第112話 職人の街パッセルへ
いつも読んでいただきありがとうございます!
前話では、ついに会社名が**「カミシロフーズ」**に決まり、新たな一歩を踏み出しました。
今回からは再び石版探しの旅が始まります。新たな舞台は、職人たちが集う街「パッセル」。
久しぶりにアストラ四人だけの旅になりますので、それぞれの掛け合いも楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第112話をお楽しみください!
朝の澄んだ空気が、グラード・マーケットを優しく包んでいた。
新しく掲げられた『カミシロフーズ』の看板は、朝日を受けて淡く輝いている。
工場ではすでに従業員たちが動き始めており、食材を運ぶ者や掃除をする者の姿が見えた。昨日までの慌ただしさとは違う。そこには、新しい会社として歩み始めた活気があった。
工場の前では、悠真たち四人が出発の準備を終えていた。
ゼラモードは腕を組みながら満足そうに頷く。
「では、行くのじゃな」
「はい。残る石版を探してきます」
悠真が答えると、ゼラモードは静かに笑った。
「こちらは心配せんでよい。会社はわしが見ておく」
隣に立つガレスも力強く頭を下げる。
「悠真さん。カミシロフーズは必ず大きくしてみせます。安心して旅を続けてください」
「お願いします」
悠真も深く頭を下げた。
工場で働く者たちも笑顔で見送りに集まっている。
「悠真さん! また来てください!」
「次は新商品を食べてもらいますからね!」
明るい声が飛び交い、工場の前は温かな雰囲気に包まれていた。
悠真は完成したばかりの工場をもう一度見つめる。
この場所はもう、自分たちだけのものではない。
働く人がいて、夢を持つ人がいる。
会社は確かに動き始めていた。
「じゃあ、行こうか」
その言葉にララが微笑む。
「はい」
ララは小さく手を掲げると、空間に魔力を流し込んだ。
淡い光が足元に広がり、一枚の大きな絨毯がゆっくりと姿を現す。
深い青色を基調としたその絨毯には、金色の魔法陣のような美しい模様が織り込まれていた。
「準備できました」
リズが目を輝かせる。
「やっぱり何回見てもすごい!」
「ふふっ。ありがとう」
ララは少し照れたように笑う。
四人が絨毯へ乗ると、ララが静かに魔力を流した。
ふわり。
音もなく絨毯が浮かび上がる。
地面が少しずつ離れ、グラード・マーケットの街並みがゆっくりと小さくなっていく。
工場の前ではゼラモードたちが手を振っていた。
悠真も手を振り返す。
やがて街全体が一望できる高さまで上がると、ララが前方へ手を向けた。
「それじゃあ、パッセルへ」
絨毯は風を受けながら滑るように飛び始めた。
眼下には広大な草原が広がっている。
朝露をまとった草が風に揺れ、まるで緑色の海のようだった。
ところどころに小さな村があり、畑では農民たちが働き始めている。
「景色が最高!」
リズは身を乗り出して歓声を上げた。
「落ちるなよ」
レオンが呆れたように言う。
「大丈夫、大丈夫!」
そう言いながらさらに前へ身を乗り出す。
悠真は苦笑した。
「その自信が一番心配なんだけど」
「えへへ」
リズは悪びれる様子もない。
ララも思わず笑ってしまう。
「リズって、本当に子どもみたい」
「新しい街に行くんだから、ワクワクするでしょ!」
「それは否定しないけどね」
ララも窓のない空の旅を楽しむように景色を眺めていた。
レオンが地図を広げる。
「このまま真っ直ぐ進めば昼前には着く」
「パッセルって、どんな街なんですか?」
悠真が尋ねる。
「職人の街だ。鍛冶屋や家具職人、陶芸師が多く集まっている。古くから交通の要所でもあったらしい」
ララが続けた。
「研究所にも資料がありました。古い品物や骨董品も多く流通している街です。石版の手掛かりが残っていても不思議ではありません」
「なるほど」
悠真は頷いた。
六十年前。
姫路城の石版は、この街の誰かへ託された。
その人物はもう生きていない可能性が高い。
それでも、何か痕跡くらいは残っているかもしれない。
そんな期待を胸に抱きながら、空を進んでいく。
しばらくすると、遠くの地平線に一つの街が見え始めた。
赤茶色の屋根が並び、高い時計塔が街の中心にそびえ立っている。
煙突からは白い煙が立ち上り、空高くまで伸びていた。
「あれかな!」
リズが指差す。
レオンが頷く。
「ああ。あれがパッセルだ」
近づくにつれ、街の全景がはっきり見えてくる。
石造りの建物が規則正しく並び、その間を石畳の道が縫うように走っている。
鍛冶場から響く金属を打つ音。
煙突から漂う炭の香り。
