↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
124/162

第124話 潜水艇を貸せない理由

いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!


三十億マニーを求め、海底ダンジョンへの挑戦を決めた悠真たち。


まずは北の海へ潜るための準備を始めます。


水中用のスキルカードを揃え、次に必要なのは潜水艇。


ところが、どうやら簡単にはいかないようで……。


今回もよろしくお願いします!

翌朝。


 悠真たちはウィストンの港近くにある冒険者向けの店へ足を運んでいた。


 目的は、海底ダンジョンへ向かうための準備だ。


 店内には剣や防具だけでなく、海洋活動用の道具やスキルカードも数多く並んでいる。壁際には見慣れない青色のカードが何種類も吊るされていた。


「これが水中用か」


 悠真は一枚を手に取る。


 カードには、水の中で口を開ける人間の絵が描かれていた。


「水中呼吸ですね」


 ララが横から覗き込む。


「一定時間、水の中でも普通に息ができます」


「そんな便利なスキルまであるんだな」


「ウィストンでは珍しくありませんよ」


 ラパンが別の棚を見ながら答える。


「海底資源を採る連中もいるし、漁師が使うこともある。むしろ、この街じゃ持ってない方が珍しいくらいだ」


 悠真は感心しながら、隣のカードへ目を移した。


「こっちは?」


「水中移動」


 ドゴルドが答える。


「水の抵抗を減らして、地上に近い感覚で動ける」


「こっちは水圧耐性か」


「深い場所へ行くなら必須だな」


 レオンもカードを一枚取り上げ、裏面を確認する。


 海底ダンジョンがどれほど深い場所にあるのか、正確には分かっていない。


 なら、準備しすぎて困ることはない。


「全部揃えると結構するな……」


 悠真が値札を見ながら苦い顔をする。


 リズが隣から覗き込んだ。


「三十億マニーを取りに行く前に、どんどんお金減ってない?」


「言うなよ」


「でも事実でしょ」


「金を取りに行くために金がいるって、なんか嫌だな」


 メリーが小さく笑った。


「冒険って、だいたいそんなものよ。準備をケチって命を落とすよりはずっといいわ」


「それはそうなんだけど……」


 必要なスキルカードを人数分揃える。


 クランも自分のカードを受け取り、表面をじっと見つめていた。


「使ったことある?」


 リズが尋ねる。


「水中呼吸はあります」


「あるんだ」


「仕事で必要だったので」


 クランはそれだけ答えた。


 リズは特に深く聞かず、


「じゃあ私より慣れてそうだね」


 と笑う。


 クランは返事をせず、カードを収納した。


 仕事。


 そう言えば、それ以上聞かれない。


 少なくとも今は。


 準備を終えると、八人は港へ向かった。


 朝のウィストンは活気に満ちている。


 冷たい潮風の中、漁船から魚が降ろされ、荷車が何台も行き交っていた。そのさらに奥、普通の船とは違う丸みを帯びた金属製の船体が並んでいる場所がある。


「あれ?」


 悠真の足が止まる。


「まさか……」


 ドゴルドが顎で示した。


「潜水艇だ」


「本当にあるんだ」


 悠真は思わず近づいた。


 地球で知っている軍用潜水艦ほど巨大ではない。


 大きさは小型の船ほどで、丸みを帯びた船体の側面には厚い窓がいくつか取り付けられている。後部には魔石をはめ込むための装置らしきものも見えた。


