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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第117話 新しい仲間

いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!


今回は、デアボロスから悠真たちへの潜入を命じられたクランが、いよいよ接触します。


「仲間になる方法」が分からないクランが考えた作戦とは。


新たな出会いをお楽しみください!

クランは、パッセルへ戻っていく四人を一定の距離を保ちながら追っていた。


 考えていても答えは出なかった。


 仲間になる方法など、これまで一度も教えられたことがない。


 ならば、自分が知っているやり方で近づくしかない。


 クランは歩きながら、これまで叩き込まれてきた知識を一つずつ思い返した。


 相手の警戒を解く。


 信用を得る。


 自分を敵ではないと思わせる。


 そのための方法はいくつも知っている。


 そこで、一つの教えが頭に浮かんだ。


 人は、自分が助けた相手を警戒しにくい。


 クランの足が止まった。


「……助けてもらえばいい」


 自分が危険な目に遭い、四人に助けてもらう。


 そうすれば、自然に接触できる。


 あとは行く場所がないとでも言えば、しばらく行動を共にできるかもしれない。


 クランは小さく頷いた。


 仲間になるというものがどういうものなのかは、まだ分からない。


 だが、潜り込む方法なら考えられる。


 クランは周囲へ視線を向けた。


 森の奥。


 低い唸り声が聞こえる。


 草むらの向こうに、狼型の魔物が一体いた。


 体格は大きくない。


 牙は鋭いものの、クラン一人でも問題なく倒せる程度の魔物だ。


「ちょうどいい」


 クランは腰の短剣へ手を伸ばしかけ、すぐに止めた。


 倒してしまっては意味がない。


 四人との距離を確認する。


 まだ姿は見える。


 あの場所まで魔物を引きつけていけばいい。


 クランは草むらから出ると、わざと狼型の魔物の前へ姿を見せた。


「グルルル……」


 魔物がこちらへ気づく。


 牙を剥き、低く身を伏せた。


 クランは怯えることもなく、その動きを冷静に観察していた。


 この程度なら、いざという時にはいつでも倒せる。


 一歩、後ろへ下がる。


 魔物が距離を詰める。


 さらに一歩。


 そして、魔物が飛びかかってきた瞬間、クランは踵を返した。


 四人が進んでいる方向へ走る。


 後ろから狼型の魔物が追ってくる。


 予定通りだった。


 あとは四人の近くまで引きつけ、襲われているように見せればいい。


 そう考えていた、その時だった。


 ズシン。


 地面が僅かに揺れた。


「……?」


 クランの足が少し緩む。


 ズシン。


 もう一度。


 明らかに狼型の魔物が立てる音ではない。


 背後を見る。


 木々を押し退けながら、巨大な魔物が姿を現した。


 熊に似た巨体。


 黒い毛に覆われた太い腕。


 その先には、長く鋭い爪が伸びている。


 先ほどまでクランを追っていた狼型の魔物が足を止めた。


 巨大な魔物を見るなり、悲鳴のような声を上げて森の奥へ逃げていく。


「……これは予定にない」


 クランの表情が僅かに引きつった。


 倒せない相手ではない。


 だが、ここで本気を出せば、自分の力を見られる可能性がある。


 何より、助けてもらうための作戦だったはずなのに、本当に危険な状況になってしまった。


 巨大な魔物が腕を振り上げる。


「っ!」


 クランが横へ跳んだ。


 爪が地面を抉り、土が大きく舞い上がる。


 その音に気づいたのだろう。


 前方を歩いていた四人が一斉に振り返った。


「何かいる!」


 最初に声を上げたのはリズだった。


 直後、木々の間から少女が飛び出してくる。


 その背後には巨大な魔物。


「助けないと!」


 リズは迷うことなく剣を抜いた。


「待て、リズ!」


 レオンの制止を聞く前に走り出す。


「もう!」


 ララも杖を構えた。


 悠真は魔物の動きを見ながら剣へ手を掛ける。


「こっちへ!」


 リズがクランの前へ飛び込んだ。


 巨大な爪が振り下ろされる。


 リズは剣で受けようとするが、力の差は明らかだった。


「リズ!」


 レオンが横から飛び込み、剣を重ねる。


 二人がかりで爪を逸らした。


「下がれ!」


 レオンの声に、クランは素直に距離を取る。


 その間に悠真が踏み込んだ。


「斬撃!」


 剣を振り抜く。


 放たれた斬撃が魔物の胸へ直撃した。


「グオオオオッ!」


 巨体が大きく仰け反る。


「炎よ!」


 ララの放った火球が追い打ちをかける。


 黒い毛が燃え上がった。


 魔物は咆哮し、怒りに任せて突進してくる。


「悠真!」


「ああ!」


 悠真が風圧バリアを展開する。


 突進の勢いが僅かに鈍った。


 その瞬間、レオンとリズが左右へ分かれる。


「行くぞ」


「分かってる!」


 二本の剣がほぼ同時に振り抜かれた。


