」
悠真も目を凝らした。
「……分からない」
「よく見てください。周りよりほんの少し沈んでます」
言われてもほとんど違いがない。
「踏むと何か起きる?」
「おそらく」
クランは壁、天井へと視線を走らせた。
そして天井の小さな穴に気づく。
「上ですね」
「何が出るんだろ」
「試します?」
「いや、それ罠って分かってて踏む人いる?」
「悠真さんならやりそうだったので」
「俺、そんな扱い?」
クランが僅かに口元を緩めた。
その時だった。
悠真が位置を変えようと一歩下がる。
カチッ。
二人とも止まった。
「……今の」
「踏みましたね」
「ごめん」
「謝るの早いです!」
シュウウウウウッ!
天井の穴から白い煙が一気に噴き出した。
「ガス!」
クランが口元を覆う。
悠真は即座にスキルを発動した。
「風圧バリア!」
ゴオッ!
二人を包むように風が渦巻き、流れ込んできたガスを外側へ押し返す。
「これは……」
「たぶん吸わない方がいいやつだね」
「たぶんじゃなくて絶対です」
だが、その直後。
悠真のエリア感知に大量の反応が入った。
「クラン」
「何です?」
「来る」
「どれくらい?」
悠真は数を追う。
「十……いや、もっといる」
暗い通路の奥から、複数の足音が重なって響き始めた。
ドドドドドッ。
やがて白いガスの向こうから魔物たちが飛び出してくる。
「普通にガスの中を走ってますね」
「魔物には効かないみたいだ」
クランが短剣を構える。
「侵入者を痺れさせて、その間に襲わせる……嫌な罠ですね」
「よくできてるよ、本当に」
「感心してる場合ですか!」
魔物の群れが突っ込んでくる。
悠真とクランは同時に動いた。
クランが身体強化で群れの側面へ回り込み、短剣で一匹ずつ仕留めていく。
悠真は正面から剣を振るった。
「斬撃!」
ズバッ!
二匹を続けて倒す。
さらに一匹。
もう一匹。
その瞬間、聞き慣れた声が頭の中に響いた。
《レベルが15になりました》
「おっ」
《新たなスキルを習得しました》
《烈風斬》
「烈風斬?」
「悠真さん?」
「新しいスキル覚えた」
「今ですか!?」
クランが魔物の爪を避けながら振り返る。
その向こうから、まだ十匹近い魔物が押し寄せてきていた。
悠真は剣を握り直した。
「ちょうどいいか」
「何がちょうどいいんです?」
「試せる」
大きく横へ剣を振るう。
「烈風斬!」
ゴオオッ!
剣先から生まれた巨大な斬撃が、風を巻き込みながら扇状に広がった。
ズバァァンッ!
先頭の魔物が吹き飛び、その後ろにいた魔物までまとめて切り裂かれる。
数秒前まで通路を埋め尽くしていた群れが、一気に沈黙した。
クランは短剣を構えたまま動きを止める。
「……全部?」
「全部みたい」
「今覚えたんですよね?」
「うん」
「初めて使ったんですよね?」
「そうだけど」
クランはしばらく悠真を見つめた。
「悠真さんって、時々おかしいですよね」
「時々?」
「そこ気にします?」
悠真は剣を鞘へ戻した。
「でも、クランもすごかったよ。あの罠も俺じゃ気づかなかった」
「……そうですか」
「助かった。ありがとう」
何でもないように告げられた言葉に、クランの返事が僅かに遅れた。
「いえ。私も助けてもらっていますから」
「じゃあ、お互い様だね」
悠真は先へ向かって歩き出した。
クランはその背中を少しだけ見つめてから、短剣を収めて後を追う。
しばらくすると横穴が終わり、少し広い空間へ出た。
悠真がランプを掲げる。
「……あ」
「どうしました?」
部屋の中央。
そこに、一つだけ宝箱が置かれていた。
周囲には何もない。
隠されてもいない。
まるで最初から見つけてほしいと言わんばかりに、堂々と置いてある。
「宝箱だ」
「宝箱ですね」
二人はその場から動かなかった。
悠真が宝箱を見る。
クランも見る。
「……怪しくない?」
「ものすごく怪しいです」
「開ける?」
「嫌です」
「即答だね」
「ここまで何を見てきたんですか」
もっともだった。
悠真はエリア感知を使ってみた。
反応はない。
魔物もいない。
だからこそ、余計に怪しい。
静まり返った部屋の中央で、宝箱だけが悠真たちを待っている。
悠真は腕を組んだ。
「これ、絶対何かあるよな」
クランも真顔で頷いた。
「それだけは間違いないと思います」
二人はしばらく、見るからに怪しい宝箱を見つめ続けた。
第127話を読んでいただき、ありがとうございました!
横道の先には魔物だけでなく、痺れガスまで。
どうやら海底ダンジョンは、簡単には進ませてくれないようです。
そして悠真はついにレベル15へ!
新たに習得したのは、複数の敵をまとめて薙ぎ払える「烈風斬」でした。
クランの意外な戦闘能力も見えてきて、二人の距離もほんの少しだけ変わり始めています。
そして最後に待っていた、あまりにも分かりやすく怪しい宝箱。
……開けるのか、開けないのか。
次回もよろしくお願いします!




