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「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


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第116話 井戸の底に眠るもの

いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!


今回は、悠真たちが古井戸の地下を探索します。


そしてその裏では、デアボロスも新たな一手を打ち始めます。


石版を巡る争いに加わる、新たな少女にも注目です!

薄暗い部屋の中で、デアボロスは椅子に深く腰を下ろしていた。


 机の上には、一枚の石版が置かれている。


 奈良の大仏が描かれた石版。


 先日、部下がパッセルで奪ってきたものだった。


 デアボロスは石版を手に取り、表と裏をゆっくりと眺める。


 神眼を使えば、これがただの石ではないことは分かる。


 そして何より、そこに残る力には覚えがあった。


「ゼラモード……」


 懐かしい名を口にする。


 間違いなく、あいつが作ったものだ。


 だが、それ以上は分からない。


 何のために作られたのか。


 なぜ、あの四人組がこれを集めているのか。


 石版そのものを手に入れても、その答えまでは見えてこなかった。


「奪うだけでは駄目か」


 デアボロスは石版を机へ戻した。


 四人組は、ほかの石版についても何らかの情報を持っている可能性が高い。


 ならば、次に必要なのは石版ではない。


 情報だ。


「クランを呼べ」


 近くに控えていた男が一礼し、部屋を出ていく。


 ほどなくして、扉が静かに開いた。


「お呼びでしょうか」


 入ってきたのは、一人の少女だった。


 年齢は十六歳ほど。


 小柄で細身だが、歩き方に無駄がない。周囲へ向ける視線も自然でありながら、部屋の出入口や人の位置を一瞬で確認している。


 クラン。


 幼い頃にデアボロスが拾い、そのまま自らのもとで育ててきた少女だった。


「仕事だ」


「はい」


 クランの返事に迷いはない。


「パッセルにいる四人組を調べてもらいたい」


「四人組……」


「男が二人、女が二人だ。詳しい特徴はあとで教える」


 クランは静かに頷いた。


「監視でしょうか?」


「いや」


 デアボロスは少し考えてから答えた。


「中へ入れ」


 クランが僅かに首を傾げる。


「中へ?」


「奴らの仲間になれ」


 初めてクランの表情が動いた。


「……仲間、ですか?」


「ああ」


 敵地へ忍び込めと言われれば分かる。


 誰かを尾行しろと言われても分かる。


 情報を盗めと言われても、やるべきことは理解できる。


 だが、仲間になる。


 それはクランにとって、少し曖昧な命令だった。


「何をすれば、仲間になれるのでしょうか」


 デアボロスは一瞬黙った。


「それを考えるのも仕事だ」


「……分かりました」


 本当に分かったのか怪しい返事だった。


 デアボロスはそれ以上説明せず、机の石版へ視線を戻した。


「知りたいのは、奴らがこれを集めている理由だ。それと、ほかの石版についてどこまで知っているのか」


「石版は奪いますか?」


「いや。今は必要ない」


 ここでまた奪えば、相手もさらに警戒する。


 それより懐へ入り込み、向こうから情報を話すよう仕向けた方がいい。


「信用を得ろ。時間がかかっても構わん」


「はい」


 クランは迷いなく頭を下げた。


「必ずやり遂げます。デアボロス様」


      ◇


 その頃、パッセル郊外の古い祠。


 大量のアンデッドとの戦いを終えた悠真たちは、古井戸の周りに集まっていた。


 つい先ほどまで祠の周囲を覆っていた嫌な気配は消えている。


 アンデッドが倒れたことで、森には少しずつ本来の静けさが戻り始めていた。


 悠真は古井戸の縁へ手をかけ、暗い底を覗き込む。


「やっぱり、この下だ」


 先ほど覚えたばかりのエリア感知。


