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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第118話 次なる地へ

いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!


姫路城の石版を手に入れ、クランという新たな仲間も加わった悠真たち。


今回はパッセルへ戻り、老人へ石版発見の報告をします。


そして、次なる石版を求めて新しい旅へ。

パッセルへ戻る頃には、空が少しずつ夕色に染まり始めていた。


 悠真たちの歩く列には、昨日までいなかった少女が一人増えている。


 クラン。


 森で出会い、成り行きからしばらく一緒に行動することになった少女だ。


 リズはすっかり距離を縮めたつもりなのか、帰り道でも何度かクランへ話しかけていた。


「クランって、パッセル来たことある?」


「ありません」


「じゃあ案内してあげる。そんなに広くないけど、ご飯がおいしい店もあるよ」


「……案内?」


「せっかく一緒にいるんだから、いいでしょ」


 クランは少しだけ考えたあと、小さく頷いた。


「お願いします」


 そのやり取りを聞きながら、悠真は前を歩くレオンへ視線を向ける。


 レオンは何も言わない。


 だが、時折クランへ向ける視線には、まだ完全には警戒を解いていない様子が見えた。


 パッセルへ入ると、悠真たちは宿へ戻る前に古道具屋へ向かった。


 姫路城の石版を見つけたことを、老人へ伝えるためだった。


 扉を開くと、老人は店の奥で壊れた棚を直していた。


「戻ったか」


 悠真たちを見ると、ほっとしたように手を止める。


 その視線が、最後尾にいたクランで止まった。


「そちらのお嬢さんは?」


「帰り道で知り合ったんです。しばらく一緒に旅することになって」


 悠真がそう説明すると、クランは丁寧に頭を下げた。


「クランです」


「そうかそうか。旅は人数が多い方が安心じゃ」


 老人はそれ以上深く聞こうとはしなかった。


 悠真は肩に掛けた収納鞄へ手を入れる。


「それより、おじいさん」


 取り出した石版を両手で持つ。


「見つかりました」


 老人の動きが止まった。


「……本当か」


「はい」


 悠真が差し出す。


 石版の表面には、白い城が描かれている。


 老人はゆっくりと近づき、震える指先で石版へ触れた。


「これが……」


 しばらく声が続かなかった。


 幼い頃、姉が毎日のように大切にしていた石。


 それが六十年近い時を経て、再び目の前に戻ってきた。


「姉さんが隠したものじゃな」


「井戸の底に隠し通路がありました。その奥に」


 ララが持っていた古びた紙を取り出した。


「それと、これも」


 老人が紙を受け取る。


「姉が残した手紙です」


 その一言で、老人の表情が変わった。


 椅子へ腰掛け、震える手で紙を広げる。


 誰も急かさなかった。


 夕方の光が店の中へ斜めに差し込み、古い紙の上を淡く照らしている。


 老人は何度も文字を追った。


 途中で手を止める。


 また読み始める。


 やがて、紙を持つ手がゆっくりと下がった。


「……そういうことじゃったか」


 小さく笑う。


 その声は少し掠れていた。


「わしはな、ずっと思っておったんじゃ。どうして姉さんは、最後まで何も話してくれなかったんじゃろうとな」


 老人は手紙へ視線を落とした。


「子供だったとはいえ、わしは家族じゃった。少しくらい頼ってくれてもよかったんじゃないかと」


 リズが何も言わず老人を見る。


「でも、逆だったんですね」


 ララの声は柔らかかった。


「家族だったからこそ、話せなかった」


「そうらしい」


 老人は目元を指で拭った。


「昔から、そういう姉さんじゃったよ。自分一人で抱え込んで、あとから笑って誤魔化す」


 手紙を丁寧に折り直す。


「まったく……六十年も経ってから説教したくなるとは思わなんだ」


 リズの口元が少し緩んだ。


「今度会えたら、いっぱい言ってあげたら?」


「そうじゃな。向こうで会ったら、まず小一時間ほど説教じゃ」


「長いな……」


 悠真が苦笑する。


 老人もようやく笑った。


 そのあと、姫路城の石版をもう一度見つめる。


「これは、お前さんたちが持っていきなさい」


「いいんですか?」


「姉さんが命懸けで隠したものじゃ。わしが勝手に渡していい物かは分からん」


 老人は石版から悠真へ視線を移した。


「じゃが、あのまま眠らせておくより、何か目的を持って探している者の手にある方がいい」


 悠真は両手で石版を受け取った。


「大切にします」


「頼んだぞ」


 その言葉には、これまでとは違う重さがあった。


 店を出る前、老人はクランにも声をかけた。


「新しい仲間を大事にな」


 クランは一瞬だけ悠真たちを見る。


「……はい」


 返事は短かった。


 けれど、いつもよりほんの少し遅れて出た言葉だった。


 宿へ戻ると、まずクランの部屋を取ることになった。


「一部屋追加でお願いします」


 悠真が受付で頼むと、横にいたクランが小さく首を傾げる。


「私の部屋も取るんですか?」


 リズが振り返った。


「取らないと、どこで寝るの?」


「どこでも」


「どこでもって何」