商人たちが行き交う活気ある通り。
グラード・マーケットとはまた違った、歴史の重みを感じさせる街だった。
ララはゆっくりと絨毯を下降させる。
「街の外に降りますね」
悠真たちは、新たな手掛かりを求め、職人の街パッセルへと足を踏み入れようとしていた。
街の外へ魔法の絨毯を降ろすと、ララは静かに魔力を解いた。
絨毯は淡い光を放ちながら小さく折り畳まれ、再び魔法の中へと消えていく。
「便利だな」
悠真が感心すると、ララは少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。でも、人の多い場所ではあまり使わないようにしてるんです。珍しい魔道具なので目立っちゃいますから」
「なるほど」
街の門をくぐると、職人の街らしい景色が目の前に広がった。
石畳の道の両側には、鍛冶屋や木工店、陶器店が並び、店先には職人たちが作り上げた品々が所狭しと飾られている。
金槌が鉄を打つ音。
木を削る心地よい音。
焼きたてのパンの香り。
人々の活気が街全体を包んでいた。
「わぁ……!」
リズの目が輝く。
「すごい! 武器屋だけでも何軒あるの?」
通りの先まで見渡しても、剣や槍を並べた店が何軒も続いている。
「だから走るなよ」
レオンが釘を刺す。
「分かってるって!」
そう言った次の瞬間だった。
「あっ!」
リズは一軒の店を見つけるなり、勢いよく駆け出した。
「ちょっ……」
悠真が止める間もない。
「この剣、かっこいい!」
店先に並ぶ一本の剣を目を輝かせながら見つめている。
店主の老人が笑った。
「嬢ちゃん、見る目があるな。それはうちの一番人気だ」
「へぇ!」
レオンは深いため息をついた。
「だから先に行くなと言っただろう」
「ごめんごめん!」
口では謝っているが、まったく反省した様子はない。
その様子にララが吹き出した。
「リズらしいですね」
「変わらないな」
悠真も苦笑する。
四人はそのまま街の中心へ向かった。
大きな時計塔の周辺には広場があり、多くの人で賑わっている。
商人が荷物を運び、旅人が地図を広げ、子どもたちが元気に走り回っていた。
「まずは聞き込みだな」
レオンが周囲を見回す。
「姫路城の石版について知っている人を探そう」
「六十年前ですもんね……」
ララが小さく呟く。
「知っている人がいても、かなり高齢だと思います」
「手掛かりが残っていれば十分だ」
悠真も頷いた。
四人は店を一軒ずつ回り始める。
骨董品店。
古書店。
雑貨屋。
鍛冶屋。
行く先々で同じ質問を繰り返した。
「姫路城という名前を聞いたことはありませんか?」
しかし返ってくる答えはどこも同じだった。
「知らないね」
「聞いたことがないな」
「城ならこの国にもあるけど、その名前は初めてだ」
一時間ほど歩き回った頃には、四人とも少し疲れた表情になっていた。
「なかなか見つからないね」
リズが肩を落とす。
「まだ始まったばかりだ」
レオンは冷静だった。
「石版探しはいつもこんなものだ」
その時だった。
「……あれ?」
リズが通りの向こうを指差す。
「ねぇ、あのお店」
そこには小さな古道具屋があった。
他の店と違い、表には古びた置時計やランプ、木箱が無造作に並べられている。
「何か気になるの?」
ララが尋ねる。
「分かんない。でも、なんとなく」
悠真は店を見つめた。
派手な店ではない。
それでも、長い年月を積み重ねてきたような独特の雰囲気が漂っていた。
「入ってみるか」
四人は店の扉を押した。
店内には古い木の香りが広がっている。
棚には年代物の道具や装飾品がびっしりと並び、奥では白髪の老人が椅子に座って本を読んでいた。
老人はゆっくり顔を上げる。
「いらっしゃい」
悠真は一歩前へ出た。
「少しお聞きしたいことがあるんですが」
「何じゃ?」
「姫路城という名前に心当たりはありませんか?」
老人の表情が、わずかに変わった。
「……姫路城じゃと?」
四人は思わず顔を見合わせる。
今までとは違う反応だった。
老人は静かに本を閉じると、遠い昔を思い出すように目を細めた。
「その名を口にする者が、また現れるとはのう……。」
第112話を読んでいただきありがとうございました!
新章ということで、今回はパッセルへの到着と新たな手掛かりまでを描きました。
そして今回は、リズの明るく行動的な一面を少し意識して描いています。これからはアストラ四人それぞれの個性をより活かしながら、石版探しの旅を進めていく予定です。
次回はいよいよ、古道具屋の老人が知る「姫路城」の手掛かりが明らかになります。
引き続き応援していただけると嬉しいです!




