第120話 石版を追う者たち
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
ノルディアでようやく掴んだ「ラスカル」という名前。
石版を探していたという三人組の冒険者たちは、一体何を知っているのか。
悠真たちは彼らを探して、ノルディアの冒険者ギルドへ向かいます。
今回は新たな出会いと、石版を巡る大きな事実が明らかになります!
翌朝。
悠真たちは朝食を済ませると、ノルディアの冒険者ギルドへ向かった。
昨日、酒場でようやく掴んだ石版の手掛かり。
三人組の冒険者パーティー、ラスカル。
雪山で長く活動しており、かつて石版らしきものを探していたという。
しかも昨日、雪山からノルディアへ戻ってきたばかりらしい。
「まだ街にいるといいけど」
リズが白い息を吐きながら呟く。
「昨日帰ってきたばかりなら、すぐ雪山へ戻ることはないと思いますけど」
ララは厚手の外套のフードを被り直した。
昨日揃えた防寒装備のおかげで、寒さはかなり和らいでいる。
クランもリズに選んでもらった外套と手袋を身につけ、少し後ろを歩いていた。
「クラン、暖かい?」
突然リズが振り返る。
「昨日よりは」
「でしょ? ちゃんとしたの買って正解だったね」
「はい」
クランは自分の手袋を見る。
任務に必要な装備なら、これまでにも与えられてきた。
だが、昨日の買い物は少し違った。
リズは何度も色や形を見比べ、クランに似合うものを選んでいた。
なぜそこまで時間をかけるのか、クランにはまだよく分からない。
「ほら、着いたよ」
リズの声に顔を上げる。
大きな石造りの建物が目の前にあった。
ノルディアの冒険者ギルドだった。
中へ入ると、朝から多くの冒険者で賑わっていた。
雪山へ向かう者もいれば、大きな袋を抱えて受付に並んでいる者もいる。
悠真たちは空いている受付へ向かった。
「すみません」
「はい。ご依頼ですか?」
「人を探してるんですけど、ラスカルっていう三人組を知りませんか?」
受付の女性はすぐに反応した。
「ドゴルドさんたちですね」
どうやら有名なパーティーらしい。
「ドゴルド?」
「ラスカルのリーダーです。戦士のドゴルドさん、魔法使いのラパンさん、僧侶のメリーさん。三人で活動されています」
「今、どこにいるか分かりますか?」
「今朝、こちらへ来られましたよ。雪山で受けていた依頼の報告をされていました」
「じゃあ、ここに?」
「いえ、先ほど出られました」
「入れ違いかぁ……」
リズが肩を落とす。
「でも、今日はまた来られると思いますよ。次の依頼を確認するとおっしゃっていましたから」
「それなら待つか」
レオンの言葉に、悠真も頷いた。
ギルドの端にある休憩スペースへ移動し、しばらく待つことにした。
それから三十分ほど経った頃だった。
ギイッ。
入口の扉が開き、冷たい風と一緒に三人の冒険者が入ってきた。
先頭を歩いているのは、大柄な男。
四十歳ほどだろうか。厚手の外套の下からでも、鍛えられた体つきだと分かる。背中には使い込まれた大剣を背負っていた。
その後ろには杖を持った男がいる。
年齢は三十代半ばほど。落ち着いた雰囲気で、周囲をよく観察している。
最後は二十代後半ほどの女性だった。
白を基調とした僧侶の服の上から防寒着を着込み、腰には小さな杖を下げている。
受付の女性が三人に気づいた。
「ドゴルドさん!」
悠真たちは同時に振り返る。
「ちょうどよかったです。こちらの方々が皆さんを探していたんですよ」
「俺たちを?」
大柄な男が悠真たちを見る。
悠真は立ち上がった。
「ラスカルの皆さんですよね?」
「そうだが」
「少し聞きたいことがあるんです」
ドゴルドは悠真たち五人を順番に見る。
「依頼か?」
「いえ」
悠真は一瞬迷ったが、回りくどく聞いても仕方がない。
「石版についてです」
その言葉が出た瞬間だった。
ドゴルドの表情が変わった。
後ろにいたラパンも悠真を見る。
メリーも同じだった。
明らかに反応した。
