第121話 雪山に潜むもの
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
十二枚存在することが明らかになった石版。
悠真たちはラスカルに、これまで分かっていることを話していきます。
しかし、その話の途中で思わぬ知らせが。
アルファ地区での旅は、まだ始まったばかりです。
今回もよろしくお願いします!
「石版は……全部で十二枚あります」
悠真の言葉に、談話室の空気がわずかに止まった。
ドゴルドは腕を組んだまま眉を寄せ、ラパンは何度か瞬きをする。メリーも驚きを隠せず、悠真とララを交互に見ていた。
「十二枚……」
ラパンがゆっくりと呟く。
「俺たちが何年も追いかけてきたものが、そんなにあるのか」
「全部の場所が分かっているわけじゃありません。でも、かなり所在は絞れています」
悠真はそう言ってから、順番に説明していった。
地球にいるアルヴェルトが四枚。
悠真たちが現在持っているのが三枚。
そして、ラスカルが所有する二枚。
「それで九枚か」
ドゴルドが指を折る。
「残り三枚は?」
「一枚は、一度俺たちが手に入れました」
悠真の声が少し沈んだ。
「でも、敵に奪われました」
ドゴルドの表情が変わる。
「敵?」
「正体はまだ分かってません。ただ、最初から石版を狙っていたみたいです」
「石版を集めてるのは、お前たちだけじゃないってことか」
レオンが静かに答える。
「その可能性は高い」
クランは椅子に座ったまま、黙って会話を聞いていた。
奈良の大仏の石版。
それを奪った相手が誰なのか、自分だけは知っている。
だが、今ここで口を開く理由はない。
クランは表情を変えず、そのまま話の続きを待った。
「じゃあ、あと二枚は?」
メリーが尋ねる。
「サザンアイランドにあるはずです」
ララが答えた。
「高千穂峡と天橋立。私たちは次に、その二枚を探すつもりです」
ラパンは椅子へ深く座り直した。
「待ってくれ」
少し考え込んでから、悠真を見る。
「十二枚全部揃ったら、何が起きる?」
「それは……」
悠真は答えに詰まった。
そこが一番分からない。
石版がゼラモードによって作られたこと。
十二柱の神へ一枚ずつ預けられたこと。
そこまでは判明している。
だが、十二枚を集めた先に何があるのかまでは分からない。
「まだ、分かってません」
「分からない?」
ラパンの口元が少し緩んだ。
「神が作った十二枚の石版。しかも全部揃った時に何が起きるか誰も知らない」
「ラパン」
メリーが嫌そうな顔をする。
「その顔、やめて」
「どんな顔だよ」
「面白そうなもの見つけた時の顔」
「そりゃ面白いだろ」
ラパンは悪びれない。
ドゴルドは額へ手を当てた。
「お前は昔からそうだな」
「知らないものがあったら気になるだろ?」
「程度ってものがある」
少しだけ空気が緩んだ。
悠真も思わず笑いかけた、その時だった。
バタン!
談話室の扉が勢いよく開いた。
「ドゴルドさん!」
受付にいた女性が息を切らして立っている。
ドゴルドがすぐに立ち上がった。
「どうした?」
「スノーワイバーンです!」
その名前を聞いた瞬間、ラスカル三人の表情が変わった。
「またか?」
「はい。北の街道です。商隊と冒険者が襲われています」
「数は?」
「確認できただけでも十五以上です。まだ増える可能性があります」
「十五……」
メリーが小さく息を呑む。
悠真はドゴルドを見る。
「またって、どういうことですか?」
ドゴルドは背負っていた大剣へ手を伸ばした。
「昨日、俺たちが討伐してきたのもスノーワイバーンだ」
「昨日も?」
「七匹いた」
ラパンも立ち上がり、杖を手に取る。
「普通なら一匹か二匹見れば多い方だ。七匹でも異常だった」
「それが今日は十五以上……」
ララの表情が険しくなる。
受付の女性が続けた。
「このまま街道を南へ進めば、ノルディアへ近づく可能性もあります」
「行くぞ」
ドゴルドは迷わなかった。
メリーもすぐに立ち上がる。
「俺たちも行きます」
悠真も続いた。
ドゴルドが振り返る。
「雪山の魔物だぞ。昨日ここへ来たばかりのお前たちには危険だ」
「見てるだけより、手伝った方が早いです」
「こっちは五人いるしね」
リズはもう剣へ手をかけている。
レオンも立ち上がり、短く言った。
「街まで来られる方が面倒だ」
ドゴルドは数秒だけ悠真たちを見た。
「……無茶はするなよ」
「それ、リズに言ってください」
「なんで私だけ?」
「昨日から一番危なっかしいから」
「失礼だなあ」
クランも何も言わず椅子から立った。
八人はすぐにギルドを出た。
北の街道へ向かうにつれ、空が次第に暗くなっていく。
雪は強く、風も冷たい。
防寒装備を整えていても、顔へ当たる雪が痛かった。
「見えた!」
先頭を走っていたドゴルドが声を上げる。
街道の先。
数台の馬車が円を描くように集まり、その周囲で冒険者たちが必死に剣を振るっていた。
その上空を、白い翼を持つ魔物が何体も旋回している。
「スノーワイバーン……」
悠真が目を細める。
白い鱗に覆われた体。
翼を広げれば数メートルはある。
一体だけでも厄介そうなのに、それが十匹以上。
「昨日より多いな」
ドゴルドの声が低くなる。
「ラパン、上を頼む!」
「任せろ!」
ラパンが杖を振り上げた。
「氷槍!」
空中に鋭い氷の槍が複数生まれ、一直線に飛ぶ。
ドンッ!