「屋根の上でも、倉庫でも……」


「駄目だから」


 リズが即答する。


「ベッドで寝なさい。せっかく宿にいるんだから」


「……分かりました」


 納得したのかどうか怪しい顔だった。


 その日の夕食。


 五人は宿の食堂で同じテーブルを囲んでいた。


 焼いた肉、野菜の煮込み、温かいスープ。


 料理が並ぶと、リズがメニューをクランへ押し出した。


「好きなの頼んでいいよ」


「好きなもの?」


「食べたいもの」


 クランはメニューを見つめたまま動かない。


「どれでも食べられます」


「そうじゃなくてさ」


 リズは自分の皿を指差す。


「これ食べたい、とかないの?」


「……考えたことがありません」


 リズの手が止まった。


 ララも少し驚いたようにクランを見る。


「いつもどうしていたんですか?」


「出されたものを食べていました」


「じゃあ今日は自分で決めよう」


 リズがメニューを覗き込む。


「これ、おいしいよ。煮込み肉」


「じゃあ、それで」


「私が決めてるじゃん」


 思わず悠真が笑う。


 クランは少し困ったようにリズを見た。


「難しいです」


「好きなもの選ぶだけなのに?」


「はい」


「変なところで真面目だね、クラン」


 ほどなくして、煮込み肉が運ばれてくる。


 クランは一口食べると、ほんの少し目を見開いた。


 リズがすぐに身を乗り出した。


「どう?」


「……おいしいです」


「でしょ!」


 なぜかリズの方が嬉しそうだった。


 食事が進み、少し空気が落ち着いたところで、悠真は残る石版について話を切り出した。


「次だけど、残ってるのは四枚だよな」


 ララが指を折りながら確認する。


「アルファ地区に二枚。サザンアイランドに二枚ですね」


「どっちから行く?」


 リズが肉を頬張りながら聞く。


「距離を考えるなら、先にアルファ地区だろうな」


 レオンが答えた。


 ララも同意するように頷く。


「私もその方がいいと思います。ただ、アルファ地区はかなり寒いですよ」


「どのくらい?」


 リズが興味を示す。


「特に山脈地帯は一年のほとんどが雪です。普通の旅装で入ったら、魔物に会う前に倒れます」


「……それは嫌だな」


「さっきまで楽しそうだったのに」


 悠真が言うと、リズはスープを飲みながら肩をすくめた。


「雪は好き。でも凍えるのは嫌」


「都合いいな」


「普通でしょ」


 ララが小さく笑う。


「最初の街はノルディアです。雪山へ向かう冒険者も集まるので、防寒装備はそこで揃えられると思います」


「じゃあ決まりだな」


 悠真がテーブルを見回す。


「次はアルファ地区。まずノルディアへ行こう」


 四人がそれぞれ反応する。


 クランだけは黙っていた。


 アルファ地区。


 石版は二枚。


 ノルディア。


 覚えておくべき情報が、何の苦労もなく会話の中へ次々と出てくる。


 本来なら時間をかけて探るつもりだった。


 なのに、自分はただ食卓に座っているだけだ。


「クラン?」


 リズに呼ばれ、クランが顔を上げる。


「どうしたの?」


「何でもありません」


「寒いの苦手?」


「経験が少ないです」


「じゃあ防寒着選ぶの手伝ってあげる」


「……私の分も?」


「またそれ?」


 リズが呆れたように笑う。


「一緒に行くんだから当たり前でしょ」


 クランは返事をしなかった。


 目の前のスープへ視線を落とす。


 湯気がゆっくりと揺れていた。


 翌朝。


 悠真たちはパッセルの門の前に集まった。


 旅支度を整え、次の目的地へ向かう。


「忘れ物ない?」


 リズが全員を見回す。


「お前が一番怪しい」


 レオンが言う。


「失礼だなあ。今回はちゃんと確認したよ」


「今回は、って自分で言ってるじゃないですか」


 ララに指摘され、リズが黙る。


 悠真はそんな三人を見ながら笑った。


 少し離れた場所にはクランがいる。


 まだ五人で並んでいる光景には慣れない。


 パッセルでは、石版を一枚奪われた。


 それでも、姫路城の石版を手に入れることができた。


 そして、思いがけない形で一人仲間も増えた。


「悠真!」


 先に歩き始めたリズが振り返る。


「置いてくよ!」


「今行く!」


 悠真は小走りで四人を追った。


 クランもその列へ加わる。


 彼女が何を抱えているのか、悠真たちはまだ知らない。


 次なる目的地は、雪深きアルファ地区。


 五人となった一行は、新たな石版を求めてパッセルをあとにした。

第118話を読んでいただき、ありがとうございました!


六十年近い時を経て、ようやく姉の本当の思いを知ることができた老人。


姫路城の石版とともに、パッセルでの物語もひとまず決着となりました。


そして、クランにとっては初めてだらけの時間が始まります。


自分の部屋を用意してもらうこと。


好きな料理を選ぶこと。


誰かと同じ食卓を囲むこと。


まだ本人は任務として悠真たちと行動しているつもりですが、この旅がクランに何をもたらすのか。


次なる目的地は、2枚の石版が眠るアルファ地区。


まずは北の街、ノルディアを目指します。


次回もよろしくお願いします!

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