第115話 古い祠のアンデッド
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
今回は、パッセルの町外れにある古い祠へ向かいます。
しばらく会話中心の回が続いていましたが、今回は久しぶりの本格戦闘です。アストラ四人の連携と、悠真の新たな成長を楽しんでいただけたら嬉しいです。
奈良の大仏の石版を奪われた翌朝。
悠真たちは再び、古道具屋を訪れていた。
壊された窓には板が打ち付けられ、倒れていた棚も元の位置へ戻されている。しかし、床にはまだ細かなガラス片が残り、昨夜の襲撃が夢ではなかったことを物語っていた。
「本当にすまなかったのう」
老人は悠真たちを前に、もう一度深く頭を下げた。
「わしが石版を見たいなどと言わなければ……」
「おじいさんのせいじゃありません」
悠真は静かに首を振った。
「あの人たちは、姫路城の石版を探していたんだと思います。たまたま俺たちが別の石版を出したから、狙いを変えただけです」
レオンも店内に残る足跡を確認しながら頷く。
「連中はこの店を前から監視していた可能性が高い。姉の身内であるあんたなら、隠し場所を知っているかもしれないと考えたんだろう」
「わしは何も知らんというのに……」
老人は悔しそうに拳を握った。
ララは沈んだ表情で窓の外を見つめている。
奪われたのは、アストリアで皆と苦労して見つけた奈良の大仏の石版だった。取り戻したい気持ちは、誰より強いはずだ。
それでも、ララは感情のまま追いかけようとは言わなかった。
「相手の行き先も正体も分かりません。今すぐ追うのは難しいですね」
「そうだな」
レオンが答える。
「だが、必ず取り返す。そのためにも、今は俺たちの目的を止めるべきじゃない」
悠真もその意見に頷いた。
姫路城の石版がパッセルのどこかに眠っている可能性は高い。
ここで探索を中断すれば、再び謎の集団に先を越されるかもしれない。
「何か、お姉さんが石版を隠した場所につながりそうな記憶はありませんか?」
悠真に尋ねられ、老人は目を閉じた。
「姉がよく行っていた場所……」
しばらく考え込んだあと、はっと顔を上げる。
「そういえば、町外れに古い祠がある」
「祠?」
「ああ。姉は石を持ち帰ってから、何度もそこへ通っておった」
老人は店の奥から古びた地図を取り出した。
「パッセルの北側にある山の中じゃ。昔は旅の安全を願う者が訪れておったが、今では誰も近づかん」
「どうしてですか?」
リズが尋ねる。
「魔物が出るようになったからじゃ」
老人は地図の一点を指で押さえた。
「姉に連れられて、一度だけ行ったことがある。祠の横には古い井戸があってな。近づこうとしたら、ひどく叱られた」
『あの井戸には絶対に近づいてはいけない』
「姉は、そう言っておった」
四人の視線が地図へ集まった。
石版を隠した場所を家族にも明かさなかった女性。
その女性が何度も訪れ、弟を近づけなかった古井戸。
「行ってみよう」
悠真が言うと、三人も迷わず頷いた。
パッセルを出た悠真たちは、老人から教えられた道を北へ進んだ。
山へ入るにつれ、道は次第に細くなっていく。
人の手が入らなくなって長いのか、伸び放題の草が足元を覆い、枝が行く手を遮っていた。
森の中は昼間にもかかわらず薄暗い。
木々の間を抜ける風は冷たく、湿った土と腐った葉の匂いが漂っている。
「なんか嫌な感じがするね」
先頭を歩いていたリズが、珍しく声を落とした。
「静かすぎます」
ララも杖を握り直す。
鳥の声も、虫の羽音も聞こえない。
あるのは、四人が草を踏み分ける音だけだった。
やがて木々の向こうに、崩れかけた石段が見えた。
その上には、小さな祠が建っている。
屋根は一部が落ち、柱には蔦が絡みついていた。祠の隣には石を円形に積んだ古井戸があり、黒い穴を覗かせている。
「あそこか」
悠真が足を踏み出そうとした瞬間、レオンの腕が前へ伸びた。
「待て」
低い声だった。
レオンは剣を抜き、祠の周囲へ鋭い視線を走らせる。
「何かいる」
次の瞬間。
土の中から、白い骨の腕が突き出した。
「うわっ!」
悠真たちが後ろへ跳ぶ。
一体だけではない。
地面が次々と盛り上がり、朽ちた鎧を身につけたスケルトンが姿を現す。祠の裏からは腐敗した体を引きずるゾンビが現れ、木の上には弓を構えたスケルトンアーチャーまで並んでいた。
「ずいぶん歓迎されてるね」
リズは剣を抜くと、不敵に笑った。
さっきまでの不安はどこへやら、戦いを前に目を輝かせている。
「数は二十……いや、まだ増えるぞ」
レオンが素早く数える。
「ララ、後ろを頼む。リズは俺から離れすぎるな」
「分かってる!」
答えると同時に、リズは先頭のスケルトンへ飛び込んだ。
「全然分かってないだろ!」
悠真の声を置き去りにし、リズの剣が横薙ぎに振るわれる。
スケルトンの胴体が砕け、骨が地面へ散らばった。
だが、左右から二体が迫る。