 もう一度発動してみても、同じ場所から反応が返ってくる。


 井戸の底。


 正確には、その少し横。


 地中に小さな空間が存在していた。


「降りてみるか」


 レオンが言う。


「そうだな」


 悠真は飛行スキルを発動する。


 体がふわりと浮き上がった。


 ララも魔法を使い、同じように宙へ浮かぶ。


 レオンは飛行のスキルカードを取り出した。


 そこで、リズが三人を見回す。


「ちょっと待って」


「どうした?」


「私だけ飛べないんだけど」


 一瞬の沈黙。


 レオンが当然のように答える。


「俺が運ぶ」


「え?」


「ほかに方法がないだろ」


「いや、そうだけど……」


 リズが何とも言えない顔をする。


 レオンは気にした様子もなく、その体を抱き上げた。


「ちょっ……急に持ち上げないでよ!」


「暴れるな。落ちるぞ」


「それ先に言って!」


 悠真は思わず笑いそうになったが、リズに睨まれて口を閉じた。


「じゃあ、俺が先に行く」


 悠真は井戸の中へ入ると、ゆっくり高度を下げていった。


 地上の光が次第に遠ざかっていく。


 湿った石壁が目の前を流れ、冷たい空気が肌にまとわりついた。


 下を見ても暗闇しかない。


 しばらくすると、悠真の足が地面へ触れた。


「着いた」


 すぐあとからララが降りてくる。


 井戸の底は地上からの光がほとんど届かず、互いの顔すらよく見えない。


「少し待ってください」


 ララが杖を掲げた。


 短く魔法を唱える。


 すると、杖の先に淡い光が生まれた。


 柔らかな光が井戸の底へ広がり、周囲の石壁が浮かび上がる。


「助かるよ。真っ暗だったからな」


 悠真が周囲を見回す。


 遅れて、リズを抱えたレオンも降りてきた。


 レオンの足が地面へ着くと、リズがすぐに腕の中から降りる。


「もういいから!」


「別に何も言ってないだろ」


「その顔がなんか腹立つ」


「どんな顔だ」


「普通の顔!」


「なら問題ないだろ」


「そういうところ!」


 ララが二人を見て小さく笑う。


 悠真も苦笑しながら、改めて井戸の底を確認した。


 井戸は完全に枯れていた。


 足元には土や枯れ葉が積もっている。


 ララの明かりで照らしてみても、石版らしきものはどこにもない。


「何もないね」


 リズが周囲を見回す。


「いや」


 悠真は首を振った。


「反応はここじゃない」


 目を閉じる。


 エリア感知を発動した。


 先ほどよりも近いためか、地上から使った時よりはっきりと形が分かる。


 井戸を囲む地面。


 厚い石壁。


 そして、その向こう側。


「……こっちだ」


 悠真は一方向へ歩いた。


 ララも杖の明かりを向ける。


「この壁の向こうに空間がある」


 レオンが石壁へ手を当てた。


「確かか?」


「そうだね。そんなに広くないけど、間違いなく何かある」


 四人で壁を調べ始める。


 長い年月で汚れた石が並んでいるだけに見えたが、ララが一か所で手を止めた。


「ここ……少し違いませんか?」


 杖の明かりを近づける。


 一つだけ、周囲とは僅かに色の違う石があった。


 悠真が手を伸ばし、押してみる。


 ゴゴッ、と低い音が井戸の底に響いた。


「動いたよ!」


 リズが声を上げる。


 石壁の一部がゆっくりと奥へ沈んでいく。


 やがて、その横に人一人が通れるほどの隙間が現れた。


「本当にあった……」


 リズが目を丸くする。


「行ってみよう」


 悠真を先頭に、四人は慎重に中へ入った。


 ララの杖に灯った光が、暗い通路を照らしていく。


 通路はそれほど長くなかった。


 十数歩進んだところで、小さな空間へ出る。


 戦うための場所でもなければ、立派な宝物庫でもない。


 ただ、人目から何かを隠すためだけに作られたような場所だった。


「……あれ」


 ララが奥を照らす。


 一つだけ木箱が置かれていた。


 悠真たちは顔を見合わせる。


「開けるよ」


 悠真が蓋へ手をかけた。


 長い年月で金具は錆びていたが、箱そのものはまだ形を保っている。


 ゆっくりと蓋を持ち上げる。