 魔物の両脚が切り裂かれ、巨体が地面へ崩れる。


 最後に悠真がもう一度斬撃を放った。


 魔物の動きが止まる。


 森に静けさが戻った。


「大丈夫!?」


 剣を収めるより早く、リズがクランへ駆け寄る。


「怪我してない?」


 クランは一瞬、答えるのを忘れた。


 任務。


 これは任務だ。


 こうなるように自分で仕向けた。


 だから相手が心配することも想定していたはずだった。


 それなのに。


「……大丈夫です」


「本当に? どこか痛くない?」


 リズがクランの腕や肩を確認する。


 ララも近づいてきた。


「見たところ大きな怪我はなさそうですね」


 クランは二人を交互に見る。


 思わず口から言葉が漏れた。


「……どうして助けたんですか?」


「え?」


 リズがきょとんとする。


「私のこと、知らないですよね」


「知らないけど」


 リズは何でもないことのように答えた。


「襲われてたんだから助けるでしょ」


「……それだけ?」


「それ以外に何かいる?」


 クランは答えられなかった。


 裏の世界では、人を助けることにも理由がある。


 使えるから。


 情報を持っているから。


 いつか利用できるから。


 そういう理由があるものだと思っていた。


 だが目の前の少女は、本当にそれだけで動いたらしい。


「名前は?」


 悠真が尋ねる。


「クランです」


 そこだけは本名だった。


「クランか。俺は悠真」


「リズだよ!」


「ララです」


 最後にレオンが短く名乗る。


「レオンだ」


 クランは四人の名前を頭へ刻む。


 これで対象の名前が分かった。


 任務は順調。


 そう考えるべきだった。


「一人なの?」


 リズが聞く。


「はい」


「こんなところを?」


「旅をしています」


 事前に考えていた設定を口にする。


「家族はいません。決まった行き先もないので、町から町へ移動しています」


 レオンの視線がクランの腰へ向いた。


「一人旅にしては荷物が少ないな」


 クランの思考が一瞬止まった。


「……必要なものは、あまり持たないので」


「そうか」


 レオンはそれ以上何も言わなかった。


 だが、クランには分かった。


 この男だけは少し警戒している。


「とりあえずパッセルまで一緒に行く?」


 リズが提案した。


「また魔物に襲われたら危ないし」


「……いいんですか?」


 クランは思わず聞き返す。


「いいよ。どうせ同じ方向でしょ?」


 そのまま五人で歩き始めた。


 クランは少し後ろを歩きながら、四人の会話を聞く。


 リズはよく喋る。


 ララはそれを笑いながら聞いている。


 レオンは必要なことしか話さない。


 悠真は三人の会話へ時折ツッコミを入れる。


 不思議だった。


 裏社会では、誰もが常に相手の意図を探っていた。


 ここには、それがない。


「クランは次、どこへ行く予定だったの?」


 リズが振り返る。


「特には決めていません」


「じゃあさ」


 リズは少し考え、それから笑った。


「しばらく私たちと一緒に来る?」


 クランの足が止まった。


 予想していた言葉。


 むしろ、それを言わせるために近づいた。


 任務は成功した。


 そう思う。


 なのに。


「……私が?」


「うん。一人より五人の方が楽しいでしょ?」


 楽しい。


 クランには、その言葉が少しだけ遠く感じられた。


 デアボロスからの命令を思い出す。


 信用を得ろ。


 中へ入れ。


 これは、そのための絶好の機会だ。


「……いいんですか?」


 また同じ言葉が出た。


 今度は演技ではなかった。


 悠真はレオンたちを見る。


「俺は構わないけど」


「私はもちろんいいよ!」


 リズが即答する。


「私も大丈夫です」


 ララも頷いた。


 最後にレオンがクランを見る。


 数秒の沈黙。


「……問題を起こさないならな」


「起こしません」


 クランはすぐに答えた。


「じゃあ決まり!」


 リズが嬉しそうにクランの肩を軽く叩く。


 クランはその手を見つめた。


 任務は順調だ。


 四人の懐へ入ることにも成功した。


 あとは石版の情報を探り、デアボロスへ報告すればいい。


 それだけだ。


 なのに。


 なぜか胸の奥に、今まで感じたことのない小さな違和感が残っていた。

第117話を読んでいただき、ありがとうございました!


助けてもらうことで悠真たちへ近づこうとしたクランでしたが、予想外の魔物まで現れ、本当に助けられることに。


そして、見返りも求めず自分を心配するリズたちの姿に、クランは少し戸惑いを覚えます。


任務としては大成功。


ついに悠真たちの仲間として入り込むことができました。


ただ、クランの胸に生まれた小さな違和感。


裏社会しか知らずに育った彼女にとって、悠真たちとの旅はこれまで知らなかったものに触れる時間になりそうです。


次回もよろしくお願いします!

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