一体の翼を貫き、スノーワイバーンが雪原へ墜落した。
「ララ!」
「分かってます!」
ララも杖を掲げる。
「炎よ、広がれ!」
赤い炎が吹雪の中を走り、二体のスノーワイバーンをまとめて包み込む。
白い翼が炎に照らされ、大きく揺れた。
「行くぞ!」
ドゴルドが大剣を構えて前へ出る。
地上へ降りてきた一体へ、レオンも同時に踏み込んだ。
ガキンッ!
鋭い爪と剣がぶつかり、雪が弾ける。
「重いな!」
ドゴルドが笑うように言い、大剣を振り抜いた。
ズドンッ!
ワイバーンの体が横へ吹き飛ぶ。
そこへレオンの剣が走り、首元を切り裂いた。
「息ぴったりじゃん!」
リズが叫びながら別の一体へ突っ込む。
「余所見するな!」
「してないって!」
上空からワイバーンが急降下してくる。
悠真は剣を構えた。
だが、吹雪で姿が見えにくい。
「エリア感知!」
意識を広げる。
白い世界の中に、複数の反応が浮かび上がる。
「右から二匹!」
悠真の声にラパンがすぐ反応する。
杖を振る。
氷の壁が生まれ、急降下してきたワイバーンの進路を塞いだ。
「上にも一匹!」
「任せて!」
リズが跳ぶ。
剣がワイバーンの翼を切り裂き、体勢を崩したところへ悠真の斬撃が直撃した。
白い体が雪の上へ落ちる。
「便利ですね、そのスキル」
メリーが負傷した冒険者を治療しながら言う。
「この吹雪だと助かります!」
悠真は再び感知範囲を広げた。
「後ろ!」
クランの背後へ一体が降りてくる。
クランは振り返る。
一瞬だけ、その動きが鋭くなった。
腰の短剣が閃き、ワイバーンの爪を正確に弾く。
「クラン!」
リズが駆け寄り、そのまま剣を振り抜いた。
「危なかったね!」
「……はい」
クランは短剣を握り直す。
今の一撃。
少し速すぎた。
だが、リズはまったく気にした様子もなく次の敵へ向かっている。
少し離れた場所でレオンだけが一瞬クランへ視線を向けたが、すぐに目の前の戦闘へ戻った。
戦いは続いた。
ラパンとララが上空を抑え、ドゴルドとレオンが地上へ落ちたワイバーンを仕留める。
リズは馬車へ近づく敵を迎え撃ち、メリーは負傷者の治療と仲間の支援に回る。
悠真はエリア感知で敵の位置を把握しながら、死角から迫るワイバーンへ斬撃を放った。
一体。
また一体。
雪原へ白い巨体が落ちていく。
やがて最後の一匹が逃げようと高度を上げた。
「逃がすか!」
悠真が剣を振り抜く。
斬撃が吹雪を切り裂き、ワイバーンの翼へ直撃した。
「ギャアアッ!」
体勢を崩したところへラパンの氷槍が突き刺さる。
最後のスノーワイバーンが雪原へ落ちた。
しばらくして、周囲に静けさが戻る。
「終わった……?」
リズが白い息を吐きながら剣を下ろす。
ドゴルドは倒れたワイバーンを見回した。
「これで全部ならな」
「確認します」
悠真はもう一度エリア感知を発動した。
近くにいる反応を一つずつ拾っていく。
仲間たち。
救助した冒険者。
商隊の人々。
倒れたスノーワイバーン。
動いている敵はいない。
「この辺りにはもう……」
そこまで言った瞬間だった。
悠真の意識が、遠くの何かへ触れた。
「……え?」
思わず声が漏れる。
今まで感知したものとは違う。
遠い。
それでも分かる。
雪山の奥深く。
とてつもなく強い反応が一つある。
「悠真?」
ララが顔を覗き込む。
悠真は答えず、白く霞む山脈へ視線を向けた。
「どうした?」
レオンも気づく。
「……いる」
ドゴルドが眉をひそめる。
「ワイバーンか?」
「違う」
悠真は首を振った。
「もっと大きい」
風が雪を巻き上げる。
遠くの山は白い霧の向こうに隠れていた。
「ものすごく強い反応がある」
悠真は山脈の奥を指差した。
「……あの先に」
誰もすぐには言葉を返さなかった。
昨日の七匹。
今日の大量発生。
そして、雪山の奥に潜む巨大な何か。
ただの偶然ではない。
そんな予感だけが、冷たい雪原に残っていた。
第121話を読んでいただき、ありがとうございました!
昨日は七匹。そして今日はさらに多くのスノーワイバーンが出現。
悠真たちはラスカルと力を合わせ、北の街道を襲っていた群れを撃退しました。
そして今回は、悠真が手に入れた「エリア感知」も本格的に活躍。
吹雪の中でも敵の位置を捉えられるこの力は、アルファ地区ではかなり頼りになりそうです。
しかし、戦いが終わったあとに悠真が捉えたのは、雪山の奥にある今までとは比べものにならないほど強大な反応。
スノーワイバーンの大量発生と何か関係があるのでしょうか。
次回、雪山で起きている異変の正体へ近づいていきます。
次回もよろしくお願いします!




