第13話 売れない理由と、最初の一人
第13話です。
今回は、新しい商品での挑戦回になります。
うまくいくか分からない中で、
悠真たちは一歩踏み出します。
異世界に戻る。
空気が少し違う。
時間の感覚にも、だいぶ慣れてきた。
「……十五日後、か」
悠真が呟く。
地球での時間はほんの少し。
だがこちらでは、しっかり時間が流れている。
「このズレ、ほんとややこしいね」
リズが言う。
「まあ、その分動けるけどな」
拠点に荷物を置く。
100円ショップで買ってきたもの。
調味料。
お菓子。
便利グッズ。
全部並べる。
「……いけそうか?」
「いけると思う」
リズは迷いなく言った。
「絶対、こっちにないものばっかり」
悠真は頷く。
「じゃあやるか」
二人は露店へ向かう。
場所は相変わらず悪い。
人通りは少ない。
だが、それでもやるしかない。
商品を並べる。
見たことのないものばかり。
袋に入った粉。
カラフルな菓子。
小さな道具。
価格も、少し高めに設定した。
「……これくらいでいいか」
「安すぎても怪しまれるしね」
準備完了。
あとは客を待つだけ。
だが――
来ない。
まったく来ない。
通り過ぎる人はいる。
だが、誰も足を止めない。
「……見事にスルーされるな」
悠真が呟く。
「見たことないものだからね」
リズも腕を組む。
「逆に警戒されてるかも」
時間だけが過ぎる。
一時間。
二時間。
売上ゼロ。
「……やばいなこれ」
悠真は小さく言った。
「値段ミスったか?」
「それもあるかも」
リズも少し不安そうだ。
だが。
そのときだった。
足音が止まる。
一人の男。
目立つ。
まず装備が違う。
軽装なのに、明らかに質がいい。
そして、雰囲気。
余裕がある。
「……なんだこれ」
男が商品を見下ろす。
興味ありげな目。
「見ないな、この感じ」
悠真は顔を上げる。
「……ああ、まあ」
どう説明するか迷う。
男は笑う。
「新参?」
軽いノリ。
少しチャラい。
でも、どこか余裕がある。
「そんなとこです」
悠真が答える。
男は一つ、袋を手に取る。
「これ、何?」
「……調味料です」
「ちょうみりょう?」
聞き慣れない言葉。
「料理に使うやつで……味を変えるというか」
男の目が少し変わる。
「へえ」
興味が出たらしい。
「どれくらい変わる?」
「結構変わると思います」
リズが横から言う。
男はニヤッと笑う。
「面白そうじゃん」
次に、別の商品を見る。
「これ何?」
「お菓子です」
「甘いの?」
「かなり」
男は即答する。
「いいね」
そのままいくつか手に取る。
「……で、いくら?」
悠真が金額を言う。
少し高めの設定。
普通なら引く。
だが。
「へえ」
男はそのまま金貨を取り出した。
「じゃあこれと……これと……あとこれ」
次々と選ぶ。
「それ、全部で――」
「いいよ、まとめてくれ」
軽い。
完全に迷いがない。
悠真は少し驚く。
「いいんですか?」
「金はある」
男は笑う。
「価値あるならな」
リズが小さく呟く。
「……この人、強い」
悠真も分かる。
ただの客じゃない。
「名前は?」
男が聞く。
「神代悠真です」
「へえ」
男は軽く頷く。
「俺はレオン・グラディウス」
名乗る。
「まあ、よろしくな」
そう言って、商品を持って去っていった。
残された空気が少し変わる。
「……すごい人だったな」
悠真が言う。
「うん」
リズも頷く。
「多分、かなり上」
悠真は売上を見る。
初売上。
しかも一気に。
「……いけるかもな」
そう思った、そのときだった。
別の男が近づいてくる。
「なあ、それってさっきのやつと同じか?」
悠真は一瞬止まる。
「……はい」
「売ってくれ」
次の客。
さらに、その後も。
「甘いのあるって聞いた」
「味変わるやつってこれか?」
人が増える。
明らかに流れが変わる。
「……マジか」
悠真が呟く。
リズが笑う。
「広まってる」
あの男だ。
間違いない。
「……レオン、か」
ただの客じゃない。
流れを作る側の人間。
その日。
露店は、久しぶりに人が並んだ。
悠真は思う。
「……まだやれるな」
この世界で。
自分のやり方で。
稼ぐ道は、確かにあった。
13話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、
・100均商品の販売開始
・最初の苦戦(客が来ない)
・キーパーソン「レオン・グラディウス」の登場
を描いています。
このレオンというキャラクターは、
ただの強い冒険者ではなく、
「価値を見抜き、流れを変える存在」です。
彼の一言、行動が、
悠真たちの商売を一気に動かしていきます。
そしてようやく、
“売れる手応え”が見え始めました。




