第113話 石版を狙う者たち
いつも『異世界は金で強くなる』を読んでいただきありがとうございます!
今回は、ついに石版を狙う新たな敵が動き出します。
これまでとは少し違う緊張感のある展開になっていますので、ぜひ最後までお楽しみください!
古道具屋の店内には、古い木の香りが漂っていた。
棚には年代物の壺や装飾品、錆びた武具や書物が整然と並び、長い年月を積み重ねた静かな空気が流れている。
奥の椅子に腰掛けていた白髪の老人は、本を閉じるとゆっくり顔を上げた。
「いらっしゃい」
悠真は一歩前へ出る。
「少し、お聞きしたいことがあるんですが」
「何じゃ?」
「姫路城という名前に心当たりはありませんか?」
その瞬間だった。
老人の目が大きく見開かれる。
「……姫路城じゃと?」
四人は思わず顔を見合わせた。
これまで訪ね歩いた街では、一度も返ってこなかった反応だった。
老人は静かに本を机へ置く。
「その名を口にする者が、また現れるとはのう……」
懐かしむように目を細め、小さく息を吐いた。
「もう六十年ほど前になるかのう」
「わしには、一人の姉がおってな」
悠真たちは静かに耳を傾ける。
「姉は昔から家族思いじゃった。父や母、それに幼かったわしを守るためなら、自分のことは後回しにするような人でのう」
老人はどこか誇らしげに微笑んだ。
「ある日、姉は突然こう言ったんじゃ」
『家族を守れるだけの力が欲しい』
「そう言い残して、一人で旅へ出た」
悠真は静かに息を呑む。
神界でバルサリーナから聞いた話と一致していた。
「数日後、姉は無事に帰ってきた」
「その時、大事そうに袋を抱えておってな」
ララが尋ねる。
「袋の中には?」
「石じゃ」
老人は頷く。
「見たこともない模様が刻まれた、不思議な石じゃった」
「もちろん当時は、それが何なのか誰も知らん」
「じゃが姉だけは違った」
老人は静かに当時を思い返す。
「毎日のように石を布で磨き、大切そうに眺めておった」
『この石があれば、きっと家族を守れる』
「それが口癖じゃった」
店内は静まり返る。
「幼かったわしも気になっての」
「姉に頼んで、何度か見せてもらったことがある」
老人は少し笑った。
「『落としたら大変だから、ちゃんと座って見なさい』と叱られたものじゃ」
その笑顔は、すぐに曇る。
「……じゃが、それも長くは続かなかった」
レオンが静かに尋ねる。
「何があったんですか?」
「分からん」
老人は首を横へ振る。
「姉は何も話さなかった」
「ただ、ある日から石を見る目が変わった」
静かな声が続く。
『この石は、家族を守るどころか危険を呼ぶかもしれない』
「そう呟くようになったんじゃ」
悠真は思わず拳を握る。
石版の秘密を誰かに知られたのか。
それとも何か別の出来事があったのか。
今となっては誰にも分からない。
「そして姉は、ある朝一人で家を出た」
「帰ってきた時には、石はもう持っておらんかった」
「隠したんですかね」
悠真が静かに言う。
「おそらくな」
老人はゆっくり頷いた。
「父も母も、わしも、何度も隠し場所を聞いた」
「じゃが姉は最後まで教えなかった」
『これは家族を守るためだから』
『誰にも言えない』
その二つの言葉だけを残してな」
店内には静かな時間が流れた。
老人は窓の外へ目を向ける。
「姉はそのまま亡くなった」
「石の隠し場所を知る者は、もう誰もおらん」
悠真は小さく息を吐く。
「でも、その石はまだパッセルのどこかにある可能性が高いんですね」
「わしもそう思っとる」
老人は力強く頷いた。
「持ち出されたという話は、一度も聞いたことがない」
四人の表情に希望が戻る。
まだ見つかる可能性は十分ある。
老人は不思議そうに悠真たちを見る。
「しかし、お前さんたちは何者なんじゃ?」
「どうして六十年前の石を探しておる?」
悠真は少しだけレオンたちと視線を交わした。
ここまで話してくれた老人に隠す必要はない。
「実は……」
悠真は静かに口を開く。
「俺たちは、その石を集めているんです」
「集めている?」
「はい」
「石版と呼ばれていて、全部で十二枚あります」
老人の目が驚きで見開かれる。
「石版……そう呼ぶのか」
悠真は頷いた。
「俺たちは今、その石版を探して旅をしています」
老人はしばらく黙っていた。
やがて震える声で口を開く。
「……もし、その石版を本当に持っておるなら」
「わしに、一度だけ見せてはくれんか」
「姉が命懸けで守ろうとした石を……もう一度、この目で見てみたいんじゃ」
レオンは悠真を見る。
悠真も少しだけ考え、静かに頷いた。
「分かりました」
肩に掛けた収納鞄へ手を入れる。
ゆっくりと取り出したのは、奈良の大仏が描かれた石版だった。
老人は震える手で受け取り、刻まれた模様をそっと指でなぞる。
「……間違いない」
目から一筋の涙が零れ落ちる。
「あの日、姉が毎日大切に磨いておった石じゃ……」
その瞬間だった。
カタン。
屋根の上で、小さく瓦が鳴った。
レオンの目が鋭く細まる。
「……気配がする」
レオンが低く呟いた。
その声に、悠真たちの表情が一変する。
次の瞬間だった。
バリンッ!