「……どこでそれを聞いた?」
ドゴルドの声が少し低くなる。
「昨日、酒場で聞きました。皆さんが以前、変わった石版を探していたって」
「誰だ、そんなことを喋った奴は」
「名前までは聞いてません」
ドゴルドは頭を掻く。
少し考えてから周囲を見回した。
「ここじゃ話しにくいな」
ギルドには大勢の冒険者がいる。
「こっちへ来い」
ドゴルドに案内され、悠真たちはギルドに設けられた小さな談話室へ入った。
八人が中へ入り、それぞれ椅子へ座る。
「それで?」
ドゴルドが悠真を見る。
「石版について何が聞きたい?」
「アルファ地区にある石版を探しています」
「何のために?」
「それは……」
悠真がどこまで話すべきか考えていると、ラパンがふと別の方向へ視線を向けた。
ララだった。
正確には、ララが持っている杖。
「ちょっと待ってくれ」
ラパンが身を乗り出す。
「その杖……」
「私のですか?」
ララが杖を持ち上げる。
ラパンは先端部分をじっと見る。
「やっぱりそうだ。その加工、アストリアのものだろ?」
今度はララが驚いた。
「分かるんですか?」
「そりゃ分かるさ。俺もアストリア出身だからな」
「え?」
「私もよ」
メリーが嬉しそうに口を挟んだ。
「まさかこんな北の街で同郷の人に会うなんてね」
ララの表情が少し柔らかくなる。
「私も驚きました」
ラパンは懐かしそうに杖を見る。
「アストリアの魔法使いが使う杖には独特の加工があるんだ。俺も昔は似たものを使ってた」
そこまで話したところで、ラパンの表情が曇った。
「……そうだ」
ララを見る。
「アストリアの王宮が壊滅したって聞いたんだが、本当なのか?」
メリーも心配そうに身を乗り出す。
「私たちも噂しか聞いてないの。王都もかなり混乱したって」
ララは静かに頷いた。
「本当です」
二人の顔が強張った。
「でも、もう大丈夫です」
「どういうことだ?」
「原因は私たちが解決しました。王都も王宮も、今は復旧に向かっています」
ラパンが目を丸くする。
「私たちって……」
その視線が悠真たちへ動いた。
「この五人で?」
「クランはその後に加わったので、あの時は四人です」
ララが答える。
クランは黙って話を聞いていた。
アストリアで何が起きたのか、詳しいことまでは知らない。
だが、悠真たちが一つの国を救うほどのことをしていたという事実は覚えておく。
「そうだったのか……」
ラパンが深く息を吐いた。
「よかった」
メリーも胸元へ手を当てる。
「ずっと気になってたの。簡単に帰れる距離じゃないし、悪い噂ばかり届くから」
「今は大丈夫ですよ」
ララが微笑む。
「少し時間はかかると思いますけど、きっと元に戻ります」
「ありがとう。それを聞けただけでも安心したわ」
メリーの表情にも笑顔が戻った。
ドゴルドは三人の会話が落ち着くのを待ってから、悠真へ向き直る。
「どうやら、怪しい連中ってわけじゃなさそうだな」
「最初は怪しいと思ってたんですか?」
「突然石版のことを聞いてくる奴を、簡単に信用できるか」
「それは……確かに」
悠真は苦笑した。
「それで、石版なんだが」
今度はラパンが話し始めた。
「アストリアじゃ昔、王国が妙な石版を研究しているって噂があったんだ」
「噂になっていたんですね」
ララの言葉に、ラパンが眉を上げる。
「なんだ、知らなかったのか?」
「いえ。そういう意味ではありません」
ララは自分の杖を膝の上へ置いた。
「私は、その石版を研究していた側なんです」
一瞬、ラパンの動きが止まった。
「……研究していた?」
「はい。アルヴェルト先生の弟子として、石版の研究を手伝っていました」
「アルヴェルト……」
ラパンが驚いたようにララを見る。
「まさか、あのアルヴェルトの弟子なのか?」
「はい」
メリーも目を丸くする。
「私たちは噂でしか知らなかったけど……本当に研究していた人だったのね」
「私一人で研究していたわけではありません。アルヴェルト先生のお手伝いをしていただけです」
「それでも十分だろ」