「魔石で動くの?」


「そうだ」


 ラパンが船体を軽く叩く。


「推進も浮上も魔石頼み。海底採掘や調査用だな」


「すげえな……」


 悠真は素直に感心した。


「ちょっと乗ってみたい」


「遊びに行くんじゃないのよ」


 リズが呆れたように言う。


「分かってるって」


 港の端に、潜水艇の貸し出しを行っている建物があった。


 中へ入ると、カウンターの向こうで一人の男が帳簿をつけていた。


 年齢は五十歳前後。


 日に焼けた顔に短い髭。分厚い手には細かな傷がいくつも残っている。


「いらっしゃい」


 男は顔を上げた。


「潜水艇か?」


「はい」


 悠真が答える。


「八人乗れるものを借りたいんですけど」


「八人か」


 男は立ち上がり、窓の外に並ぶ潜水艇を確認する。


「それなら二番艇だな。九人まで乗れる」


「借りられます?」


「空いてるよ」


 話は順調に進んだ。


 使用日数。


 料金。


 魔石の補充。


 基本的な操縦方法。


 悠真たちは説明を聞きながら頷いていく。


 男は帳簿へ何かを書き込みながら、何気なく尋ねた。


「それで、どこまで行く?」


「ウィストン沖だ」


 ドゴルドが答える。


「沖のどこだ?」


「海底ダンジョン」


 男の手が止まった。


 ペン先から落ちたインクが、帳簿に小さな染みを作る。


「……今、なんて言った?」


「海底ダンジョンだ」


 ドゴルドがもう一度答える。


 男はしばらく黙っていた。


 そして帳簿を閉じる。


「悪いが、貸せねえ」


「え?」


 悠真が聞き返した。


「さっきまで貸せるって」


「あそこ以外ならな」


 男はカウンター越しに八人を見る。


「海底ダンジョンへ行く奴には、うちの艇は貸さない」


「理由を聞いてもいいですか?」


 ララが尋ねる。


 男は小さく息を吐いた。


「昔、貸したことがある」


 その声には、さっきまでの商売人らしい軽さがなかった。


「腕に自信のある冒険者だったよ。絶対に戻るからって言ってな」


「それで?」


 悠真が続きを待つ。


「戻ってこなかった」


 港から聞こえていた掛け声が、妙に遠く感じられた。


「冒険者も、艇もだ」


 男は窓の外へ目を向ける。


「あれ以来、海底ダンジョンへ行く奴には貸してない」


「俺たちはラスカルだ」


 ドゴルドが名乗る。


 男はすぐに首を振った。


「知ってるよ」


「なら俺たちが」


「だからって話は変わらねえ」


 男の声は強かった。


「あんたらがどれだけ腕の立つ冒険者でも関係ない」


 カウンターへ手をつく。


「自分の命を賭けるのは勝手だ。だが、俺の艇まで道連れにされちゃ困る」


 悠真は反論できなかった。


 筋は通っている。


 潜水艇は安いものではないだろう。


 それ以前に、男にとっては長く仕事に使ってきた大切な道具だ。


「ほかに借りられるところは?」


 リズが小声で聞く。


 ラパンが首を傾ける。


「なくはないが……ここが一番大きい」


「条件のいい艇もここだな」


 ドゴルドも困ったように頭を掻く。


 悠真はもう一度男を見る。


「どうしても駄目ですか?」


「駄目だ」


 即答だった。


「金を多めに払っても?」


「金の話じゃない」


 男は腕を組む。


「悪いが帰ってくれ」


 その時だった。


 バタン!