店の窓ガラスが一斉に割れ、黒と濃紺の装束をまとった男たちが音もなく店内へ飛び込んできた。
口元を布で覆い、腰には細身の剣。
その動きは、まるで闇に紛れる忍そのものだった。
「何者だ!」
レオンが剣を抜く。
しかし男たちは一言も答えない。
全員の視線は、老人の手にある石版へ向けられていた。
「……本物か」
一人が小さく呟く。
その声には驚きが混じっていた。
「まさか、本当に石版を持つ者がいたとは」
男は静かに剣を抜く。
「回収する」
その一言で、全員が一斉に動いた。
「リズ!」
「任せて!」
リズが真っ先に飛び出す。
剣と短刀が激しくぶつかり合い、火花が散る。
相手もかなりの使い手だった。
だが、リズは一歩も引かない。
「そんな簡単には通さないよ!」
一方、レオンは二人を相手にしていた。
鋭い踏み込み。
剣が一閃する。
男の短刀が宙を舞い、そのまま腹へ蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
一人が棚へ吹き飛んだ。
だが、その隙を突いて別の男が老人へ迫る。
「させません!」
ララが杖を掲げる。
「ウインドブラスト!」
突風が店内を吹き抜ける。
男の体勢が崩れた。
その瞬間。
悠真が踏み込む。
「はぁっ!」
剣を振るう。
鋭い斬撃が放たれ、男たちは左右へ散って避ける。
しかし。
それが狙いだった。
別の一人が床を滑るように老人の懐へ入り込む。
「しまっ!」
老人が石版を抱き締める。
だが男は迷わなかった。
老人の手から石版だけを鮮やかに奪い取る。
「返せ!」
悠真が飛び込む。
男は梁へ飛び乗り、奈良の大仏の石版を静かに見つめた。
刻まれた模様。
独特の文字。
男は小さく息を吐く。
「……間違いない」
懐へ石版をしまう。
「これは大きな成果だ」
レオンが梁へ跳ぶ。
「逃がすか!」
しかし男は懐から小さな玉を取り出した。
床へ投げつける。
ボンッ!
白煙が一気に店内を包み込んだ。
「煙幕か!」
「ララ!」
「はい!」
風魔法が煙を吹き飛ばす。
しかし。
もう誰もいなかった。
屋根を駆ける足音だけが遠ざかっていく。
「追うぞ!」
四人は店を飛び出した。
夕暮れの屋根の上。
黒い影が軽やかに建物を飛び移っていく。
レオンも追う。
だが距離は開く一方だった。
「くそっ……!」
男は一度だけ振り返る。
その目は石版ではなく、悠真たちを見ていた。
「また会うことになる」
静かな声だけを残し、影は街並みの向こうへ消えていった。
悠真は悔しそうに拳を握る。
「逃げられた……」
店へ戻ると、老人が深く頭を下げた。
「すまん……」
「わしが見せてほしいなどと言わなければ……」
悠真は首を横に振る。
「違います」
「たまたま俺たちがここへ来ただけです。」
「もし今日じゃなくても、あの人たちは石版を探し続けていたと思います」
老人は静かに頷いた。
「そうかもしれんな……」
ララは俯いたまま、小さく呟く。
「奈良の大仏の石版……」
アストリアで皆と力を合わせ、ようやく手に入れた大切な一枚。
思い出が胸をよぎる。
リズは悔しそうに唇を噛んだ。
「絶対に取り返そう!」
悠真も強く頷く。
「そうだな」
「必ず取り返す」
レオンは逃げていった方向を静かに見つめる。
「それに……」
「連中は石版だけを狙っていた。」
「目的がはっきりしている以上、また必ず動く。」
悠真は奈良の大仏の石版を奪われた悔しさを胸に刻みながら、大きく息を吸った。
「次は、俺たちが追う番だ。」
こうして石版を巡る戦いは、新たな敵を迎え、本格的に動き始めた。
第113話を読んでいただき、ありがとうございました!
これまで石版探しが中心でしたが、今回から石版を巡る争いが本格的に始まります。
悠真たちに立ちはだかる新たな敵は、一体何者なのか。そして奪われた石版を取り戻すことができるのか。
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