ラパンは少し興奮した様子で身を乗り出した。
「俺たちが何年も追いかけてきたものを、実際に研究していたんだからな」
ララは小さく頷いた。
「アストリアでは、石版について長い間調べていました。でも、分からないこともまだたくさんあります」
「そうなのか……」
ラパンは何かを考えるように腕を組んだ。
その横でドゴルドが口を開く。
「俺たちが石版を見つけたのは、そんな噂を聞いてからじゃない」
数年前。
ラスカルはアルファ地区の雪山を探索している途中、偶然一枚の石版を発見した。
奇妙な絵が刻まれた、明らかに普通ではない石。
ラパンとメリーは、それを見た時にアストリアで聞いた噂を思い出したという。
「それで調べ始めたんだ」
ドゴルドが続ける。
「最初は単なる好奇心だった。だが調べていくうちに、この地方には似たような石版がもう一枚あるらしいと分かった」
「じゃあ……」
悠真が身を乗り出す。
ドゴルドは頷いた。
「探したさ。何年もな」
吹雪に阻まれたこともあった。
魔物に襲われ、探索を中断したこともある。
それでも三人は諦めず、雪山を探し続けた。
そして。
「見つけた」
ドゴルドが言った。
「二枚目もな」
「……!」
悠真とリズが顔を見合わせる。
ララも驚きを隠せない。
レオンが静かに尋ねた。
「つまり、お前たちは今……」
「持ってる」
ドゴルドははっきり答えた。
「お前たちが探してる石版なら、俺たちが二枚とも持っている」
「二枚とも!?」
リズが声を上げる。
アルファ地区でこれから探すつもりだった二枚。
その両方が、すでに一つのパーティーの手に渡っていた。
クランは表情を変えなかった。
二枚。
その言葉を頭の中へ刻み込む。
アルファ地区の石版は、ラスカルが所有している。
デアボロスが知れば、間違いなく興味を示す情報だ。
「だったら、その石版を俺たちに譲ってもらえませんか?」
悠真が尋ねる。
だが、ドゴルドはすぐに首を横へ振った。
「悪いが、それはできない」
「……やっぱり?」
「金の問題じゃない」
ドゴルドは腕を組む。
「あれを見つけるために、俺たちは何年も雪山へ入った。死にかけたことだって一度や二度じゃない」
ラパンも頷く。
「それに、俺たちも知りたいんだよ」
「何を?」
「あの石版が何なのか」
ラパンの目には、魔法使いというより冒険者らしい好奇心が浮かんでいた。
「アストリアが研究していた理由も分からない。誰が作ったのかも、何のためにあるのかもな」
そして悠真を見る。
「お前たちは知ってるのか?」
悠真は少し考えた。
すべてを知っているわけではない。
だが、ここまで話した相手に何も答えないわけにもいかなかった。
「全部は分かってません」
「じゃあ、何を知ってる?」
「一つ分かっていることがあります」
部屋の中が静かになる。
クランも悠真へ視線を向けた。
「石版は……」
悠真はゆっくりと言葉を続ける。
「全部で十二枚あります」
ドゴルドの眉が動いた。
メリーが驚いたように口元へ手を当てる。
そしてラパンは、悠真を見つめたまま呟いた。
「……十二枚?」
クランもその数字を、静かに記憶へ刻み込んでいた。
第120話を読んでいただき、ありがとうございました!
ついに出会った三人組の冒険者パーティー、ラスカル。
そしてラパンとメリーは、まさかのララと同じアストリア出身でした。
アルヴェルトの弟子として石版研究に関わっていたララと、アストリアで石版の噂を聞いていた二人。
そんな偶然の繋がりから、ラスカルが何年も追い続けてきた石版の話へ。
そして判明したのは、アルファ地区にあるはずの2枚の石版を、ラスカルがすでに両方とも持っているという事実でした。
しかし、命懸けで手に入れた石版を簡単に譲るつもりはありません。
さらに悠真の口から明かされた「石版は全部で十二枚」という新たな事実。
それを聞いたラスカルは何を思うのか。
そして、その情報を静かに聞いていたクランはどう動くのか。
次回もよろしくお願いします!