 建物の扉が勢いよく開いた。


「ボッツ!」


 外から男が飛び込んでくる。


 カウンターの男が振り返った。


「……どうだった?」


 先ほどまでの厳しい表情が一瞬で消える。


 港の男は帽子を脱ぎ、申し訳なさそうに首を横へ振った。


「駄目だ」


 ボッツの指が僅かに動く。


「北側の岩礁まで探した。潜れる奴も全員使った。でも……」


 男は言葉を詰まらせる。


「ナミリアさんは見つからなかった」


 ボッツは何も答えなかった。


 ただ、ゆっくりと視線を落とす。


 悠真たちは顔を見合わせた。


「ナミリアさんって……?」


 悠真が慎重に尋ねる。


 ボッツはしばらく黙っていた。


 やがて低い声で答える。


「……俺の女房だ」


 リズの表情が変わる。


「何かあったんですか?」


「昨日、海洋資源の調査で沖へ出た」


 ボッツはカウンターへ両手をついたまま話し始めた。


「何人かの調査員と一緒にな。現場までは潜水艇で行った」


 調査自体は珍しい仕事ではなかった。


 ナミリアは何度も同じような調査へ出ている。


 海についても、潜水艇についても十分な経験がある。


「調査地点で艇を出た時だった」


 ボッツの声が低くなる。


「海中からデカい魔物が出たらしい」


「魔物?」


「直接襲ってきたわけじゃねえ」


 ボッツは首を振る。


「そいつが海面近くを通っただけだ。ただ、デカすぎた」


 巨大な魔物が海面付近を通過したことで、海流が一気に乱れた。


 さらに海面には強い波が起こった。


 ナミリアが潜水艇から岩場へ移ろうとした、その瞬間。


 猛烈な波が艇へ叩きつけられた。


「女房だけが海へさらわれた」


 ボッツが唇を噛む。


「仲間もすぐ追った。だが、もう見えなかったそうだ」


「その魔物は?」


 レオンが尋ねる。


「今までこの辺りじゃ、ほとんど見なかった奴らしい」


 悠真とララが一瞬だけ顔を見合わせる。


 山では、スノーワイバーンが異常な数で人間の生活圏へ降りてきていた。


 そして今度は海。


 本来この辺りにいないはずの大型魔物。


 偶然なのか。


 それとも。


 まだ結論を出すには早い。


「昨日からずっと探してる」


 ボッツが続ける。


「だが見つからねえ」


 外の海へ視線を向ける。


 北の海。


 冷たく、荒れやすい。


 悠真にも、ボッツが何を考えているのかは分かった。


 時間がない。


「最後に奥さんを見た場所、分かります?」


 悠真が尋ねた。


 ボッツが顔を上げる。


「分かるが……」


「そこまで連れていってください」


「何する気だ?」


「探します」


「昨日から何人で探したと思ってる」


「それでも」


 悠真はボッツから目を逸らさなかった。


「俺なら、見つけられるかもしれません」


 ボッツの眉が動く。


「どうやって?」


「エリア感知っていうスキルがあります」


 悠真は自分の胸元へ手を置いた。


「周囲にいる人や魔物の反応を探せるんです」


「海の中でも使えるのか?」


「分かりません」


 正直に答える。


「でも試したことがないだけです」


 ボッツは黙った。


「奥さんが生きてるって約束はできません」


 悠真もそれだけは言えなかった。


「見つけられるかどうかも分からない。でも、探してみることはできます」


 長い沈黙が続いた。


 やがてボッツは目を閉じ、大きく息を吐いた。


「……本当に見つけられるのか?」


「分かりません」


「そこは言い切らないのね」


 リズが小さく呟く。


「分からないものは分からないだろ」


 悠真は肩をすくめ、それからボッツを見る。


「でも、ここで待ってるよりはいいと思います」


 ボッツはもう一度、窓の外の海を見た。


 そして決めたようにカウンターから出る。


「……分かった」


 港へ向かって歩き出す。


「来い」


「どこへ?」


 悠真が尋ねる。


 ボッツは外に停泊している一隻の潜水艇を指差した。


「乗れ」


 その横顔から迷いは消えていた。


「俺が案内する」

第124話を読んでいただき、ありがとうございました!


海底ダンジョンへ向かうための潜水艇を借りるはずが、思わぬ展開になりました。


ボッツの妻ナミリアは、昨日の海洋調査中に大型魔物の影響で海へ流され、今も行方が分かっていません。


しかも最近、ウィストン近海では本来あまり見かけない魔物まで現れている様子。


雪山で起きている異変と何か関係があるのでしょうか。


そして悠真のエリア感知は、広大な北の海でも通用するのか。


次回、ナミリアの捜索へ向かいます。


果たして彼女は、まだどこかで生きているのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。