 中には、布で包まれたものがあった。


 その横には古びた紙が一枚置かれている。


「手紙……?」


 ララが慎重に紙を広げた。


 文字はかなり薄くなっていたが、まだ読むことができた。


 そこに書かれていたのは、石版をここへ隠した女性の言葉だった。


 家族を守る力が欲しくて、祭壇まで向かったこと。


 そこで不思議な女性から石版を託されたこと。


 最初は、この石が家族を守る力になってくれると信じていた。


 だが、持ち帰っても使い方は分からなかった。


 何のために作られたものなのかも分からない。


 それでも大切なものだと思い、しばらくは自分の手元に置いていた。


 しかし、時間が経つにつれて不安が大きくなった。


 もし、この石に大きな価値があるのなら。


 もし、この石を求める者が現れたら。


 自分が持っていることで、家族を危険に巻き込むかもしれない。


 だから、誰にも告げず、この場所へ隠すことにした。


「家族を守るために手に入れたからこそ……家族から離したんですね」


 ララが静かに呟いた。


「あのおじいさんにも言わなかったのは、そのためかぁ」


 悠真は箱の中へ視線を戻した。


 姉は弟を信用していなかったわけではない。


 むしろ逆だった。


 大切だったからこそ、何も知らせなかったのだ。


 悠真は布で包まれたものへ手を伸ばした。


 ゆっくりと布を開いていく。


 現れたのは一枚の石版だった。


 表面には、白く美しい城が描かれている。


 悠真にはすぐに分かった。


「姫路城だ」


「やったね!」


 リズの顔が一気に明るくなる。


 レオンも石版を覗き込み、静かに頷いた。


「間違いなさそうだな」


「間違いないね」


 奈良の大仏の石版は奪われた。


 だが、新たに一枚。


 六十年近く誰にも見つからなかった石版を、ようやく手に入れることができた。


 悠真は姫路城の石版を収納鞄へ大切にしまった。


「よし、戻ろうか。おじいさんにも伝えないとな」


 三人が頷いた。


 四人は来た道を戻り、再び井戸の底へ出た。


 ララの明かりを頼りに上を確認すると、それぞれ飛行を使って地上へ戻っていく。


 もちろん、リズは再びレオンに抱えられることになった。


「今度は先に言ってよ」


「持ち上げるぞ」


「……そういう意味じゃないんだけど」


 悠真は二人のやり取りを聞きながら、先に井戸を抜けた。


 地上へ出ると、木々の間から差し込む光が妙に眩しく感じられる。


 四人は古い祠をあとにし、パッセルへ戻る道を歩き始めた。


 その姿を。


 少し離れた森の中から、一人の少女が見つめていた。


 木の陰に身を隠し、歩いていく四人を静かに観察する。


 男が二人。


 女が二人。


 聞かされていた服装や、それぞれの特徴とも一致している。


「……たぶん、あの人たち」


 クランは小さく呟いた。


 まだ名前すら知らない。


 何を好み、どんな性格なのかも知らない。


 ただ一つ分かっているのは、あの四人の中へ入り込まなければならないということだけだった。


 クランは木の陰から四人を見送りながら、真剣な表情で考え込む。


 尾行する方法なら知っている。


 気配を消す方法も知っている。


 嘘の身分を作る方法も教えられてきた。


 相手の警戒を解き、必要な情報を聞き出す方法だって学んできた。


 だが。


「……仲間って、どうやってなるんだろう」


 その答えだけは、誰からも教わったことがなかった。

第116話を読んでいただき、ありがとうございました!


古井戸の地下から、ついに姫路城の石版を発見。


家族を守るために石版を求めた女性が、最後には家族を危険から遠ざけるために石版を隠していたことも明らかになりました。


一方、デアボロスから四人組への潜入を命じられたクラン。


尾行も潜入もできるのに、「仲間になる方法」だけは分からないようです。


果たしてクランは、どうやって悠真たちへ近づくのでしょうか。


次回もよろしくお願いします!

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