リズは一体の剣を受け止め、その体を蹴り飛ばした。もう一体の攻撃が届く直前、レオンの剣が閃く。
「周りを見ろ」
「見てたよ!」
「今のは見てなかった」
短いやり取りを交わしながら、二人は背中合わせに剣を振るった。
「来ます!」
ララの声と同時に、木の上から矢が降り注ぐ。
悠真は仲間たちの前へ出た。
「風圧バリア!」
見えない風の壁が広がり、飛来した矢を弾き飛ばす。
乾いた音を立てて、矢が次々と地面へ落ちた。
「今度はこっちの番だ!」
悠真が剣を振り抜く。
放たれた斬撃が木々の間を走り、スケルトンアーチャーをまとめて切り裂いた。
骨の破片が地面へ降り注ぐ。
その間にも、土の中から新たなアンデッドが這い出してきた。
「まだいるのか!」
「この辺り全部が巣になっているみたいです!」
ララが杖を掲げる。
「炎よ、焼き払え!」
火球がアンデッドの群れへ飛び込み、激しい炎が広がった。乾いた骨は音を立てて崩れ、ゾンビたちは炎に包まれながら倒れていく。
それでも動きを止めない一体がララへ迫った。
「ララ!」
レオンが振り向くより早く、悠真の体が浮かび上がる。
「飛行!」
地面すれすれを滑るように飛び、ゾンビとの距離を一気に詰める。
剣を振り抜くと、その首が宙を舞った。
「ありがとうございます、悠真さん!」
「いいえ!」
着地した悠真の全身へ、倒した魔物たちから力が流れ込んでくる。
レベルアップカードを使った時から感じている、独特の感覚だった。
だが、まだ終わっていない。
祠の奥から、重い金属音が聞こえた。
ゆっくりと現れたのは、ほかのスケルトンより二回りも大きなアンデッドだった。
全身を黒い鎧で包み、錆びた大剣を引きずっている。
兜の奥では、赤い光が不気味に揺れていた。
「こいつ上位種か」
レオンが剣を構え直す。
黒い騎士は大剣を持ち上げると、地面へ勢いよく叩きつけた。
衝撃が広がり、周囲の土が弾け飛ぶ。
「うわっ!」
リズの体が宙へ浮いた。
悠真は風圧バリアを展開し、リズを風で受け止める。
「助かった!」
「今度こそ周りを見ろよ!」
「次は見る!」
黒い騎士が再び大剣を振り上げる。
レオンが正面から踏み込み、その一撃を剣で受け止めた。
激しい金属音が森に響く。
「重いな……!」
レオンの足元が土へ沈む。
「悠真!」
「分かった!」
悠真は空へ飛び上がった。
黒い騎士の頭上を取り、剣を両手で構える。
「斬撃!」
上空から放たれた一撃が黒い兜へ直撃する。
鎧に亀裂が走った。
「今です!」
ララの炎が亀裂へ集中する。
黒い鎧が赤く熱せられ、動きが鈍る。
「これで終わり!」
リズが横から飛び込み、亀裂へ剣を突き立てた。
黒い騎士の体が大きく揺れる。
最後にレオンが剣を振り抜いた。
兜が砕け、赤い光が消える。
巨体は膝をつき、そのまま地面へ崩れ落ちた。
辺りに残っていたアンデッドたちも、糸が切れたように次々と倒れていく。
森に静寂が戻った。
黒い霧のような瘴気が祠の周囲から薄れ、木々の隙間から柔らかな光が差し込む。
遠くで鳥の声が聞こえた。
「終わった……のかな」
リズが大きく息を吐く。
その瞬間、悠真の体の奥で力が弾けた。
「……来た」
一度だけではない。
次々と新しい力が流れ込んでくる。
「レベル十……」
体が軽くなる。
「十一……」
視界が鮮明になり、周囲の音がはっきり聞こえる。
「十二」
一気に三つ。
悠真自身も驚いていた。
「そんなに上がったの?」
リズが目を丸くする。
「これだけの数を倒したからな」
レオンは倒れたアンデッドの群れを見渡した。
そして、悠真の意識へ新たな感覚が流れ込む。
「新しいスキルだ」
「何というスキルですか?」
ララが期待を込めて尋ねる。
「エリア感知……らしい」
悠真は目を閉じ、意識を周囲へ広げた。
次の瞬間、森の形が頭の中へ浮かび上がる。
木々の位置。
崩れた祠。
仲間三人の存在。
地面の下にある空洞まで、ぼんやりと形になって見えた。
「すごい……」
悠真は思わず呟いた。
「この辺りにアンデッドはもういない」
「そんなことまで分かるんですか?」
「ああ。それだけじゃない」
悠真はゆっくりと古井戸へ顔を向けた。
井戸のさらに下。
暗い地中深くに、一つだけ異質な反応がある。
生き物ではない。
だが、確かに何かが存在していた。
「井戸の下に何かある」
悠真の言葉に、三人の視線が古井戸へ集まる。
石版を隠した女性が、弟を決して近づけなかった場所。
長い年月を越え、姫路城の石版へつながる道が、ようやく姿を現そうとしていた。
第115話を読んでいただき、ありがとうございました!
大量のアンデッドとの戦いを経て、悠真はレベル12へ到達しました。
そして新たに得たスキルは「エリア感知」。
戦闘だけでなく、今後の石版探索でも大きな力になりそうです。
井戸の下にある反応は、果たして姫路城の石版なのか。
次回は、古井戸の先を調べていきます。




